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  • 2022.06.13

“ストリートボールの聖地”を リノベーションするクラファン開始! 公園バスケが根付く代々木のコート……今夏装いを新たに

2005年に誕生した代々木公園バスケットボールコートは、今年で18年目を迎える。いまやストリートボールの聖地としてボーラーたちから愛され、公園バスケが根付く場所になった。しかし、年数を重ねた故に老朽化も進む。そこで今夏、立ち上がった一大改修プロジェクト……。ALLDAYプロデューサーで一般社団法人ピックアッププレイグラウンド代表理事の秋葉直之氏と、MC MAMUSHIに聖地のあり方や、改修計画について話をうかがった。

「なんでこうなった?」コートの実情
 MC MAMUSHIが地方に行ったときのこと。魅力的なボーラーやオーガナイザーと出会う中で「いろんな町に行くと不思議なストリートコートがたくさんあるんですよね。なんでこうなった?みたいな突っ込みを入れたくなるコートがあったりする」そうだ。例えば、リングが外されて、バックボードしかない光景を想像するといいかもしれない。
 また、かつてNIKEジャパンでバスケットボールコートの寄贈担当者だった秋葉直之氏も同様の経験を持つ。1990年代のバスケブームなどをきっかけにコートはあり続けるがコミュニティがあるわけでもなく「血が通っていない」ため、そこにあるだけ。公園の一角など行政が管理する施設内にある以上、近隣地域から何かしらクレームが出れば、利用は制限されることが多い。“公園バスケ”は肩身が狭い実情があった。

公園バスケが根付いた代々木
 ただ、日本で公園バスケが根付かないわけではない。2005年にNIKEジャパンから東京都に寄贈された代々木公園バスケットボールコートはもう17年に渡ってキープされ続け、多くのボーラーたちから愛される場所になった。秋葉氏は当時の担当者であり、コート設置当初から代々木でコミュニティが生まれ、自治されることを願って、5on5のストリートボールトーナメント「ALLDAY」を立ち上げたプロデューサーでもある。MAMUSHIも今でこそMCとして大会を盛り上げるが、昔はボーラーとして出場したこともあった。

 今年5月に43回目を数えたALLDAYでは多数のBリーガーを擁するUNDERDOGとSHOEHURRY!が決勝で激突。コートサイドには日本代表の司令塔・富樫勇樹らが訪れる姿もあった。秋葉氏は「公園バスケも(競技バスケと)陸続きになってきたと思います」と、時代の変化を感じていた。

 そして、今ではストリートボールの“聖地”とも呼ばれている代々木公園のコート。この背景には、日々ピックアップゲームをやっているローカルのボーラーたちが、熱量を絶やさなかったことが大きいと秋葉氏は話す。MAMUSHIも、黎明期には外国籍ボーラーたちが集まったSUNDAY CREWがピックアップゲームの文化を浸透させ、代替わりをしながら現在ではYoyogi Park Ballersがシーンを引っ張っていると、教えてくれた。

 さらに、最近の代々木を語る上でのトピックスは、秋葉氏が代表理事を務める「PICK UP PLAYGROUND」(以下PUP / 運営:一般社団法人ピックアッププレイグラウンド)だ。公園にバスケットボールコートがあり続ける、また日本中に増えていく未来を作るため、ピックアップゲームと、ゴミ拾いを一緒にやるイベントを昨年11月にスタートした。これを通してコミュニティ作りはもちろん、コロナ禍の影響でコート利用者が増えたことによるゴミ問題に対しての利用マナーの啓発活動を進めていく狙いを持つ。代々木公園に続き駒沢公園での実施も含めて「ロールモデル」として、全国に広げていく構想だ。今年3月には地方でPUPの開催を募るオーガナイザーを募集し、約50カ所から申し込みがあったそうだ。東京で作った前例によって、各地のバスケシーンで“俺もやってみよう”とボーラーたちの気持ちを動かしたと言えるだろう。

行政の施設を改修する新たな取り組み
 一方で、代々木公園バスケットボールコートの設置は今年で18年目。2005年の設置以来、改修は2009年の一度しか行われておらず、老朽化が進んでいる。そこで、この度、PUPと代々木公園、そして渋谷区の外郭団体である一般社団法人渋谷未来デザインの3者がタッグを組み、この場所をみんなの手でリノベーションしようするプロジェクト「YOYOGI PARK PLAYGRAOUND RENOVATION PROJECT」を立ち上げた。
 きっかけは、PUPと一般社団法人渋谷未来デザイン、代々木公園の3者による話し合いから生まれた。これまで公園は訪れた人の判断で使われる受動的な施設であったが、渋谷駅前の宮下公園のように近年、民間の力を活用しながら魅力を高め、対外的に発信する能動的な施設にあり方をシフトしてきた。その中で、PUPや渋谷未来デザインに参画する秋葉氏は代々木公園から相談を受け、その議論のひとつとしてコートの改修が決まったと言う。

 改修は行政の補助金に頼らない「自己改修」。営利目的のない団体が、行政の施設を改修するという、あまり類を見ない取り組みになる。2面をリニューアルする予算として約1,500万円を見積もっており、その半分をRENOVATION PROJECTで実施するクラウドファンディングで得られた支援でまかなう方針を持つ。コートデザインはAKTRの加藤芳宏氏と、ballaholicのTANA氏が作成中だ。秋葉氏は「「代々木にはすでにたくさんの人たちが思い入れを持っていると思います。さらに今回のクラファンを通じて、自分たちが参加して作られたコートならば、愛が生まれたり、自治が生まれたりするんじゃないでしょうか。」と期待を込める。また、MAMUSHIもプロジェクトについて次のように明かした。
「リニューアルができることは今まで運任せだったんですよね。相手次第で、行政に(バスケ好きな)良い担当者の方が来ないかなーと思うこともありました(笑)。でも、今回は自分たちでやれるので、すごい俺らも楽しみです。代々木で起きている問題が解決できたら、大概のストリートコートで起きる問題も解決できるんじゃないかなと思います」

装いを新たに、パークスポーツの未来へ
 代々木公園バスケットボールコートは、日本で公園バスケの最新事例であり続ける。今月15日から7月15日まで実施予定のRENOVATION PROJECTによるクラウドファンディングも前例の無い取り組みになるだけに、全国各地から多くの注目が集まりそうだ。リターンについてはTシャツやオリジナルボールのほか、支援者の名前がコート近くに刻まれるプランも用意されるという。「みんなちょっとずつあのコートに関われる機会です。代々木公園に名前を刻むのは一生に一度かもしれない」とMAMUSHIは話す。コートのリニューアル工事は7月中旬頃に着工され、8月下旬には完成予定だ。

 さらにPUPと渋谷未来デザイン、代々木公園の3者は5年間の協定を結んでいるため、リニューアル後は、コートで実験的な取り組みも行う予定だ。定着しているシリアスなピックアップゲームの文化を残しつつ、時代に即した様々なアプローチによって日本のスポーツカルチャーのあり方や、バスケットボールが新しいパークスポーツの未来を作る可能性を示していく。改修は、公園バスケのロールモデルになるひとつに過ぎないのだ。
 18年目を迎えた聖地は今夏、装いを新たにして、次世代につながる場所にアップデートされる。

"ストリートボールの聖地"を リノベーションするクラファン開始! 公園バスケが根付く代々木のコート……今夏装いを新たに

TEXT by Hiroyuki Ohashi

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