異国で3×3の起源“ストリート”を巡る――「FIBA 3×3 アジアカップ 2026」取材記 番外編

30度を超える気温と、90%近い湿度。春先の日本から赴くとそのギャップに慣れるまで時間がかかる。ただ、寒暖差もあり朝夕は風が感じられ、多民族国家とあってか、滞在中の居心地も良い。FIBA 3×3 アジアカップの取材も、2026年で5年目。この都市で、From the Streets to the Olympics というタグラインを掲げた競技は、2010年のユース五輪を機に歴史が始まり、いまでは熱狂を生み出すアジア屈指の舞台になった。では、そのすそ野はどうなっているのか。競技の起源である”ストリート “に注目してコートを巡ってきた。

要塞のような雰囲気の団地内に
4月2日。羽田発の深夜便に乗って、朝からシンガポールへ。ブギスと言うエリアからちょっと外れたところのホテルへチェックインをして、ホーカーセンター(屋台が集まる大衆食堂街。ユネスコ無形文化遺産に登録されている)で胃袋を満たし、まずTampines Blk 497(タンピネス ブロック 497)内にあるコートに向かった。
シンガポール空の玄関口・チャンギ国際空港からも近く、FIBA 3×3 アジアカップの会場最寄り駅・StadiumからMRTと呼ばれる地下鉄に乗って北上すること25分ほど。Tampines East駅で下車をする。住宅街が広がるエリアで、小学校や中学校も多数点在。のんびりとした雰囲気だった。

お目当てのコートは駅から徒歩で15分ぐらい。30度を超える気温と90%近い湿度であるため、直射日光が当たるとキツイわけだが、途中でバスの停留所を覆う長いひさしがそれを遮ってくれた。グーグルマップを片手に歩みを続けると、目の前に要塞のような団地が出現。この中にコートがあるのだ。
ちなみにシンガポールでは政府機関である、Housing & Development Board (住宅開発庁 / 通称:HDB)が開発する団地に国民の約80%が住むと言われている。国土が東京23区と同等かほんの少し大きいぐらいであるため、土地が限られている。日本人が思う“団地”よりも規模が大きいものが目立つ。昨今、中国からシンガポールへ投資が増えていることを示すように、他のエリアではHDBの開発事業者が中国企業であるケースも見受けられた。

さて、話を元に戻したい。Tampines Blk 497のコートがどこにあるのか。団地が目の前に現れてからたどり着くまでちょっと時間がかかった。コートと言えば、1階の平場にあると思っていたのだが、違ったのだ。少し歩いてみると、ここのコートは駐車場2階の屋上にあったのだ。

階段を登ると、だんだんと目の前にバスケットボールが広がってきた。四方を団地に囲まれ、その雰囲気に少しゾクっとしたが、年季の入った非常に趣のあるフルコートだ。到着したのは、15時過ぎ。あいにくボーラーはいなかったが、緑のゴミ箱もあり、コートサイドにごみも少なく、環境的には申し分ない。しかも団地内には同じスペックのコートがもう一面あるからスケールがデカい。

ルールの明文化。ピックルボールNGの張り紙
ただ、至るところの利用者に対する注意喚起の掲示があった。
「夜間は静かにしてください。みなさんにゆっくり休んでいただくため、夜間に照明が消えたあとはこの場所に留まらないようにお願いします。」
「居住者の安全のため、このコートはバスケットボールのプレーのみにご利用ください。声や音を控え、ボールゲームは午後10時までに終了してください」

シンガポールはご存知の方もいると思うが、中華系、マレー系、インド系などさまざまな人種が暮らす多民族国家だ。文化や習慣、考え方の違う者同士が共生できるようにきっと、このような掲示をしているのだろう。MRTの中もそうだったが、駅構内や車内で飲食禁止や、ドリアンの持ち込みNGで罰金といったルールが明文化されているのだ。

また、驚かされたのが「Tampines Streetのバスケットボールコートはバスケットボール専用です。ピックルボールの試合およびコーチング(有償・無償を問わず)は一切禁止されています」という貼り紙だった。日本だと考えられないが、お国が変われば違うのだ。FIBA 3×3 アジアカップの取材でよく会話したローカルメディアのフォトグラファー曰く、シンガポールではいまピックルボールが大流行。現地大手紙が社会問題として取り上げてもいるそうだ。
素敵なロケーションのコートだったが、もしかしたらボーラーがそんなに集まっていないのではないか。そんなことも思わずよぎりながら、コートを後にした。


50階の団地の下で。チェアを持ち込むおっちゃん
さて、再びTampines East駅からMRTに乗って、次に向かったのはChinatown(チャイナタウン)だ。この街にはコートが3つもあった。

一つ目は、この地域でひときわ目を引く大型団地・The Pinnacle @ Duxton(ピナクル・アット・ダクストン)内にある。その大きさを見れば、日本人なら団地というよりタワーマンションと言うだろう。2009年に竣工し、なんと50階建て。26階と50階のスカイデッキで7棟が連結されているという構造で、世界最高層の公営団地だという。


そんな、言わばタワマンの足元にフルコートが一面あるのだ。コートのラインがところどころ剥げたり、ネットが切れているリングもあったが、使う分には問題なさそうだ。19時になろうとする頃に行くと、キッズが一人でシュートを練習中。時間帯によっては、居住者向けに利用がクラス分けされていた。やはり、ルールが整備されているあたり、団地内にあるコートらしい。決まりがあれば、みんなが気持ちよくプレーできそうだ。
余談だが、HDBでは入居できる人種の割合も決まっている。調和の取れたコミュニティ作りと、多文化共生につながっているのだ。

二つ目のコートは、The Pinnacle @ Duxtonのすぐ近くにあるTanjong Pagar(タンジョン・パガー)のコートである。フェンスに囲まれ、比較的きれいなプレイグランドだったが、やはりここでも「ネットを引っ張らないでください」と但し書きが。現にネットも切れていた。


訪れた時間は、18時ごろ。現地のヤングたちがピックアップゲームに興じている姿を眺めていると、仕事を終えたと思しき大人たちも集まってきた。その中には自分でチェアを持ち込んでコートサイドへ置き、ピックアップゲームが行われているコートと反対側で颯爽とシューティングをするおじさんもいた。そのおじさんに続くように、仲間たちが増えていく様子も見られ、バスケットボールのコミュニティがあるんだとも感じられた。


チャイナタウンのど真ん中で、17時から
そして三つ目が、今回のコートめぐりで一番印象深いところである。Chinatown Complex(チャイナタウン コンプレックス)のバスケットボールコートだ。ここは、1階には雑貨や食品など様々なショップが集積し、2階にはホーカーセンター、3階には駐車場、それ以上は団地になっている。ローカルのシニアやおっちゃん、おばちゃんたちともすれ違う、ちょっとディープなたたずまいだった。

コートは駐車場の屋上にあり、階段を上がると見えてくる。三方を高層団地に囲まれ、残る一方には高層ビル群を臨む、実にシンガポールらしいロケーションだった。仕事を早上がりしたような社会人、ガチでバスケットボールをやっていそうな若者、カリーブランドのロゴ入りボールを携えてシュート練習中のヤングなど、雰囲気もレベルも実にさまざま。好きなようにバスケを楽しむ光景があった。


ハイライトは、ここからだ。先の2つのコートに行く前にChinatown Complexを訪れたわけであるが、17時を過ぎるとボーラーが一人ずつやって、4対4はできるぐらいになったのだ。年齢層は見た感じ30代から50代まで。先に到着していた、仕事を早上がりしたような社会人と会話しながら、それぞれゆっくりと準備をしてコートへ。テーブルを持ち込み、デジタルタイマーもセットしてピックアップゲームに向けて、場が映り変わる感覚が何とも良かった。全体的に年齢が高めのコミュニティだったが、シュートが異様に上手そうな雰囲気を醸し出すおっちゃんボーラーがいたりするなど、生涯スポーツたるバスケットボールをひしひしと感じたのだ。


都心の真ん中にコートやスケートパークも
一方で、4月6日には常設で無かったものの、シンガポールで注目が高まる3×3のコートがセットされているSomerset Youth Park(サマセット・ユースパーク)にも足を運んだ。ここは、オーチャードというシンガポールの言わば有楽町・銀座エリアに位置し、政府機関(=Ministry of Culture, Community and Youth)が若者のスポーツ、カルチャー、ライフスタイルを支援する一環で整備された場所である。バスケットボールをはじめ、ランプやレールが完備されたスケートパークも充実しており、MRTのSomerset駅やバス停にも直結した利便性抜群、緑豊かなスポットでもある。

その中で、バスケットボールはJumpshotという同国のバスケットボールのコミュニティが運営している。同コミュニティはもともとメディアや5人制の大会などを手掛けていたが、近年では3×3に注力し、3×3のクラブ世界No.1を決めるFIBA 3×3 ワールドツアーやチャレンジャーに参戦するトップチームを頂点に、3×3の国際トーナメント開催や普及大会、次世代のバスケットボールプレーヤーの育成を担うアカデミー事業を行っている。

Somerset Youth Parkでは、定期的にナイターのオープンランも開催。あいにくFIBA 3×3 アジアカップの開催期間は休止となっていたが、JumpshotのInstagramではローカルの若いボーラーたちが真剣にプレーしている様子をうかがわせている。
場所が場所だけに、常設だったらボーラーが集まる良いコートになるのではないかと感じられたが、いずれにせよ、都会のど真ん中にコートがある風景が素敵なことは間違いない。


海外を見て思う日本の代表格・代々木の良さ
2022年にシンガポールへ初めて渡星するまで、同国のイメージは世界的な金融都市であり、観光地と言えば、マーライオンやマリーナベイサンズ。経済成長が目覚ましいというぐらいで、バスケットボールで特筆するものが無い。そう思ったのが正直なところだ。
だが、百聞は一見に如かず。FIBA 3×3 アジアカップの取材を機にそのイメージは大きく覆り、ことし現地のローカルを訪ねると、バスケットボールを楽しめる環境、カルチャーが根付いていると感じられた。もちろん、足を運んだ5か所以外にもコートが点在しているのは言うまでもなく、目にしたのは一握り。他のエリアにはまた違った光景が広がり、今回の5ヵ所もアクセスするタイミングが変われば、感じ方も違うはず。これまで目にしてきたバスケットボールはほんの一部分であり、世界には様々なバスケットボールの風景があるんだと体感できて、とてもワクワクし、ぐっと来るものがあった。

一方で、日本のストリートコートの代表格・代々木公園バスケットボールコートの良さも改めて感じられた。些細なことだが、シンガポールのコートは決してコンディションが良かったかと言えばそうでなく、フロアが剥げ、ラインが途切れ、バックボードのネジも錆びているところもあった。団地内のコートという立地の違いもある中で、代々木は20年経った今でもしっかりと整備されて、良い状態がキープされている。

この背景にはご存知の通り、長年に渡ってALLDAYを頂点にボーラーによるコミュニティが育まれ、2022年には「YOYOGI PARK PLAYGROUND Renovation Project」を実施して、民間資本による公共施設のコート改修も実施。持続可能なコートがあり続けられる取り組みと機運があるのは、誇るべきものだろう。海外に行くからこそ、日本のグラスルーツの良さを再認識もできたことは大きな発見だった。

誰もが行きたいタイミングで海外に行けるわけでもなく、現地のコートめぐりもシンガポールのように治安が世界的に良いところだからできるわけであるが、いつもと違うフィールドでバスケットボールの違いを感じ、多様性に触れ、相手の考えや文化に想いを馳せてみると、もっとバスケットボールの楽しみ方が豊かになる。ライオンシティ(=シンガポールの愛称)で、そんなことを思わずにはいられなかった3×3のルーツ巡礼だった。

Special Thanks @sumwanedits
シンガポールのフォトグラファー兼会社員。今回のストリート巡りにあたって、相談に乗ってもらった。独学で日本語をマスターして、ネイティブレベル。2022年からFIBA 3×3 アジアカップに全て通う。河村勇輝やBリーグはもちろん、3×3もYouTubeでPREMIERや日本選手権などを見て小澤崚、仲西佑起らも日本代表組も昔からチェックするほどの日本バスケ好き。今年、来日して代々木公園バスケットボールコートも訪れたという。




- 異国で3x3の起源“ストリート”を巡る――「FIBA 3×3 アジアカップ 2026」取材記 番外編
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TEXT & PHOTO by Hiroyuki Ohashi




