3×3の選手たちがいま思うこと vol.2 桂葵
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、東京オリンピックは来夏へ延期された。そして我々が愛するバスケットボールも現在、NBAはシーズン中断を余儀なくされ、Bリーグは2019-2020シーズンが打ち切り。今夏、オリンピックの正式種目としてデビューを迎えるはずだった3x3も、クラブ世界No.1決定戦であるFIBA 3x3 World Tour Masters やChallengerといったプロサーキットを筆頭に、春から予定されていた2020シーズンの大会は、あらゆるカテゴリーで延期や中止となった。
今回、日本の3x3シーンを代表する男女6名にオンラインや電話でインタビューを行った。思わぬ事態に直面したが、彼ら彼女たちがいま何を思い、昨シーズンの経験を糧に、新シーズンへ向けてどのように進もうとしているのか。第2回目は、3x3で競技復帰して3年目、バスケと商社勤務を両立する桂葵(湘南サンズ)に話を訊いた(取材日4/11)。
中止や延期に対しての正直な気持ち
新型コロナウイルスの影響で、出場予定だった3x3.EXE PREMIER WORLD GAMESが延期、3x3.EXE TOURNAMENT FINALが中止になりました。率直にどんなお気持ちだったでしょうか。
「正直に話しますと、私はホッとしました。なぜかと言うと、怪我でコンディションがあまり良くなかったんです。WORLD GAMESでのプレーは状態次第でした。ただ、大会が中止になっていたら悲しかったですが、延期なのでラッキーだと思っています。私の中には、ワクワクする気持ちが残っています」
そう考えると、去年の春先に代表選考合宿へ招集された時と同じですね。あのときも、最初の学生や3x3メインの選手たちによる合宿には怪我で行けず、次のWリーグの選手たちが参加した合宿でようやく参加。結果的に、よりレベルの高いメンバーと戦うことができて、“ラッキーかも”と言っていましたね。
「それ、ありましたね(笑)。まさにあの怪我が再発した感じでした。あまり一般的な感想ではないと思うのですが、いずれにしろ、あのときと同じ状況でラッキーだったというのは正直な気持ちとしてあります。ただ、中止になったTOURNAMENT FINALは、落ち込んでもいいと思うのですが、私はあまり悲観的ではなかったです。湘南サンズは2月の日本選手権が2019シーズンのひと区切りで、TOURNAMENTからまた新シーズンというとらえ方でやる予定でしたが、シーズン切り替えのタイミングにしては時間が足りなかった。日本選手権で負けて、メンバーのことや、練習の取り組み方、それぞれのコンディションなど、いろんな要素を踏まえて、すぐに新シーズンをみんなで闘いにいける状況ではありませんでした」
日本選手権で優勝できたらまた違ったのでしょうけど、負け方も悔しかったと思います。
「そうですね。すでに発表されていますが、湘南サンズは2020シーズンの3x3.EXE PREMIERに参戦しないことが決まっています。湘南サンズとしてどういう整理をつけていくか大枠は決まりつつも、正直、不安定さはチームにありました。大会中止は、チーム作りの観点から言うと救われましたというのが正直な気持ちです」
代表合宿を経験したことで・・・
そうだったんですね。一方で、2019年から今年にかけての競技復帰した2シーズン目は、1シーズン目よりも充実したシーズンだったと思います。代表合宿に招集され、PREMIERこそ結果がついてきませんでしたが、JAPAN TOURではラウンド優勝を重ねて、FINALでは日本一になりました。振り返ってみて、いかがでしたか。
「代表合宿が本当に楽しかったんですよ!4月の1次強化合宿で円陣のときにコメントを求められたときには、一緒に練習する選手や施設、生活面も含めて、こんな環境で3x3ができたことに幸せを感じていて、この合宿が終わってしまうことが寂しいです、という率直な感情を、みんなに話しました。Wリーグの選手たちからすると当たり前の日常だと思うのですが、あの場にいた私や(浅羽)麻子さんからしたら、あの環境は非日常なんです。この経験がシーズンのはじめに出来たことは、私にとって大きなことでしたし、物足りなさを知ってしまったという気持ちも生まれました」
それは代表合宿以降の、3x3シーズンが物足りなかったということですか。
「そうです。自分勝手なのですが、ワクワクしなかったんです。もちろん、ある瞬間ではワクワクすることはありましたが、代表合宿で味わった高揚感を自分で作り出すことに、すごく難しさを感じました。スタートのレベルが高かったので、そこを追い求めていましたね。一方で、あそこへ人の力を借りずに気持ちを上げていくには、自分の足りない部分がたくさんありました。ワクワクする難しさを、感じたシーズンでした」
確かに代表レベルを知ってしまうと、そういう気持ちになるのも自然な流れですね。でも、だからと言って、桂選手は競技復帰した当初より、本業があって、週末にはエキサイトできる3x3があるというライフスタイルを持っていました。それを崩したいとは思わなかったんですよね。
「結果的には思わなかったですけど、揺らいだ時期もありました。バスケってこんなにも楽しくて、もっと上手くなりたいと。代表合宿は3年のブランクを経て競技復帰した1年後にあり、体が持ち直してきて、ずっと成長過程にあった中での合宿だったんですよね。でも、そこで通用する部分も、通用しない部分もあった中で、ふと冷静に考えたんです。2018年から2019年の1年間はマイナスからのスタートで成長を感じましたけど、例えば2020年に向けたこの先の1年間、自分はスタートラインに立ったつもりだったけど、あの合宿に参加しているWリーグの選手たちは、私よりもさらに練習を重ねて、バスケに注ぐ時間の量は及ばないと。“みんなはどんどん上手くなっていく”と思うと、私もバスケメインの生活をしてみたいと想像したことはありましたね。当たり前ですけど、自分だけが成長しているわけではないですから」
いまその気持ちは落ち着いているんですか。
「落ち着きました。冷静に考えて、バスケが上手くなるのは楽しいけど、バスケで食べていきたいとは思っていなかったです。やっぱり、それ以外にも私は興味のある世界がありますから、頭でロジカルに考えると、迷いは無いです」
2020から2021へ向けて
現在は在宅勤務で、週末に仲間たちと練習をしたり、ゲームをしたり、バスケがない生活ですが、トレーニングはされているのですか。
「家で仕事をしたあと、ベランダでトレーニングして、外に走りにいって、ドリブルをついている感じです」
バスケ以外にも費やせる時間ができたと思いますが、何かやってみたいことはありますか。
「本を読んだり、改めて英語の勉強をしています」
英語の勉強は、仕事でもバスケでも使えるからですか。
「そうですね。私は、3x3で2021年に延期になった東京オリンピックを目指さないことにしました。そうなると、仕事で海外勤務の可能性が出てくるかもしれません。それを視野に入れて英語の勉強をしています」
目指さないのは、何か気持ちの変化があったのですか。
「代表合宿に1年前に参加して、トップレベルでやることの楽しさを改めて感じたんですよ。私のモチベーションは、自分がかなうか、かなわないか分からない選手たちとバスケをするような高揚感だったり、緊張感の中で生まれるゾクゾクした感覚です。そう思うと延期になった2021年に向けて、仮に3x3を1年間取り組んだとして、正直その高揚感に出会えるのか自信が持てなかったですし、自分で作り出せるイメージも湧かなかったです。もう一度、代表合宿へ絡んでいくとは思えないし、女子は男子と違って、国内を勝ち上がれば世界が見えるわけでもないですから」
3x3新シーズンでストリートを体現したい
2021を目指さないと言いましたが、引き続き3x3はやるんだと思います。いまの事態が改善すれば、バスケのある生活、3x3の新シーズンです。どういう気持ちで2020年はやっていこうと思っていますか。
「私は大学生のときに4年生でインカレ優勝、MVPに選ばれてバスケを辞めました。選手としてのピークで離れているんですよ。なので、恐らくひとつの区切りともなる今年は、復帰してからのピークに自分を持っていきたいですし、新シーズンはその自信があります。新型コロナウイルスが広がる前から、練習環境も大きく変えまして、2月の日本選手権が終わってからの1カ月でも、すごく成長した実感があります。私、めちゃくちゃレベルアップしてますから(笑)」
その言葉は、ファンや応援される方の期待値を上げますよ。コートで活躍する姿を楽しみにしています。
「コロナウイルスの影響がなく、練習をそのまま続けていればの感覚ですが、めっちゃ上手くなってる、まだ私いけるじゃん!という感じです。だから、オリンピックのことは関係なく、新シーズンはパワーアップした姿を見せたいし、ひとりのバスケットボール選手として、私が競技復帰したきっかけになったストリートが持つバスケに対する気持ちを表現していきたいですね。こうしてバスケットボールを頑張りたいと思ったきっかけである、ストリートの人たちに、“カッコイイじゃん”と言われるバスケがしたいです。私がバスケットボールに対するワクワクを取り戻したきっかけを、コートで体現していきます」
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TEXT by Hiroyuki Ohashi