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  • 2022.03.31

UTSUNOMIYA BREX“4冠”の軌跡……練習よりも大事なこと

「優勝は……UTSUNOMIYA BREX」――今シーズン各大会の表彰式で、このチャンピオンコールが幾度も聞かれた。彼らは『3x3 Super Circuit 2022 FINAL』の優勝で、2021年度の4冠を達成。2019年度も無双を誇ったが、新旧メンバーの融合で勝ち取ったタイトルの数々に再び圧倒された。最強チームはどうやって生まれたのか。偉業の軌跡を振り返りたい。

やり直しからはじまった4冠のシーズン
 2021年度(昨年4月から今年3月)に開かれた3x3の国内大会でUTSUNOMIYA BREXが4冠を達成した。3人で勝ち抜いた昨年9月の『3x3.EXE PREMIER PLAYOFFS』を皮切りに、昨年11月の『3x3 JAPAN TOUR EXTREME FINAL』を2シーズンぶりに制覇。今年2月の『第7回 3x3日本選手権大会』で初優勝を飾ると、最後は3月の『3x3 Super Circuit 2022 FINAL』でチャンピオンに駆け上がり、シーズンを締めくくった。彼らは国内3x3シーンの主役であり続けたのだ。まさに偉業である。

 しかし、4冠に至るまでの道のりは順風満帆では無かったはずだ。結果を見れば文句のつけどころはなく、この期間に公式戦で敗れた試合は恐らく2試合のみ。圧倒的な強さを誇ったが、1年前の3月に開催された『第6回 3x3日本選手権大会』では準々決勝でBEEFMANに完敗。2018年から3シーズンに渡ってBREXで苦楽を共にし、躍進を支えたMarko Milaković(現Novi Sad)が抜けた穴は大きかった。

 当時、YOSKこと齊藤洋介(#11)は「僕らのダメな時は個人で打破しようとするところなんです。そのシーンをMarkoがいないというだけで作ってしまった。チームとして分かっていましたが、今日それが出てしまうということは、もう一度やり直さないといけない」と、話していた。BREXがあまりに勝ち続けていたため忘れていたが、Markoが去り、2020年度最後の一戦で敗れ、彼らの2021年度は仕切り直しからはじまるシーズンになったのだ。YOSKがリーダーになって世界を転戦した2019年、そのベースがあって戦った2020年から一転、再びのチーム作りに、YOSKが思わず「結構キツイ取り組みだと思いますし、でもやらなければいけないこと」という言葉も、思い起こされる。

YOSKに続く選手たちの成長と貢献
 それでも昨年4月から始まった今シーズンは、序盤から白星を積み上げていった。YOSKや小林大祐(#6)が東京オリンピックに向けた3x3日本代表候補選手として強化合宿に参加し、3x3.EXE PREMIERやJAPAN TOURを転戦するというタフな日程が続いた中、飯島康夫(#7)やDušan Popović(#5)、眞庭城聖(#27)らロスターに入った選手たちが活躍を収めて、大会を乗り切っていく。さらに、10代からALBORADAで3x3の経験を積んできた22歳(当時)の小澤崚(#13)も初めてBREX入りし、大会を勝ち切る力に。3x3キャリア抱負でYOSKと同級生の柴田政勝(#3)も2度のJAPAN TOURでチームの一員になった。不動の4人というより、新旧メンバーの融合でBREXは形作られていった。

 そして、タイトルのかかった大一番では、リーダーのYOSKに続くように味方を鼓舞する振る舞いやプレーで、仲間たちを引っ張った選手たちの姿が印象的だった。Markoが抜けたことを感じさせなかった理由のひとつは、ここにあるようにも感じられた。

 2019年の来日以来、3シーズン目を迎えたDušan Popovićは、YOSKとのピック&ロールなど得点を重ねる精度を上げるなど、スコアラーとして役割を担ったことはもちろん、苦しい時間帯ではベンチで味方を鼓舞する場面が多かった。その姿は、遠目から見れば“しっかりやろうぜ!”と言わんばかりの様子で、BREXを引っ張る強いリーダーシップにも映った。

 また、2シーズン目の飯島康夫もチームになくてならない存在になった。これまではYOSK、Dusan、Markoらの存在が大きかっただけにスポットライトが当たりにくかったが、読みの良いスティールなどディフェンスから何度も流れを引き寄せ、オフェンスでもドライブや2ポイントなど得点を量産。『3x3 Super Circuit 2022 FINAL』の決勝でも終盤に好守と、3本のフリースローをすべて決めるという、勝負所を見逃さない落ち着きがあった。

 さらに、1月に加入したばかりの成瀬新司(#55)も、『第7回 3x3日本選手権大会』と『3x3 Super Circuit 2022 FINAL』の優勝に貢献。ディフェンスやルーズボール、リバウンドなど球際にめっぽう強い、彼の良さはBREXを後押し。新戦力ながらYOSKも「成瀬が入って変わったことは、ディフェンス。僕もやっていて思いましたが、Markoがいた2019年のディフェンスと似た感じです」と、3年前に世界へ対抗したチームに仕上がっていく手ごたえを感じている。

チームにとって練習よりも大事なこと
 一方でチームを俯瞰して見ると、BREXの強さはやはり、選手たちの結束力が非常に固いことだ。タイトなディフェンスや、ボールを奪ってから畳みかけるオフェンスなどプレーの精度や、連係の素早さは特筆するところだが、劣勢の展開でも試合をひっくり返したり、拮抗した展開を寄り切ったりする力は群を抜く。とにかく崩れないのだ。

 4冠達成した後、YOSKは「家族のように国籍問わずにみんなと接していますし、僕らは助け合っています。そういうところがプレーに出ていると思います」と、改めてチームが持つ絆の強さについてコメント。さらに僕がリーダーとして、助け合っていない、信頼できていないチームをまとめることはできません。だから、常に声をかけやすい環境など、まとめやすい状況を作っているつもりです」と、チーム作りにも言及した。

 これらは、言葉にすればどこのチームも心掛けていることかもしれない。では、どうやって助け合える関係を築くのか。とにかくチーム練習や練習試合を積んでいくのか。単純にはそうイメージしてしまうが、BREXはほとんどそういった類の取り組みはしないのだという。3月のFINAL前も、2度の練習試合を夜にやっただけ。飯島も3冠目の日本選手権後、練習については「シューティングのみ」と言っていたほどだ。これは大袈裟ではなく「1時間ぐらいシューティングをやって(YOSKさんが)じゃあ帰るわみたいな……(笑)。それこそ去年のプレーオフ(=3x3.EXE PREMIER PLAYOFFS)の前日も何もしなかったです。練習会場に(YOSKさんが)顔を出して、みんな元気そうだね。じゃあ帰るわ」というエピソードも飯島から寄せられたほどだ。

 もちろん、YOSK曰く、メンバーがそろえばやりたい練習もあるとういう。だが、平日日中はチームメイトに仕事等があるため、主に集まるのはYOSKとDusanのみ。2人はコンディションを落とさないためにウェイトトレーニングなどトレーニングを積み、ピック&ロールなどボールを使った練習も行いながら、それが終われば食事などを通してたわいもない会話に時間を割く。3人、4人と人数が集まったとしても注力すべきは、本格的な練習よりも話をして、お互いを知り、仲を深めること。ボールを使う場合は、遊びの要素を取り入れたシューティングや、3x3の要素を取り入れたピック&ロールからシュートを打たないといけないゲームをやっているそうだ。

 恐らく、YOSKによるチーム作りはなかなか真似できるものではないだろう。もしかしたら、周囲に気を配れたり、人をひきつけたりするYOSKのキャラクターのなせることかもしれない。それでも選手たちがひとつになって、お互いの考えを分かち合えるようになれば、そのチームはゆるぎない。彼はこうも述べた。

「僕はこのチームスタイルで言うとそこまで3x3(の練習や試合)をやる必要がないと思っています。もちろん3x3の練習を所々、試合までに挟みますけど、常々やらないといけないことは、チームが別々の方向に行かないようにすること。俺たち自身が信頼しあってチームメイトにボールを預けたり、プレーを任せることだと思っています。3年前にリーダーをやらせてくれと言って、このやり方で結果が出なかったら違うと思ったのですが、それで結果が出たのでやっぱこれなんだと思います。もし、アイツのシュートが入らない、アイツはディフェンスをやらないと声が上がるチームがあるならば、その時点で対戦相手は僕たちに多分、勝てないと思います。そんな気がしますね」

上積みと、革新の新シーズンに期待
 YOSKとDusanが3年かけて信頼を築き、飯島が溶け込み、成瀬を家族に迎えて、BREXは4冠にたどり着いた。無論、4冠に至るまでには小林、眞庭、小澤、柴田といった面々もコートで力を発揮し、公式戦にこそ出場していないが、木村嗣人も練習でYOSKらをサポートしたのではないだろうか。家族ゆえに成長や仕事の都合で離れることもあるが、BREXという家に集えば、すぐに絆も戻るのだろうし、「成瀬のために勝ちたかった」と言われる日本選手権のように、新たな家族には全員で手を差し伸べる。そして結果を残すことで、彼らの絆はより固いものになって、ライバルと一線を画す存在になっていった。5人制のBREXに通じる「ブレックスメンタリティ」という精神を、3人制の彼らから感じられる背景にも、きっとチームの結びつきの強さがひとつ、あるからに違いない。

 来る新シーズンも、UTSUNOMIYA BREXは競技シーンの主役を担い、3年ぶりに世界へ挑むだろう。依然、コロナ禍の感染状況は予断を許さないが『3x3 Super Circuit 2022 FINAL』を制したことで、3x3のクラブ世界No.1を決める『FIBA 3x3 World Tour Masters』の下部大会となる『FIBA 3x3 Challenger』をの出場権を獲得。他の大会でも優勝プライズとして世界大会の切符を手中に収めているため、現在4つの出場権を持っていることになる。最低限の準備は整えた。あとはチームをどう進化させていくか。『3x3 Super Circuit 2022 FINAL』後、YOSKは「やっぱり、うかうかしていられないですし、同時に楽しみなことが増えてきました。もう少し練習内容を変えないといけないのかもしれないです。またチームに持ち帰りたい」と、含みのある言葉を残して、インタビューを締めくくった。

 さらなる上積みと、革新があるのではないか。4冠を序章とし、2022シーズンのUTSUNOMIYA BREXに期待したい。

UTSUNOMIYA BREX“4冠”の軌跡……練習よりも大事なこと

TEXT by Hiroyuki Ohashi

https://handoff-all.jp/2021/11/25/3x3sc22/

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