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  • 2019.12.04

Tokyo DimeとUtsunomiya Brexを世界の3×3が語る

FIBA 3×3 World Tourや、その予選会にあたるFIBA 3×3 Challengerはプロサーキットと呼ばれ、世界の強豪クラブがしのぎを削る。2019シーズンはこの舞台に、Tokyo Dime(以下Dime)とUtsunomiya Brex(以下Brex)が、過去最多のチャレンジを行った。では、そんな日本の奮闘ぶりは、世界の3×3プレイヤー、関係者たちにとって、どのように映ったのか。FIBA 3×3 World Tour Utsunomiya Final 2019へ来日した彼らへの取材を通して、我々が誇る両チームの現在地、そして2020シーズンを考えたい。

日本の両雄がFIBAに与えた印象

DimeとBrexのプロサーキット出場試合数は4月から7カ月間で、63試合に及ぶ。前者は34戦13勝21敗、後者は29戦11勝18敗(筆者集計)。黒星のほうが上回るものの、DimeはFinal優勝経験のあるLjubljana(スロベニア)をHuaian Challenger(7月)で破って、過去最高の3位を記録。Sukhbaatar Challenger(9月)では世界ランクTOP10入りを果たすNY Harlemに勝ってみせた。そしてBrexはInje Challenger(8月)でVrbas(セルビア)を破ってプロサーキットで初の4強入りを成し遂げると、シーズン最後のJeddah Masters(10月)では日本のクラブとして初のベスト4へ進出した。

これらの戦いぶりに関して、FIBAで3×3統括ディレクターを務めるAlex Sanchez氏は次のように語る。「今年はじめて、海外のチームと競え合えるチームが日本から出てきた印象です。Utsunomiyaも、もう少しでFinalというところで(出場権を)逃してしまいました。2週間前の(Jeddah)Masters(10/19-20)で負けてしまって、ここ(=Final)へ出られなかったことは非常に残念なことですが、彼らの活躍が、日本のレベルが上がっていることに対しての良い例になっていると思います。確実に来シーズンはこういった大会へ数多くの(日本)チームが出てくることを期待しています」。オリンピックを前年に控えて、3×3のトップシーンで爪痕を残したことは、FIBAにポジティブなニュースとしてしっかりと届いている。

リトアニアの雄が語るBrex

Brexにとって今季は収穫の多いシーズンとなった。とりわけ、その要因のひとつにŠakiaiの存在が大きい。7月のLausanne Mastersから直接対決は5度にも及び、「4大会連続で(プロサーキット)ベスト4の壁を彼らに阻まれていた(齊藤洋介)」と、リトアニアの強豪は立ちはだかった。一方で、これだけ顔を合わせただけあって、対戦相手とは言えども、コミュニケーションも深まっていく。ŠakiaiのPaulius Beliaviciusは「Utsunomiyaはとてもフレンドリーなんです。コート上での対戦中のマナーもそうですが、コート外でもお互いが雑談ができる関係性を築けていますね」と明かす。齊藤もJeddah Mastersからの帰国後、「もうお互い、誰がどういうヤツなのか、分かっていますし、実際に(コートの)裏では“頑張れ”と言ってくれてたりしていたのですよね。もう“腐れ縁”みたいな感じです(笑)」と、宿敵と切っても切れない間柄になったエピソードを語っていた。そして宇都宮で通訳を介して、このことをBeliaviciusへ伝えると、「短い間で何回も対戦すると、なんかそういう縁というか、パワーを感じて、関係も築けてきますよね(笑)」と、思わず表情が崩れるほど。両者が良いライバルになっていたことを感じさせた。

そんな手の内を知り尽すまでになったBrexについて、Beliaviciusは特徴をこう語る。「非常に動きが速い、しかも2ポイントシュートがよく入るチームだと思います。チーム全体は小柄ではありますが、1秒でもフリーの時間を与えると打たれてしまうので、ディフェンスが非常に難しい。ただ、そこが彼らの強みでもあるので、とても良いチームだと思います」。

BrexはŠakiaiらに大敗したLausanne Mastersと、その前週に3×3.EXE PREMIERでHachinohe Dimeに敗れたことをきっかけにチームのスタイルを変化させたという。齊藤は詳細こそ言及はしていないが、プレーを見る限りはボールムーブを意識して、コートをより広く使う。1点の取り方を磨き、チームになじんでいった小林大祐の2ポイントシュートを大きな武器として呼び込んだ。さらにJeddah Mastersでは、FIBA 3×3 U-23 W杯でセルビアの銅メダル獲得に貢献したMarko Milakovićが勝負所でビックショット。ひと回り成長した姿を見せてくれた。その背景について、Novi Sadのコーチであり、ナショナルチームで彼を指導するDanilo Lukic氏は「W杯でメダルを得たこと、そこでタイトルを得たことが、彼の自信になった」と分析する。チームとしてはこれから来季に向けて、強度の高い連戦に耐えるフィジカルやフィットネスなど個々のステップアップはもちろん、コンビネーションの練度を深めていき、まだ見ぬ景色を見にいく準備に励む。

アメリカ、スロベニアの強豪から見たDime

「プロサーキットで結果を残す」―― Dimeはシーズン当初にこの目標を掲げ、4月のAsia Pacific Super Questで優勝を飾り、Mastersの出場権を1つ、Challengerの出場権を2つ獲得して上々のスタートをきった。そこから34戦という過去最多のプロサーキットを転戦した姿は、欧米勢が取り組む姿に近づいてきたように見えるものであり、チームとしてとことん3×3を積み上げていった。9月にはNY Harlemを21-17で撃破。対戦相手で、のちにMastersのレギュラーシーズンMVPになったDominique Jonesはあの試合を、「ハードだったことを覚えています。我々が負けた試合は、彼らのゲームプランがうまく構築できていた。試合はあちらに軍配が上がって、良いチームだったと思います」と思い返す。

また勝利をあげることはできなかったが、今季3度対戦したスロベニアのPiran。過去にもプロサーキットやW杯で対戦経験のあるGašper Ovnikも次のようにDimeを語る。「彼らはセルビアの選手(Petar Perunovic)を加えたり、前回のトーナメント(=Jeddah Masters)ではアメリカの選手(=Daniel Bailey)を入れて、彼が非常に良いスコアラーになっていました。またWORM(=落合知也)も、鈴木(慶太)選手も非常に良い選手ですし、チームとしてどんどん出来上がってきているな、という印象はあります」。

落合、鈴木、小松昌弘の3人がそろって今季で2シーズン目。昨季はTEAM TOKYOとして活動していたが、一部の大会では落合が別チームの所属となっており、フルシーズンで戦ったことは今年が初めてである。Petarを迎えてたことでチームランクを上げ、結果を出すことで順位は年間通して20位前後をキープ。Challengerの出場枠を取りにいくことも叶えやすくなった。戦い方についても、ぶっつけ本番だったSuper Quest から4人はコンビネーションを突き詰めて、1点を獲り切るプレーや、2点をフリーで打ち切るセットを作り上げていく。Jeddah MastersではQualifying Drawを突破して決勝トーナメントまであと一歩と近づいた。ハードなプロサーキットでの連戦は体力的に厳しいものの、この経験を数多く得られたことは来季への糧になる。

そして先のOvnikはDimeの飛躍に必要なものをこう言及している。「彼らに足りないことは、大きなトーナメントでの優勝経験。それがあれば、彼らの自信になると思うので、より良いチームになっていくと思います」。Ovnik自身もそのような過程を踏んできたから出た言葉であるだろうし、今季のWolrd Tourを見てもNY Harlem、Šakiaiといった躍進を遂げたチームは、Challengerを制したことで、上昇気流に乗っていった。もちろん、これは落合をはじめ、当の本人たちが最も渇望していることでもある。パイオニアたちが、3×3の世界最高峰の舞台で凱歌を上げる姿、さらには競技の本質を日本に向けてより多く体現する。そんな2020年を待ち望みたい。

来季のプロサーキットに向けて

3×3世界最高峰の舞台は、来季もスケールアップを計画している。FIBAのSanchez氏は次のように、その構想を明かす。「今季は(昨季より大会数が増えて)忙しいシーズンだったと思いますが、(来季も)4月から11月をフルシーズンと考えていて、それにいくつかイベントを重ねていこうと思っています。ですから、選手には通常の大会に加えて、いくつかの大会に参加していただいて、そこから次の大会の出場資格を得るような仕組みを作っていきたいと思います。彼らはプロの選手なので、完全に3×3に身を置いてもらうことを想定して、スケジュールを組んでいきたいと思います」。ここで言う“イベント”はMastersやChallengerのことであり、つまりは大会数が増えることを意味する。そして戦いの場が増えることは、世界に出るチャンスが広がることであり、結果を出すことで、3×3で稼げるチームが増えることにもつながるだろう。FIBAの発表によると、2019シーズンで最も獲得賞金が多かったチームは、Liman(セルビア)で、294,000ドル。続いて、Final制覇のNovi Sad(同)が279,000ドル、Riga(ラトビア)の251,000ドルとなっている。

毎年のようにアップデートを続ける3×3の2020シーズン。DimeとBrexという日本を背負って戦うクラブには、さらなる活躍をまずは期待したいところだ。前例なき挑戦をした両雄であるが、残した結果に満足は行っていないはず。世界の強豪たちを脅かし、それと並ぶ存在になるにはまだ道半ばである。

またそれを実現するには、国内シーンのレベルアップも必要不可欠。9月のSeoul Challengerで初出場でベスト8に入ったShibuyaを筆頭に、来季こその想いが強いTsukuba、加えてShinagawa、Minato、Nagoyaといったチームも、プロサーキットで得た手応えや課題を持って競技に取り組むことで、より切磋琢磨できる環境は出来上がっていく。もちろん、そこに至るには簡単なことではなく、犠牲もあるだろう。環境を整えるには、選手の努力のみならず、多くのサポートや変化も必要とされるところだ。2019シーズンに世界のトップステージへ向けて切り開かれた道を、2020シーズンはより広く、より多くの選手が突き進んでいけるよう、一丸となって挑戦し、支え、応援をしていこう。

TEXT by Hiroyuki Ohashi

取材協力:クロススポーツマーケティング株式会社/FIBA 3x3 World Tour Utsunomiya Final 2019実行委員会

Tokyo Dime

Utsunomiya Brex

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