日本のバスケットボールが再始動、コロナ禍から転じた“福”とこれからへ
新型コロナウイルスの感染拡大は、日本のバスケットボール界に大きな影響を与えた。いまなお、収束に向けた兆しははっきりと見えないが、こんな状況だからこそ新しく生まれることがある。カテゴリーの垣根を越えて、5人制、3人制、車いすの代表選手たちが、一堂に会する姿が広がったことだ。ひとつにまとまり、バスケが日常に戻ってくる光景に向けて、再び動き出した。
コロナ禍から転じた“福”
「カテゴリーを取っ払って、バスケットボール界が一丸となって、アクションを起こせたことはコロナがあったからこそだと思う」――これは8月16日に国立代々木競技場 第一体育館で開催された『BASKETBALL ACTION 2020 SHOWCASE』で、5人制男子日本代表の篠山竜青(川崎ブレイブサンダース)から発せられた言葉である。コロナ禍は世界中に大きな影響を与え、我々からバスケットボールを遠ざけた。
しかし、『禍転じて福と為す』。もちろん、感染が収束していないため、“福”と表現できないこともあるだろうが、初めて5人制、3人制、車いすの代表選手が集まり、無観客イベントとは言え、オンライン配信を通してファンにその姿を披露できたことは、日本バスケットボールの再始動を印象づけた“福”ではないだろうか。今まで場をともにすることはなかった日の丸を背負う者同士が、真剣に、時に楽しそうな表情を浮かべながらプレーした様子は、待望であり新鮮そのもの。「#バスケで日本を元気に」という合言葉を強く感じさせた。
車いす、3x3代表が見せ場を作る
代表と言えば、どうしても5人制にフォーカスがあたりがち。だが、注目を集める最初の主役は、車いすバスケットボールが務めた。4名の代表選手がデモンストレーションで、車いすを自由自在に扱ってシュートやパスを披露。オールコートを使ったタイムトライアルではキャプテンの豊島英(宮城MAX)が圧巻のスピードを見せた。終了後には、「バスケットボールという競技で、車いすバスケットボールが入って、このようなイベントを実現できたことが、本当に僕たち車いすバスケットボールプレーヤーとしては、ありがたいことです。今後につながる、良いきっかけになったのではないかと思っています」と、ファンに向けて語った。
続いて登場した3×3男女代表チーム。女子代表は5人制を含めて、トヨタ自動車アンテロープスから選手・スタッフが出場予定であったが、チーム関係者に新型コロナウィルス感染症罹患の疑いがあることが判明し、濃厚接触の可能性があるため出場を辞退(関係者はのちにPCR検査で陰性)。当初セットされていた7分ゲームから、3×3男子代表と車いす代表を交えたシュートトライアルになった。それでも篠崎澪(富士通レッドウェーブ)、田中真美子 (富士通 レッドウェーブ)、西岡里紗(三菱電機コアラーズ)の3人は、次々とシュートを決めて、ぶっちぎりの早さで勝利。「試合はできなかったのですが、こういったかたちで参加させていただいて、すごく楽しかったです。いろいろな方にバスケットボールを見ていただけたのは、良かったと思ってます」と篠崎は笑顔を見せた。5人制のWリーグの開幕(9/18)を約1ヶ月後に控えた中でも、3×3のボールにアジャストした様子はさすが。十分なインパクトを残した。
一方で、3×3男子代表は、小林大祐(茨城ロボッツ/UTUNOMIYA BREX.EXE)が「本当に待ってました!という感じでした」と振り返ったように、選手たちは気持ちの入ったゲームを展開。コロナ禍によって、国内外で開催される3×3の大会が延期、中止となっていただけに、「このような大変な状況の中、このような大会を催してくれた関係者の皆さまには本当に感謝しかありません。楽しかったです(小林)」と、充実感で一杯だった。
試合結果も、小林、杉浦佑成(島根スサノオマジック/TOKYO DIME)、藤高宗一郎(バンビシャス奈良/OSAKA DIME)、落合知也(越谷アルファーズ/TOKYO DIME)によるTeam Powerが、Team Actionを11-3で撃破。特に杉浦は見せ場なきシュートトライアルから一転、吹っ切れたようにハイライトを作ってみせた。加えて、Bリーグのオフ期間に、DIMEグループの合同練習へ参加したことも功を奏したと明かす。「小松選手や落合選手、鈴木慶太選手といった3×3のパイオニアたちと一緒にプレーできたことが、すごい大きかったです(杉浦)」と、短い夏の成果を実感した舞台にもなった。
とてもうなずけた、篠山の「もっともっとひとつになれるように」
そして男女5人制代表チームによる紅白戦がラストを飾った。まず前半(第1Q・2Q)は女子代表選手が登場。Team Actionの髙田真希(デンソーアイリス)が「久しぶりの代表としての試合でしたけど、すごく自分自身も楽しかったです。久しぶりにファンの皆さんの前でプレーできたことが、とても嬉しかった。試合内容も女子代表らしいプレーが、できたんじゃないかなと思っています」という感想が物語る通り、3ポイントシュートを軸に、テンポの速いハイスコアな攻防となった。Team Powerが56-49でTeam Actionをリードして折り返す。
熱を帯びたゲームは得点もそのままに、男子代表選手による後半(第3Q・4Q)へ。若手主体のTeam Powerがアイザイア・マーフィー(広島ドラゴンフライズ)や八村阿蓮(東海大学)らが輝きを見せたが、終盤に富樫勇樹 (千葉ジェッツ)や篠山らフル代表メンバーが主体のTeam Actionが逆転。試合をひっくり返して、96-86で貫録を見せた。
コロナ禍で、選手たちはコンディショニングなど難しさを抱える中でゲームへ臨んだ。それでも、初めての試みは、意義深く、今後につながる代えがたい経験を得た。篠山は「このイベントを第一歩として、日本のバスケボール界がもっともっとひとつになれるように、車いすバスケもそうですし、デフバスケットなど、いろんなカテゴリーがあります。まだまだひとつになって、いろんなことができるようになればと、改めて今日やってみて思いました」と会見で語った。
さらに、3人制と車いすバスケについて、篠山にその印象を尋ねれば、次のような回答も返ってきた。彼のコメントに通じる内容で、とてもうなずける。日の丸がついた代表のジャージに袖を通す者同士、気になるのだ。これからまた新たな取り組みが生まれかもしれないと考えると、本当に楽しみである。
「3人制に関しては、かなり早い段階から落合知也選手らが中心となって、やっていることを見ていました。女子に関しては、いまWJBLの選手が活躍する機会も増えていますけど、矢野良子選手をはじめ、本当に3×3専門でやっている選手も活躍していらっしゃいます。そういう切磋琢磨というのは、3×3の中ですごくあって、本当に世界でも活躍しているイメージを持っています。東京オリンピックでは5人制だけでなく、3人制でも世界を驚かせるような活躍ができるんじゃないか、という期待をすごく持っています」
「車いすバスケットボールについては、テレビで何年か前に観戦してからずっと応援していますし、井上雄彦先生が『リアル』という漫画を描いている影響があって、身近なところにありました。個人的に観戦した試合も、香西宏昭選手(NO EXCUSE)がめちゃくちゃ活躍していて、車いすさばきというか、車いす版のアンクルブレイクというか、そういう(すごいプレーを)をたくさん見てきました。本当に車いすバスケットボールのカッコ良さは実際に見たり、漫画を見て感じていたので、早くこのような機会を待っていたのが正直なところです。今日は香西選手と写真を撮りたかったのですが、叶わずで、ちょっと悔しいんですよ。僕自身も他のカテゴリーをすごく見ていますし、もっともっと交流を深めていきたい。正直な気持ちですね」
最終的な“福”を考える
代表選手たちによる共演は、あっという間に終わりを告げた。それぞれのカテゴリーでフルゲームが見たかった、と感じさせたほど。日本バスケットボール協会によると、バスケットLIVE およびスポーツナビによるライブ配信では、合計約75万視聴数 (※1)、ユニーク視聴数 (※2) は約35万を記録。会場の定員(1万人)を大きく超えた。またコートサイドの大型ビジョンには、有料応援プログラムの『AKATSUKI FIVE plus+』の会員の中から、抽選で50名のファンの様子が映し出された。あれは、新しい観戦スタイルにおける特等席というべきもので、ちょっと羨ましかった(笑)コロナ禍にあってもなお、『BASKETBALL ACTION 2020 SHOWCASE』では、様々な“福”がもたらされた1日となった。
ただ、やっぱり最終的な“福”は、バスケットボールが日常に戻ってくること。選手やファンで一杯になったアリーナであり、そこで得られる高揚感や一体感を味わうことだろう。今回、我々メディアも、感染防止対策の一環で、現地取材メディアとオンライン取材メディアに分けられている。当編集部は後者。画面越しに、十分ではないものの、試合の雰囲気は感じとることができたし、ZOOMによる会見も、大きなストレスはなし。3人制で言えば、コートサイドにDJ MIKO、MC MOJAがいることは、3×3のノーマルであった。それでも7月のTOKYO DIMEによるリモートマッチで感じたが、オフラインとオンラインは別物。今回はオフライン側になったからこそ、改めてバスケの雰囲気が恋しくもなった。
昨今の感染状況を考えれば、その脅威が消え去る兆しはまだ先になるのだろう。引き続き、個々ができる対策と収束を願いつつ、バスケに関わる人々がそれぞれの立場で、新たなスタイルに適応、楽しんでいきたい。これから困難な状況を少しずつ越えていき、再び集い、いつもの光景を見ることはできる。
(※1) 上記、 「視聴者数」 は、対象の動画の再生数。視聴者実数とは異なる。
(※2) 配信媒体毎のカウント数がUU数とUB数で異なるため、ユニーク視聴数と表現。
- 日本のバスケットボールが再始動、コロナ禍から転じた“福”とこれからへ
-
TEXT by Hiroyuki Ohashi