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  • 2023.08.29

【FIBA WORLD CUP 2023】“沖縄の奇跡”の前日譚(vsフィンランド代表)

まず最初に記しておかなければいけないのは、日本代表はまだ”何か”を成し遂げたわけではないということだ。

彼らが今大会最大の目標に掲げる「アジア最上位になってパリ五輪の出場権を獲得すること」はまだ果たされていない。8月28日現在、アジア勢で白星を挙げているのは日本だけだが、29日のオーストラリア戦の結果次第では順位が変動する可能性もある。

ただ、言わせてほしい。2023年8月27日は日本バスケ界にとって素晴らしい夜だったと。

比江島、渡邊、馬場…試合後に涙を流した3人が備えた勇気
日本代表はこの日、フィンランド代表に98-88で勝利した。ワールドカップで白星を挙げたのは17年ぶり。国際大会でヨーロッパ勢に勝つのは初めてのことだった。

試合後、地鳴りのような歓声に包まれた選手やスタッフたちが喜びを爆発させる中、馬場雄大は激しく、渡邊雄太と比江島慎は静かに涙を流していた。3人は12名のメンバーの中で2019年中国ワールドカップ、2021年東京五輪を経験した数少ない選手だ。

何度も世界に挑み、そのたびに叩きのめされてきた彼らは、おそらく様々な恐怖を抱えてこの試合のティップオフを迎えたことだろう。大会前に「パリ五輪の出場権が取れなかったら代表のユニフォームを脱ぐ」と公言した渡邊は、大きな背中を子供のように丸めてタオルにくるまり、激しい緊張と戦っていた。

「怖いよな。勇気いるよな」

公開中の映画『THE FIRST SLAM DUNK』の冒頭、1対1に挑むリョータに兄のソータがそう語りかけるシーンがある。

格上の相手に敗れ続けると、人は次第に臆病になり、全力を出せなくなる。それを乗り越えるために必要なのが他ならぬ勇気だが、3人は持ちうる限りの勇気を携えて自分にしかできないこと——比江島における超絶技巧の1対1であり、馬場における機動力と強さを兼ね備えたプレーであり、渡邊における勝利への意志であり——でチームに貢献し、『歴史的勝利』という1つの結果を残した。

「前回のワールドカップでも東京五輪でも本当に悔しい思いをして、やっと世界の国相手に1勝することができて、本当にチームで勝てた勝利だったので…我慢できなかったです」

コートを出て、ミックスゾーンに訪れてもなお顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた馬場は、涙の理由についてそう話していた。

比江島はコートからロッカールームに引き上げる際、旧知の間柄なのだろう外国人関係者に「Finally,Finally…」と繰り返し伝えた。

試合を決めた22歳コンビと年長者たちの思い
そして、試合を決めたのは世界大会での負けをほんど知らない若者だった。

第3クォーター残り3分を切り、18点にまで積み重なったビハインドを縮めるきっかけを作ったのは、富永啓生の3ポイントシュートだった。

稀代のシューターとして活躍が期待されていた富永だったが、初戦のドイツ戦は不慣れなベンチスタートでリズムをつかめず、わずか5得点。シュートへの積極性もどこか影を潜めていた。しかし、「ドイツ戦はチームを助けることができなくてすごく悔しい思いをしたので、今日はなんとしてでも自分がどうにかしてやろうと思った」とカムバックし、本来の力を取り戻した。

富永を警戒したフィンランドの守備がアウトサイドに分散されると、大きく空いたペイントエリアをジョシュ・ホーキンソンが果敢に攻め、第4クォーター残り4分35秒、河村勇輝がドライブからカウントワンスローをもぎ取り、ついに逆転。ドイツ戦は苦しまぎれのシュートが目立った河村はこの試合、ドライブ、アシスト、フローター、3ポイントと自由自在なオフェンスでチームの得点を積み上げ、満員の観客を熱狂させた。

ドイツ戦で不完全燃焼に終わった富永と河村に対し、トム・ホーバスヘッドコーチが大会を通しての成長を願っていることは、昨日の記事で触れたとおりだ。しかし、彼らはわずか2日で課題を修正し、もとから備えているポテンシャルを発揮してみせ、その圧倒的なエナジーで日本代表を新しいステージに押し上げた。頼もしい以外の言葉が見当たらない。

「2人ともロール(役割)に悩みながらプレーしていたと思うけれど、本番でやってくれた」と嬉しそうに彼らの活躍を語った馬場は、その後にこう続けた。

「負けるのは僕たちまでにしましょう。次の世代は勝つことを当たり前にしていく世代。ここから歴史を作っていきたいです」

囲み取材に対応していた渡邊は、隣で取材を終えた河村を抱き寄せ「彼から『雄太さんを引退なんかさせないよ』っていう力強い言葉をもらいました。もう頼もしいです」と、こちらも嬉しそうに笑った。

この勝利は”沖縄の奇跡”ではない
繰り返すが、まだ彼らの目標は達成されていない。チームは東京五輪銅メダルのオーストラリア代表に本気で勝ちに行き、パリ五輪の出場権を確定させるつもりでいる。”沖縄の奇跡”はこれから起きるのだ。

【FIBA WORLD CUP 2023】“沖縄の奇跡”の前日譚(vsフィンランド代表)

TEXT by miho awokie

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