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  • 2021.10.12

5人制と3人制を行き来するトライフープ岡山の率直な思い

5人制と3人制を行き来する「選手」と言えばーーまず落合知也(越谷アルファーズ/TOKYO DIME)を思い浮かべる方が多いだろう。では、それを体現する「チーム」と言えばどこか?きっとトライフープ岡山ではないだろうか。競技シーンをけん引し続ける岡山のヘッドコーチ、選手に率直な思いを聞いてきた。3×3の未来を考える手がかりになればと思って。

チーム誕生の起源は3×3
 B3所属のトライフープ岡山はチームとして5人制と3人制を行き来する。5人制の所属で、今シーズンの3×3.EXE PREMIERを戦ったメンバーは、長谷川聖(#24)、小堺翼(#16)、向井祐介(#22)、川満寿史(#9)の4人。そこにジョシュア・クロフォードが加わった(現アースフレンズ東京Z)。前村雄大(#3)のように他の3×3チームで活動したケースもある。B1からB3まで全国に51のプロクラブがある中で、彼らの活動は稀有であり、競技シーンの未来を考えると、無くてはならない存在に思えてならない。



 チームの起源は2014年にさかのぼる。現在、代表を務める中島聡氏が選手兼薬剤師だった頃に、レンタルコート業を立ち上げたことがはじまりだ。2015年にはTRYHOOP OKAYAMA.EXEを発足し、開幕2シーズン目のプロリーグである3×3.EXE PREMIERに参戦。いま5人制チームで指揮を執る比留木謙司氏も同年から合流し、当時5人制の所属は別にあったものの、3人制では岡山のチーム作りや、地元の盛り上げに尽力した。戦績においても強豪として存在感を高め、2016年と2017年には宇都宮で開催されたクラブ世界No.1を決めるツアー大会『FIBA 3×3 World Tour』に「OKAYAMA」として出場した。
 

 そして2018年に5人制チームを立ち上げ、2019-20シーズンにはB3へ参入。昨シーズンはB3で2位になったことで、2022-23シーズンのB2昇格に大きく前進した。先月9月11日に開催された3×3の国内主要大会の優勝決定戦『3×3.EXE PREMIER JAPAN 2021 PLAYOFFS presented by PORSCHE』では、UTSUNOMIYA BREX.EXEに敗れて準優勝だったものの、チームとしては初の決勝へ進出。3人制からはじまった地方クラブがBリーグで結果を残し、ルーツの3×3でも歴史を作る。それもわずか1年の間に。なかなかできる芸当ではない。

行き来する選手たちの声
 では、5人制と3人制をクロスオーバーする「選手」と「クラブ」は、それぞれ3×3をどうとらえているのだろうか。まず前者の声を聞いた。5人制でキャプテンを務める小堺とシューターの向井は、3×3をプレーするメリットや期待感をこう語ってくれた。

「やっぱり3人制は体の当たりやルールが5人制と違うので新鮮で、楽しいです。それにトライフープは強いチーム。その中でプレーできるだけでモチベーションですね。5人制のシーズンに向けてコンディションを上げるうえでも、とてもと言うか、それ以上にキツイぐらいなんですけど、本当に良い経験をしています。ハードにやり続けるのが大切な競技なので、“やり続けること”は5人制にもいきると思います」(小堺)

「5人制のポジションで言えば、僕はシューターなので、どうしても他の選手が(プレーを)作ってくれて、パスが来た状態で自分の判断になるんですけど、3人制になるとハンドラーなので、ゲームを組み立てから判断を担っています。5人制につながりますし、3人制でも結果を残したいです。もちろんハードですけど、 3人制の経験が5人制にも絶対にいきてくる気持ちでやっています 」(向井)

 また競技力を高めるうえで、5人制のシーズンでは対戦しないカテゴリーの選手たちとマッチアップできることも魅力のようだ。向井へ学生時代に対戦した藤髙宗一郎(バンビシャス奈良/OSAKA DIME)と、再び同じコートで戦えることについて話題を向けると「カテゴリーが上の選手とマッチアップすることで自分が成長できる場所であると、とらえてやっています」と明かした。

比留木HCが語る両立の意義
 一方で、所属クラブは3×3に取り組む意義について、どう考えているのか。5人制のヘッドコーチとして現場を預かり、選手としても今シーズン、3STORM HIROSHIMA.EXEでプレーした比留木謙司氏はクラブを運営する目線と、選手として目線で、それぞれ語った。
まず前者で言えば「ファンのためのコンテンツという意味合いが大きい」とし「1年間を通して岡山の皆さん、全国の皆さんにトライフープの選手たち、トライフープのバスケットを見ていただくことは、重要なことだと僕は考えています」と、プロクラブとしてのあり方に言及した。

 そして後者についてはメリットとデメリットを判断したうえで「プラスのほうが大きい」という結論の下に、チームとして取り組んでいる。

「デメリットは、例えば選手が怪我をするリスクや疲労があるでしょう。でも、それを差し置いてでも1分、1秒を争う経験値は代え難いものがあります。特に3人制はヘッドコーチがいるわけではないのでチームとして取り組まないといけない。長谷川や向井、小堺、川満がどういうバスケットをしていきたいかを話し合って、僕は助言をするだけです。そういった取り組みはプラスが大きいという判断で、5人制のシーズンを迎えるギリギリまでやることを許可しています」

 ここで比留木氏が「ギリギリ」までと表現したように、この取材をしたPLAYOFFSは9月11日。もうBリーグのシーズン開幕まで1ヶ月を切った時期だ。例年、5人制のプロ選手はどうしても3×3の活動から離れなけれらず、レギュラーシーズンで好成績を収めたチームでさえもメンバー変更によって、3×3の優勝決定戦で勝てない過去があった。岡山でさえ、かつてはそうだったほどだ。ただ、この日は長谷川、向井、小堺がレギュラーシーズンに続いて参戦し準優勝。一夜開けた翌12日には5人制のメンバーと合流して、バンビシャス奈良とのプレシーズンゲームに出場した。奇しくも前日、対戦したOSAKA DIMEの藤髙も同じ状況だった。強行軍であるが、こういった選手やチームの存在があってこそ、熱い戦いが繰り広げられたのだ。

彼らが明かす率直な思い
 プロ選手たちの存在はレベルの高い3×3を生み出すために必要不可欠である。それゆえに、5人制と3人制を行き来する選手が増える将来を期待してしまうが、当事者からすれば、まだ時期尚早のようだ。「夏は3人制は認めますというチームがあれば、競技力は上がっていくと思います」と比留木氏は話した一方で、課題も指摘した。

 例えば、選手の報酬である。比留木氏は「選手たちの体も時間も無限ではなく(ケガの)リスクもヘッジしないといけないと考えた時に もっと選手たちへお金を払っていけるような、コンテンツにしていかないといけない」と話す。加えてBリーグの年俸が上がっていることに触れて「(例えば)2,000万円の年俸を稼いでいる選手が(3×3でひと夏)150万円のために(ケガなどで)2,000万円を棒に振るリスクを負うかと言えば、なかなかそういうことはないだろう」とも述べる。東京オリンピックというひとつのゴールが過ぎ去った中で、マネタイズが難しいとされる競技の課題を、ひとつを浮き彫りにする。

 また魅力的な競技シーンを作っていくために、競技レベルと認知度の向上を図る必要性を説く。そのひとつとして、3×3.EXE PREMIERの場合で言えば、ロスター枠の拡大や柔軟な対応を期待した。もちろん、本人もプロリーグとして「公平性」を担保することに理解を示しつつも、過去に次のようなことがあったと打ち明けた。これを聞ければ、比留木氏がそう思うのも無理はない。たらればになるが、これは見たかった。

「実は3年前かな。NBA選手がトライフープ岡山で、単発でしたが3×3の試合に出たいと言ってくれたんです。ジョーダン・ハミルトンという去シーズン、Bリーグの滋賀でプレーして、今シーズンは熊本でプレーする選手です。ただ、リーグ側の判断で実現はしませんでした。だから、少しもったいないなって。そう言うコネクションを持っていることも実力の一つとして(とらえて)欲しいと思ってしまったんですよね。もしかしたらジョーダン・ハミルトンの次はゴードン・ヘイワードかもしれないし、その次はカイリー・アービングかもしれない。選手のつながりは、何があるか分からないじゃないですか」

 他方、選手の声に耳を傾けると、両立の難しさも聞こえきた。トライフープのようなチームがひとつのモデルケースになって欲しいが、5人制のオフ限定の活動ならまだしも、Bリーグのシーズンに入ってからはやはり簡単なことではない。昨シーズン、自身もB3のレギュラーシーズンを欠場して、3×3の大会に出場経験のある長谷川は、本音を明かすように語った。

「3×3を盛り上げる観点では、Bリーグのチームより、3人制のチームのほうが競技に集中ができて、僕は強くなることができると思います。僕らは5人制の選手を入れて、シーズンが重なるので、集中してやっていくことが難しい。(両立していくには)そこの問題をクリアしたいです……。BREXは5人制と3人制は違うチームで動いているので、ゲームで勝ちに行くのであれば、そうやっていかないと勝てないですよね。今日、決勝で戦って改めて思いました。BREXは3×3に懸けている。セルビアの(強豪)チームもそうですよね。個人的には、その垣根をどうにかしないといけないと思いました」

3×3で活躍した選手たちがBリーグへ
 このように5人制と3人制を両立する選手やチームは様々な思いを抱えている。プラスのほうが多いと判断し、トライフープ岡山はやっているわけであるが、これも3×3をクラブ誕生のルーツに持ち、代表からヘッドコーチ、選手までが、競技の魅力も可能性も知っているからこそ。1年を通してバスケを披露し続ける、彼らのバスケ熱は是非一度、体感して欲しい。キャプテンの小堺はシーズンに懸ける意気込み、アツく語っていた。

「(オリンピックで活躍した)日本代表のおかげで、バスケの注目度が上がっています。盛り上がりの火種を作ってもらったので、大きくするのは僕らです。今シーズン、B3もアルティーリ千葉や長崎ヴェルカなど力を入れているチームがいますが、あまりメンバーが変わっていない岡山としては今の実力を試すことができる良い機会です。貪欲にチャレンジしていきます」
 

 そして最後にトライフープ岡山の選手たちの他にも、数多くのBリーガーが3×3と行き来していたことを改めて伝えておきたい。筆頭は東京オリンピックの男子日本代表である落合知也(越谷アルファーズ/TOKYO DIME)であり、保岡龍斗(秋田ノーザンハピネッツ/BEEFMAN)。今シーズンの3×3.EXE PREMIERに参戦した小林大祐(アルティーリ千葉/UTSUNOMIYA BREX)や眞庭城聖(山形ワイヴァンズ/同)らであった。さらにPLAYOFFSに出場した藤髙からは「オリンピックが終わったあとでも、3×3を盛り上げたいという気持ちは変わらないです」と、引き続き競技の両立を目指す意気込みが寄せられた。もちろん、彼らが活躍できる背景には、Bリーグクラブの理解があってこそ。より良い競技環境はどうあるべきか引き続き携わる者たちが考えていく必要があるものの、まずは3×3を盛り上げてくれた選手たちがBリーグで活躍する姿にエールを送り、その試合を楽しんでいきたい。競技は違えど、バスケットボールの発展を願う皆の思いは変わらないはずだ。


5人制と3人制を行き来するトライフープ岡山の率直な思い

TEXT by Hiroyuki Ohashi

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