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  • 2020.11.23

3×3男子日本代表が再始動、指揮官が語った代表復帰組と来夏へのロードマップ

2021年夏に開催予定の東京オリンピックへ向けて、3×3男子日本代表チームが再始動した。11月16日に日本バスケットボール協会より発表された16名の候補選手たちが、同日から19日までの第1次強化合宿に参加。ここでは18日に行われたオンライン会見の取材を通して、ベテラン選手たちを招集した意図や合宿における効果、そして今後のプロセスを展望する。

3人の経験者「とてもキーになっている」
まず今回の顔ぶれを見ると、9月末に落合知也(越谷アルファーズ/TOKYO DIME)が「(11月に予定されている代表合宿は)まったく新しい合宿になると感じています。新しい選手も来るような気がすると思うし、またゼロからはじめるわけでは無いのですが、気を引き締め直したい」と、取材で話していたことを思い出した。

その言葉通り2020年度になって初の代表活動には、今年2月に招集した9名に加えて、初代表や代表復帰組らが7名に及んだ。アイザイア・マーフィー(広島ドラゴンフライズ)やエリエット・ドンリー (大阪エヴェッサ)の3×3未経験だがポテンシャルを買われた若手、さらには齊藤洋介(UTSUNOMIYA BREX.EXE)、鈴木慶太(TOKYO DIME)、眞庭城聖(茨城ロボッツ)の3×3国内ランキングTOP10に名を連ねる経験者たちを呼び寄せた。齊藤(以下YOSK)、鈴木が正式に候補選手として合宿へ参加するのは、昨年2月以来。眞庭は現体制となって、初めてとなる。

18日に開かれたオンライン会見でディレクターコーチのトーステン・ロイブル氏は、3名のベテランたちを招集した意図を次のように説明した。

「去年も2020年の東京オリンピックがあるということで、(彼らを)トライアウトに呼びました。ところがオリンピックが1年間、延期になったため、もう一度選手の実力を判断しないといけない。公平さ、オープンレースということを考えて招集しました」

加えて、彼らが合宿へ良い影響を与えていることも述べた。落合、小林大祐(茨城ロボッツ/ UTSUNOMIYA BREX.EXE)、小松昌弘(TOKYO DIME)に加えて3人がいることで、9カ月ぶりの活動にしては、練習にスムーズに取り組めている印象である。

「彼らは日本から世界に通用するトップランキングの選手です。3×3は経験が非常に大事で、チームに貢献できることも分かっています。彼らの貢献度が、どれぐらいあるかということも(合宿で)測っています。(今後16名からどの選手を選ぶか)選択肢は非常に難しくなっていくと思うのですが、実際の練習を見ていると、彼らの経験がとてもキーになっている。有効であると見えてきました」

3×3の国際経験に裏打ちされた助言のできる選手たちが増えることで、合宿のクオリティーはより一層上がるだろうし、5人制を主戦場とするBリーガーたちの学びも多くなる。選手たちの会見からも充実した合宿になっていることがうかがえた。

代表復帰のYOSKが合宿で感じたこと
とりわけ1年9カ月ぶりに代表復帰したYOSKのコメントは印象深い。彼は2019シーズンにUTSUNOMIYA BREX.EXEのリーダーとして国内外で結果を残しながらも、正式なメンバーとして合宿に呼ばれることから遠ざかっていた。しかし、ようやく挑戦の機会を手にしたのだ。「日本代表が世界と戦うために何が必要か。自分は3×3専門の選手なので、それを考えながらここに来ました」と心境を明かして、手ごたえや練習の様子を以下のように続けた。

「昨日(17日)練習終わりのハドルで(みんなに)少し話をさせてもらいました。『3×3ではこういうところをもっと重視してやったほうがいいよ』と。今日はそれを別のメンバーと組んでゲームをやったのですが、やっぱりどの選手も理解度が高くて、伝えたことをすぐに吸収してくれました。3×3に落とし込む能力が高く、素晴らしい選手が多いです。(正式な候補リストに載らない立場で)前回の合宿も参加したのですが、それよりも3×3に特化した戦い方、日本がどう戦うべきなのかを全員で理解しながらやっていると感じました」

この文脈で言う「こういうところ」は、彼がFIBA 3×3 World Tour MastersやChallengerといったプロサーキットなど数々の舞台で経験してきたこと。1対1やミスマッチばかりを突くのではなく、チームで相手を崩す。スクリーンやボールムーブで守備のズレを生み出して、簡単に1点を取る。あるいはマークを剥がして、2ポイントシュートのシチュエーションを多く作ること。そのためにはスペーシングや攻守の切り替えにおける動き方、相手との駆け引きなど、抑えるべきポイントがある。

藤高、松脇がともに挙げた印象に残った選手
また本会見には藤高宗一郎(バンビシャス奈良/OSAKA DIME.EXE)と、松脇圭志(富山グラウジーズ/HACHINOHE DIME.EXE)の2人も出席した。今合宿で印象に残った選手や、3×3が上達するヒントをくれた選手について尋ねると、YOSKの名前を挙げた。偶然にも彼とチームで組んで、試合形式の練習をしていたのだ。両名ともにオフは3×3で所属するDIMEグループの練習で、落合、小松、鈴木の3名から助言を受けているが、彼から吸収することも少なくなかった。

藤高が「本当にたくさんのアドバイスをいただいています。スペーシングや、いかにパスを速く回して自分たちで簡単に得点をするか、ということ学んでいます」と話せば、松脇も次のように明かした。

「YOSKさんを筆頭に、アドバイスいただいたことを僕たちがやった結果、勝ちにつながったゲームもありました。僕の場合はいま5人制をずっとやっているので、(3×3ならではの)体の当たりやスクリーンの掛け方などです。チームには(3×3初代表の)エリー(=エリエット・ドンリー)もいたので、彼に教えてもいらっしゃいましたね」

以前、小松がYOSKのことを「バスケの技術だけでなく、言葉のチョイスが上手ですね。周りの選手に影響を与える力がある」と語っていた。「経験」に基づいてチームをまとめる力、良き方向に導く力は、代表合宿でも発揮されていることを感じさせた。

ただ、本人からすれば道半ば。「味方をいかす。鼓舞する。その時々での言葉の選び方は意識していますが、チームメイトからの信頼をあげるためには、もう少し時間が必要だと思っています」と振り返った。日本代表が強くなるために力を尽くすことはもちろん、彼自身も認められ、選考に生き残って、オリンピックのコートに立つ目標がある。「もっともっと自分のパフォーマンスを高めて、いろいろな部分で信頼を勝ち取りたいです。その上でもっともっと重要な部分をしっかり話をしていきたいと思っています」と、再び訪れたチャンスを今度こそモノにする意気込みを示した。

オリンピックに向けたロードマップ
今後、3×3男子日本代表チームは国内合宿や、来春からはじまる国際バスケットボール連盟(FIBA)の国際大会を通して強化を図る。強豪国に迫るべく、ペースアップした展開の速いオフェンスで守備を打開して、内外角から得点を狙う。ディフェンスでは規律を持って、粘り強く戦うことが鍵になる。そしてロイブル氏は個々の高いパフォーマンスレベルを前提として、「一番重要なのは情熱」と選考のポイントを挙げている。

さらに来夏に向けたロードマップについて尋ねると、「非常に回答するのが難しい質問です」と前置きして、以下のように述べた。

「チームビルディングをするために、できるだけ早くチームを決定していかなければなりませんし、そのチームで国際大会などのゲームを経験することが重要です。来春の終わりごろまでには、ある程度(のメンバー)を決めなければならないと思っています。TOP10の顔ぶれを頭に入れ、個々のパフォーマンスレベルを見て、選手がTOP10にいるかどうかを比較していきます。できる限りランキング上位10人とパフォーマンスレベルの高い選手が合致してくることを望みつつ、そうならなかった場合は、(来春のメンバー)発表後でも対応するプランBみたいなものまで考えておく必要があると思っています」

現時点ではコロナ禍によってランキングの変動は凍結されているが、この要素が選考に入るため、難しい回答になることは無理もない。しかし、この言葉に基づけば、今回のメンバーが来夏に向けたベースとなるだろう。既報の通り、3×3の代表チームは4人のうち、2人を国内ランキングTOP10から選び、残り2人も一定の選出規定がある。FIBAのホームページによると国内ランキングでTOP50以内あるいは、男子は5,400ポイント、女子は3,600ポイントが必要である。五輪の選考対象となるランキングとポイントの確定日2021年6月21日となっているが、「(絞り込むメンバーの)決定を6月まで待つことはできないと思っています」と話している。「今まで合宿に参加した選手で、たまたま今回の合宿に参加できていない選手がいたならば、対象になると思います」と含みは持たせたが、3×3はチームとして共通認識と信頼関係を作り、練習と実践と反省を繰り返すことで、実力が磨かれる。時間を要するプロセスであるが故に、現段階では来春以降にTOP10に入ってきた新規選手や、サプライズの招集は見込みが薄いだろう。オープンレースは今合宿から来春まで。それがひとつの山場であると考えられる。


わずか4つの椅子をかけたサバイバル。誰が巡ってきたチャンスをつかみ取るのか。切磋琢磨できる環境で、世界で勝てる3×3男子日本代表チームが出来上がるプロセスを楽しみにしたい。

3x3男子日本代表が再始動、指揮官が語った代表復帰組と来夏へのロードマップ

TEXT by Hiroyuki Ohashi

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