五輪終わりの今、BEEFMANとBREXが3×3王者になったからこそ……
東京オリンピックで3×3日本代表が見せた奮闘は、競技への注目度を高めた。一方で、代表選手は5人制と3人制を行き来する選手が多かったため、オリンピック後に3人制の国内大会に出場した選手は落合知也のみ。10月から始まる5人制のシーズンへ向けた活動や、5人制女子代表の活動に招集されたケースもあり、それぞれ事情がある。それゆえに、盛り上がった3×3の「熱」をともし続けるためには、現場でプレーし続けるひたむきな選手たちが欠かせない。
2年ぶりのシーズンチャンピオン決定戦
去る9月11日に『3×3.EXE PREMIER JAPAN 2021 PLAYOFFS presented by PORSCHE』が開催された。コロナ禍で中止になった2020シーズンを経て、PLAYOFFSまでこぎつけたのは実に2年ぶり。レギュラーシーズンを勝ち抜いた男子16強と、女子3強がシーズンチャンピオンの座を懸けた一発勝負のトーナメントに終結し、3×3男子日本代表として今夏の日本を沸せた落合知也(#91)もオリンピック後、初めてTOKYO DIME.EXEの一員としてコートに立った。コロナ禍の影響にともなう緊急事態宣言の延長によって、あいにく無観客試合となったが、試合の模様は「Abema」で全試合生配信され、多くのファンに届けられたのである。
チームをアップデートし続けた先に
大会を振り返ると、女子はBEEFMAN.EXEが2019シーズンに続いて、2年越しの2連覇を飾った。PLAYOFFSの相手は皆、レギュラーシーズンに敗れた相手ばかりだったが、彼女たちは初戦でPERITEC INTERNATIONAL OIZUMI.EXEを19-14で破り、8月のRound.3決勝で敗れたライバルに雪辱。続くレギュラーシーズン1位のTOKYO 333.EXEには7月の開幕戦にあたるRound.2決勝で惜敗していたが、大一番のこの日は序盤から主導権を奪って21-7で圧勝した。男子が今年3月の『3×3日本選手権』で初優勝を決めた姿に続き、前田有香(#11)、桂葵(#25)、矢上若菜(#14)、花田遥歌(#2)の4人が国内主要でチャンピオンボードを高らかに掲げた。
恐らく、3強の中でBEEFMANがチームとして練習や試合を重ねた蓄積が大きい。ライバルに他チームと掛け持ちしている選手や新規参入チームがいる中で、同じメンバーで練習し、2020年秋からPREMIERに加えてJAPAN TOURや日本選手権など他の主要大会も数多く転戦。とりわけ前田、桂、矢上は不動の3人だ。無論、練習をすれば勝てるわけでもなく、勝負弱さを感じさせる敗戦もあった。
ただ、さかのぼること今年4月。桂は2021シーズンに臨む意識について、日本選手権の準決勝で完敗した結果を受け止めた上で「練習をしている、していないではなく、大事なことは自分たちがどういうバスケットボールをして勝ちたいか。そこを掘り下げていかないといけない」と話していた。そのため勝つだけではなく「練習が正しいのか。それとも軌道修正が必要なのか、(試合で)試そうという感覚」が芽生えたとも言及していた。だから、今回の優勝は、快勝、惜敗、大敗などを繰り返しながら、シーズンを通してチームをアップデートし続けた先につかんだタイトルだと、ことさら感じさせてくれた。勝負強さをひとつ証明できた1日だったと言えるだろう。
「伝説」を作ったチームのあり方
一方で、男子はUTSUNOMIYA BREX.EXEが2016シーズン、2019シーズンに続き、3度目のシーズンチャンピオンに輝いた。それも交代なしでやってのけたのだ。齊藤洋介(#11 以下YOSK)、Dusan Popovic(#5)、飯島康夫(#7)の3人は、初戦のKYOTO BB.EXEを21-19で振り切ると、準々決勝では1回戦でKOTO PHOENIX.EXEに劇的勝利を収めたZETHREE.EXEを21-13で破り、準決勝ではTACHIKAWA DICE.EXEを21-13で撃破。決勝では、SIMON.EXEに競り勝ったTRYHOOP OKAYAMA.EXEを21-16で押し切って凱歌をあげた。
2年ぶりのPLAYOFFSで見せた優勝劇は、YOSKが戦前に「伝説を作る」と公言した通りになった。ただ3人で出場するというチーム発表を聞いて、いくらBREXでも厳しいと思った方は、私だけではないだろう。YOSKも「じつは90%(優勝は)無理だと思っていました」と、大会後に明かしたほど。「3人で行くと決まってから3日間ぐらいは、なかなか練習も気持ちが切り替えられなかったり、泣き言を嘆いたりした」とも話した。
しかし、彼らは強かった。苦しい場面は何度もあったが、集中力を切らさず、チームが崩れることはなかった。BREXと言えば、チームの固い結束力が印象的であり、この日もYOSKは集まったメディアから勝因を問われると、次のような言葉を紡いだ。
「お互いを信頼しあって、いつも家族のように接しあっています。国籍が違う選手もいるのですが、なんの隔たりもなく助け合って毎日生活し、練習していますね。団体競技なのでプレー以外の信頼や、家族になる気持ちでは絶対に(他より)群を抜いているのではないかと思います」
国内では勝って当たり前と思われる選手たちは、固い絆で結ばれ、3×3で勝つチームとしてあり方を改めて示してくれたのであった。
五輪直後の大会であの2人がMVPになった意義
さて、男女ともに王者が3×3で戦い続けるチームのあるべき姿を体現したように、それぞれのMVPにもまた同じ印象を抱いた。女子はBEEFMANの桂、男子はBREXのYOSKである。2人とも3×3参戦は奇しくも2018年。そこから競技に打ち込み、所属先で中心選手として活躍し、3×3の魅力も語ってきた。意外にも日本一がかかる国内主要で2人がMVPに輝く姿はこれが初。ともに東京オリンピックに向けた3×3日本代表候補として代表合宿に招集された経験があり、YOSKに至っては最終候補メンバーとして熾烈な選考にも向き合った。代表には届かなった2人であるが、オリンピック直後の注目が集まる一戦で、最も輝いた選手として選ばれた意義は大きい。過去最高に高まった3×3の「熱」を燃やし続けるためには、人一倍の競技にかける思いを持ち、コートで表現する者が必要だ。
オリンピック直後に開催された8月のCross Conference Cupの終了直後にYOSKは「3×3が注目されているタイミングだと思いますし、いまその輪を広げていける役割を担っているのは、自分たちしかいないです。1番の舞台でプレーしている現役選手がどういうパフォーマンスをするかによって、今後、この業界が伸びていく(かどうか決まる)と思っている」と語っていた。この背景には、それぞれ事情があったにせよ、日本代表が五輪の直後の大会に誰も出場していなかった状況だったゆえ「僕たちプレーヤーがもっと背負ってもいいと思います」と、競技シーンをけん引する使命感をより一層感じていたからである。今年で36歳。連戦が続けば大会終わりに「本当にタフ……」としばしば本音を隠さないが、PLAYOFFSで驚異的な優勝劇を演じたYOSKの姿は、この思いを十分に体現するものだと思わずにはいられなかった。
また桂がMVPインタビューで「世界にアンテナを張って、自分たちが戦える場所で3×3のレベルをあげていくこと。私たちはそれがきっと何かにつながると信じて続けていきたい」と話していたことも、彼女の3×3に懸ける気持ちを改めて表現している。現状、女子は男子と違って世界へ続くルートが限定的であり、国別代表に選ばれる以外はほぼ道はない。国内大会にWリーグを筆頭とした代表レベルの有力選手が参戦することも極めて少ないのだ。女子の3×3シーンに注目が集まるフックが少ない中で、盛り上げていくためには、まず自分たちが先頭に立つ意識が明確なのだ。なんせ、この思いは五輪前からあったもの。4月の時点で、女子のクラブチームに世界で戦う舞台がほぼ無いことについて、桂に投げかけてみると、次のように答えていた。
「私たちはできる環境で上手くなり続ける。業界が盛り上がるかどうは必ずしも強いだけではないと思います。自分への戒めも含めて、落合さんのような(競技のアイコンとなる)選手が女子からも出てくると、メディアに取り上げられやすいでしょうし、人の目に触れる機会も増えて盛り上がるのではないかと思います。見ている人をワクワクさせるようなバスケットをしていれば、世界に道が開けたときに、チャレンジもできると思います」
常々、抱いていた“いまできる環境で上手くなる”という思い。これがあったからこそ、桂が今回のMVPインタビューに込めた思いはより一層強くなっていると受け取れた。未来につなげるため、まずは目の前の練習、試合に全力を注ぐ日々がこれからも続いていく。
彼ら彼女らが王者になったからこそ
このように現場の選手たちは、3×3に情熱を注ぎ、競技の発展を願って、国内シーンでプレーし続けている。本稿ではBEEFMANの桂と、BREXのYOSKに言及したが、この他にも数多くの選手、チームが同じ思いを持っているはずだ。最もスポットライトが当たるポジションはオリンピックの日本代表だろうが、それだけでは競技の未来は描きずらい。常に3×3ができる環境をセットする方々がいたうえで、真剣にプレーする第一線の選手たちや、そこを目指す次世代の選手たちがどんどん出てくる必要がある。競技シーンを作る主役たちに、スポットライトがもっと当たっていいはずだ。
また矛盾するが、情熱や思いがいつまでもフォーカスされるのは違和感を覚える。絶対に必要な要素ではあるが、それがあった上で競技の発展に向けたロードマップが描かれ、そこに人材とお金が集まったり、生まれたりする流れが理想的だ。これからは一緒に語られるもの。これまでの日本の3×3は競技に懸ける選手や関係者が強力な推進力となってシーンを引っ張り続けた。自国開催のオリンピックは追い風にはなったが、ゴールではない。そのためコロナ禍の現在、たとえば2024年のパリオリンピックに向けて競技シーンの活性化を期待する場合、同じやり方でいいのだろうか。「3×3を盛り上げたい」「メジャーにしたい」という声が数多くあがる、このタイミングだからこそ、携わる者たちが、いま一度3×3の未来を考え、発信するときが来ている気がしてならない。PLAYOFFSで彼ら彼女らがチャンピオンになったからこそ、そう感じたのであった。
- 五輪終わりの今、BEEFMANとBREXが3x3王者になったからこそ……
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TEXT by Hiroyuki Ohashi