• COLUMN
  • 2023.12.07

沖縄の子どもたちがモルテン本社へ体験旅行に…Arch to Hoopが社会課題の解決を目指して“新たな”取り組み

沖縄の社会課題のひとつである子どもたちの体験格差――。その課題に着目し立ち上げられた団体が、一般社団法人Arch to Hoop沖縄です。「FIBA バスケットボール ワールドカップ 2023」の沖縄ラウンド開催をきっかけに、モルテンがNPO法人ちゅらゆいと共に設立。小学生を対象に体験格差の問題に取り組む「b&gからふる田場」と連携して、これまでにイベント制作体験などを実施してきました。

【スポーツの力で社会問題に向き合うArch to Hoop始動!】
【Arch to Hoopではじまった「PUP SUMMER CAMP OKINAWA 2023」】

子どもたちの社会的自立を目指して

Arch to Hoop設立の目的は、子どもたちの体験格差の解消に留まりません。短期的には、イベントを通じて非日常的な体験や、親御さんなどの身近な人以外の大人たちと出会う場を提供し、中長期的には、子どもたちの社会的自立につながることを目指しています。貧困を世代間で連鎖させないためには、不登校やひきこもりに悩む子たちが夢や目標にチャレンジできる環境作りが必要不可欠。将来の職業選択の幅を広げられるような活動を循環させる仕組みが求められると考えています。

そこで、Arch to Hoopは中長期的な成果へつなげるために、新たな取り組みに着手。仕事体験プログラム(以下Arch to Work )のモデルケースを作りはじめました。具体的には「b&gからふる田場」が日本財団へ申請している助成金が採択されたことを受けて、Arch to Hoopとちゅらゆいが、広島県にあるモルテン本社への体験旅行を企画。モルテンに提案して実施へ至りました。

実施にあたり、各社が取り組む目的を整理しました。Arch to Hoopとしては、Arch to Workを他の企業で展開するために共通項や改善点を発見し、フォーマット化する道筋をつける。ちゅらゆいとしては、今夏のイベント制作体験で知り合ったモルテンの社員の皆さんが働く姿を通して、子どもたちの視野を広げる。働くことへのイメージを膨らませたり、世の中にさまざまな仕事があることを知ってもらうことを目指しました。さらに、受け入れ企業のモルテンとしては、子どもたちとの交流や共通体験を通して、モノづくりの楽しさとやりがいを次世代へ伝えることを目的に、社員の皆さんが準備に取り掛かりました。


初の会社訪問…モノづくりの1日を楽しむ

「Arch to Work」は、11月4日(土)に行われました。参加した小中学生は総勢15名。子どもたちの中には、過去に飛行機へ乗って熊本旅行や長野旅行に行った経験のある子もいましたが、人生初のフライトという子もいました。もちろん会社に訪問するのは全員が初めて。

朝10時に広島にあるモルテン本社へ到着すると、はじめに[the Box]と呼ばれる同社の開発機能が集約されたテクニカルセンターの見学をしました。とにかく広く、見たことのない施設にみんな興味津々。木製の大階段に座ったり、音響解析を行う半無響室に入ったり、モルテン製の車いすに乗ってみたり。あっという間に予定の1時間が過ぎていきました。

次に、取り組んだのは「MY FOOTBALL KIT」というプログラムです。モルテンとデザインオフィス nendo が共同開発した組み立て式のサッカーボールを作りました。この「MY FOOTBALL KIT」の開発背景を理解し、説明書を読みながら、ときより社員の皆さんのサポートも受けながら、キットを組み立てました。組み立てた後は「自分でもできたぞ! 」と最高な笑顔でした。

その後、子どもたちは社員の皆さんと一緒に昼食を取り、午後から「スポーツ用品」「自動車部品」「医療・福祉機器」「マリン・産業用品」の各事業部で勤務するエンジニアの皆さんが企画したモノづくり体験をしました。ボールのメーカーとして馴染みのあるモルテンは、創業当初「モルテンゴム工業株式会社」という社名だったように、ゴム加工を起源とする会社。この日は、ビルや家屋の下に設置して地震の揺れを吸収する“免振ゴム”作りに子どもたち全員が取り組み、その後希望に基づいて、枕作り、ボール作り、タイマー作り、キーホルダー作りの制作体験に分かれました。

各々、楽しそうにモノづくりに励む姿がうかがえます。オリジナル枕作りをした子はビーズを詰めて、自分で使い心地を試してみたり、プレゼント用の袋へお母さんに対してメッセージを書いてみたり。ボール作りやタイマー作りをした子の表情は真剣そのものでした。キーホルダー作りをした子もグローブをはめて、プレス機に力を込めていました。最後はみんなで作ったものを掲げて写真撮影。本当に良い表情です。

モノづくりが「もっと好きになった」

1日を終えて、子どもたちの感想からも充実した体験だったとうかがえました。図工で色々と作った経験のある子は、モノづくりが「もっと好きになった。知らないことを教えてもらったから」と話し、作った枕について「ママがいつもご飯を作ったりして疲れているから。堅さを調整しながら作った」と振り返りました。思い出についても「全部。スタッフがとてもやさしかった。全員」という声が、寄せられています。

また、モノづくりの経験がない子も、「ちょっとだけ好きになった。組み立てるやつとかやって楽しかった」と、嬉しくなるような感想がありました。さらに、他にどんな仕事体験がしてみたいか聞いてみると、「鉄を作る会社など。鉄って作れなさそうじゃん。だから体験してみたい。鉄の貯金箱を作ってみたい」や、「修理したりする仕事。壊れているものを直したい。よくネックレスを壊すんだけど、従妹が直すのが上手」という声も聞かれました。少し、子どもたちの視野が広がったように感じられます。

さらに、今回は沖縄でのイベント制作体験で、事前に子どもたちと一部社員の皆さんがつながっていた経験も大きかったようです。仕事をしている様子や、仕事をしている場所を子どもたちが知ったことで、「うっちゃん(MY FOOTBALL KITの講師・内田さん)がサッカーボールを開発して、みんな(ほかの国の子ども達)に楽しんでもらいたいから作っていることを知った。こんなものもうっちゃんが作るんだと思った」や「うっちゃん(同)が誰かのために作ることが大事と言っていたから枕づくりを頑張った」、「みんなが楽しく過ごせるように仕事をしていた」という感想も寄せられました。


不安も杞憂に…社員の皆さんの学びや気づき

一方で、子どもたちが楽しい時間を過ごせたことで、社員の皆さんも胸をなでおろし、嬉しい気持ちになりました。皆さん、この日のために「モノづくりをする楽しさ・喜びを伝えたい」という思いを持って準備をしていましたが、前例のないイベントだったため、不安もあったそうです。ケガのないよう安全第一を念頭に置き、説明にあたっては専門用語を使わないことを心掛けました。些細なことですが、「裁断→切る、印刷→絵を描く、接着剤→糊といった言葉の置き換え」も考えたと言います。そして、最も不安だったのが「子どもたちと打ち解けられるか」や「身構えてしまうのでないか」というものでした。

しかし、それも杞憂に終わりました。社員の實近さんは「初めは子どもの元気に圧倒されていましたが、時間が経てば少しずつですがコミュニケーションをとることができました。射出成形の仕組みを身近にあるチョコに例えたりして少しはわかってもらえたかなと思います」とコメント。その要因について「普段どんな遊びをしているかや運転ゲームした事あるかなど話しやすそうなことから会話をしようと試みたこと」を挙げました。大人たちが子どもたちの目線に立ち、知ろうとする姿勢が大事なようです。

そしてモノづくりの企業として、課題はありつつも、学びや気づきが数多くありました。部署を横断して取り組めた経験も収穫になったようです。

「体験型という狙いがある中、みんなが自分でやりたがったことが良かった。既成の出来栄えを望むのではなく、自分で作ることに対する価値を改めて考えさせられた」
(武田さん)

「様々なコンテンツを準備していましたが、子どもたちの正直な反応は想定通りのものと、想定とは異なるものがありました。今後の製品開発やイベント企画をしていくうえで、我々にとっても貴重な経験になりました。」
(佐藤さん)

「自社製品を普段から使っていただく人との接点が多く占める中で、はじめて企業のことや製品のことを知る顧客からの正直な感想や意見は、製品機能等を見直す機会になる上、『伝える』活動を通して開発環境や展示モデルについての改善活動に繋げることができる」
(藤井さん)

「子どもたちと触れ合うことで、こちらにも体験価値が残りリフレッシュになったと思う。自事業部や自分に足りない部分を認識し、初めて企業や製品の存在を知る方への情報発信や興味を持ってもらうことの重要性、アプローチのやり方を肌で感じられた。」
(天野さん)


Arch to Workの仕組み作りへ

今回の体験旅行を機に、Arch to Hoopは新たな取り組みである「Arch to Work」のフォーマット化を探っていきます。基本的には、Arch to Hoopと児童福祉施設が共同で企画を立て、寄付をいただいた企業などへ受け入れを提案する枠組みになります。仕事体験の基本テーマを「だれかのために… 」と設定し、世の中のあらゆる仕事は誰かのニーズや課題を解決していることを伝えていきます。ただ、受け入れ企業に対してのメリットを示していかないと、持続的な活動にはなっていきません。今回の活動を通じて6つのメリットを仮説として導き、今後にいかしていきます。

<<6つのメリット>>

①自社および製品の分析機会の創出
…社員が自社の強みや、独自性などを整理できる機会になる
  
②体験型コンテンツの企画力の向上
…Arch to Hoopの趣旨などを考慮して、社員が自社および製品の魅力を伝えられるよう考える力が養える
  
③コミュニケーション力の向上
…専門用語のわからない子どもたちへ理解してもらうために、表現方法を思考する力が養える

④顧客をみる視点の再認識
…自社の製品やサービスが、だれの課題を解決できているか、改めて考えたり、気づく機会になる
  
⑤広報機会の創出
…組織の新たな取り組みや、社会課題解決への向き合い方を社内外に発信する機会になる
  
⑥Arch to Work発の事業展開
…Arch to Workで出た企画、製品、サービスアイデアを具現化できる可能性が広がる。
「マリン・産業用品」の事業部は、今回の取り組みをいかして、今後製品紹介などを行う方針を検討中。

最後に、b&gからふる田場 事業統括の平林勇太さんは今回の取り組みが子どもたちの可能性を広げる意味で、とても良い機会になったと手ごたえを持っていました。単発のイベントではなく、夏のイベント制作体験から続いているイベントであったため、子どもたちが社会と接点を持ち、出会った大人たちを通して視野を広げていくことにつながっていると感じたそうです。それ故に、このような取り組みを広げていき、社会全体で子どもたちを育てていけるかが大切になると話しました。

まだまだ道半ばですが、やったことで見えてきたものもありました。Arch to Hoopは、子どもたちの社会的自立につなげる取り組みを、これからも続けていきます。

沖縄の子どもたちがモルテン本社へ体験旅行に…Arch to Hoopが社会課題の解決を目指して“新たな”取り組み

一般社団法人 Arch to Hoop 沖縄

RELATED COLUMN

MOST POPULAR