ウインターカップ2019 男子総括
令和初のウインターカップ男子決勝は福岡対決を制した福岡第一の優勝で幕を閉じた。男子代表強化が叫ばれるなかチーム数が増大し、アンダー世代では最もフォカースされる本大会をNBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップなど様々なバスケットボール・イベントを取材し、高校・大学・Bリーグなど国内バスケットボール事情にも精通する青木崇が総括する。
福岡第一はやはり強かった。北陸高校、九州学院、桜丘、東山、福岡大附属大濠のチャレンジを退けての2連覇は偉業であり、素晴らしい称賛を受けるに値する。
武器であるディフェンスからのトランジション・オフェンスへの対応は、どのチームも苦しんだ。河村勇輝と小川麻斗のガード陣がアウトレットパスをもらえば、内尾聡理と神田壮一郎がしっかり走り、あっという間にレイアップでフィニッシュというシーンを目にすることとなる。たとえミスショットになっても、センターのクベマ・ジョセフ・スティーブがフォローして得点できるのも、福岡第一が持つ他のチームにない大きなアドバンテージと言える。
準決勝で対戦した東山は、3Q 序盤で最大13点のリードを奪うなど、得意のハーフコート・オフェンスを展開することでテンポを落とすことに成功。長い腕を持つショットブロッカー、ムトンボ・ジャン・ピエールがゴール前で大きな壁として立ちはだかることで、ディフェンスも機能していた。それでも東山がリードを維持できずに3Qで逆転されてしまったのは、福岡第一がフルコートでアグレッシブなディフェンスをしてきたのが要因。ハーフコート・オフェンスのリズムを狂わせ、リバウンドを奪うと一気に走るという得意の形に持ち込んだのである。
決勝で対戦した福岡大附属大濠は、オールラウンドな能力を持つ横地聖真を軸に、200cmの身長で機動力とシュート力を兼備している木林優、西田公陽らシュート力のあるガード陣を揃えるなど、タレント揃いのチーム。福岡第一のトランジションゲームを限定させながら、アグレッシブなドライブからのボールムーブによって、オープンの3Pシュートを打たせるスタイルで挑んだ。
2回戦の開志国際戦では、40本(12本成功)打ったことが効を奏した。しかし、福岡第一戦はドライブのフィニッシュが中途半端になり、スティーブに11本のブロックショットを決められてしまう。得点の多くがトランジションかセカンド・チャンスで、ハーフコートの展開からしっかり形を作ることができても肝心なシュートが決まらず、82本中26本のFG成功(31.7%)という数字では敗戦も仕方ないところだ。
福岡第一の勝因は「どのくらい僕らのスカウティングや分析がうまくいっているかわからないけど、ある程度マンツーマンの中で相手のオフェンスを止めているんですよね」と井手口孝コーチが話すディフェンスであり、原動力となったのがスティーブだ。ペイント内でのリバウンドやブロックショットだけでなく、アウトサイドからのドライブや3Pシュートに対応。ピック&ロールでは前に出てきても、そこからしっかりとローテーションしてシューターにコンテストしていたのは、正に他の留学生選手たちにないハードワーカーであることを示すもの。井手口コーチはスティーブをこう称える。
「大変ですよ。木林君の3Pを守りに行って、横地君が来たらブロックして、あとドライブが来たら全部行って、さあ走れ、ボール運びも出てこいと言われて、河村が呼ぶから何回もピック&ロールで行ったり来たりして、ローポストもやる。それを40分間やれるのはなかなかじゃないですかね。褒めてあげていいと思います」
男子の高校バスケットボール界はここ2年間、福岡第一がどのチームよりも完成度が高く、オフェンス、ディフェンス、メンタルのすべてで上回っていたと断言していいだろう。河村のゲームメイクは非常にレベルが高く、試合に大きなインパクトをもたらすことができるのも明らか。将来日本代表のポイントガードとして、世界の強豪と渡り合うシーンを見たいという期待を持たせてくれたのは間違いない。
井手口コーチは勝ったからと前置きしたうえで、「福岡同士の決勝をさせてはいかんだろ」という言葉を口にした。しかし、他のチームが何もしていなかったわけではない。
福岡大附属大濠と北陸は、ペイントアタックとボールムーブからの3Pシュートというワールドカップに出場した多くの国がやっていたオフェンスを展開。特に北陸は多くのチームが苦戦する明成のゾーンディフェンスに対し、高橋颯太を軸に距離の長いディープ3を決めることで攻略に成功し、インターハイに続いての勝利を手にしている。また、総合力で上回る福岡第一相手に大敗を喫したといえ、北陸学院も1試合40本の3Pシュートを打つことを目標にしたゲームプランとセット・オフェンスを構築して臨み、1Qだけで5本決めて23対22とリードを奪うことに成功した。
東山と報徳学園は、セット・オフェンスをしっかり遂行しながらも、トランジションゲームから得点できるチームを作ってきた。両校が対戦した準々決勝は、ハーフコート・オフェンスをマンツーマン・ディフェンスで抑えるという展開。テンポが少しスローで見ている側からすれば面白味に欠けたかもしれないが、高校生のレベルでしっかり駆け引きし、クロック・マネジメントを大事にしていた。両チームとも米須玲音と宇都宮陸の2年生が司令塔を務め、留学生のジャン・ピエールとコンゴロー・デイビッドもチームに残ることもあり、2020年度の全国大会で頂点に立てる可能性を秘めたチームと言っていい。
準々決勝で北陸に敗れたとはいえ、明成もこれからが非常に楽しみなチーム。山崎一渉と菅野ブルースの将来を嘱望されている1年生を軸に、佐藤久夫コーチは試合に出ている5人全員が190cm以上という大型ラインナップで戦うという新たなチャレンジに挑んでいる。北陸戦を「オフェンス力がいまひとつで中途半端だった」と振り返った名将が、ポジションレスになりつつある現代バスケットボールに近いチームを作り、頂点へと導くことができるのか? 2020年代後半、日本代表が世界と戦えるチームとなるには、ガードの大型化が欠かせない。来年度の明成は、有望な選手が揃っているというだけでなく、日本の将来を占えるという点でも注目に値するチームと言えよう。
- TEXT by Takashi Aoki