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  • 2019.11.23

3×3世界最強チーム Novi Sad、コーチが明かす勝者の理由

Novi Sad(ノビ サド)――
セルビアの首都・ベオグラードに次ぐ、第二の都市である。そして、この地名は、3×3世界最強チームを表すものでもある。これまで4度のクラブNo.1、同国代表としても4度のWorld Cup(以下W杯)制覇など、その称号に相応しい活躍をおさめる。今回、FIBA 3×3 World Tour Utsunomiya Finalで来日した同チームのコーチ、Danilo Lukic氏のお話を中心に、彼らの強さを紐解きたい。

結果を出す最強チームの顔ぶれ

世界の3×3シーンをリードし続けるNovi Sad。世界最高の選手・Dusan Bulutを筆頭に、Marko Savić、Dejan Majstorovicの3人が軸となる。ここにBulutやSavićと幼なじみで、現在はコーチ兼任のMarko Zderoや、2018年からはハンガリー代表のTamás Ivosevが加わった。そしてW杯も先の3人が主体となり、直近2大会では同国のLiman(リマン)から1人を迎えて、チームを編成している。

そんな顔ぶれをそろえて、2012年にスタートしたFIBA 3×3 World Tourにおいて、彼らは2014年にゼビオアリーナ仙台で開催されたFinalで初優勝を飾ると、翌2015年も連覇。そして昨年はMastersからFinal制覇に至るまで32連勝の偉業を打ち立て、先日(11/2-3)のUtsunomiya Finalで2度目の連覇を成し遂げた。さらに同国代表を務めて、W杯でも過去5大会で4度の頂点を極めている(2018、2017、2016、2012)※1 。

そんな最強集団には、選手兼任のZderoを含めて3人のコーチがいる。その一人であるLukic氏は、もともとMajstorovic のパーソナルコーチであったが、2014年からチームに加入。2016年からはナショナルチームのコーチも兼務する。今回のインタビューでは、開口一番に「そういったチーム(=Novi Sad)の一員として迎えて入れてもらっていることを光栄に思っています」と、話し始めてくれた。

コーチがフォーカスしている2つのこと

まず、彼らをコーチングでするうえで、Lukic氏が最もフォーカスしていることは何か?それは大きく2つあった。ひとつは、チームに寄り添い、一流のプレイヤーたちをさらなる高みへ導くこと。「No.1のチームを指導するにあたって気をつけていることは、チームとしての強さはありますので、だいたいのことは選手が理解しています。彼らが取りこぼしているディテールの部分をなるべく拾って、より良いチームにしていくことが僕の役割だと思っています」と話す。

そしてもうひとつは、気持ちの部分で入念な準備を行うことだという。「きちんと彼らがゲームに集中できるように、自信を持ってコートに立てるように、身体的より精神的な準備をさせてあげることが、僕の主な役割だと思っています」と明かす。とりわけ“精神的な準備”については、具体的に次のようにも言及する。「試合の場面だけでなく、練習のたびに、例えばシュート練習をしているときに、こういった練習をするともっと良くなるよ、というアドバイスをします。またシュートの打ち方を指導するだけでなく、これだけの練習をしているから、次の試合は絶対に練習をしているだけの見返りがあるはずだからと、(選手たちへ)励ましの言葉を掛け続けることで、彼らが自信を持ってコートに立てる環境を作っています」。

Lukic氏曰く、1日の練習時間はなんと“6時間”にも及ぶという。小生は通訳のサポートを受けての取材だったが、これには思わず「Six hours??」と拙い英語が口を突くほど。もちろん、これには全体練習やシューティング、リカバリーやスカウティングをすべて含んでいるが、恐らくどのチームよりも3×3に対して向き合っていると改めて感じさせられた。「それだけ練習に時間をかけているからこそ、彼らはできるんだと信じています。彼ら自身がオリンピックを夢みて練習をしていますし、すべてを注ぐ心づもりでやっています。そこも(私が)強い言葉をかけられる根底にあるものだと思っています」。チーム一丸となって圧倒的な努力を積み、それによって生まれた強靭なメンタルが、目標に向かう原動力になっている。

「BESTのなかでもBEST」の技術を磨くには

一方で、Novi Sadはバスケットボールの基本的な技術も非常に高い。FIBAのハイライトには彼らのプレーが過去に何度も登場するが、それも確かなスキルがあってこそ。話は少しさかのぼるが、昨夏、3x3男子日本代表はU-23世代の強化を兼ねてセルビアでBulutが主催するトレーニングキャンプへ参加。その遠征に行ったある若手選手は「国内で合宿するときはチーム練習が多いのですけど、あの合宿はほとんどスキルトレーニングばかりで、自分たちの普段なんとなくやっている技を本当に細かいところまで教えていただいた」と帰国後に振り返っていた。

じつはLukic氏も同キャンプに立ち会っており、「午前中はスキルトレーニングとシュート練習を行って、午後はピックアップゲーム」というセルビアのスタンダードの下、指導をされた。そして彼へ、「レッグスルー」の仕方ひとつとっても日本人選手にとっては印象的だったことをインタビュー中に伝えると、「このレベルの選手(=Dusan Bulut)になってくるとまさにディテールがものを言います。足の置き方、手の置き方、体の使い方の精度を高めることでBESTのなかでもBESTになれる。例えばDusanはうちの中でBESTのプレイヤーですが、毎日そこの精度をあげることに注力をしています」と教えてくれた。さらに、その中身にも言及。「繰り返し練習をすることは大事ですが、それが良いカタチのものを繰り返しすることが大事。そもそも悪い例で繰り返してしまうと、練習をしないほうがいい。良いものを身につけた上で、それを繰り返しやることが大事です」。日々、トレーニングに時間を費やしているが、ひとつひとつの練習には意味があり、こだわり抜いているからこそ、彼らのハイレベルな3×3は体現されていた。

勝者であり続ける理由

このようにNovi Sadが3×3の勝者としてあり続ける背景には、常に競技へ情熱を向け、時間を注ぎ、全力を傾けている姿があった。アメリカやラトビア、リトアニアなど各国が台頭して、勢力図の変化が激しい中でも、不動の地位を築いているが、その過程を考えれば、必然のことであったと言える。来年のプロサーキット、さらには東京オリンピックでゴールドメダルに最も近いチームであることは間違いない。最後にLukic氏の言葉でこの原稿を締めたいと思う。その理由がまさに集約されているものであった。

「正直言って、(WTは)どのチームも勝つ可能性があって、どのチームもトーナメンメントで優勝する可能性があって、どのチームだって1シーズンならチャンピオンになる可能性があります。ただ(2014年の優勝から)6年続けて(世界のトップチームであり続ける)ことは彼らの中になにか特別なものがある証拠です。特別なものは決してバスケボールのスキルではなく、やっぱり彼らのメンタル。頭の中に俺たちは“覇者”なんだ、という想いがあるから、このような結果が残せているんだと思います」。

※1. 「FIBA 3×3 Wordl Cup」は、2016年までは「FIBA 3×3 World Championships」として開催

TEXT by Hiroyuki Ohashi

取材協力:クロススポーツマーケティング株式会社/FIBA 3x3 World Tour Utsunomiya Final 2019実行委員会

FIBA 3x3 World Tour Final 2019

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