• COLUMN
  • 2020.12.23

皇后杯で8連覇のENEOSは、見る者の心も揺さぶった

これほどまでに胸を熱くさせられる皇后杯があっただろうか――多数のケガ人を抱え、エース・渡嘉敷来夢を欠きながらも、手負いのENEOSが激闘の末に8連覇を達成した。大きなプレッシャーがあった中で、コートに立てない選手たちが仲間たちを支え、主力がチームを引っ張り、中堅や若手が奮起した、見事な優勝劇だった。

8連覇を飾った女子バスケの名門
12月20日に国立代々木競技場第二体育館で開催された『第87回皇后杯 全日本バスケットボール選手権大会(以下皇后杯)』の決勝で、ENEOSサンフラワーズがトヨタ自動車アンテロープスを87-80で下し、大会タイ記録となる8連覇を飾った。日本女子バスケットボール界の名門にまたひとつ勲章が加わったことになるが、今大会の優勝をつかみ取るまでは本当に苦難の連続だった。試合後に多くの選手たちが涙し、抱き合った姿がそれを物語る。大会MVPに選ばれた宮澤夕貴(#52)はコートインタビューで感極まりながら、こう語った。

「本当にケガ人が多く、残っているメンバーでやらないといけない中で、全員が勝ちにこだわって……チームメイトのため、家族のため、応援してくれる方々のために、頑張らないきゃという思いで、ずっとコートに立っていました。それがこういう結果につながって、本当に嬉しいです」

全員でつないだ優勝までの道のり
彼女たちは大会を迎えるにあたり、190cmの主力センター、梅沢カディシャ樹奈(#24)ら4人をケガで欠き、16日の準々決勝・富士通戦では大黒柱の渡嘉敷来夢(#10)が負傷。右膝前十字靭帯断裂の大ケガだった。続く準決勝・デンソー戦も宮澤、キャプテンの岡本彩也花(#11)、メインガードの宮崎早織(#32)は2戦連続で35分間以上もプレーした末の勝利であり、チームは心身ともにギリギリの状況にあったと思われた。

そして決勝でも今大会の優勝に懸けていたトヨタ自動車の先制パンチを受け、1クウォーターで18-27の劣勢に立たされる。ゾーンディフェンスを敷かれたことでボールを止められ、スペースを消されて、本来であれば自分たちがやりたかった「ディフェンスから走る」展開を相手に仕掛けられたからだ。

それでも2クウォーターは宮澤と、渡嘉敷に代わって起用されたルーキー・中田珠未(#33)がつないで6点差に縮めて前半を折り返すと、3クウォーターは梅沢に代わって3戦連続スタメンの中村優花(#29)がペイントエリアで力を発揮。チームディフェンスの強度が上がり、終了間際には中田のジャンバーが決まって64-63と、ついに試合をひっくり返す。勝負所を逃さなかった女王は4クウォーター最初のポゼッションで岡本がドライブをねじ込んで先手を取ると、宮崎がこのクウォーターだけで10得点を挙げるなど、最後まで攻守に運動量が落ちず、「ディフェンスから走る」姿を取り戻して、追いすがる相手を振り切った。

仲間の励ましで奮起した選手たち
もう大会が終わってしばらくたつが、ENEOSの選手たちが逆境を乗り越えての優勝劇には、改めて心揺さぶられるものがあった。ケガで出られない選手たちがベンチからコートの5人を支える声が絶えることなく、主力がチームを引っ張り、大きなプレッシャーがあった状況で中堅や若手も奮起した。

リーグ戦では出番の限られた178センチの中村は、3試合を通して平均得点13.7得点、9.3リバウンドと、ゴール下を中心に存在感が際立った。「練習では渡嘉敷と張り合うぐらいリバウンドを獲っています」と梅嵜英毅ヘッドコーチも話していた実力は大舞台で遺憾なく発揮された。

もっとも当の本人は「この大会に向けて練習をしている中で全然、自分の良さが練習の中でなかなか出せなくて……」と、皇后杯に向けて不安もあった。それでも多くのサポートのおかげ、それを乗り越えた。

「そんなときに……TAKUさん(渡嘉敷来夢)とかが『NINI(=中村のコートネーム)が自信なくても、自分らが一番、NINIができることを信じているよ』と言ってくれて、すごい救われました。たくさんの方が支えてくれているおかげで、ここに立てています。本当に感謝の気持ちで一杯です」

またルーキーの中田珠未もインパクトを残した一人だ。準決勝では36分間で20得点、決勝では40分のフル出場で15得点、8リバウンドを残した。特に決勝の3クウォーターラストで迷いなく放った逆転のジャンパーは、キャプテンの岡本が「中田のジャンプシュートが決まって、次につながったと本当に思います」と振り返るように、優勝へ弾みをつけるビックプレーになった。

このショットは渡嘉敷が負傷した準々決勝で、21分の出場時間でフィールドゴール無しのたった2点に終わった姿から一転、わずかな時間で彼女が大きく変わったことを感じさせるものだった。仲間たちからの励ましは、ルーキーが躍動する力になった。

「自分ひとりだと自信がなくて、攻めあぐねてしまうことがあったり、ちゅうちょしてしまうことが多々ありました。だけど『(積極的に)行っていいよ』という、チームメイトの声掛けがあって、そのひと言で力強く行くことができました」

キャプテン、チームを支えた渡嘉敷
さらにプレッシャーと向き合いながら、岡本彩也花がENEOSをまとめた。渡嘉敷と同期入団のキャプテンは、決勝でチームハイとなる20得点11アシストをマーク。とりわけ彼女のハイライトのひとつになるであろう、4クウォーターで先手を取った渾身のドライブについては「前半はちょっと逃げてしまって、自分のシュートがなかなか打てなかったのですけど、後半は自分の中でやらなきゃいけないという“スイッチ”が入りました」と振り返る。ルーキーがつなぎ、キャプテンが大事な立ち上がりで仕事をするという、8連覇に向かうこれ以上ない流れが作られた局面だった。

ただ、このように優勝をつかみとるまで、その重圧は非常に大きく「正直言うと、プレッシャーに押しつぶされそうでした」と岡本は話す。準々決勝後には「プレッシャーを楽しみたい」と語っていたが、これはきっと不安を押し殺すための言葉だったように、いまとなっては思われる。

それでも渡嘉敷に不安を打ち明けて「『何も失うものはないでしょう。自分がいないんだから』ということを言われて、あ、そうだよね!と思いました」と、岡本は気が楽になった。そうして彼女の不安は「自分たちがどれだけできるか、試されているような気がしました」と、ケガで出られない選手たちのために勝つんだという決意に変化していったのだ。

もちろん渡嘉敷は岡本だけでなく、コートに立つ選手たちにアドバイスを送り続け、ベンチで声を出し続けた。その姿はとても印象的であり、ときに観客席までそれは聞こえた。

「縦に行こう!」
「守れているから大丈夫!」
「手をあげておけば大丈夫、大丈夫!」

梅嵜HCが「私以外に渡嘉敷ヘッドコーチがいますし、アシスタントコーチに4人のケガ人がついています」と話したように、もう一人のヘッドコーチなくして、この日の勝利はなかっただろう。

準決勝や決勝を終えて、渡嘉敷をはじめサンフラワーズの選手たちが目に涙を浮かべ、抱き合う姿が何度も見られたことは、その乗り越えるべきものがいかに大きく、苦しいものであったかを感じずにはいられなかった。見る者の心を大いに揺さぶった女王・ENEOSの姿は、これからも間違いなく語り継がれていくだろう。

年明けからリーグ戦12連覇へ向けて挑む
さて、師走の短期決戦を終えた女子トップ選手たちは、1月9日より再開されるリーグ戦に戦いの場を戻す。現在、ENEOSは東地区の首位を走るが、トヨタ自動車も西地区で1位をキープし、皇后杯4強のデンソーアイリス(西地区)や日立ハイテククーガーズ(東地区)らライバルたちも打倒ENEOSを目指して挑んでくるだろう。

宮澤は優勝会見で喜びを感じつつも「これからリーグ戦がはじまります。渡嘉敷選手がいない、ビックマンもいない、主力もいない状況で、自分たちもこれからまたステップアップして行かないといけないです」とコメント。危機感を示し、より一層の成長を誓った。

全員でつないだ8連覇の経験を糧に、リーグ戦12連覇へ向かって彼女たちの挑戦に終わりはない。

皇后杯で8連覇のENEOSは、見る者の心も揺さぶった

TEXT by Hiroyuki Ohashi

RELATED COLUMN

MOST POPULAR