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  • 2020.09.17

テーブス海インタビュー 後編

“初恋の相手”と切り開く、まだ見ぬ世界への道程




アディダスとテーブス海との歴史は、意外にも長い。テーブスは幼少期からアディダス製品を好んで身につけ、プレップスクールと大学のチームウエアもアディダスだった。アディダス側も、彼が高校に入学する前からリレーションシップを構築し、アメリカ留学以降も彼の成長を見守ってきた。

「まるで、初恋の相手とそのままゴールインしたみたいですね」

FLY編集長の秋元がそう向けると、テーブスは「そうそう、初恋です」と表情をほころばせた。

幼なじみのカップルがお互いを知り尽くしているように、アディダスとテーブスもお互いが何を求め、どのように成長していきたいかを熟知している。今回の正式契約が生み出すよき化学反応に大いに期待したい。

改めて、今回の契約への率直な感想をお聞かせください。

純粋に嬉しかったですね。昔から好きだったブランドからこういうオファーをされたわけですから、嬉しい気持ちしかありません(笑)。このような機会をいただいたことに感謝し、アディダスと共に日本のバスケットを盛り上げていくことを楽しみにしています。

一方で、日本のバスケ選手でアディダスと契約している選手は少ないので、責任の大きさもすごく感じます。僕は選手なので、まずはコート上のプレーでその責任を果たし、感謝の気持ちを伝えたいですね。新しいモチベーションになりました。

アディダスのどんなところが好きだったんですか?

目立ちたがりやなので、みんなと同じメーカーは嫌だったっていうのが最初のきっかけですね。で、実際にシューズを履いてみたら、履き心地やカラーリングもすごくしっくりきました。マグレディのシグネチャーモデルや、リラードの初期のモデルはすごく気に入っていました。

アディダスと契約しているNBAプレーヤーは、ジェームズ・ハーデンやダミアン・リラード、トレイ・ヤングら強い個性を持った選手が多い印象です。意識されるところはありますか?

そうですね……アディダスは『クリエイター』という表現をよく使うんですけど、僕はこの言葉を「自分で自分の道を作れる人」ととらえています。リラードは無名の大学からオールスターレベルになったし、ハーデンもシックスマンからリーグのトップスコアラーになりましたから。

そういう意味では、高校の途中からアメリカに行って、大学の途中で日本に帰ってきた僕は、日本では珍しいキャリアの持ち主ですし、前例のないことだらけの中で、すべての意思決定を自分で行ってきました。アディダスが大切にする「クリエイター」というマインドは、バスケットボールキャリアを通して忘れないようにしたいですね。

契約の際、アディダス側にどのようなリクエストを出しましたか?

具体的なリクエストをしたわけではないんですが、将来の計画などいろんな話をする中で、常に僕の意見を重視してくれていると感じました。キャリアを通したパートナーとして共に戦っていくためにも、お互いへのリスペクトはとても大事ですよね。担当の方とは以前から縁がありましたし、今回のことをきっかけにその縁がより深まったなと。契約をしたのは最近ですが、なんだかずいぶん前からアディダスと一緒に進んでいるなっていう気持ちがあります。

今後の目標を聞かせてください。

最終的な目標はNBAでプレーすること。日本に戻ってきたのもNBAに行くためです。アディダスとともにそれを目指しつつ、日本でバスケットをやっている子供たちの夢になれたら一番です。

今回のインタビューの本筋とは関係ないが、聞かずにいられないことがあった。アメリカ全土を揺るがしている黒人差別撤廃運動「Black Lives Matter」(BLM)に対するテーブスの考えだ。

アメリカで5年を過ごし、黒人の友人もたくさんいるテーブスは、今回の一連の問題をどのようにとらえているのか…。彼がどれだけのオピニオンを持っているか手探りの状態での取材だったが、21歳の青年は自身のエピソードを交え、真摯に話をしてくれた。

彼がアメリカで経験した黒人差別の実態やオピニオンは、この問題をどこか縁遠いものをとらえていた筆者の目を覚ましてくれた。

アメリカで生活している際、黒人差別について感じたことはありましたか?

本当にいろいろありすぎて……。アメリカに行った当初は「さすがに今の時代はほとんどないでしょ」って思っていたんですけど、黒人のチームメートたちと一緒に過ごす中で、間違った感覚だったんだなと痛感しましたね。

特に大学は、歴史的にも人種差別が根深い南部にあったので、本当に毎日のように差別を実感しました。例えば、黒人の友人は、車の運転中に警官を見つけると必ずサングラスをとり、音楽の音量を下げ、姿勢を正します。ちょっとしたことで、警官からひどい扱いを受けるかもしれないという危機感があるからです。「初めて接する人間が白人だった時、その人が差別をする人なのかしない人なのかを注意深く見分けなければいけない」という話もよく聞きました。

テーブス選手はカナダ人と日本人のハーフですが、日本で偏見や違和感に遭遇することはありましたか?

幼稚園や小学校の頃に「肌や目の色が違うから」とグループからはじかれたことがありますし、いまだにタクシーに素通りされることもあります。当然嫌な気持ちになりますよね。でもアメリカに行って、黒人の方々が何倍もひどいことを経験しているのを見ると、「僕はこんなに小さなことで嫌な気持ちになったのに、彼らはどんなことを考えているんだろう」と思わされました。

BLMについて、かつてのチームメートとやりとりする機会はありましたか?

ありましたね。「この問題が起こったことで、今まで仲良くしていた白人の友達と縁を切ったんだ」なんて話も聞きました。その友達が黒人側のスタンスをとらなかったことが理由だったようです。

僕自身、どのようなスタンスをとるべきか迷いましたし、いっそどちらのスタンスも表明しないほうがいいかなと思っていたんです。でもやっぱり、苦しんでいる黒人の友達に「あいつは何も主張しない」と思われたくなかったので、彼らを支持する投稿をインスタグラムのストーリーに掲載しました。

多くの黒人選手が活躍するNBAは、BLMが非常に活発で、選手たちのボイコットもありました。NBAのこのような動きに思うことはありますか?

コロナでシーズンが中断になって、選手たちは心から再開を待ちわびていたと思います。それでも試合を欠場する選手やボイコットするチームがいたということに、仲間たちの権利獲得を訴えることが、彼らにとってどれだけ大切なことなのかということを実感させられました。

NBAは様々な人種が垣根なくプレーするリーグです。NBAを通して「肌の色なんて関係なく、仲間として共に1つの目標に向かえるんだ」というメッセージが世界に伝わったらいいなと思っています。

BLMに関して、日本のバスケットボール界ができることはあると思いますか?

簡単なことですけど、リーグや団体としての声明を出すだけでも大きな影響力があると思います。日本にも黒人や黒人とのハーフのバスケットボール選手はたくさんいるし、これからもっと増えていくと思うので。

テーブス海インタビュー 後編 -“初恋の相手”と切り開く、まだ見ぬ世界への道程-

TEXT by miho awokie

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