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  • 2021.01.14

ウィンターカップ 2020 report

令和2年、コロナ禍に行われたウィンターカップ 2020は仙台大学附属明成高校の優勝で幕を閉じた。
高校バスケットボールにおける三大タイトルのうち、インターハイおよび国体の両大会が新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となり、ウィンターカップが、高校バスケ日本一を決める唯一の大会となった。
そんなウィンターカップ 2020を国内外のバスケットボール事情を熟知するライター永塚和志が追う。

第3Q終盤、初優勝を狙う東山高校(京都)は対戦相手の仙台大学附属明成高校(宮城)に、この日最大の得点となる17点もの差をつけた。
雑誌等の媒体と違い、新聞記者の場合はすぐに記事を送稿しなければならない。そのためスポーツの場合だと、試合前、あるいは試合中に予定稿を書いておくことが当たり前の業務となることが多い。本業がその新聞記者である筆者もハーフタイム中から東山が勝つという体で原稿を書き始めていた。

ところが、今となっては何をいっても後付けに聞こえてしまうのは承知の上で言うが、「このまま終わらないのではないか」という予感めいたものが頭の片隅にあった。
はたして、予感は当たった。明成が逆転勝利を収め、ウィンターカップを手にしたのだ。
スコアは72-70。新型コロナウイルスの影響で、観客を入れたのは大会終盤になってから。それも入場制限があったため実質、無観客のような異様な会場の雰囲気が、歴史に残る大逆転をことさら夢物語のような形にした。2013年から八村塁(現・NBAワシントン・ウィザーズ)を要して3連覇を果たしている。17年にも優勝している。どの優勝も例外なく特別なもののはずだが、明成にとって今回の優勝は格別だったはずだ。それほどまでに劇的な幕切れだったし、筆者にとっても印象的な試合となった。

明成が反撃の狼煙を上げたのは、最終第4Q終盤からだった。点差が詰まったのには、未だ優勝旗を掲げたことのない東山が硬くなったということもあったかもしれない。
ただ、東山には206センチの高さでゴール下では太刀打ちできないコンゴ共和国からの留学生、ジャン・ピエール・ムトンボ(#9)がいた。明成に流れが移っていたのは間違いないが、このムトンボの強さを考えると明成が逆転するには時間が足らないのではないかとも思えた。

試合残り5秒に勝ち越しのジャンプショットを決め試合全体でも最多の25得点を挙げた“八村二世”山崎一渉(#8)がヒーロー的な扱いを受けた。しかし、彼が一人で勝利を手繰り寄せたわけではなかった。終盤の猛追を演出したもう一人の立役者は、3年生の山内ジャヘル琉人(#6)だった。
背の高い留学生のいるどのチームとの対戦同様、ムトンボのいる東山相手に明成はディフェンスからボールを奪い、オフェンスで速い展開に持って行きたかったはずだ。最終Qまでなかなかそれができなかったものの、終盤、「らしさ」が出た。炸裂した、と言って良いほど鮮烈な形で。
それをリードしたのが山内だった。山内は試合残り5分から2本のスティールを記録し、いずれも得点につなげた。

アメリカ人の父親を持つ山内は今大会、身体のバネを生かし3Pラインの数十センチ後方からのシュートをしばしば打っていた。が、この決勝戦ではこの終盤まで14分の1とまったく当たっていなかった。ところが、試合時間残り数分というより緊張感が出ておかしくない場面で2本、長距離砲をねじ込んでみせたのだ。
「苦しい時に『俺が助けてやる』という気持ちで、ディフェンスで、スティールで、と思っていました」
試合後、山内はそう語った。雄々しい言葉とはやや裏腹に口調が淡々としたものだったところに、高校生らしさを感じさせた。
3Pシュートに秀でる選手は、大事な試合で決められなければ残酷にも「戦犯」だとされてしまうことが多い。NBAならばダン・マーリー(元フェニックス・サンズ)やジョン・スタークス(元ニューヨーク・ニックス)らがファイナルで不発に終わったことでそんな誹りを浴び、敗戦の責めを負わされた。

しかし、山内はそうはならなかった。『バスケは頭脳が9割』(三上太・著、東邦出版)で明成の佐藤久夫監督は「闘魂」ではなく、おそらく彼の造語である「知魂」が大切なのだと強調している。指導者が選手に魂を燃やして全力を尽くさせるのが闘魂ならば、選手にいかに考えさせる力をつけさせるのかが同監督の考える実の指導法である、というようなことが書かれてある。佐藤監督の指導は厳しいと言われるが、かといって選手たちは彼の操り人形を演じているわけではなく、自身で考えながらプレイをしている。
でなければ、山内が酷いシューティングスランプの後で上述のように攻守で見事なプレイを重要局面で決められるはずがないと思うのだ。

山崎にしてもそうだ。今大会屈指のオールラウンダーで、2年生として唯一ベスト5に選ばれた。身長199センチはチームで最も高く、ムトンボなど2m超の留学生がいるチーム相手にはインサイドでディフェンスをせざるをえない場面が多かったものの、オフェンスではアウトサイドでプレイすることのほうも多かった。
取材に対応する際はもの静かで、口数もさほど多いほうではない。ただそんな大人しさがコート上で反映されるわけではない。
「自分はエースとしてやっているので決めないといけないと思っていた」
準々決勝。前回大会まで2連覇中で、今大会も本命と目されていた福岡第一からやはり逆転で勝利した後、重要な場面でシュートを決めたことについてコメントを求められた山崎は、そう話した。

決勝戦では、試合残り16.4秒から明成のスローインの場面。本来、山内が打つ予定だったというプレイで山崎は意を決し、自らジャンプシュートに行った。シュートは外れたが、フリースローライン付近でオフェンスリバウンドをリングに背を向けた形でつかんだ彼は、振り向きざま、迷うことなく再びジャンプシュートを放つとボールはリングに吸い込まれ、先述したように明成の決勝点となった。
「山崎一渉がこの2年のなかで少しは良くなったところは、‟ここ1本”のシュートを少し決められるようになったこと。50点も60点も取らなくていい。絶対に入れなくてはいけないシュート、それが決められるようになったことが私にはうれしい」
佐藤監督は、八村以来の逸材をそう評した。ただただやらされるだけの選手なら瞬時にこのような思い切った判断をすることなどできないはずだ。山崎もまた頭を使ってプレイを決めてみせた。明成が大差から追いつく上で山内の攻守における爆発力は欠かせなかったが、最後を「締めた」山崎がエースたるプレイをしてみせた。

もっとも、本当は明成で言及したい選手はまだ何人もいて、どの選手が欠けても最後に優勝旗を掲げることはなかったのではないかと思わせる。それほどにこのチームには個の力だけではないチーム力を感じさせる。

大差から明成に挽回され、終盤、反対に5点の差をつけられたところから同点に戻した東山も、決勝戦を歴史に残るものにした「一員」だった。ウィンターカップ初戴冠への気持ちの入ったプレイぶりは気持ちの良いものだったし、試合後に頭を抱え泣きじゃくる姿は彼らの敗戦がどこまでも残酷なものだと思わせた。

佐藤監督は試合後、この決勝戦の途中で勝利を「あきらめかけた」と意外な心境を吐露した。しかし「あきらめかけた」からといってさじを投げたわけではなかった。同監督は東山の司令塔で同校オフェンスの起点となる米須玲音(3年)に対するディフェンスの付き方を指示。ピッタリとマークするのではなく米須が縦にドリブルで駆け抜けるプレイをさせないような守り方をさせることで、相手のリズムを変えることに成功した。
「あとは選手たちの頑張りを信じて、ほとんど彼らに任せました」
佐藤監督は、そう話した。老練なこの人の真意を推し量るのは容易でないが、この言葉に関しては、半分は本当で半分はそうでないような気がする。

料理でいえばレシピに従えば完成したものができるというのではなく、この調味料を使ってみたらこんな味のものができるよ、でも最終的にどんなものに仕上げるかは調理場に立つお前たちだよ、といったようにヒントやきっかけを与えるのだ。
17点差がついてもそのまま終わるはずがないという予感がしたのも、佐藤監督がそのいくつもある引き出しのひとつでもふたつでも開けて、反撃を始めるのではないかと思ったからだ。選手たちも、この人の言うことを聞いていれば大丈夫という安心感があるから“際”のところで力を発揮できたのではないか。
先述の福岡第一戦でも最大11点差をつけられながら巻き返して勝利し、試合を通して僅差だった準決勝の北陸高校戦も残り1分を切ってからの逆転で決勝へ勝ち進んだ。佐藤監督は優勝を「明成高校に運が向いている、そういう大会だったと思う」と殊勝に話した。
明成は今大会、ともに元U16日本代表の菅野ブルース(2年)と加藤陸(3年)という将来を嘱望される主力2人を欠いていたということもあって、福岡第一戦も北陸戦も、そして決勝の東山戦も、試合前は分が悪いと思われていた。いずれも苦しい試合を、我慢を重ねて最後に勝利を収めた。運は確かに向いていたかもしれないが、明成が自分たちで手繰り寄せた勝利、優勝だったとも思える。

本当はこの原稿で、他にいくつか取り上げようとしていたトピックがあった。大会中からここに書いたものとはまったく違うアングルで書こうと思っていた。だが、明成の勝ちっぷりがあまりに見事で、印象的で、このような形とした。
白状をすると、予定稿をまるっきり書き換えないといけないようなスポーツの試合は、その時は大変ではあるのだが、後に残る感動を考えれば歓迎である。

ウィンターカップ 2020 report

TEXT by Kaz Nagatsuka

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