琉球ゴールデンキングスとジンクスを相手に、3冠まであと1歩届かなかった千葉ジェッツ
今シーズン、千葉ジェッツ(以下、千葉J)は、レギュラーシーズン「53勝7敗」でB1東地区優勝。勝率「.883」とBリーグ記録を更新する最多勝、最高勝率を記録。24連勝を打ち立てこちらもBリーグ記録を更新。さらに、天皇杯では4年ぶり4度目の優勝を果たして、「天皇杯」・「B1東地区優勝」・「B.LEAGUE年間チャンピオン」の3冠が期待されていた。そんな千葉Jの日本生命 B.LEAGUE FINALS 2022-23を様々なバスケットボールメディアに寄稿する吉川 哲彦氏が振り返る。
Bリーグは発足してまだ7シーズン目という歴史の浅いリーグだが、既にいくつかのジンクスが生まれている。その代表的な例が「リーグ全体のレギュラーシーズン1位は優勝できない」、「天皇杯を制したチームは優勝できない」といったものであり、過去2シーズンに限れば前回のチャンピオンシップ準優勝チームが王者になっていた。第1シードの千葉ジェッツと第2シードの琉球ゴールデンキングスがファイナルの対戦カードとなったのは、栃木(現・宇都宮)ブレックスが川崎ブレイブサンダースを破ってBリーグ初代王者の座についた2016-17シーズン以来という順当な結果。しかし、琉球が昨シーズンの準優勝チームであることを考えると、新たなジンクスが確立される可能性も生じたわけである。
これらのジンクスは、千葉Jにとってはポジティブな材料ではない。ただ、今シーズンの千葉Jの成績は、2018-19シーズンに打ち立てた歴代最高勝率記録を自ら更新する53勝7敗。他を寄せつけない圧倒的な戦いぶりで勝ち進んできただけに、チームも自信を持ってこのCSに臨んできただろう。前日会見で富樫勇樹が「長いシーズンでやってきたことをファイナルでも出せれば」と語ったように、チームとしてやるべきことを遂行すれば自ずと良い結果が生まれるはずだった。
しかし、その“やるべきこと”を千葉Jはさせてもらえなかった。1試合平均試投数がリーグで唯一30本を超え、同成功数も11.3本でリーグ最多と大きな武器になっていた3ポイントを、琉球に徹底的に警戒された。その影響が最も顕著に出てしまったのがクリストファー・スミスだ。レギュラーシーズンでは成功率でリーグ2位にランクインしただけに、当然琉球の標的になることは予想されていたが、GAME1のスミスの3ポイント試投はわずか1本。ギャビン・エドワーズらインサイド陣がファウルトラブルに陥ったことで、ウィングプレーヤーであるスミスの出場時間が16分48秒と限られてしまったという側面もあったとはいえ、ダブルオーバータイムまでもつれた試合で1本しか3ポイントを打つことができなかったのは、千葉Jにとっては大誤算だったに違いない。チーム全体で37本と本数を打つことはできたものの、コンテストされたタフショットも多く、成功は8本止まり。第4クォーター残り10秒にディフェンスをかいくぐってねじ込んだヴィック・ローの同点3ポイントは称賛に値するが、試合を通して見ると本来のゲームプランを崩されてしまったという印象は否めない。
GAME2でもスミスは4本中1本と、やはりその強みを抑えられてしまったが、チームが思い通りの試合運びをできない中で“らしさ”を発揮したのが富樫。GAME1では3ポイント成功率こそ25%と決して高くはなかったが、スミスとともに警戒される中でも試投は12本。左にアタックさせようとする琉球のディフェンスにも怯まず右へアタックし、両チーム最多の31得点を積み上げた。そしてGAME2は3ポイントを8本中4本決め、計24得点。どれだけ警戒されても数字を残せるのは、富樫がリーグ屈指のスーパースターである所以だ。
もう一点、富樫がリーグを代表する選手であることを改めて示しておきたい。それはプレーのクォリティやメディアへの露出度だけでは測れない、一時代を担うスターとしての意識の高さによるものだ。
「僕たちがこうやって熱くプレーできるのも応援してくれる人たちがいるからで、それはジェッツブースターに限らず、今回琉球のブースターがたくさん来てくれたのもそうですし、バスケが大好きなBリーグのファンが詰めかけて応援してくれるおかげでこの雰囲気が作られている。本当に感謝しています」
大本命と目されていながら、頂点には届かなかった。それでも、琉球・桶谷大HCが「間違いなく史上最強」と称賛したように、今シーズンの千葉Jがリーグの歴史に刻まれるスペシャルなチームであったことは事実だ。天皇杯3連覇や一昨シーズンのリーグ制覇など、常勝軍団としての地位を築き上げてきた過去6シーズンから一転、HCを筆頭にスタッフが一新され、仕切り直しを強いられて臨んだ今シーズン。いわゆる“再建モード”と見られてもおかしくない状況だったにもかかわらず、前述したように53勝7敗はシーズンの歴代最高勝率記録であり、シーズン半ばに達成した24連勝も新記録。ファイナル終了後に発表されたレギュラーシーズンベスト5には富樫とスミス、原修太が選出されたが、同一チームが3人までを占めたのは初めてのことだ。もともと選手層は厚かったとはいえ、期待の若手は大ケガで相次いで戦線離脱。これほどの結果を残したことだけでも十分に驚異だが、その実必ずしも順風満帆だったわけではなく、逆風も受けた中でこの高みに達したことは高く評価しなければならない。
「今シーズンの千葉ジェッツは何も恥ずかしがることはない。選手とスタッフを誇りに思います。このチームは選手同士でも、コーチングスタッフとの間でもチームケミストリーが強かったと思う。例えば誰かが熱を出したりケガをしても、次の選手がステップアップしてくれる。レギュラーシーズンの53勝はマジックシーズンだと思います」(パトリックHC)
「ファイナルで敗れるのはもちろん悔しい想いがありますが、長いシーズンをチームメートと助け合いながら最後まで戦えた。スタッフが大幅に入れ替わったチャレンジのシーズンでしたが、素晴らしいシーズンを送れたと思います。自分たちが望んだ結果ではなかったですが、スタッフも含めてチーム一丸となって、ここまでいろんな努力をしてくることができたと思うので、本当にこのチームを誇りに思います」(富樫)
この結果により、3シーズン続けて「前回CSの準優勝チームが優勝」したことになるわけだが、もしこれがジンクスとして確立されたとするのであれば、来シーズンの優勝は千葉Jということになる。そのことを当人たちが意識するかどうかはわからないが、今シーズンの借りを返すべく今まで以上に奮起することだけは想像に難くない。はたして来シーズンの千葉Jがどのような戦いぶりを見せるのか、少なからず期待していいだろう。
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TEXT by 吉川 哲彦