自称「にわかファン」の責任者が明かす、「NBA Japan Games」の“物販”制作の舞台裏
「NBA Japan Games 2022 Presented by Rakuten & NISSAN」では、Tシャツやタオル、スウィングマン ジャージーといった物販の売上が大きく伸び、NBAのグローバルゲームとしては過去最多となったという。自称「NBAのにわかファン」と名乗る、物販の責任者はどんな取り組みを行ったのか――。
伸びた物販の売上!NBAグローバルゲーム史上最多を記録
楽天グループ株式会社のバスケットボール事業部マーチャンダイジンググループでマネージャーを務めるシェフチュク ウラジミル氏。流暢な日本語で、自らを「NBAのにわかファン」と名乗る。
現在、同社でNBA関連の事業は大きく3つ。「NBA Rakuten」というNBAの日本国内向け動画配信サービス、先日3年ぶりに開催された「NBA Japan Games 2022 Presented by Rakuten & NISSAN」といったイベント興行、そしてウラジミル氏 が担当するマーチャンダイジング(MD)だ。
この事業では、NBAのリーグロゴやチームロゴを使用する権利(ライセンス)の交渉にはじまり、商品企画から生産や物流の管理、販売戦略まで手掛ける。生産そのものは製造委託先に任せるなど、案件によって対応はさまざまあるが、自社および外部企業と協力して進めていく。
もっとも、ウラジミル氏は3年前までNBAをよく知らなかった。名前を挙げられる選手と言えば、マイケル・ジョーダンやステフィン・カリー、レブロン・ジェームズぐらい。2019年のJapan Games開催時は、EC事業の楽天市場でマーケティング担当だった。
しかし、その業務の一環で会場のさいたまスーパーアリーナを訪れた際、NBAの魅力に引き込まれた。試合はもちろん、音楽、ハーフタイムショーなど、アリーナを包む雰囲気が「大好き」になった。バスケットボール事業部で働きたいと思い立ち、社内でその意欲をアピールして「いまのポジションに引き上げていただいた」と言う。
そんな同氏は、今年のJapan Gamesで物販制作の指揮を執り、社内外から多くのサポートを得ながら、NBAがアメリカとカナダ以外で開催するグローバルゲームとしては過去最多の売上を作った。ちなみに、これまでの最多は2019年の日本開催。3年ぶりのJapan Gamesは、ゴールデンステイト・ウォリアーズとワシントン・ウィザーズによる2試合のプレシーズンゲームと、ファンイベントSaturday Nightによってのべ約6万人を集め、協賛社数も過去最多の15社が名を連ねた。ファンが身につけたTシャツやタオル、スウィングマン ジャージーといった物販でも、日本でのNBA人気を強く印象づけたわけである。
前提……商品構成と情報発信の整備
では、2019年と同じ会場で、どうやって過去最多の売上を実現したのか。
まず、前提として2つある。ひとつは、大幅に商品ラインナップを広げた。アイテム数は、前回よりも約3倍増の150アイテムほどで構成される。ウラジミル氏がNBAと交渉を続け、多数の商品化ができるよう、ライセンス契約をまとめていた。
今回初めて作ったアイテムもある。クッキーなどの「お菓子」もその一つだ。日本では休日に旅行先でお土産としてお菓子を買い、会社や友人へ配り、土産話をする光景がよくある。ウラジミル氏は、その旅行をJapan Gamesに置き換え、お菓子のニーズがあるだろうと判断して商品化した。結果は狙い通り「すごく売れました。お客様からの評価も高いと聞いてます。新しいカテゴリーの商品ができて良かったです」と振り返った。
もうひとつは、情報発信を一元化した。3年前の開催時は、チケットや物販、動画配信などJapan Gamesに関する情報がインターネット上で点在していたため、今回はNBA Rakuten内に特設サイトを制作。 ここにファンの知りたい情報をすべて集約した。物販紹介を拡充し、楽天市場の販売ページに誘導できるバナー掲載も進め、EC販売の強化につなげた。
一番の改善ポイントに挙げた「アリーナ販売」
そして、商品構成と情報発信を整備した上で、2019年のJapan Gamesで浮き彫りになった課題を踏まえ、販売方法などの見直しに着手。物販の売上を構成する「チケットバンドル」「アリーナ販売」の舞台裏は興味深い。
1つ目の「チケットバンドル」は、特別アイテム付きチケットのこと。2019年も同様のチケットは販売されたが、ファンはチケットを受け取るまで特別アイテムの中身が分からなかった。要は、福袋状態だったのだ。当時ウラジミル氏はMD担当では無かったものの、ファンの立場を思えば「何の商品が付いてくるのか見せた方がいいんじゃないか」と課題を感じていた。
そこで今回は、チケット発売当初より特別アイテムを「見せる」方針に転換。「カッコイイ」特典アイテムを意識して商品も企画した。チケット代金にプラスして、税込11,000円でパーカーやチケットホルダー、トートバッグなどの限定アイテム5点がセットになったパッケージを用意したのだ。
3年前と違い、グッズ制作のライセンスをNBAより得ていたため、自社で企画からデザインまで手掛けることもできた。ウラジミル氏をはじめ制作陣は、常々「NBAファンだったら何に喜ぶのか」という視点を持ち、例えばパーカーには「I WAS THERE」(そこにいたよ!)とプリント。パーカーを通してJapan Gamesを思い出して欲しいと考えた。
この結果、チケットバンドルの売上は当初の想定を超え、2019年の実績も大きく上回った。「コメントやSNSを見ると、デザインに良い評判もいただけて、すごく嬉しかった」とウラジミル氏は語った。
2つ目はウラジミル氏が“一番の改善ポイント”に挙げた「アリーナ販売」だった。なぜ最も重視したかと言うと、2019年は想定以上のファンが訪れて、物販会場は断続的に混雑したからだ。「3時間待ちはざらにありました。ファンの皆さんにはたくさん並んでもらい、順番が来ても買えない体験をさせてしまった。あれは申し訳なかった」とウラジミル氏は明かす。カウンター越しの対面販売によって待機列が大幅に伸び、どんな商品がどれだけ売られているのか、列の後ろに行けば行くほど分からない状態。「売り方、売り場、在庫も含めて準備不足」と、課題感が大きかったのだ。
そこで、今年は抜本的に見直した。特に、メインの売り場として、さいたまスーパーアリーナ前のけやき広場へに、約500平米に及ぶ大型の特設ショップを開設。ファンが売り場で商品を手に取り、買い回りできるようにしたのである。
また、協業先からの助言で、待機列から売り場の様子が分かるようにショップを設計した。並んでいるファンからすれば、列が動けばグッズが買える実感が増し、どれだけ待てば入れそうかの目安にもなった。ウラジミル氏は「グッズ購入までのゴールが見えることで、少しでも皆さんのストレスを前回より軽減したかった」と語った。
ただ、物販の販売方法は念入りに準備したものの、初日から想定を越えて盛況だった。3年前に購入できなかった経験を持つファンは、ショップ開店の4時間前、朝8時から並んでいたと言う。そのため急きょ、少し開店を早めて対応したほどだった。ウラジミル氏は「前回の経験があって今回並んでいると(ファンから)聞いて、申し訳なかった。現場で調整して、12時少し前にオープンできましたが、皆さん購入される勢いが思っている以上にすごかったです」と、その熱意を改めて受け止めた。
「NBAファンに、日本で一番良い環境を作りたい」
今年のJapan Gamesでは物販の売上を大きく伸長できた。それでもウラジミル氏はまだまだ、このカテゴリーの伸び代を感じている。
アリーナ物販では、ファンによりスムーズなグッズ購入をしてもらえるよう販売方法などを考えたいと言う。「やっぱりファンの皆さんが並んでいたので、そこは改善したいです。5分でも10分でも早く買えるように見直したい」と、まだ見ぬ次のJapan Gamesを見据えた。
また、来日するチームを巻き込んだ商品制作も心残りがあった。富士山や桜がデザインされるなど、日本をモチーフにした両チームのハイパーローカルTシャツも納期の都合で、泣く泣く一型ずつになったそうだ。両チームともにユニークなデザインが他にも数多くあったため、次の機会があれば、しっかりと実現できるように準備をしていきたいという。
さらに、Japan Gamesを終えたいま、MD事業の展望として「カジュアルアパレル」に力を入れたいと、青写真を描く。NBAとの交渉の末、商品化に必要なライセンスは契約済み。ウラジミル氏は「日本のファッションやクリエイターたちは素晴らしいです。彼らと力を合わせて、ファッションというレンズを通してNBAの魅力を伝えていきたい。いま進行中の案件もあるので、これからもっといろんな面白いNBAの商品が世の中へ出てきます」と、喜々としながら語ってくれた。
ちなみに、現在NBA RakutenのLEAGUE PASS(シーズンプラン)契約者限定で受注販売を行った『VARSITY JACKET』も、カジュアルアパレルを通した魅力発信のひとつ。日常に馴染むデザインを意識し、NBAの全30チームのロゴを、すべて刺繍であしらった一品に仕上げた。
動画配信、イベント興行に続いて、その魅力を伝えるべく本格化するNBAのMD事業。ウラジミル氏はビジネスとして成長をさせていく認識を持ちつつ、「現場の我々はNBAファンに、もっとNBAを楽しんでもらえる環境を作りたい」と思いを抱く。最後にこう結んだ。
「NBAが盛り上がって、自然とバスケが広がっていけば日本にとっても良いと思います。渡邊雄太選手や八村塁選手のようにNBAに挑戦する日本人選手が、もっと増えて欲しいですし、Bリーグも盛り上がって欲しいです。日本のバスケ人気が高まっていくために、我々は少しでも役立ちたいという気持ちです」
- 自称「にわかファン」の責任者が明かす、「NBA Japan Games」の“物販”制作の舞台裏
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TEXT by Hiroyuki Ohashi
PHOTO by Yuto Nishimura