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  • 2019.10.08

女子3×3に一石を投じる、レジェンドが誘致した国際大会を振り返る

女子バスケ界のレジェンドが3x3のために尽力する―
昨秋、元5人制日本代表で、3×3に転向した矢野良子選手が、女子3×3のツアー大会3W(TRIPLE DOUBLE)を立ち上げたことは記憶に新しい。そして東京オリンピックまであと1年を切った中、今度は大神雄子氏が史上初めて女子の国際大会を誘致した。現役時代にWリーグを9度制覇し、アテネオリンピックを経験、現在は3×3日本代表のサポートコーチであり、5人制ではトヨタ自動車アンテロープスのアシスタントコーチを務める。彼女がけん引したこのビックプロジェクトを振り返りたい。
texy by Hiroyuki Ohashi

Women’s Seriesとは

大神氏が誘致した大会は、今年よりFIBA(国際バスケットボール連盟)が新設した女子の国別対抗戦・FIBA 3×3 Women’s Series(以下WS)の東京大会(9/21-9/22@MEGA WEB)。5月から世界15都市で開催された対抗戦のひとつであり、大会グレードはFIBAが設定する10段階のうち3番目に高いもので、W杯に並ぶ最高峰の舞台だ。ホスト国として日本代表(#3 馬瓜ステファニー/#8 内野 智香英/#12 三好南穂/#30 篠崎澪)とU-23日本代表(#16 東藤なな子/#17 関ななみ/#18 尾崎早弥子/#23 山本麻衣)が出場し、アジアカップの覇者でWS成都大会を制したオーストラリアや、世界ランク3位のルーマニア、ヨーロッパカップ4強のオランダなど6チームが集結した。

大会を誘致した理由

では、なぜ日本でこのような大会を開くに至ったのか?それは女子カテゴリーを取り巻く競技環境への危機感があったことに他ならない。「選手がもっと3×3を広めたい、もっと3×3を知って欲しい、(個人や国別ランキングを上げるため)ポイントも必要なので、もっと獲りたい。そういう気持ちを声には聞いていたのですけど、なかなかそういう機会がなかった」と大神氏は振り返る。6月のW杯オランダ大会を思い返しても、Wリーガーをそろえて挑んだが、経験不足を露呈して予選敗退に憂き目にあった。「けっこう周りでは、チャンスがあるだとか、もっとやれるだとか、修正点ばかりを選手に要求していたんじゃないかなと思っています。でも実際は合宿もあまりできず、あまりそういう大会(=強化試合)もできず、でも試合に負けるのは選手じゃないですか。すべてを負けたら選手のせいにする訳ではないですけど、彼女たちがそう思ってしまうし、そういうことはしたくない」と、一番近くで接している立場だからこそ、この状況を打破したいという想いがあった。

「東京五輪も目の前ですし、なんとカタチにしたくて、今大会を誘致することで、いろいろな方に知ってもらえるチャンスができる。もちろん、オリンピックに向けての強化にもなる。最後は正直、自分の勝手なわがままになりますけど、選手たちがしっかりポイントを獲って、日本のランキングを上げて、自信を持って5人制のリーグに向かう。そういった意味もありながら、大会を誘致しました」。彼女の並々ならぬ熱意があったからこそ、東京でのWSが動き出した。

2カ月もない準備期間で作りあげた日本一丸

しかし、大会を成功させる以上、当たり前だが人もお金もかかる。当初は「自分の勝手な想いばかりではじめたので、全て自費でやるつもりでした」と明かす。さらに思い立って、FIBAの担当者へ相談したのが6月のW杯の時期だという。「そこからメールでやりとりをさせてもらって、なかなか決まらなかった」と誘致さえ危ぶまれたが、7月終わりにGOサインが出たという。2カ月もない準備期間とあって、「正直たくさんの方に迷惑をかけていると思います、これはもう見てて自分でもすごいわかります」と、反省しきりだったが、会場やコートサイドを見れば、5人制の所属先であるTOYOTAのサポートがあり、特別協賛として松園尚己記念財団のバックアップがあった。運営にはJBA(日本バスケットボール協会)が主催するJAPAN TOURでお馴染みのテーブルオフィシャルたちが並び、MCには新岡潤、DJ MIKOもセット。エキシビションゲームをTOKYO DIMEらが盛り上げ、U-15の中学生たちも3×3を披露した。大神氏の想いに共感した多くの人たちが集まって、これまでに無い3×3ゲームを作りあげていることを強く感じさせた。

「協力してくださる方がたくさんいて、もちろんそれがお金にならないものもありますけど、たくさんの方が動いてくださって、この大会が成り立っています。私も今回はじめてコートの設営やスタンドのイスを並べ、映像の確認など、選手のときに感じられなかった運営に回ることがとてもあった。自分が選手のときに戻れるのなら、もちろん(試合への)準備はしてきたけれども、もっと感謝の気持ちを込めて、もっとできたんじゃないかと思って、ちょっとそこは反省しています。ただそこはいまの選手が(コートで)表現してくれているので、そういうのを伝え続けて、選手だけではなくて、チームやスタッフ、応援してくださる家族やファンの皆さん、運営してくださる皆さんと日本代表がレベルアップしていければ良いのではないかと思います」。大神氏が望んだ日本一丸となった姿は、間違いなくWomen’s Seriesで体現されていた。

ゲームに目を移せば、日本勢は初日に2グループに分かれて開かれた予選リーグを3チーム中1位で突破。しかし2日目の決勝トーナメント準決勝で、日本代表は大会制覇を飾ったオーストラリアに14-21で敗れ、U-23日本代表もオランダに17-19で敗戦。ホームの大声援を受けながら結果を残せなかっただけに、悔しさは募るばかりだ。それでも、今大会に出場した山本麻衣と馬瓜ステファニー、さらに西岡里紗、永田萌絵の4人は、FIBA 3×3 U-23 WORLD CUP(10/2-6)で、昨年のファイナルで敗れたロシアにリベンジを果たして金メダルを獲得。日本バスケットボール史に初めて、“世界一”の称号を刻んだ。大神氏はWSを終えて、「選手にはそれこそ“優勝”を目指して、結果を出すことが一番必要なのではないかと思います」と話していたが、まさに待ち望んだ通りの吉報が舞い込んだ。東京大会の誘致は、女子3×3の大きな飛躍へ繋がったと言っていいだろう。

これをきっかけとして・・・

最後に、もっとも大事なことは東京大会で得たさまざまな知見を今後の3×3の発展にどういかしていくかだ。大神氏も「(3×3は)やりこむしかない、経験しかない、場を与えてあげるしかない、というふうになれば、どんどんこのような大会を私だけでなく、たくさんの方が(大会の誘致する)オーガーナイザーになる “きっかけ”になればいいなと思います」と語る。決して簡単なことではないが、今季のWSに日本は4度の出場で、優勝1回、準優勝2回と一定の成果を収めた。さらにU-23代表はワールドチャンピオンだ。やったぶんだけ、彼女たちは伸びていくし、東京オリンピックに出ることができれば、有力なメダル候補になるポテンシャルを大いに秘めている。代表強化や国別ランキングを押し上げるためのポイント獲得の場として機能する大会が、大神氏に続く方々によって、今後生まれていくことを願いたい。また一方では、本来ナショナルチームを世界に通用する集団に育てるべく、ロードマップを描く主体者は誰なのか?という課題も忘れてはいけない。このプロジェクトは、3x3の将来を考える意味でも大きな気づきを与え、レガシーを残してくれたのではないだろうか。

3×3WS WS Tokyo 2019

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