NBAを目指す『GLOBALLERSプロジェクト』――2年目の工夫と3年目の展開
将来の“NBA選手”輩出を目標に「10年計画」ではじまった『GLOBALLERSプロジェクト』――その2年目が昨年12月に終わった。コロナ禍によって2020年の1年目と同じく、計画は変更を余儀なくされたが、子どもたちの将来を考えて、随所に工夫も施した。主催者たちの声から2年目の取り組みを振り返る。
渡邊、八村のような選手輩出を目指して
1月21日(日本時間22日)、トロント・ラプターズ対ワシントン・ウィザーズ戦 が行われ、ラプターズの渡邊雄太とウィザーズの八村塁による日本人対決が約2年ぶりに実現。マッチアップする時間帯もあり、NBA選手として活躍する2人の姿は、改めて我々をワクワクさせてくれた。
2020年にはじまった『GLOBALLERSプロジェクト』は、2人に続くような将来の“NBA選手”となり得る若き才能を発掘・育成するプロジェクトである。発起人は、サン・クロレラで代表取締役社長を務める、中山太氏。同社は2019年から渡邊と個人スポンサー契約も結んでいる。そして、プロジェクトのプロデューサー兼コーチとしてSpaceBallMagのBANG LEEと、KAGO BASKETBALL SCHOOLのMARUが参画して、現場を取り仕切る。
2年目となった2021年は、2022年3月に卒業予定の中学3年生を対象に国内3カ所でトライアウトを行い、2期生として15名を選抜。彼らはサプライヤーのアディダスからユニフォームやバスケットボールシューズのサポートを受け、TEAM GLOBALLERSとして活動をした。「GLOBALLERS」という名の通り、NBAを目指して世界(GLOBAL)と勝負できるボーラー(BALLERS)の海外留学をサポートするプログラムなだけに、今年も当初はアメリカへ挑戦し、現地校よりスカラシップを獲得した選手(1名)へ奨学金を支給する計画を立てていたのだ。
しかし、世界的なコロナ禍の感染状況を踏まえて、1年目に続いてそれを断念……。1期生と同じく、中学3年生の進路サポートを念頭に国内強豪高挑戦をメインとした「GLOBALLERS CAMP」を行った。選手たちへのリクルーティング(推薦)獲得を目指したのだ。訪問した高校は実に6校。昨年に続いて福岡大学付属大濠高校や福岡第一高校へ足を運び、中部大学第一高校(愛知県)、飛龍高校(静岡県)、東海大学付属諏訪高校(長野県)、北陸高校(福井県)の4校へは新たに門を叩いた。
2年目だからこそ施した工夫
一方で、コロナ禍のため海外挑戦ができない状況とは言え、2期生だからこそ工夫もした。ひとつは「少しでも日本にいながら海外を感じてもらえるような取り組み」だと中山氏は明かす。強豪校挑戦に加えて、在日アメリカ人などインターナショナルな選手たちがいるTokyo Samurai(U15)やHoudini’s Problems Basketball(U18)に挑み、白鷗大学(Bチーム)の胸も借りた。海外に出れば体格差はもちろん、言語や文化、成長してきたバックグラウンドが違う選手たちとバスケをやることが当たり前である。そういった違いを行ってから戸惑うのではなく、日本で体感することで将来へのレッスンと位置づけた。
さらに、この狙いは実戦にも落としこまれた。BANG LEE によれば、Tokyo Samuraiとの試合では「アメリカンゲーム」にしたと言う。例えば、試合時間は日本で慣れ親しんだ、10分×4クウォーターではなく「20分ハーフ」。タイムアウトもヘッドコーチだけでなく、ボールを保持している選手も取れるルールに変更した。日頃は経験しない状況を作ることで選手たちに「刺激」を与え、「考えて」プレーすることを求めた。
もうひとつは、選手たちのコミュニケーションを増やせるように環境を整えた。そもそもTEAM GLOBALLERSは遠征のある週末に全国から選手たちが集まり、終われば所属先へ戻る、言わば期間限定のチーム。そのため、短期間でチームビルディングをする課題が1年目に生まれていた。
そこで極力、移動はコロナ対策を施した上でバス移動を採用。宿泊先も広い部屋を取った上で相部屋にするなど、選手たちが仲を深められるよう工夫した。中山氏は「限られた時間の中でチームとして活動しているので、時間を有効に使い、チームとしてまとまりを作れるように意識をした」と話す。この甲斐もあって、BANG LEEは1期生と2期生の違いを「選手たち同士でしゃべって仲良くなっているので、少しは(選手たちの良さが)掛け算になっている」と、表現している。
選手たちから感じる変化と、可能性
そして、中山氏は2年目のチーム活動に帯同する中で、2期生ならではの変化を受け取っていた。1期生と違って、彼らは中学2年生からコロナ禍でバスケットボールを制限された経験を持つ世代。「色々な方のサポートがあって、いまの機会があるという感謝の気持ちを選手たちから強く感じる」と言う。
加えて、彼らは進路を考える中学生3年生にかけて、NBAでの渡邊や八村の活躍や東京オリンピックの開催を目の当たりにした。選手たちが目指す世界の舞台がより身近に感じられただけではなく、インターネットやSNSが当たり前の時代とあって、トップレベルでプレーする選手たちの発言や振る舞いもダイレクトに知ることができる。「プロ意識まで行かなくても、自分たちだけで成り立たないものが沢山あると感じ、バスケットボール選手や人として自立しようとする意識が出てきているように思う」と、中山氏は語った。
また、活動に対する反応も前向きに受け止められている状況に手応えも感じていた。ひとつは、訪問先の学校から。中山氏は「先生の皆さんにご協力いただいて、感謝しかありません」とし「2期生のメンバーも皆さんがよく知っていらっしゃる学校からオファーをいただき、(進学が)内定している選手もいます」と明かした。2年目もコロナ禍の影響はあったが、1年目の活動を踏まえて、約3ヶ月早いスタートができたことも、良い結果につながったようだ。
もうひとつは、15名のTEAM GLOBALLERSから6人が、日本バスケットボール協会が実施する「2021年度U14/U15ナショナル育成センター」のトライアウトに合格 (第 1 回キャンプ参加者)したことだ。古西太陽(倉敷市立南中学校)、渡邊大翔(KAGO CLUB)、南川陸⽃(広島ドラゴンフライズU15)、湧川裕⽃(同)、内藤英俊(ライジングゼファー福岡U15)、⾒⽵怜(NLG INFINITY)が昨年11月の発表に名を連ねている。日頃の所属先で腕を磨いてきた成果もあるが、プロジェクトを通して成長してきた姿も見ているだけに嬉しさは大きい。
さかのぼれば、1期生のメンバーである長谷川比源(現横浜清風高校)も進学したのち、2021年度のU16日本代表候補に選ばれた。他のメンバーも強豪校に進んでいるため、今後の活躍も楽しみなところ。選手たちがステップアップしていく知らせは、主催者として励みであり、気づきを得るきっかけにもなっていた。中山氏は次のような実感を持つ。
「子どもたちの可能性には驚かされますね。だからこそ、僕らも今だけを見るのではなくて、伸びしろや何事も吸収する意欲など、身体能力やプレーだけでは測れない可能性を見据えて、子どもたちと接していかないといけないです。(長谷川)比源を見て改めて思いました」
3年目の展開……「スペイン」への選択肢も
3期生となる2022年の募集開始は今春を予定していると言う。3年目もこれまで通り国内選考を経て結成したTEAM GLOBALLERSに、海外挑戦の機会を作る計画だ。
ただ、これまで通り「アメリカ」行きを第一に準備をしながらも、コロナ禍の感染状況は依然として予断を許さないため、バックアッププランとして新たに「スペイン」行きの選択肢も作った。サン・クロレラのサポート選手である岡田大河が同国マドリードで所属するZENTRO BASKET MADRID(セントロ バスケット マドリード)と、2021年12月に同社はパートナーシップを締結。その中で、GLOBALLERSプロジェクトへの全面協力も得られたそうだ。中山氏はこれについて「1期生や2期生へできなかったことがたくさんありました。その分、3期生にはアメリカ以外の選択肢を作り、しっかりと準備をして3年目を迎えたい」と語った。過去2年の経験をいかし、今後の活動をより良いものにしていきたいという思いを強く感じさせる。
また、2022年からはU15だけではなく「U13やU14の子どもたちに対してもバスケットボールでチャレンジする機会を作っていきたい」とも言及した。本プロジェクトは、NBA選手の輩出を目指してはいるが、その大きな目標へのチャレンジを通して、子どもたちが一人の人間として成長して欲しいという思いが根底にある。10年計画の3年目始動を告げる一報を楽しみに待ちたい。
- NBAを目指す『GLOBALLERSプロジェクト』――2年目の工夫と3年目の展開
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TEXT by Hiroyuki Ohashi
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