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  • 2022.11.25

日本人選手が語る、3×3世界ランク“1位”セルビア出身の選手たちの存在

セルビアは、男子の3×3世界ランキングで1位を誇る。そんな強豪国から今年8人もの選手が日本でプレーした。うち5人は初来日。彼らはなぜ異国の地を選んだのか。そして、日本人選手はどんな刺激を受け、どんな存在になっているのか。奇しくも今年、両国は友好関係樹立140周年。そんな節目の1年に、お互いは3×3でも深く結びついたようにうかがえる。

世界ランク1位の強豪国から日本へ
 セルビアと言えば3×3世界最強の国として名高い。男子の世界ランキングは1位。W杯では過去7大会のうち4度の優勝を遂げ、クラブ世界一を決めるツアー大会「FIBA 3×3 World Tour Masters」の年間優勝決定戦FINALにおいて、過去10大会で6度の優勝チームを輩出した。

 そんな強豪国から今年、多数のセルビア出身選手が日本にやってきた。プロリーグの「3×3.EXE PREMIER 2022 JAPAN」に出場した選手数を数えると、総勢8人。数字だけ見れば小さいが、2014年のリーグ開幕以来、過去最多だった。 
 顔ぶれを見ると、UTSUNOMIYA BREX.EXEのDusan Popovic(#5)とDusan Samardzic(#10)をはじめ、ALPHAS.EXEにはMarko Milakovic(#16)とTeodor Atanasov(#21)が加入。SIMON.EXEはNikola Pavlovic(#36)とMarko Dugosija(#5)を、BEEFMAN.EXEはDusan Popovicの弟であるLazar Popovic(#6)を迎えた。TACHIKAWA DICE.EXEではJanko Rarkonjac(#33)がプレーした。Popovic、Milakovic、Pavlovic以外の5人は初来日でもあったのだ。


 彼らの動向は母国のトップ選手たちも知るところだった。今年5月に宇都宮で開催されたMastersのシーズン初戦「FIBA 3×3 World Tour Masters Utsunomiya Opener」でのことだ。セルビアの強豪・Ub(ウーブ)で活躍するDejan Majstorovicは、「セルビアの良い選手が日本でプレーさせて頂いており、その取り組みは私も非常に嬉しく思っています。彼らは僕たちの友人でもあるので、毎日のようにコミュニケーションを取っています。彼らが日本で過ごせること、日本のチームに貢献できることを非常に嬉しく思っています」と語っていた。同胞たちの日本行きは伝わっていたのだ。

 9月の「3×3.EXE PREMIER 2022 PLAYOFFS」でUTSUNOMIYA BREX.EXEの4連覇に貢献し、MVPに選ばれたDusan Samardzic(以下Duka)も、そんな海を渡った一人だった。26歳の彼は2019年にセルビアの3×3 U23代表選手として、Marko Milakovicらとともに「FIBA 3×3 U23 World Cup」に出場して銅メダルを獲得。Ubの一員として母国のツアー大会に出場経験もあった。有望株の来日には当初驚いたが、MVP受賞後の取材で彼に理由を聞けば、成長のチャンスを日本に求めていたことがうかがえる。

「セルビアは非常にレベルが高いため、若い今の段階だとトップの選手にはなれません。その中で、日本に成長のチャンスを求めました。プレミアという非常にオーガナイズされたリーグがあって、選手のレベルも高く、試合のレベルも非常に高い。ここでプレーできることを誇りに思います」

 そして、DukaはBREXで「チームプレー」を学んだそうだ。タフな試合をチームメイトとともに乗り切るため、自分がどう貢献できるのか。齊藤洋介によると、来日当初Dukaはセルビアと違って、小柄な選手たちがドライブを仕掛けるテンポの早い攻防に慣れるまで苦労もあったそうだ。ただ、そんな中でも「Dukaは相当良いヤツなんです。どんなプレーをして欲しいのか(僕らから)言って欲しいみたいな表現もしていたんですよ」と、齊藤は明かす。BREXで活躍する背景には、異国の地で新たなスタイルに自ら馴染んで行こうとする姿があった。

セルビアの3×3の強さ……刺激を受ける選手たち
 一方で、セルビア出身の選手たちは、日本人選手にとっても大きな刺激となって、成長を促す存在になった。とりわけ、21歳のソロモン・クーリバリ(#3)はSIMON.EXEで、Nikola Pavlovic(以下Nikola)とMarko Dugosija(以下Dugi)に鍛えられた。NikolaもDugiも過去に幾度も世界を転戦し、Dugiは2018シーズンにZeumn(ゼムン)というクラブでワールドチャンピオンになった経験を持つ。

 そんな2人に、クーリバリは当初コート上で何度も怒られていた。練習通りにオフェンスやディフェンスを遂行できず、判断ミスを招くなどして、その光景はまさに激ギレされている印象だった。
 しかし、シーズンを追うごとにそんな光景も減った。むしろときに熱くなりすぎるNikolaやDugiに対して、クーリバリが2人を落ち着かせようと盛んに声をかけていた。プレー面でも持ち味のスピードを活かしたドライブだけでなく、2ポイントシュートも決まるようになり、コートに立つ姿は次第に堂々としたものになった。
 もちろん、クーリバリ自身も怒られようが、へこたれるメンタルではなかった。「世界で通用する選手になる。これが僕の目標です。2人にしごいてもらうことは、ポジティブに考えれば言われないより、言われる方が良い。僕にとってプラスになります。(怒られようと)何とも思ってないです」と、言い切る。

 さらに、NikolaやDugiを通して、クーリバリはセルビアが強いと言われる所以を実感するようにもなった。

「セルビア人の3×3はシンプルの一言に尽きます。ドリブルも少ないし、スクリーンのかけ方も、リングに向かうようにするとか細かいです。本当に効率が良いバスケットをやっていると思いますね。アメリカを相手に勝てる理由は、身体能力や技術ではなく、どれだけシンプルに点を取れるか。それがセルビアの凄さです。まじかでそれを学べる僕は、とても良い経験をさせてもらっています」

 また、「3×3.EXE PREMIER 2022 PLAYOFFS」で海外勢を2度破ってベスト8に食い込んだSHINAGA CC WILDCATS。この一因には、セルビアボーラーたちに鍛えられた経験があったからこそだと、出羽崚一(#7)は感じていた。彼らが所属したBAY ZONEカンファレンスには、NikolaやDugiに加えて、BEEFMANにLazar Popovicがいた。強豪国からやってきた選手と戦える価値を、出羽はこう語った。

「セルビア人とか上手い選手が日本に来ているおかげで、試合を通して僕らもチャレンジするため、高いレベルで3×3が少しずつできているのではないかと感じています。彼らの存在はありがたいです」

「日本人ぽい」……世界を目指す仲間でもある
 さらに、セルビアから来た選手たちは、3×3で日本人選手たちが世界一を目指す上で欠かせない仲間でもある。例えば、今シーズンより3×3に参入した越谷アルファーズは、国内大会を主戦場とするALPHAS.EXEと、国際大会を転戦するSAITAMA ALPHASの2チームを編成。中心選手の落合知也(#91)とともに、国内外を転戦するMarko Milakovic(以下Marko)とTeodor Atanasov(以下Teo)は心強いチームメイトだ。
 

 Markoは2018年から2020年までBREXで活躍し、セルビアの元強豪Novi Sadで一回り成長して、2年ぶりに日本へ復帰。ALPHAS以外からも国内外よりオファーが来ていたようだが、落合が熱心に誘った。205cmのTeoは初来日だが、母国でMarkoと一緒にツアー大会に出るなど仲が良く、コンビネーションも抜群。落合も「性格がめちゃくちゃ良い」と、絶賛する。2人とも練習からハードワークもするため、チーム作りをする上で欠かせない存在になっている。

 また、チームメイトの鮫島宗一郎(#1)もMarkoとTeoと合流間もない頃、2人についてエピソードを交えて、こう明かしていた。

「チームができてから、みんなで食事に行ったのですが、MarkoもTeoも日本人ぽい感じがするんですよね。例えば、年齢で言えば、僕(35歳)や落合(同)が彼ら(26歳)より上なのですが、2人とも僕らのご飯が来るまで(律儀に)ちょっと待っているんです。バスケで言えば3×3の経験が豊富なので、あまり経験の無い僕らに色々と教えてくれる。こちらの話も聞いてくれるので、本当に良い関係を築けていると思います」

 ALPHAS.EXEは新規チームながら、「3×3.EXE PREMIER 2022 PLAYOFFS」ではベスト4に進出した。BREXに敗れて決勝進出は叶わなかったものの、落合、鮫島、Marko、Teoの4人は死力を尽くした。
 さらにSAITAMA ALPHASでの世界挑戦も、落合、Marko、Teoの3人を軸に、保岡龍斗や大友隆太郎、小澤崚を加えながら、何度も海を越えた。ハイライトと言えば、今年9月中旬からの海外転戦だろう。落合、Marko、Teo、小澤で9月16日にフィリピンで開催された1日5試合の国際大会を勝ち抜き、Cebu Mastersの出場権を獲得。2週間後のMastersでは初出場ながら、初日の予選を突破し、2日目の準々決勝でベルギーの強豪・Antwerp(アントワープ)に終盤までリードを奪った。19-21で逆転負けこそしたが、大会6位に食い込むまでに、数ヶ月で彼らは仕上がったのだ。

 3×3と言えば、チーム全員が同じ方向を見て戦う姿勢が大前提とよく言われる。言葉や文化の違いなどを越えて選手たちがひとつになる上で、お互いの性格を理解し、コミュニケーションを深められる関係性は必要不可欠。そうALPHASからは改めて感じられた。

両国の良い関係が、競技シーンの成長へ
 国内で3×3が本格的に始まった時期と言えば、3×3.EXE PREMIERが開幕した2014年――まさか8年後にセルビアと日本の選手たちが、これほど深く結びつくとはイメージできなかった。

 しかし、2018年にMarkoやNikola(当時YOKOHAMA CITY.EXE)が初来日。Dusan Popovicがその翌年にやってきた。彼らが異国の地での3×3にやりがいを覚えたり、その居心地の良さを感じたりするからこそ、いまの競技シーンになったのだろう。また、彼らがプロ選手として確かな報酬を得られることも、来日の決め手のひとつになったはずだ。
 セルビア人の選手たちが日本の競技シーンを底上げし、日本人選手がその中で結果を出そうと奮闘する。3×3が発展する望ましい環境が、いまのあるのだ。

 ただ、改めてこの環境があるからこそ、国内シーンはもっともっとステップアップしていきたい。3×3に取り組む選手たちの考え方然り、ゲームを裁くレフェリーも含めて、成長の余地はあるはずだ。世界各地で3×3は隆盛を極めており、2022年と同じ環境が来年、日本であるとは限らないだろう。落合も今シーズンの状況を踏まえて、こう話していたことがあった。

「せっかく(セルビア出身の)彼らが来ているので(日本人選手は)もっと真似してもいいと思う。どうやってディフェンスをしてるのか、オフェンスしてるのか。そういったことを他の日本のチームが真似するようになったらもっとレベルが上がると思う。いろんな大会があるので戦う機会がありますし、個々がレベルアップすれば、日本全体のレベルアップにつながっていく。若い選手たちが代表に行けるチャンスになるかもしれない。もっと(国内)シーンのレベル上げなくちゃいけないと、僕自身すごく感じます」

 既にPREMIERの2022シーズン閉幕などで、何人かの選手は母国へ帰国。Nikolaに至っては大ケガからの復帰を願うばかりだ。それでもBREXやALPHAS、BEEFMAN所属の選手たちは、国内外で引き続き活躍中だ。奇しくもセルビアと日本は今年、友好関係樹立140周年の節目を迎えている。“3×3”で“バスケットボール”で、お互いが学び、刺激し合い、3×3の発展に繋がるような友好を末永く築いていきたい。

日本人選手が語る、3x3世界ランク“1位”セルビア出身の選手たちの存在

TEXT by Hiroyuki Ohashi

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