五輪出場を決めた3×3女子日本代表。激闘の予選を振り返る
オーストリアでの大一番を制し、3×3女子日本代表が東京オリンピックへの出場権を獲得した。準決勝で一度は敗れながらも、3位決定戦で見事なカムバック。彼女たちはどうプレッシャーを乗り越えたのか。帰国会見で寄せられた選手たちの声とともに、激闘を振り返る。
3位決定戦を制しTOKYO行きを決める
3×3女子日本代表が5月26日から30日にかけてオーストリアで開かれた東京オリンピックの予選会『FIBA 3×3 Olympic Qualifying Tournament 2021』(OQT)で20チーム中3位となり、本大会への出場権を獲得した。この大一番には馬瓜ステファニー(#3 /トヨタ自動車アンテロープス)、篠崎澪(#11/富士通レッドウェーブ)、西岡里紗(#15 /三菱電機コアラーズ)、山本麻衣(#23/トヨタ自動車アンテロープス)の4人で挑み、過去全敗のオーストラリアを破るなど4戦全勝で予選Poolを突破する。決勝トーナメントでは準々決勝でスイスを20-13で下し、TOKYOへの切符が懸かった準決勝のフランス戦を14-15で落とすものの、スペインとの3位決定戦でカムバック。延長戦の末に20-18で難敵に勝ち切り、決勝点を決めた馬瓜は大会MVPに選出された。
とりわけハイライトはなんと言っても、3位決定戦のスペイン戦だろう。ハンガリーでの世界最終予選(6/4-6)があったとは言え、負けたらOQTで切符獲得を逃す崖っぷちの一戦で、大会に入って初の1日で3試合目を迎えるタフな状況でもあった。ゲームも入りこそ先行したが残り2分を切って、12-17とリードを奪われて展開は苦しさを増す。
しかし、女子日本代表はここから粘りを見せ、無得点だったフランス戦から復活した篠崎が土壇場でこの試合チームトップの9得点目となるレイアップを決めて18-18の同点に追いつく。そして2点先取の延長戦では山本がフリースローを1本決めると、最後は馬瓜がカットインから相手のコンタクトを受けながらも決勝点をねじ込んで、歓喜の輪が生まれた。
左手と『必ず勝つ』に込めた思い
のちにFIBA(国際バスケットボール連盟)が発信した試合直後の写真をよく見ると、馬瓜の左手甲には『勝』の文字が書かれている。準決勝で敗れ、3位決定戦に向かうまでの約2時間半で気持ちを奮い立たせた現れのよう感じられた。6月1日に行われたOQT帰国後のオンライン会見で馬瓜はこれを次のように明かしてくれた。
「左手の“勝”という文字は今はもう消えかけていますが、山本選手に書いてもらいました。学生時代によくやるものだと思いますが、やっぱりこのように形にすることで、私たちの気持ちに少しでも変化を起こしたいという思いで書きました」
さらに3位決定戦の前にTwitterに投稿した『必ず勝つ。』というポストについては、こう語った。
必ず勝つ。
— Stephanie Mawuli 馬瓜 ステファニー (@stephaniemawuli) May 30, 2021
「フランス戦で負けてから、気持ちを切り替えなくてはいけない。ただ私たち自身はそう分かっていても、どこか(負けた気持ちを)引っ張ったらいけないとも思っていました。どこかで区切りをつけないといけないし、追い込まれた状況だからやるしかないので、宣言をすることで少しでも自分を奮い立たせたい思いでTwitter に投稿しました」
3位決定戦へ臨むまでに、彼女たちは気持ちの整理をつける模索があった。大きなプレッシャーに打ち勝つことは並大抵のことではないが、彼女たちはそれを乗り越えてコートに立ち、勝利を引き寄せた。馬瓜の『必ず勝つ。』という決意表明に、日本から応援をする多くのファンもさらに気合いが入った方も多かったのではないだろうか。
選手が語る。安堵感、感謝、嬉しさ
そして帰国会見で選手たちは出場権を獲得できたことによる安堵感や、サポートに対しての感謝、OQTをきっかけに3×3へ多くの目が向いた嬉しさを語った。
「今はすごくホッとしている気持ちです。オリンピック予選はとてもプレッシャーがありましたが、それを良い緊張感に変えました。最後まで集中力を切らさず、オリンピックの出場権を勝ち取ることができたので本当に良かったと思っています。たくさんの応援やサポートのおかげで今がある。本当に感謝をしています」(篠崎)
「女子の3×3だけが五輪の出場権が無い状況でプレッシャーもあった中、こうやって勝ち切れて(チームとして)自信につながったと思います。いろいろな方が応援をしてくださいました。今まで3×3を見たことがない方も、OQTをきっかけに知っていただき、興味を持ったという声がとても多くて、すごく嬉しいなと感じています」(西岡)
「すごくホッとしています。オリンピックの出場権を取ることができて本当に嬉しく思います。また日本から時差がある中で(応援をしてくださる方々が)たくさんのメッセージをくださいました。本当にそれが力になり、チーム一丸となって獲得できたオリンピックの出場権だと思っています」(山本)
「オリンピックへの出場権を取ることができましたが、私たちプレイヤーだけの力ではなくて、多くの方が協力をしてくださった結果だと思います。本当にまずは感謝という気持ちが大きいです。私たちは今大会でいろいろなことを吸収できました。やっとスタートラインに立てたことを誇りに思い、ここからもっと成長していきます」(馬瓜)
実った代表強化。表彰台へさらなる進化を
最後に、女子日本代表がOQTで五輪の切符を獲得できたことは、2018年を起点に3×3の女子代表強化が実ったひとつの結果であることも改めて触れておきたい。山本と馬瓜は2018年に23歳以下の3人制世界一を決める『FIBA 3×3 U23 World Cup』で準優勝を経験し、翌2019年にはその2人に西岡と、OQTで予備登録された永田萌絵(トヨタ自動車アンテロープス)が加わってワールドチャンピオンに。篠崎は女子の国別対抗戦である『FIBA 3×3 Women’s Series』を2019年に転戦し、もう一人の予備登録選手である田中真美子(富士通レッドウェーブ)も同大会や、23歳以下の国際大会で世界の3×3を体感した。チームを率いた長谷川誠コーチは、女子代表の成長をこう話す。
「彼女たちはもともと5人制の選手でしたが、国際大会の経験を積んでいろいろなことを学んだ成果が今大会で実ったということが大きくあります。また、ここ(帰国会見)にはいませんけれども、予備登録をした永田選手と田中選手も含めて、チームがひとつにまとまった成果が結果に結びついています。今後まだまだ伸びしろがありますので、オリンピックに向けて良いスタートが切れたと思っています」
ここで言う伸びしろは長谷川コーチ曰く、1試合10分の中で選手がいかに力を出し切れるかだという。OQTでは戦前、馬瓜が「切り替えの速さがすごい鍵になってくる」と話していたように、激しいディフェンスから、素早くオフェンスに転じスピードや機動力をいかしたドライブや2ポイントで仕掛ける戦い方が通用する姿を証明した。またチームとしてピック&ロールやスリップの精度を上げて1点を効率よく奪ったプレーが多かったことも2019年から進化を感じさせる。こういった日本の戦い方を、どの試合でも集中力を切らすことなく体現することを目指していく。
オリンピックが予定通り開催されれば、3×3の初日は7月24日。あと約7週間後に迫る。コーチも選手もOQTで手ごたえを感じており、馬瓜は「今大会を通じて日本のバスケットが表現できれば絶対に勝てる。私たちまだ100%ではない中で3位になれたので、伸びしろをまだまだ伸ばせば、確実に世界で勝てるチームは増えてくると思う」と今後に向けて意気込みを勝った。
檜舞台で表彰台を目指す3×3女子日本代表のさらなる進化が楽しみだ
※写真提供:FIBA
- 五輪出場を決めた3x3女子日本代表。激闘の予選を振り返る
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TEXT by Hiroyuki Ohashi