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  • 2022.12.23

「失敗を恐れず今を楽しむ」オコエ桃仁花の挑戦

Wリーグ開幕が2週間後に迫っていたこともあり、その発表は多くのファンを驚かせた。10月6日、富士通レッドウェーブのオコエ桃仁花が、ギリシャリーグのエレフテリア・モシャトゥに移籍することが発表された。東京オリンピックでの躍進によって日本の女子選手は海外からも熱視線を浴びており、銀メダリストでは同じ富士通の町田瑠唯に続く2例目の海外チームとの契約となった。

発表の前日にはギリシャに向けて出発し、間もなくリーグ開幕を迎えたオコエ。まだそれほど多くの試合を消化しているわけではないが、チームからは早くも主力の一角として扱われ、週間MVPを受賞する週もあるなど、日本人選手のレベルの高さを証明している。

「通用してるとは思ってます。私を軸にしたセットプレーをたくさんしてくれますし、ヘッドコーチが私に対してすごく信頼を置いてくれてます。チームに合流する前から『次に行くためのステップとしてこのチームを使ってほしい。ここで努力して、チームをステップアップさせて、ヨーロッパに羽ばたいてほしい』と言ってくれてるんです。バスケットボールのことだけじゃなく人間性も見てくれるコーチで、私ってベラベラしゃべるんですけど(笑)、そういうところやポジティブな性格も気に入ってくれてます。だから、このコーチの下で1シーズンプレーして、自己肯定感を上げてネクストレベルに行きたいと思ったんです」

遠く離れた異国のリーグについて予備知識があったわけではなく、何もわからない環境にいきなり飛び込むのは勇気が要るはずだ。しかし、「まずは行くことが大事だなと思って移籍を決めました」というオコエは、オファーを受けた時点で「自分を必要としてくれるチームがあるだけで幸せですし、リーグの外国籍選手はアメリカ人が多い中で日本人の自分を必要としてくれたことが率直に嬉しかったです」と喜んだという。不安など微塵も抱かず、あらゆるものを前向きに考える。そして失敗を全く恐れない。それがオコエの良いところだ。

「失敗したとしても自分の家は日本にあるし、家族もいるし、何より生きてるし、何も怖いものはないです。お金がなくなっても傷ついても、何かを失ったとしても助けてくれる人はいて、帰って来れる場所がある。自分はやりたいことをとことんやるタイプ。日本の人たちも応援してくれてると思うんですけど、仮にこれで失敗したとしても私の価値は変わらないし、他の誰かが私の価値を変えようとしても、私は自分の価値を絶対に変えません」

ヨーロッパ各国が代表活動に入る11月下旬から、リーグ戦は約2週間中断。これを受けてオコエは11月21日に日本に一時帰国した。その2日後には契約メーカーのアディダスによる撮影が組み込まれるなど、せわしない日々を送る中でも、オコエは束の間の休みを楽しく過ごす。

「すぐに友達にも家族にも会いましたし、お兄ちゃん(プロ野球読売ジャイアンツ・オコエ瑠偉)にも会ってきました。まだ帰ってきたばかりで時差ボケもあるんですけど、たぶん時差ボケが治らないうちに帰ります(笑)。でも、向こうで気を張って生活してるので、帰って来て肩の力が抜けたような感じでリラックスできて嬉しいです。お寿司を食べたら体がジワーってなって(笑)、やっぱり日本人なんだなって改めて実感します」

ナイジェリア人の父を持つオコエは、だからこそ自身が日本人であることに人一倍の誇りを抱く。そして、その日本人としてのアイデンティティーが海外でも受け入れられることを、身をもって実感しているところだ。英語でコミュニケーションが取れるということもあり、帰国して早々に「早く帰って来て!」と連絡が来るなど、オコエはチームメイトともすっかり打ち解けている。

「チーム練習の後に自主練をするのも日本人の良いところだと思いますし、たとえばタイムアウトの時にお水を取ってあげたりとか、人のために気を遣えますよね。そういうちょっとしたことをすることで人が笑顔になる。こういう日本の文化を向こうでもやるとみんなが寄って来てくれるので、やっぱり日本の文化って素晴らしいな、日本に生まれて良かったなって思うんです」

日本人選手が海外に出ていくことは、その選手のキャリアの充実、日本のレベルの高さの証明、国内のバスケット人気の向上など、多くのメリットがある。しかしながら、オコエの話を聞いていると、競技以外の面でも大いに意味のあることなのだと気づかされる。

「海外に出ると、自分はどういう人間なのかということをいろんな場面で知れますし、日本が素晴らしい国だということも知れます。逆に、世界は広いということも、日本では学べなかったことも知ることができます。日本ではバスケットと私生活を完全に分けて、SNSに普段の様子を載せることもどうなのかというのがありますけど、海外ではまず私生活を楽しんで、私生活が楽しいからもっと生きがいを感じるというのがあるんです。それは、行ってみないとわからないことだと思います」

「バスケットを始めた時にはオリンピックのコートに立つ自分も、ギリシャにいる自分も想像してない」と語るオコエは、「失敗を怖がらずに挑戦してきたからこそいろんな経験を得られて、今の自分に出会えているし、失敗を恐れていたら今の自分もない」と自身の人生を振り返る。選択の連続である人生を後悔なく過ごすため、「人生は本当に短い。いろんなことにどんどん挑戦したほうが良い」というマインドで日々を過ごすオコエだが、実は幼少期は「たぶん誰よりもネガティブだった」とのこと。小学生の時、人数不足のミニバスチームに助っ人として駆り出されてバスケットと出会ったことが、オコエにとっては転機となった。

「お母さんの後ろに隠れて歩くような内気な女の子だったので、そこから変わりたいと思って、自分を知ろうとトライして、結果バスケットが教えてくれた。バスケットを通して自分を知って、チームを良くするためにここで自分が声を出したほうが良いとか、チームメイトにこういう声かけをしたほうが良いとか、いろんなことを学んでポジティブさが生まれたと思います。生まれた瞬間から、誰にでもいろんなところにチャンスは転がってる。一歩をどう踏み出すかだと思います。私もあの時バスケットに誘われて、『行く』という一歩を踏み出したことが今につながってるんです」

実はオコエは、アディダス ジャパンと正式な契約をした初めての日本人バスケットボール選手でもある。当時はまだ高校3年生だったが、アディダスはオコエに1人の人間としての魅力を感じて熱烈にオファーし、オコエは「私の将来像をしっかり見てくれている。選手1人ひとりを大切にしてくれている」とそのオファーに応えた。「海外で活躍できる選手が日本にもっと増えてほしい。それには、ロールモデルがいないと刺激にならない。自分が開拓者だと思って、こういう道があるということを日本の皆さんに届けられたらと思います」というオコエの言葉は、アディダスが見出した彼女の魅力そのものと言っていいだろう。オコエはこれからも常にチャレンジャーとしてバスケットと、そして自分の人生と向き合い続ける。

「この先毎年どこにいるかもわからないですけど、バスケットができる期間は限られてるので、今しかできないことを楽しみながら全力で頑張りたいです」

オコエ桃仁花が着用する白のセットアップは、adidas BASKETBALL THE 2023 COLLECTION。パフォーマンスウェアとしてのエッセンシャルなフォルム・機能性・着心地を追求。バスケットボールをプレーする、その情熱の原点へ立ち返えるコレクション。
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「失敗を恐れず今を楽しむ」オコエ桃仁花の挑戦

TEXT by Akihiko Yoshikawa

adidas BASKETBALL THE 2023 COLLECTION

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