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  • 2021.12.07

日本郵政 presents 『Real story behind 3×3』 vol.3 角田直介(株式会社モルテン)

これは3人制バスケットボール、3x3(スリーエックススリー)に携わってきた人たちのストーリーである。このバスケは、2021年夏の東京オリンピックで世界的に注目を集めたが、その歴史は浅く、五輪の正式種目決定はわずか4年前の2017年だった。本連載では、日本で3x3を黎明期から支えた9人のこれまでと、これからの歩みや競技シーンに向けた思いを綴っていく。vol.3は、ハード面から競技環境を支える株式会社モルテンの角田直介氏にフォーカスした。

ボールメーカーの新規事業
 モルテンと言えば、競技用ボールの世界的なメーカーだ。ゴム製品製造業として1958年に創業し、翌年に第1号ボールの開発によってスポーツ事業に参入。バスケットボールにおいては日本バスケットボール協会(JBA)や国際バスケットボール連盟(FIBA)の主要大会で公式球に採用され、2021夏の東京オリンピックでも5人制カテゴリーで使用された実績を持つ。角田直介氏は、そんな同社で長く営業職として勤務していた。
 しかし、角田氏は2017年より3x3推進室の責任者へ就任。2018年には新規事業として「B+」(ビー・プラス)というブランドを立ち上げた。第1弾として、3x3向けにコートやリング、ボール、タイマーをセットにした「ゲームユニット」の販売を開始し、いまでは「シューティングマシン」もブランドのラインナップに入る。「3x3のおかげで、我々は成長ができて、日本のバスケットボールの強化にも貢献したいという大きな命題が見えてきました」と話す。
 では、ボールメーカーで、学生時代からフットボール好きだった角田氏は、どうして畑違いの3x3へ携わるようになったのか。

「ボールだけでは厳しい」から……
 かねてより同社は悩み抱えていた。企業としての事業成長と、日本のバスケットボール界に携わる立場としてバスケ界の発展を見据えたときに「ボールだけでは厳しい」と。もっとバスケットボールの輪を広げいくために、モルテンができることは何か。そう考えていた時に、根本的な課題に気が付いた。

 日本のバスケットボールはサッカーに継ぐ競技者登録人口を誇り、サッカーに比べて男女比も半々に近い。ただプレーする場のほとんどは体育館で、部活を離れればバスケに触れる機会は大きく減る。公共施設の予約も苦労が多い。「やる場所問題」を知るために、角田氏は現場にも足を運び、ストリートボーラーに話も聞いた。そこでは“練習場所が無い”や“大会が少ない”という声が寄せられ「JBAに選手登録をしていないけど、バスケをプレーしたい選手たちがたくさんいる」という事実を改めて知った。

3x3で「未来が開ける」
 そんな折に、角田氏は3x3と出会った。2016年に大阪の民間バスケットボール施設でのことだ。当時はまだ3x3が東京オリンピックの正式種目に“なるかもしれない”と言われた時期。もう1年前の2015年には個人参戦型のストリートボールリーグ『LEGEND』を一度だけ商業施設で見た記憶もあって、3人制バスケの面白さを感じていたが、この出会いによって3x3で「未来が開ける」と思うに至った。

「バスケをやる場所問題から始まり、3x3の魅力は少人数、小スペース、短時間(1試合10分or21点先取)。いわゆる“どこでもできる”ことが実現できれば、バスケをもっとやりたいと思ってるプレーヤーたちの課題を解決できるんじゃないかと思いました」

 2017年6月には東京オリンピックで3x3が正式種目になることが決定。3x3を、かつて2002年のサッカーW杯日韓大会を機にフットサル場が国内で整備されて競技の人気が高まった姿にもなぞらえながら、社内で正式に「3x3を中心に事業展開」していくプロジェクトが決まった。

チャレンジとこだわり。思いを込めて
 課題を解決するためにはじまった新規事業は、同社として初めて。それゆえにチャレンジの連続だった。そのひとつは仕事への取り組み方を変えたことだ。これまで同社はプロダクトの企画が生まれ、それを生産するために自社で一気通貫して作ることが前提だった。
 それに対して、3x3の競技環境を提供するゲームユニットの開発は、課題を解決するために生まれたプロダクト。逆のアプローチから入ったため、リングのように自社にないノウハウは外部企業と協業する体制を作った。この動きは、のちのシューティングマシン開発にもいかされている。
 他にはプロダクトから専門性を無くした。ゲームユニットは誰でも手軽にバスケができる環境を作れるように、必要なハードをすべて含めたうえで、大人6人で設置までの所要時間は1時間半程度にした。3x3で試合をする最小人数だ。ゴールの組立もその場にいる人たちでできるよう操作性もシンプルだ。

 ただ、そんな中でも「もの作り企業」だからこそ、こだわりもあった。その一つはコートの表面加工。3x3は5人制に比べてファウルの判定基準が異なるため、オフェンスとディフェンスの激しい体のぶつかりあいが見どころの一つである。ただ、そのため選手がコートで転ぶことが多い。樹脂製のコートとは言え、擦り傷のリスクを低減できるよう、同社の自動車部品製造の加工技術をいかして、何度も試作を重ねて開発に至った。

「バスケが気軽にできない環境はトップレベルより、すそ野にいる選手たちに多いと思います。ですから、3x3の普及と魅力を伝えるために、体験者を増やす必要があるため、怪我や事故を気にせずにやってもらために、コートのサーフェス(表面)にはこだわりました」

 ゲームユニットは発売以来、大きな反響とともに、様々な場所で3x3の開催に役立った。バスケの現場はもちろん、競技の枠を越えてJリーグの試合会場で使用されたケースや、スポーツの枠を越えたケースもあった。印象深い現場は、コロナ禍前の映画祭の会場。小スペースで開催できる競技特性がいきた場面だった。B+の“+”には、バスケットボールと何かをプラスする意味を込めているだけに、異業種と取り組むことができた成果は、ブランドの思いが表現できた場面でもあった。

B+で描く3x3の未来
 2018年にはじまったB+も、今年で4年目。角田氏はこれまでの日々を「とても刺激的で本当に楽しいですね」と振り返るとともに、これからについて「まずバスケをやりたい、3人制はカッコイイからプレーしたいと思う人たちが増えるように、B+のゲームユニットで“場”を提供していきたい」と意気込む。

 そして“場”については、バスケコートの機能だけではなく、多くの人を引き付ける「お祭りのやぐら」のような存在になって欲しいと思いを込めている。コロナ禍前に、地域の屋外音楽イベントで「ゲームユニット」が使用された光景が、そう思う原体験になっていた。

「イベントの中で、コートではバスケだけでなく、ダンスやパフォーマンスも行われ、それを中心に人が集まって盛上がったんですよね。だから、それを見て“お祭りやぐら”みたいなものだと思ったんです。コートがあることによって色々な可能性が広がる。そんな光景にゲームユニットが役に立てば良いなと思っていましたが、それが実現された様子を見て嬉しかったですね」

 このようにバスケをやる場所をどう作るかという課題から生まれたB+は、その名が示すようにバスケと何をプラスして場を生み出し、盛り上げ、魅力を引き出せることを示した。ただ、それもまだまだ始まったばかり。東京オリンピックで3x3が多くの人々に知られたいま、角田氏の力はさらに入る。スカイブルーのコートカラーに込めた思いは「普及」。全国にB+で3x3を届けることで、プレーヤーのみならず、地域の賑わいが生まれる光景を目指していく。

日本郵政presents 『Real story behind 3x3』 vol.3 角田直介(株式会社モルテン)

TEXT by Hiroyuki Ohashi



molten B+


https://www.japanpost.jp/3x3/

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