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  • 2020.10.01

TOKYO DIME小松昌弘が語った、コロナ禍の3×3について

世界最高峰のプロサーキット、そして来夏に延期となった東京オリンピックへ向けて、彼はなにを考えて、どのように取り組もうとしているのか。高みを目指すベテラン選手にとって、コロナ禍の影響は小さくない。シーズン初の公式戦を迎えた、3×3日本代表候補とTOKYO DIMEを支える男へ話を訊いた。

「屈辱的」な負け、もう一度やるしかない
TOKYO DIMEの小松昌弘は9月20日に開催された『F1 Tournament』のTOKYO ROUNDで、2020シーズン初の公式戦を戦った。結果は決勝でSolviento Kamakura に17-22で敗戦。新型コロナウイルス感染症による活動自粛期間を経て、チーム練習を重ねてきたが、「公式戦で結果を出さないと、練習してきたことも意味がないです。内容よりもまず結果だと思います」と悔しさを押し殺した。

これでTOKYO DIMEはSolviento Kamakura(旧Team Tsukuba)に2連敗。今年2月の日本選手権決勝に続いての黒星となって、「屈辱的」と小松は語気を強めた。「もう負けてしまったことは、どうしようもありません。チームで映像を見て、もう一度練習からしっかりやるしかないです。誰が強みなのか、ゲームでなにをやらないといけないのか、考えていかないといけない」と、次に向けて気持ちを切り替えた。

久しぶりの公式戦で笑みがこぼれたワケ
悔しさの残るスタートだった一方で、真剣勝負の舞台が帰ってきたことは、気持ちを晴れ晴れとさせた。コロナ禍による自粛期間中を思い出せば、「やっぱり辛かったですね。コンディションが相当落ちました」と明かす。仕事と3×3を両立しながら、目標を持って日々過ごしていたこと考えれば、そう感じることも無理はない。「新たな体の気づきがありましたけど、僕は体に影響がありました。ようやく動けるようになってきましたが、コンディションは大事であると、改めてここ約3カ月間で実感しています」と、ベテランならではの苦労があった。

それだけに、この日は試合に向けて心身ともに準備をしてプレーできたことに「やっぱり嬉しいですね」と笑みがこぼれた。「試合があると、ちょっとですけど、緊張しますね。そういう気持ちも久しぶりです。だから、それもすごく良かった」。今年で36歳。経験したゲームは数えきれないほどあるにもかかわらず、なんとも意外なコメントだと感じた。年齢を重ねれば、ベストな状態に仕上げるまで要する努力も増えていくだろうが、彼はフレッシュな気持ちも携えて競技にまい進する。

また例年のようなシーズンが遅れないことに難しさを感じているが、数少ない収穫もあった。トップ選手同士による練習ができたことだ。その参加者は、UTSUNOMIYA BREX.EXEの齊藤洋介(以下YOSK)。小松によると頻度は「たまに」だと言うが、「YOSKから受ける刺激もあったし、僕らもYOSKに対して刺激を与えることができたと思います。チームの隔てなく、3×3のストリートっぽさというか、時間が空いているなら“一緒にやろうよ”という関係性ができています」と語った。ちなみにYOSKの良さは、「バスケの技術だけでなく、言葉のチョイスが上手ですね。周りの選手に影響を与える力がある」ことだと教えてくれた。

コロナ禍で浮き彫りになった気持ち
しかし、コロナ禍ゆえにどうしてもシーズンの展望を明るく見通せない。すでに8月末からFIBA 3×3 World Tourの今シーズンが開幕。ハンガリーで3大会が行われ、過去4度のクラブ世界No.1・Novi Sad(セルビア)が一度も決勝にすら進出できず、それに代わって新鋭や腕を磨いたライバルたちが台頭している。この光景をLIVE配信で見た小松は「海外で戦い、勝たないといけない環境が国内にはありません。日本の3×3にとっては一番シンドイことだと思います」と表現した。本音を想像すれば、見るのではなく、その舞台で勝つことを追及したかったはず。トップレベルに身を置く期間が遠ざかれば、遠ざかるほど、もう一度同じ土俵に立ち、そこで結果を出すハードルは高くなるからだ。

またコロナ禍で海外渡航に伴う入出国時の隔離措置もあるため、最大4週間は身動きが取れないことも想定される。さらにFIBAのルール改定によって、笛の基準も今シーズンから変更されたことを考慮すると、この発言も当然のことだろう。彼を含めて選手の多くは3×3以外に仕事やBリーグの活動がある。「まだ公になっていないWorld Tourの日程を見ていますが、現状では開催国のコロナの状況も厳しいです。もしかしたら今季はプロサーキットへ行けない可能性もあります」と語った。

理想は国内で海外基準の競技環境が実現されていることであった。ただ「海外で戦い、勝たないといけない環境が国内にはありません」と彼は感じている。その目には、いまなお日本と世界の間にある差が埋まっていない現状が映っているのだ。これまでは自力でプロサーキットの切符を勝ち取れば、そういったことを体感することは少なくて済んだはずだけに、コロナ禍によって、歯がゆい気持ちが浮き彫りになっているように感じられた。

今大会(TOKYO ROUND)についても「公式戦ですが、今季よりルール改定されたFIBAの基準が反映されているようには思えませんでした。これは笛だけではなく、プレーする選手たちにも言えることです。それを実践できる方はいませんでした」と、言葉を選びながら話した。これは国内シーンが、世界へ通じる競技環境になって欲しいという願いの裏返しである。同じ競技にも関わず、日本と世界は別物なんてご免だろう。「World Tourを見た方は感じていただけると思いますが、スクリーンダイブの手の扱い方やフロッピング、審判に対してのリスペクトなど、ジャッジの基準は変化しています。FIBAの公式サイトを見れば、情報を得ることもできます。もっと世界に向けてアンテナを張って欲しいですね」

3×3のより良い姿を目指して
このように小松はコロナ禍で感じた様々な思いを語ってくれた。ただ彼は語るだけの男ではない。至らないところは真摯に受け止めるし、努力もする。今シーズンの戦い、さらにはオリンピックを目指して、「もっとコンディションを上げないといけない。DIMEの選手は強みも弱みもありますが、強みだけを見ると尊敬できるんですよね。そこに追いつきたい」と切磋琢磨できる環境で、まだまだ成長していく意気込みだ。

そして「チームとしては3×3をやりこむしかないです。会話をして、試合をして、ビデオを見る。その繰り返しに尽きます」と、勝利への過程に近道はないことにも言及。これは11月に予定されている3×3日本代表候補合宿にも通じることだとも付け加えた。「そういうアクションをコーチから言われるのではなくて、自分たちでリーダーシップをとってやる必要があると考えています」

現在の代表候補はその多くがBリーグを主戦場とするメンツで構成されている。サイズやスキル、身体能力は素晴らしいが、3×3におけるチームビルディングの経験は十分ではない。もちろん招集するメンバー選びはコーチの仕事だ。でもより一層、濃い代表合宿ができることを願って、2名の名前も挙げている。「YOSKのように周囲をモチベートして、仲間をその気にさせてくれる選手を代表合宿に呼んで欲しい気持ちはあります。それとK-TA(鈴木慶太)さんも。一緒にやるとやっぱり違うんですよね」

選手として、より良いチーム、より良い競技環境、そして日本代表はどういう姿であって欲しいのか。本質を突いた小松昌弘の言葉を受け止めるとともに、引き続き、彼自身の活躍も楽しみにしていこう。

TOKYO DIME小松昌弘が語った、コロナ禍の3x3について

TEXT by Hiroyuki Ohashi

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