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  • 2025.04.28

新時代を創る才能が集結…「ADIDAS NATIONS TOKYO U19 SPECIAL CAMP 2025」レポート

国内外から若き才能が集結
 アディダスが主催する「ADIDAS NATIONS TOKYO U19 SPECIAL CAMP 2025」が4月4日、5日の2日間にわたって、開催された。今年のキャンプには、将来のバスケットボール界を担う可能性を秘めた14歳から19歳の若手選手26名が参加。選考によって、最大2名が5月31日から6月2日にかけてイタリアで開催される「ADIDAS EUROCAMP」への参加が推薦される。世界中から集まるエリートプレーヤーとともに、NBAやユーロリーグのゼネラルマネージャーやスカウト陣の前で自分を表現できるまたとない機会になる。

 その挑戦権を目指して、国内外から集まった才能の顔ぶれは実に幅広い。日本航空高校から天理大学へ進学したオルワペルミ・ジェラマイア(200cm)や福岡大学附属大濠高校から明治大学に進んだ湧川裕斗、福岡第一高校に在籍する双子のガード宮本聡・耀といった選手たちから、千葉ジェッツU18の関谷間やクーリバリ・セリン・ムルタラといったBユースの有望株たち。さらには、アメリカの高校に留学中の内藤英俊(DME Academy)や、越圭司(琉球ゴーデンキングスU15~Concordia Lutheran schools進学予定)や平岡泰介(RIZINGS徳島)といった中学生年代まで。国際交流の一環として、フィリピンU16代表歴のあるJacob Baylaも招待選手として参加した。

テーブス海をきっかけに、2018年より始動
 ここで「ADIDAS NATIONS TOKYO」という次世代育成の取り組みを、今一度ひも解きたい。始まりは、2018年にさかのぼる。アディダス ジャパン株式会社の山田拓也氏(スポーツマーケティング・シニアマネージャー)によると、もともとは同社バスケットボールカテゴリーのマーケティング施策の一環として、若年層へのアプローチを目的としてプログラムがスタートした。テーブス海(現アルバルク東京)が、高校時代にアメリカのADIDAS NATIONS CAMPに招待され、海外での環境や経験がアスリートに変化をもたらすと感じ、山田氏がその枠組みを日本に持ち込んで「ADIDAS NATIONS TOKYO」として、7年前に始動。アディダス本社がユーロリーグのスポンサーシップをしている関係もあって、ADIDAS EUROCAMPにつながる内容になっていったという。

 プログラムの目的は、選手たちをワールドワイドに後押しして、その選手たちがシンボルとなり、次の世代に自分もチャレンジしてみようという波及効果を生み出すこと。過去の参加者からは、キング開(横浜ビー・コルセアーズ)、テーブス流河(ボストンカレッジ)、菅野ブルース(千葉ジェッツふなばし)、佐藤涼成(白鴎大学)らを輩出してきた。SpaceBall Magを主宰してコーチでもあるBANG LEE氏や、Bリーグでユニフォームをサプライしているアルバルク東京の協力を得て年々規模を拡大させ、今年のように個人単位で参加をオファーしてトライアウト形式するのが3回目だという。日本代表歴のある選手だけでなく、様々な背景のある選手がしのぎを削っているところも、本キャンプのユニークなところだ。

 また、選手たちを刺激するため、山田氏は「バスケットボールの本質を知ってる方を招きたい」という狙いから、今回はドイツ出身のマリオ・ドゥガンジッチ氏をメインコーチとして招聘。ドゥガンジッチ氏はドイツU20代表のヘッドコーチを務めた実績があるほか、ユーロリーグによるU18クラブのリーグ戦「ADIDAS NEXT GENERATION」でコーチング経験を持ち、NBLに参戦するニュージーランド・ブレイカーズのアシスタントコーチでもある。組織的な強いディフェンス、速いオフェンス、さらに自分の目指すバスケットを拡張させてくれる良い性格を持った選手の3つを求めて、コーチングをする指揮官である。

関谷、内藤が際立ったコートでの振る舞い
 そんなマリオのもと行われるキャンプでは、基本的に全編英語が使われていた。初日はスキルトレーニングやミックスゲームが行われ、2日目はピック&ロールシチュエーションやオフボールの動きを合わせた4対4のゲームといった実技のほか、アスリートメンタリティに焦点を当てた座学も実施されて、2人のゲストスピーカーを迎えた。

 一人は、アメリカ留学経験とアルバルク東京などでプロキャリアを持つ伊藤大司氏(現A東京/トップチームゼネラルマネージャー)。大きな目標達成のために小さい目標を立ててクリアする重要性などが説かれた。もう一人は、クリーブランド・キャバリアーズらNBA3チームでトレーナーを務めた経験を持つ中山佑介氏(現長崎ヴェルカ/ディレクター・オブ・スポーツパフォーマンス)だ。自分の体との向き合い方や、NBAプレーヤーとのエピソードを例に自分の律し方などについて貴重な話が明かされていた。

 そして、キャンプの集大成として、アルバルク東京のホームコート・国立代々木第一体育館において選手によるオールスターゲームが開催された。ADIDAS EUROCAMPでも各国から選手が集まり、即席でチームを組んでゲームをするだけに、一発勝負の大舞台で自分を表現してほしいという狙いが、最後の最後に込められている。



 選手たちにとっても、キャンプが充実した場所になったことは間違いないようだ。千葉ジェッツU18所属の関谷間は「部活動と選手たちと接点を持てて、さらに大濠など強いチーム出身の選手たちも来ているので、すごい良い経験になりました」と話し、キャンプを通じて「手に入れたスキルだったり、考え方もたくさんある」と明かす。

 特に、伊藤氏の言葉は、関谷にとって印象深かったという。彼は今秋からアメリカ留学を予定しているため「大司さんは高校からアメリカ留学をされていて、実際に行った方の言葉はしっかりと受け止められて、自分が思ってることと似ている部分もありました。やはりアメリカに行ってもやり続けたい」と話す。

 また、関谷は千葉ジェッツU18の中心選手であるとともに、英会話を勉強しているだけあり、コーチの指示を理解して、チームメイトに堂々と伝えていたのが印象的だった一人だ。本人は「ジェッツユースでやってきたことは間違いないですし、ここで応用できれば自分も含めて周りも良いプレーヤーになれると思いました。チームプレーを磨いてその上で、キャンプで個人のスキルアップをずっと意識してたことですね」と振り返る。

 さらに、アメリカでのシーズンを終えて、本キャンプに参加するために帰国した内藤英俊も、関谷のようにコートで存在感を示した選手だった。彼も「コーチが言ってることは全部分かるので、周りの英語が分からない選手たちに共有しました。自分も(3年前に)アメリカへ行く前は英語が分からなかったですから。みんなと共有してキャンプがスムーズに進めたら良いかなと思って、頑張ってヘルプしました」と言う。

 集まった26人のスキルレベルやシュートレベルは総じて高いだけに、コート上でのリーダーシップ、コートサイドでの振る舞いは、やはり他者と違いを生む要素のひとつである。アディダスの山田氏もキャンプで重要視しているポイントは、技術だけではないと強調する。「僕らが見たいところはハイライトになるようなプレー以上に、そのスキルセットを上げるためのマインドセットや、人間としてのメンタリティを見たい」と説く。

コーチ陣の評価…「レベルはすごく良い」
 一方で、コーチ陣は選手たちのプレーに目を細めていた。ドゥガンジッチ氏は「最高の経験でした。すごく選手たちはモチベーションを高く、すごく早いペースで(トレーニングにアジャストして)臨んでくれました」と評価。イタリア行きを推薦するにふさわしいモチベーションを持ってる選手かどうかを念頭に選手たちを見ていたほか、日本のバスケの成長度合にも注目していたという。ヨーロッパとのサイズの違いはあったとしながらも「全体的にレベルはすごく良いと感じました。特にドリブルもできるしシュートもできるしスキルは高い」と太鼓判を押した。

 BANG LEEコーチは「例年あるのですが」と前置きした上で、初日と2日目で選手によってパフォーマンスの出来にムラがあることを指摘。発破をかける意味合いも兼ねて若い才能に期待するコメントを寄せてくれた。

「ここで自分のプレーを見せられなければ、一発勝負のイタリアで活躍はできないんですよね。毎回がテストで、誰がどこで見てるか分かりません。試合になるとシュートが入るかどうか、アシストを出せたかどうかになりがちですが、試合に出ていない時間にコートで起きていることに対して、コーナーに走れとか、ショートコーナー行けとか、ヘルプに行けとか喋れるか。ベンチに戻ってきた選手たちにハイファイブができるのか。転んで選手を起こしにいけるのか。そういうところを見たいなと思います」

ADIDAS NATIONS TOKYOの未来
 本キャンプによって、5月にイタリアに行く機会を得るのは誰になるのか。ADIDAS NATIONS TOKYOのOBたちが、いま各ステージで活躍をしている姿を思えば、ヨーロッパでの経験は成長を促す大きなきっかけになる。本プログラムの立ち上げ当初は、オファーした選手の所属元から理解を得られないケースもあったそうだが、山田氏によると、東海大諏訪高校の小滝道仁氏や前任の入野貴幸氏、白鷗大学の網野友雄氏らとのリレーションからすそ野が広がり、BANG LEE氏が携わるGLOBALLERSプロジェクトの経験者たちがチャレンジするようになってきたという。湧川や内藤も、その経験者たちだ。継続するからこそ生まれるものが、ここにはある。

 また、ADIDAS NATIONS TOKYOで特筆すべきことは、アディダスというグローバルブランドが2018年から継続している取り組みであることだ。一般的にマーケティング予算は新製品などのプロモーションに応じて単年で配分されている。複数年をやる苦労はあるのではないかと山田氏に聞くと、苦笑いしながら「とてもあるので、いろいろと試行錯誤しています。それでも単年の取り組みだと根付いていかないので、もう絶対に続けたいと思って頑張ってます」と明かす。アディダスブランドのマーケティングの先に、次世代育成を目指すキーマンの思いは熱い。

 今後の展望について山田氏は、今年フィリピンから選手を招待したように、ADIDAS NATIONSの門戸を広げて“アジア版”構想を持つ。イタリアに行けばコミュニケーションする相手は初対面の海外選手やコーチ陣である中で自分をどう表現して、信頼を勝ち取るのか。プレーの以前に、コミュニケーションで苦労した日本人選手を山田氏は見てきただけに、世界に通用する場を日本で作っていきたい意向がある。

 いま日本でバスケットボールの環境は急速に発展しているが、それと同じぐらいバスケットボールのグローバル化が進んでいる。これからもADIDAS NATIONS TOKYOからヨーロッパに飛び出し、世界で活躍する若き才能の出現を楽しみにしたい。山田氏、BANG LEE氏もそんな可能性にあふれた選手たちに期待している。
「いま日本のバスケットボールシーンは、Bリーグなどが整備されてきました。これは大事なことですが、逆に言うとフレーム化が進んでいると思います。僕はスポーツに無限の可能性を感じていて、バスケ界にとどまらず、スポーツ界、世界に影響を与えられるようなフレームの外に出られる人材がここから出てきてほしいですね」(山田拓也氏)

「ユーロキャンプに行くと、ほとんどのNBAチームのヨーロピアンスカウトたちが来ているんです。今回選ばれる選手たちには、彼らに生でプレーを見てもらえる場で自分の認知度を上げてほしいですし、“俺は自信がある”と思っている選手には日本で目立って自分たちが目指すべきキャンプにしてほしいというのが、一番の思いですね」(BANG LEE氏)

【参加選手リスト|26名】
・#0 越圭司(165cm/Concordia Lutheran schools)
・#1 関谷間(184cm/千葉ジェッツU18)
・#3 川島花海(175cm/山梨学院高校)
・#4 宮本耀(170cm/福岡第一高校)
・#5 長尾天(178cm/CBA prep school)
・#6 細野碧人(172cm/アルバルク東京U18)
・#7 宮本聡(170cm/福岡第一高校)
・#8 鷺澤大知(172cm/アルバルク東京U18)
・#9 Jacob Bayla(フィリピンからの招待選手)
・#10 三尾谷詩生(175cm/Southern California Academy)
・#12 斎藤響(177cm/アルバルク東京U18)
・#14 ジェヴィード・アリフ(180cm/Tokyo Samurai)
・#15 西村向佑(178cm/アルバルク東京U18)
・#16 平岡泰介(187cm/RIZINGS徳島)
・#17 内藤英俊(187cm/DME Academy)
・#18 湧川裕斗(183cm/明治大)
・#19 村田桂次郎(183cm/日本大学)
・#20 八田滉仁(180cm/白鴎大学)
・#21 内田悠介(195cm/白鴎大学)
・#22 恒岡ケイマン(200cm/Crespi Carmelite High School)
・#23 野津洸創(192cm/藤枝明成高校)
・#24 清水祥敬(197cm/中部第一高校)
・#25 クーリバリ・セリン・ムルタラ(188cm/千葉ジェッツU18)
・#27 コッシーオ・アンドレイ(187cm/山梨学院高校)
・#28 オルワペルミ・ジェラマイア(200cm/天理大学)
・#29 中武優羽(193cm/青山学院大学)

新時代を創る才能が集結…「ADIDAS NATIONS TOKYO U19 SPECIAL CAMP 2025」レポート

TEXT by Hiroyuki Ohashi



PHOTO by adidas tokyo

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