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  • 2020.02.04

Bリーグデビューを果たした“日本の未来”

高校生だというのにーー。

そんな“色眼鏡”を通して彼を見る必要がないことに、すぐに気付かされる。

高校生としてではなく、いち選手としてすごい。1月26日、27日の千葉ジェッツふなばし戦でBリーグデビューを果たした河村勇輝がプロの舞台でもやれるのだと我々が理解するのに、時間はかからなかった。

今年度、一昨年度と2年連続で高校バスケットボール最高峰のウィンターカップで福岡第一を優勝に導びき、両大会でベストファイブに選ばれた。またU16、U18の日本代表にも選出されて、世代で最高のタレントの一人と呼ばれてきた。

ウィンターカップ連覇を達成して厳密には1か月も経っていなかったが、三遠ネオフェニックスへ特別指定選手制度を利用して入団する報が突如、入ってきた。入学が内定している東海大へ通い始めるまでの短い期間ながら、自身も将来の目標としてきたプロでのプレーが早くも実現することとなった。

その門出となったジェッツとのホーム豊橋での2連戦。河村は早速、眩い光を放って会場を埋めた多くの観衆を魅了した。

1戦目。第1クォーター残り4分を切ってコートに送り出された河村は、フリースロ―で初得点を挙げるやいなや、強烈な見せ場を作る。残りわずか数秒からボールを受け取ると、バックコートからボールをプッシュしそのままペイント内に侵入。2人のジェッツディフェンダーをすり抜け、クォーター終了のブザーと同時にレイアップを決めたのだ。

第2戦はさらに本領を発揮。第1クォーターの終盤、3Pラインの外にいた河村はゴール下にダシルバヒサシの姿を認めると、矢のようなパスを投げ入れた。相手を欺き、しかしダシルバをも欺いた。来るはずがないパスが来て動揺があったか、ダシルバはシュートを外した。無論、観客は残念そうな声をあげたが、そのプレーで彼がコートにいる間は一瞬たりとも目を離してはいけないことを理解した。

「ウォー」。

この2度の場面のみならず、客席からは低い、地鳴りのような感嘆の声が何度も湧き上がった。抜群のスピードとドリブル能力で相手ディフェンスを切り裂き、ノールックなどトリッキーなパスを数回、見せた。2戦目には三遠の今季ホーム最多となる3846人のブースターが豊橋総合体育館を埋めた。河村を観に来ていたのは明らかだった。

高校生が、いきなりここまでできるものなのか。試運転もなしに、いきなりフルスロットルで「普通に」プレーできてしまっている状況に、見ている我々が追いつけない。

「高校生のようには見えなかった」

昨年11月に行われた天皇杯2次ラウンドで既に1度、福岡第一と対戦している富樫勇樹は、今度はプロの舞台という対等の立場での再戦後、河村のプレーぶりをそう評した。

1戦目は8得点。それだけでも「普通に」考えれば上出来だが、2戦目は3Pショットを3本決め、21得点とさらに力量を見せつけた。そして、人々に“河村勇輝”という未来の俊英の凄さを脳裏に焼き付けた。

三遠のスキルコーチを担う田中亮氏に河村のバスケットボール技術について訊いた。「まだまだ自己流のところがある」。田中氏はそう前置きしつつ「プロでも通用するスキルスキルセットを持っているのは確か」と話した。実際、172cmという背丈のディスアドバンテージを抜きにすれば、技術的に弱点は皆無にすら見える。

技術的に優れているというだけではない。河村の人間的な強さや聡明さが、彼を他とは一線を画す選手にしている。それは高校生としてはというのではなく、バスケットボール選手として、だ。

河村曰く、三遠の練習に加わったのはジェッツとのシリーズの数日前で、5対5の練習をほとんど行うことなく実践に入ったという。その中で彼は、チームの戦術が記された“プレーブック”を「1日で全部」覚えたそうだ。

ジェッツとの2戦目、前日を上回る躍動的なプレーを河村は見せた。それを可能たらしめたのは彼の高いバスケットボールIQではなかったか。

味方選手が試合の時間帯等どのようなプレーを求めているか、誰が“当たっている”のか。また相手ディフェンスが自分にどういう風についていたのか。前日の試合を踏まえてそうしたところを的確に判断していたと、三遠の河内修斗ヘッドコーチは話した。

高校生でそれができるというのは…。

筆者の質問が終わる前に、河内氏は笑顔でこう返した。

「僕は初めてこういう選手に出会いました」

34歳のベテラン、ロバート・ドジャーも、突如、チームメートとなった18歳の小兵な選手のパフォーマンスを「とても印象的だ」と、目を見開いた。

「彼はルーキーで、しかも高校生なのに怖れを知らない。それに彼が相手をしたのは日本で1番のPG(富樫)で、十分にやり合えていた。それどころか(富樫を)圧倒する場面すらあった。彼のタフさ、怖れを知らないプレーぶり、競争心の高さ…そういったものが光っていたと思う」(ドジャー)

三遠は今季、わずか3勝とリーグ最低勝率のチームだ(2月2日終了時点で3勝32敗)。山口県出身で高校は福岡であるから元々縁もないはずの地だ。その低迷するチームに突如、降りてきた超高校級選手。周囲が色めきだつのも無理はないが、最も冷静なのは河村本人であるようにすら感じる。

ジェッツ戦の前日に行われた河村の入団会見。三遠の北郷謙二郎社長は、自身が現役時代に対戦していた田臥勇太(現・宇都宮ブレックス)の広い視野やスピードを、河村が「上を行っていると思う」と話した。そのようにして“ハードル”を上げられてもいきなり力を発揮するのだから、この若者は精神的にも相当強い。

冒頭で高校生だという色眼鏡は必要がない、と書いた。それは何もプレー面だけを指してそう記したわけではない。彼の態度や言葉がそう思わせるのだ。

ジェッツとの1戦目。ネオフェニックスは前半37−30とリードして折り返すも後半に失速し、最終的には大差で敗れた。その日、試合後に河村の口から出てきた言葉は、その日、初めてプロのコートに立った選手とは思えないそれだった。

「流れが悪い時にオフェンスが1人、1人の(単発な)攻めになって、チームで乗り切ろうという意識が少し低いという印象を感じました。そこはガードの声がけだったり、流れが悪い時にチーム全員でどう乗り切るか(という意識)ーー今のチームにはそういうものが足りないのかなと。自分が言える立場ではないのですが、今日コートに立ってみてそういう風に感じました」(河村)

そして当然、自身にも厳しい。2試合合計でチームトップの29得点を挙げる一方で、計11ターンオーバーも最多だった。ドライブが多く得点力も期待されるプレースタイルだからある程度のミスは仕方がないようにも思えるが、河村自身はその考えに与しない。

「やっぱり、ポイントガードにとってターンオーバーはしてはいけないこと。自分のプレースタイルを出しながらターンオーバーを減らすことをもっともっと成長してやっていけば、(相手からすれば)止めづらい選手になれるんじゃないかなと思います」(河村)

ベンチでもルーキーによくあるように端に座るのではなく、真ん中に座ることも多かった。タイムアウトがかかれば誰よりも先にベンチを立って、コートから戻ってくる選手たちを出迎えた。将来的には日本代表として世界と戦いたいと公言しているだけに、意識がすこぶる高い。

U16日本代表で河村をヘッドコーチとして指導したトーステン・ロイブル氏(現・男女3×3日本代表ディレクターコーチ)は河村を「お気に入りの一人」とし、高い評価を与える。

「彼は身体は小さいがプレーは“ビッグ”だ。自信を持っていて、大きな相手でも怖がることがないし、ミスをしても萎縮しない。ディフェンスでのフットワークも素晴らしいし、フィジカルに、必要とあらば『ダーティー』にもプレーできる」(ロイブル氏)

「3Pの精度とレンジを広げること」と「司令塔としてもっと口頭で味方を引っ張るようになること」を今後の河村の課題として挙げたロイブル氏。「そういった課題を克服できれば、あの身体のサイズでも本当のトップなれる」。

三遠のブースターたちにとってこの河村が三遠に在籍する期間は、“日本の未来”を間近に観て、そして体感できる珠玉の期間だ。

入団から試合までの時間があまりに短かったために数こそ少なかったとはいえ、三遠はジェッツ戦の両日でさっそく長短袖のTシャツやユニフォーム型キーホルダーといった「河村グッズ」を会場で販売した。しかし商品は、両試合日とも即完売してしまったそうだ。

「高校生がプロで通用するのか、すごい楽しみです」。ネオフェニックスブースター歴は5、6年だという豊川在住の会社員、都築信之さんは、ジェッツとの2戦目を前にそう話してくれた。前日の、河村のデビュー戦も観戦したという都築さんは上述の河村のブザービーターを例に挙げ「スター性がある」と微笑んだ。
「大学へ進学しますが、その後にでも戻ってきてくれたら嬉しいなと思います」(都築さん)

河村は1月29日、アウェイの新潟アルビレックスBB戦では早くもスターターとなり、24得点を挙げた。勢いはとどまらない様子だ。
観る者が息を吞み、まばたきすらはばかられるーー。そんな選手がBリーグを見渡しても、どれほどいるだろうか。”期間限定でプロとして躍動する河村に向けられるスポットライトは、照度を増すばかりだ。

Bリーグデビューを果たした“日本の未来”

TEXT by Kaz Nagatsuka

三遠ネオフェニックス

千葉ジェッツふなばし

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