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  • 2020.07.28

NBAがコロナ禍において、リーグ史上初の異例の方法でシーズンを再開!


コロナ禍でシーズン再開に向けて初の試みを実施する世界最高峰バスケットボールリーグのNBA。八村 塁が所属するワシントン・ウィザーズもシーズン再開に参加する22チームに含まれており、プレーオフ進出に向けてチームの中心としての活躍が期待されている。
そんな中、22チームはどのようにしてシーズン再開するのか。昨今の世界やアメリカの情勢を踏まえて、リーグはどのような体制で行われていくのか。


7月31日(日本時間)からNBAが再開される。ユタ・ジャズ対ニューオーリンズ・クリッパーズ、ロサンゼルス・レイカーズ対ロサンゼルス・クリッパーズ戦を皮切りに8月15日までで88試合が行われる。

初めての試みなだけにどんな状況下での試合が開催されるのか全くもって想像がつかない。出場チームは3月11日の中断時点でプレイオフ圏外だったチームは不参加。これ以上の試合をしてもプレイオフに進出できないという中断時点での状況からと推測する。参加する22チームはそれぞれ8試合をして順位決定を行い、プレイオフには東地区、西地区それぞれの上位8チームを決める。

 今回のプレイオフ出場チームは勝率順で決まるが、シーディングゲームと呼ばれる8試合を終えた時点で地区9位のチームが8位のチームと4ゲーム差以内だったらプレイオフ第8シード決定戦としてプレイイントーナメントを開催する。そこで、8位チームは1勝、9位チームは2連勝すれば第8シードを獲得することになる。プレイオフは4勝先勝方式でファイナルまでを行う。

各チームにしてみれば、シーティングゲームが8試合しかなくまさに短期決戦。このフォーマットを有利とみて鼻息荒く優勝を狙ってくるチームも少なくはない。その代表格がペリカンズやセルティクスだ。ペリカンズはザイオン・ウィリアムソン、ロンゾ・ボール、ブランドン・イングラム、セルティクスはケンバ・ウォーカー、ジェイソン・テイタム、ジェイレン・ブラウンと近年急成長の選手らが、この短期決戦に自信を語っている。

「チームメイトとのケミストリーがいい。この中断がチームの結束を強くしたような気がする。」とテイタムは再開へは準備ができている自信をみせる。

「今の我々のメンバーをみれば試合に負ける理由は無い。試合の流れの中から勝ち方を早く定着させたい」とボールは勝利請負人となるべくゲームコントロールにフォーカスしていくと言う。

もちろん、レブロン・ジェームズ、アンソニー・デイビスの2大スターを要するレイカーズ、カワイ・レナードのクリッパーズ、ヤニス・アデトクンボのミルウォーキー・バックス、ジェームズ・ハーデンのヒューストン・ロケッツとすでに完成度の高いチームも最有力優勝候補なのだが、短期決戦での若手選手中心のライジングチームに注目すべき戦いにもなるだろう。

コートでの戦いという部分とは別に新型コロナウィルス感染拡大をきっかけに中断されたNBAにはリーグをオーガナイズする上で重要な取り組みも始まっている。シーズン中断からまもなくしてはじまった人種差別、社会正義問題がアメリカでは大きな運動となり、マイノリティーと最も関わりの深いプロスポーツ団体でもあるNBAは「BLACK LIVES MATTER」の意を受けた流れでの試合再開というのもNBAでは大きな意味を持つこととなった。

NBAコミッショナーのアダム・シルバーは、NBAのトップとして正しく、最速の意思決定でここまでにリーダーシップを発揮してきた。「まずは選手をはじめ関わる人たちの健康と安全が最優先。競技の公平性を持って試合運営ができること。そして社会正義問題にはNBAとして仕組みを作り取り組む。この3つが揃うようにシーズンの再開計画を作った」と言う。またNBA選手会をはじめ、会場となるディズニー、医療関係者の多大なるサポートがなければ実現しなかったとも語った。

 特に目を見張る取り組みはその健康と安全への徹底した取り組みだ。ディズニー・ワールドリゾート内に「バブル」と呼ばれるプロパティーを設け選手、コーチ、オフィシャル、スタッフの健康安全を維持できる体制を作りあげた。また、この「バブル」に入ってくる前には経由地を設けて、そこでの健康判断を得た人しか施設内には入れない。一度、この「バブル」を退出すれば、再入場には検査と約2週間の隔離も課せられる。

 このような厳戒態勢で通常試合開催ができない中で、カイリー・アービング、トレバー・アリーザ、エイブリー・ブラッドリー、ブラッドリー・ビールなどが、怪我、家族の健康優先などを理由に参加を見合わせることになったことにも色々な意見が生まれた。これらの選手の不参加と決めた思いはそれぞれではある。しかし、NBAも各チームも同僚となる選手たちも、それぞれの判断に参加は任せること、再開に参加しなかったとしてもその個人を批判するのはお門違いだと明確な意志をうちだしているところもNBAらしい正しい行動だ。

「選手がどう行動するかはそれぞれの意思に委ねるべきだ。そしてその意思について誰にも批判する権利はない」。こうクリス・ポールは言うが、数ヶ月前にはこのコロナウィルス感染拡大をきっかけに、今まで潜んでいた人種差別や社会正義に対する問題がこれだけ膨れ上がるとは予想もつかなかった。

 シーズン再開によってNBAの試合を観戦できる喜びと、コロナウィルス観戦拡大の中でアメリカが直面している人種差別、社会正義問題。これらをポジティブに打開していく方針で前に進むNBAはスポーツ界を超えて世界に多くを語りかける伝道師的な重要役割を担っていくことになる。

TEXT by Yoichiro Kitadate

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