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  • 2021.03.31

3×3日本選手権MVPが語る優勝への思い

今年で6度目を迎えた3×3日本一を決めるビックトーナメントがコロナ禍の中、無事に開催された。本稿では初優勝を飾った女子・XD(宮崎県)と、男子・BEEFMAN(高知県)、さらに両MVPプレーヤーにフォーカスを当て、大会の模様を振り返りたい。

頂点を目指した熱戦が開幕
3×3の国内主要大会のひとつ『第6回3×3日本選手権大会』(主催:公益財団法人日本バスケットボール協会/以下JBA)が3月20日、21日の2日間にわたって新宿住友ビル三角広場で開催された。今大会は新型コロナウイルス感染症の感染拡大による緊急事態宣言に伴い、当初の日程から変更を余儀なくされたが、エリア予選を勝ち上がった男女各16チーム(女子1チームが出場辞退)が集結。新型コロナウイルス感染症の感染防止対策のため無観客試合になったものの、選手たちは頂点を目指して熱戦を繰り広げた。



主要大会を2連覇したXD
まず女子のトーナメントに目を向けると、ベスト4にはJBAが主催した昨秋の『3×3 JAPAN TOUR 2020 Extreme Limited FINAL』と同じ顔ぶれが順当に出そろった。同大会で初優勝を飾ったXDを筆頭に、準優勝だったSHONAN SUNS、3位・BEEFMAN、4位・TOKYO DIMEである。この4チームを見たときXDが齊藤桃子(#54)の1対1を軸に、塚野理沙(#13)や猪崎智子(#6)がリバウンドやルーズボールを奪い取り、高橋優花(#23)が2ポイントをテンポよく決めて接戦を勝ち上がった試合の数々がフラッシュバックしてきたが、その光景は案の定、約6カ月を経た日本選手権でも再び広がった。

準決勝のBEEFMAN(高知県)戦では齊藤のドライブが立て続けに決まって先行すると、塚野や高橋もそれぞれ役割に徹してどんどんリードを広げていく。相手がディフェンスで仕掛けてきてもパスをつないで2ポイントを打ち込むなど、21-10で圧勝した。

そして迎えた決勝戦。XDは準決勝同様にリードを奪うが、TOKYO DIME(東京都)の小池真理子(#71)に内外角から得点を許し、吉武忍(#9)のハッスルプレーに手を焼いて接戦に持ち込まれる。さらに残り3分を切って品川夏帆(#0)、有明葵衣(#21)の勝負強さ光る2ポイントで一時は18-18と並ばれる苦しい展開になった。それでもXDはここから齊藤にボールを託して再びスコアを動かし、21-19で日本選手権の頂点へ一気に駆け上がっていった。


MVPが語る「優勝ができたことよりも」
大会MVPにはもちろん斎藤が選ばれた。日本選手権では初受賞となったが、MVPは昨秋のJAPAN TOURに続き2度目。チームとしても国内大会で2連覇を飾ったことになる。1度だけならフロックだったかもしれないが、コロナ過のイレギュラーなシーズンで2度目となるビックトーナメントを勝ち切ったことは彼女たちの実力があったからに他ならない。

もっとも斎藤に大会制覇の思いを聞けば「優勝ができたことよりも、みんなでバスケットボールができて楽しかったです」と、手にした結果以上にプレーできる嬉しさのほうが勝っていたと明かす。この背景にはコロナ過でチーム練習が十分にできなかったことや、昨年の3×3.EXE PREMIER CUPで「途中、怪我であまり出ることができず、とてもチームに負担をかけてしまい、最後までやりきることができませんでした」という悔しい思いがあったのだ。

そんな中、怪我からの復帰や、チーム練習ができないときにプレーする場を頼った際には今大会に出場したSHOEHURRY(岩手県)の矢野良子(#12)の存在が大きかったという。

「矢野さんをはじめ、他のチームの皆さんに練習の面倒を見ていただきました。それと怪我からのトレーニングも一緒に行ってくださって、本当に回復することができて、とても良かったです」

JAPAN TOURのときもそうであったが、斎藤に話をうかがうと自分のことは語ろうとせず、チームメイトや一緒にバスケをする方たちの名前を真っ先にあげる。選手の数だけモチベーションやプレーする理由は様々あるが、彼女の場合は仲間とどれだけバスケを楽しめるか、その過程が大事であり、優勝は目指すものというより結果としてついてくれば良いなという印象だ。これから大会でチームや自分に向けられるマークがさらに厳しくなることも予測されるが、今後の意気込みを聞いてみたら、実に彼女らしかった。

「相手がどんなことをしてくるのか、対応する必要はあると思いますが、自分たちが楽しんで(バスケが)できるようにするにはどうすればいいんだろうね、と言うことをチームメイトと話し合っていくことがとても楽しいです。色々なことを皆で試しながら、みんなもたくさん喋ってくれるので(お互いの意見を)調整をしながら、どんどん挑戦していけたら、また楽しめると思います」

そういえば以前、XD(クロスディー)の由来を尋ねたら「顔文字で(XDと)書いて、それを縦て見たら、とても笑っている顔に見えるじゃないですか。それでこれをチーム名にしたくて、名前は後付けしました(斎藤)」と話していたことを思い出した。チーム名に相応しく、バスケを楽しむことを原動力にこれからも彼女たちはコートに立ち続けていく。

BEEFMANが悲願の日本一
一方で男子にフォーカスするとベスト4には実力者たちが出そろった。2回戦でUTSUNOMIYA BREX(栃木県)を破ったBEEFMANをはじめ、前年度覇者TEAM TSUKUBAを引き継ぐSolviento(岩手県)、昨秋の『3×3 JAPAN TOUR 2020 Extreme Limited FINAL』で4強入りしたALBORADA(茨城県)、そして東京都予選でTOKYO DIMEを破ったWILL(東京都)である。6度目の大会にしてALBORADAやWILLといった20代前半から中盤の若手選手たちが2チームも勝ち上がってきたことで、ようやく3×3も次世代が先輩たちが築いた山を動かすかと思われたが、ベテランたちと現役Bリーガーが融合したBEEFMANの強さは桁違い。そんな姿を強く印象づけた優勝劇だった。

まず準決勝ではSolvientoに対して、秋田ノーザンハピネッツに所属し3×3日本代表候補へ名を連ねる保岡龍斗(#7)の2ポイントやドライブで先行し、昨秋3×3で競技復帰した湊谷安玲久司朱(#5)がひと冬を超えて磨きのかかったポストプレーで得点を量産。さらにチームとしてディフェンスでも圧倒し、相手の得点源である菊池亨(#35)に仕事をさせず、21-15で快勝した。

そして続く決勝でもWILLを破ったALBORADAに序盤から圧力をかけ、小澤崚(#13)と改田拓哉(#30)のスコアラーをシャットアウト。特に保岡の改田に対するプレッシャーは強烈だった。攻めては平均身長で10cm以上も上回るアドバンテージをいかして湊谷にボールを集めてインサイドを攻略し、野呂竜比人(#1)や高島一貴(#9)、保岡が着実に得点して、21-14で悲願の日本一を引き寄せた。

チーム創設から3年目にしてBEEFMAN はようやくビックタイトルのチャンピオンボードを掲げる瞬間を迎えた。野呂と高島の2人を軸に、初年度の2018年から専用の練習コートを完備し、多くのBリーガーや関東大学1部リーグに所属する有力な大学生を加えて、常にJAPAN TOURや3×3.EXE PREMIERで注目される存在だった。しかしTOKYO DIMEやUTSUNOMIYA BREXに追いつくべく練習を重ねてきたが、タイトルや世界大会の切符がかかった試合ではことごとく負け続けた。とにかく勝負弱さが目立ち、接戦を落としてきたのだ。

しかし今大会は違った。昨秋から野呂、高島、湊谷による不動の3人でチームを作り、保岡がラストピースとしてはまった。B1・秋田で主力の一角として活躍し、3×3日本代表候補にも選ばれた男のシュート力とキレのあるドライブ、そして強度の高いディフェンスはBEEFMANの勝負弱さを払拭。とくに2回戦で戦ったUTSUNOMIYA BREXには3月14日の『3×3.EXE PREMIER powered by INNOVATION LEAGUE』で敗れていたが、保岡が5本の2ポイントを決めてリベンジに成功。UTSUNOMIYA BREXの齊藤洋介(#11/以下YOSK)も「保岡選手だけディフェンスの仕方を変えていたんですけど、決められてしまいました。かなりタフだったんですけどね……」と、ゲームを支配した彼に脱帽した様子だった。日本選手権MVPを初受賞するに相応しい圧巻のパフォーマンスを、コートで披露したのだ。


異例の挑戦、保岡が語った秋田への感謝
優勝セレモニーを終えて保岡は、まず「素直に優勝できて嬉しいです。本当に目指してきたものが実現できてよかったです」と振り返った。そしてBリーグのレギュラーシーズンの最中、東京オリンピックの代表入りを目指して3×3のランキングを上げるポイント獲得のために今大会へ送り出してくれた秋田に対しては、こう感謝を述べている。

「5人制はチャンピオンシップを狙える位置にいますので、その中で自分を日本選手権に送り出してくれたことは、(前田顕蔵)ヘッドコーチとしても賭けのような気持ちがあったかと思います。そんな中で自分の夢を理解をしていただき、チーム全員で送り出してくれて本当に感謝しています。(そういった応援してくださる方々の思いに応えるためにも)本当に優勝することができて良かったと思っています」

また圧巻のパフォーマンスを見せた2回戦のUTSUNOMIYA BREX戦については「この大会で優勝しなければ自分のオリンピックはものすごく遠ざかると思っていました。何よりもこの2回戦に自分もフォーカスして入れたことで結果を出すことができて良かったです」と、出すべくして出したパフォーマンスだったと明かしてくれた。

Bリーガーのシーズン中の3×3挑戦。それもチームがチャンピオンシップ進出の当落選上にいる状況で5人制の活動から離れたことは、異例だった。もちろん日本代表入りの可能性を高めるため、3×3の国別ランキングTOP10外の保岡がポイントを取りに行くことは理解できるが、一歩間違えれば調子を落とし、怪我のリスクも秘めている。そんな中、BEEFMANの初優勝に貢献し、MVPまで獲得。目指す結果を全部残してみせた。5on5から3×3に切り替えて実力を発揮できた理由について「秋田のプレースタイルはディフェンスから激しくやることです。3×3もディフェンスはどこも激しくやりますので、(切り替えるための)アプローチをしなくても、今までやっていることができれば良いと思っていました」と、ハピネッツで培った経験が大きかったことにも言及してくれた。

大会終了後、Bリーグに戻った保岡は復帰初戦のアルバルク東京戦で先発起用に応える11得点を挙げ、続く試合でもアグレッシブなプレーを見せ続けている。もちろん激しくプレーする3×3をやった直後だからと言って、ファウルトラブルにもなっていないことも付け加えておきたい。

保岡龍斗からは応援する仲間たちの声を励みに、どこのコートに立っても自分の良さを100%発揮して結果を残すという、プロとしてのあるべき姿を改めて感じさせてくれた。そして5on5と3×3の両立はできることを彼は見る者に強く印象づけてくれたと言っていいだろう。

すぐにやってくる新シーズン、今年こそ
さて、日本選手権が終了したことで、3×3の2020シーズンは幕を閉じた。しかし世界に目を向ければ、すでにクラブ世界No.1決定戦となる『FIBA 3×3 World Tour Masters』の2021シーズンがスタート。初戦のDoha Mastersが去る3月26日、27日に開かれている。日本選手権で優勝したBEEFMANは出場大会こそ未定であるが、Mastersの出場権を獲得しており、世界へ挑戦する機会が巡ってくる予定だ。

また敗れはしたが2019シーズン以来の世界を目指すUTSUNOMIYA BREXにも期待したところだ。これまでチームを支えたMarko Milakovicがセルビアの強豪Novi Sadに加入したことで、彼らはチームを機能させる大きなピースを失い、BEEFMAN戦ではボールが回らず、個で打開する悪い展開に陥った。YOSKは「Markoがいないだけでそういうシーンを作ってしまうことは、チームとしては分かっていたことなのですが、今日それが改めて出てしまいました。もう一度(チーム作りを)やり直さないといけない」と語っている。それでも2021シーズンのロスターこそ明かさなかったが、新生BREXに期待している旨を告げれば「楽しみにしててください!」と歯切れの良い返事が返ってきた。勝ち続ける難しさはあるものの、彼らは日本の3×3シーンをけん引する存在であることに変わりはない。

最後にコロナ過で気の抜けない日々は続くが、今後の大会日程をJBAや3×3.EXE PREMIERから発表されることを待ち望みたいところだ。今年こそは3×3のシーズンが幕を開けることを願って。

3x3日本選手権MVPが語る優勝への思い

TEXT by Hiroyuki Ohashi

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