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  • 2021.12.03

日本郵政 presents 『Real story behind 3×3』 vol.2 有明葵衣(TOKYO DIME)

これは3人制バスケットボール、3x3(スリーエックススリー)に携わってきた人たちのストーリーである。このバスケは、2021年夏の東京オリンピックで世界的に注目を集めたが、その歴史は浅く、五輪の正式種目決定はわずか4年前の2017年だった。本連載では、日本で3x3を黎明期から支えた9人のこれまでと、これからの歩みや競技シーンに向けた思いを綴っていく。vol.2は、女子3x3シーンをけん引する一人、TOKYO DIMEの有明葵衣にフォーカスした。

3x3と出会ったきっかけ
 有明葵衣は日本の3x3シーンで草分け的なチーム・TOKYO DIMEの中心選手である。筑波大学を経て5人制女子国内トップリーグ『Wリーグ』の富士通レッドウェーブで2009年から2015年までプレーして現役を引退。その後、2018年に設立されたTOKYO DIMEの女子チームの初代メンバーとして本格的に競技復帰して以降はDIMEを引っ張り、女子3x3全体を見ても常に120%をコートで出し切る熱いプレーが光る。その姿に「ファイター」と呼ばれることもあるそうだ。

 ただ3x3との出会いは、もう1年前にさかのぼる――きっかけは矢野良子氏(REXAKTオーナー)からの誘いだった。有明にとって、矢野は富士通時代の先輩。2004年のアテネ五輪に出場した女子バスケ界のレジェンドは、当時5人制から3x3へ転向して東京五輪を目指すとともに、競技の普及にも取り組んでいた。有明は初試合からDIME加入までをこう振り返る。

「浅草であった大会が最初の試合でした。本当にきつくて、ボロボロになりましたね(笑)。でも、すごくオフェンシブなバスケで面白かったんです。次にお台場の大会(2018年)で優勝したことで、この競技へさらに力を入れてやりたいと思いました。それでプレミア(3x3.EXE PREMIERというトップリーグ)の女子カテゴリーが開幕するタイミングと重なって、DIMEに誘っていただいたんです。当時、知っていた唯一の3x3チームでしたし“是非やりたい”と返事をしました」

過去を払拭し、新たな自分を知る
 そして有明の3x3挑戦は、自分を変えることにつながった。例えば、プレースタイルだ。Wリーグ時代は学生時代に自信を持っていたガードとして得点を取るスタイルが通用せずに、試合をコントロールするスタイルへ方向転換を余儀なくされた上に、試合に出場する機会もなかなか得られなかった悔しい過去を持つ。
 しかし、3x3はそれを払拭した。コートに立てるのはわずか3人とあって、個々がオフェンスでシュートを狙う場面が5人制に比べて増える競技の特徴に「もともと自分の好きな得点を取るスタイル」がマッチ。当初は2ポイント(5人制では3ポイント)が苦手だったものの、DIMEのオーナーであり、Bリーグの名シューター・岡田優介氏(5人制ではアルティーリ千葉)から「直接指導」を受けたことで、それも克服。3x3の楽しさはさらに膨らんだ。

 また、コートに立つ充実感を強く感じるようになった。Wリーグ時代もファンの声援を受けてプレーできる嬉しさはあったが、出場機会を勝ち取れず、試合に勝っても気持ちは晴れなかった。有明は「手応えが無いまま5人制を終えた感覚もあったんですよ」と、胸の内を明かす。
 だからいま、自分の持ち味にフィットした3x3でプレーでき、勝利に向けてファンとともに戦える環境に、有明は“幸せ”を感じている。とりわけ、2018年にDIMEとして初めて大会優勝を飾った東京・大森での1日は、彼女にとってハイライト。「DIMEを応援してくださるファンの皆さんと優勝を分かち合えたことが、こんなにも嬉しいことなんだ」と、感慨深い気持ちになったほどだ。

高まる意欲。ケガにも負けず
 さらに3x3へ一歩踏み出した有明の世界は、TOKYO DIMEに留まらず、どんどん広がっていく。ひとつは、選手としてレベルアップしたいと決めた2020年夏に、YOSKこと元3x3日本代表候補の齊藤洋介(UTSUNOMIYA BREX)とワークアウトをはじめたことだ。そのはじまりは、当時YOSKが自分のバスケットボールスキルをSNSで発信し始めたことに興味を持った有明が、それらの投稿にいいねやリツイートをしたところ、本人からまさかのお誘いが。「マジかと思いました」と驚きつつも願ってもないチャンスに飛び込み、スキルはもちろん3x3の戦い方やバスケに対する取り組み方を学ぶことができた。

 時期を同じくして実戦から3カ月も離れる大きなケガを負ったが、有明に悲壮感はなかった。リハビリから復帰までの時間を、YOSKから教えてもらったインプットを整理し、自分がどうしたいか考えることができたからだ。今年35歳を迎え、選手人生で言えばベテランの域に入る中、彼女は逆境と思える状況を成長への踏み台にした。その結果、「Wリーグ時代よりも、今が一番コンディションが良い」と断言できるようになり「もうあと5歳くらい若ければ、もう一度Wリーグを目指すこともアリ」と話す。3x3はバスケットボールのキャリアを変えることができる競技と身をもって感じた瞬間だった。今では自分の経験を後進にも伝えていけるよう、YOSKが取り組む高校生の3x3挑戦プロジェクト『YOSK CHALLENGE』もサポートしている。

広がる世界。要職についた理由
 もう一つ広がった世界もある。それは2021年6月にWリーグの理事に就任したことだ。その役割は、リーグ運営を取り決める会議に出席したり、女子バスケ界を盛り上げるために企画を打ち出し、Wリーグの選手たちとともにその内容をカタチにすること。この要職をリーグ側から打診された理由が「元Wリーグの選手」だけでなく「現役の3x3選手」であることだった。かねてから「3x3を広めたい」と思っていた有明にとっては、それを叶えられる絶好の機会。現役の3x3選手だからこそ、その思いをしっかりと伝え、女子バスケ界に3x3を根付かせる取り組みができるのではないかと考えて、オファーを快諾した。

 現在はまずリーグ戦が真っ只中のWリーグの魅力を多くの方に届けられるように、選手やチームを巻き込んで定期的にInstagramでLIVE配信をするなど取り組んでいるが、ゆくゆくは3x3にも手を広げていきたい考えを持つ。私案のひとつには「Wリーグや学生、3x3をメインでやる選手たちをミックスさせた大会」の開催を挙げた。今年5月の国内ツアー大会『3x3 JAPAN TOUR』で、3x3女子日本代表候補の選手たちがTOYOTA ANTELOPESとして出場し、国内の3x3選手たちと戦う光景を見て「ものすごく良かった」と感じたことも、私案を思い立つきっかけになった。競技シーンの活性化や、学生たちが現役のトップ選手たちと公式戦を経験することで、その成長にもつながると、3x3の可能性に期待をかけている。

「3x3が好き」……競技に懸ける思い
 このように有明葵衣は、3x3と出会ったことで活躍の場を広げた。Wリーグ引退後の「会社員」として姿から、「3x3選手」「YOSK CHALLENGEのサポーター」「Wリーグ理事」、加えて4年ほど前から学生アスリートのキャリア教育を行うShape the Dreamという「NPO法人の理事」も務めるなど、1人で5足の草鞋を履くアグレッシブな毎日だ。そんな中で、3x3に全力を傾けられる思いついて「一番は3x3が好きです」と話した上で、こう語った。

「3x3には可能性を感じています。私はバスケットボールをWリーグで色々と学んだと思っていましたが、3x3でまた新しい世界を見ることができているんですよね。富士通時代は正直ベンチにいる時間が長かったりしましたが、主将も経験しました。そういった経験が3×3にも活きていて、自分の存在意義を改めて感じられる環境を得ることができました。だから、バスケで悩んでいる選手たちがいても、3x3で可能性を広げられることを私が“道しるべ”になって伝えていきたいです」

 コートで120%を出し切る姿が印象的な有明葵衣。いまはコロナ禍のため、それを直接会場で見られる機会はないが、彼女はオンラインでも「まずは3x3を見ていただきたいです」と熱く話す。自分の可能性を広げた競技の魅力、そして3x3を通して広がった活動の先にあるものを見せていけるよう、これからも多忙な日々を楽しんでいく。

日本郵政 presents 『Real story behind 3x3』 vol.2 有明葵衣(TOKYO DIME)

TEXT by Hiroyuki Ohashi

https://www.japanpost.jp/3x3/

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