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  • 2020.04.24

3×3の選手たちがいま思うこと vol.1 落合知也

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、東京オリンピックは来夏へ延期された。そして我々が愛するバスケットボールも現在、NBAはシーズン中断を余儀なくされ、Bリーグは2019-2020シーズンが打ち切り。今夏、オリンピックの正式種目としてデビューを迎えるはずだった3x3も、クラブ世界No.1決定戦であるFIBA 3x3 World Tour MastersやChallengerといったプロサーキットを筆頭に、春から予定されていた2020シーズンの大会は、あらゆるカテゴリーで延期や中止となった。

今回、日本の3x3シーンを代表する男女6名にオンラインや電話でインタビューを行った。思わぬ事態に直面したが、彼ら彼女たちがいま何を思い、昨シーズンの経験を糧に、新シーズンへ向けてどのように進もうとしているのか。第1回目は、3x3男子国内ランキング1位、日本代表をけん引する落合知也に話しを訊いた(取材日4/11)。

五輪延期も「ポジティブな人間なので」

東京オリンピックが2021年へ延期になりました。第一報を聞いて、どのように受け止めましたか。

「オリンピックへ出場するアスリートや、それを目指しているアスリートは、今年7月にコンディションを合わせるべくトレーニングをしてきたと思います。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大という世界的にも初めての状況に直面して、仮にオリンピックが開催されたとしても、多くの方が喜べなかったと思います。プレーする側も、モヤモヤしたままコートに立たないといけない状況だったでしょう。延期の判断は賢明であったと、受け止めています」

気持ちの切り替えに時間はかかりませんでしたか。

「個人としてはこの夏にすべてを懸けて、ベストコンディションに持っていける準備をしていました。先延ばしでまた1年間、戦わないといけないのか・・・という気持ちがあったのは事実です。ただ、僕はもともとポジティブな人間なので、また1年やってやる!という気持ちにはなりましたね。自分の弱点を克服して、強みを伸ばせる時間だととらえて、準備していきますよ」

やはり準備期間がしっかりと取れたことは大きいことなのですね。このように時間ができたことは、男子日本代表チームにとってもメリットではないでしょうか。

「まさにそこの部分で、僕はチームビルディングがしっかりできるようになると思います。代表チームにとって、プラス1年間はメリットです。今後、どのように強化活動が進んでいくのか、僕はまだ分からないのですが、オリンピックを目指している候補選手で、プロサーキットを転戦すれば日本の成長に直結するものだと感じています。実現できれば、メダルを狙える位置にも行けるでしょう。この準備期間が、組織として良い時間になるのではないかと期待しています」

この状況で、3x3は大会の延期や中止が発表されています。これによって、個人ランキングの元になるFIBAポイントが獲れない状況になっていますが、選手に対してFIBA(国際バスケットボール連盟)からこの扱いをどうするのか通達は来ているのでしょうか。ポイントシステムのルール上、ランキングに反映されるポイントは獲得した大会から1年間で失効です。テニスのプロツアーやバドミントン、ゴルフなど他競技では世界的に凍結の動きがあります。

「実はだいぶ前ですが、新型コロナウイルスの影響でプロサーキットが延期になりそうだと、僕は危機感を持っていたので、FIBAへメールをしたことがあります。当時は、いまのような事態では無かったので、回答の要旨としては、“いまのところはポイントに対して処置はなく、通常通りやっていきたい”ということでした。ただ、状況が毎日、刻一刻と変わっていくじゃないですか。ふと、自分のランキングを見たら、昨年4月のDoha Mastersで獲得したポイントが今年11月まで失効期限が延長になっていたんですよね。僕はポイントがホールドされたほうが良いのではないかと考えています。3x3は選手会がない競技ですから、もしそのような対応が無いのであれば、世界各国にいる選手たちと連絡を取り合って、FIBAとコミュニケーションを図りたいというアイディアも頭に浮かんでいたところです。いまは様子を見ています」

プロサーキットで得た手応えと課題

オリンピックは延期になりましたが、2020年に向けて落合選手は昨年、TOKYO DIMEの一員として、過去最多のプロサーキットを転戦しました。徐々に勝てる試合が増えてきましたが、その要因はどこにあると感じていますか。

「メンタルタフネスは一番、養われました。毎週のようにヨーロッパやアジアのプロサーキットを転戦しましたが、その都度、異なるタフな環境やいろんな状況にアジャストして戦わないといけない。そのうえで、世界の強いチームと毎週対戦するので、試合の強度に慣れたことがなによりの収穫でした。シーズンの始めはフィジカルの強さや、ディフェンスの激しい圧力を感じて、簡単に21点を奪われてノックアウトされましたが、それにもだんだん対応できるようになってくるんですよね。

また僕たちが大事にしたことは、みんなで試合のビデオを見て、反省して、みんなで言い合うことです。ミーティングで相手を細かく分析したことを、ゲームで体現できたことで、Huaian Challengerの3位(2019年7月)や、Penang Challenger(2019年5月)の4位、Sukhbaatar Challenger(2019年9月)でNew York Harlem(現世界ランキング4位)を倒すことに繋がるなど、手応えを得ることができました」

数ある試合の中でベストゲームを挙げるとしたら?

「Huaian Challengerの準々決勝で(2016年にWorld Tour Finalで優勝経験もある)Ljubljanaを倒したことです。これはファンの皆さんにも見てもらいたいのですが、その映像がYouTubeのFIBA 3x3チャンネルで見られなくて、僕も困ってます(笑)あの試合は本当に僕たちが相手の弱いところを突いて、自分たちのゲームプランを遂行できました。ヨーロッパ勢をなかなか倒せなかった中、僕たちのひとつ成功体験となりました。その後、New York Harlemを倒すことにも繋がったので、ターニングポイントと言えます」

成長を実感できた一方で、世界大会で優勝するために、海外トップチームと埋めていきたいギャップはどこでしょうか。

「やっぱり1点を簡単に取ることですね。これができば、2ポイントシュートをよりオープンな状況で打てる可能性も広がってきます。ここをもっと追及していかないと、プロサーキットでベスト4の常連に入ることはできないし、(昨年のWorld Tour Finalで優勝した)Novi Sadのような安定して強いチームに勝てないです。TOKYO DIMEは昨年、多くのピック&ロールを使って成果を残してきましたが、強豪相手でもスクリーンのタイミングや精度を高めて、4人全員がスクリーナーにもユーザーにもなることで、ギャップを埋めていきたいです」

3x3の自信によって5on5で飛躍

3x3の主戦場がプロサーキットになりましたが、5on5で所属する越谷アルファーズもB3からB2へ昇格したことで、戦うレベルが上がりました。両立は例年以上にタフだったと思いますが、個人スタッツは、出場時間、得点、リバウンド、アシストなどBリーグ4年目で過去最高を記録しています。振り返ってみて、いかがでしょうか。

「Bリーグでは、宇都宮ブレックスでB1、アルファーズではB3、B2という全てのカテゴリーでコートに立たせてもらって、素晴らしい経験となりました。プロバスケットボール選手のキャリアとして、良い歩みを得ている実感があります。クラブの目標である昇格プレーオフには届きませんでしたが、3x3の経験も生きて、相手の得点源である外国籍選手と毎試合のようにマッチアップして抑えることができたり、自分が点を決め切ることで、試合に勝つことが何回もありました。とても自信に繋がりましたし、アルファーズに入って、最もチームに貢献できたシーズンだと思っています」

スタッツを見ると、特に3ポイントシュートのアテンプトが増えていたことに目を引きます。

「相手の外国籍選手にマークされることが多かったので、外からのシュートを意識していました。3x3でも2ポイントシュートのアテンプトが増えて、成功率も良い手応えがあったので、これはすごい大きな武器になるなと。5on5でも生かせると自信を持って臨んだBリーグシーズンでした。実際に試合の大事な局面で決め切ったシュートが何本もありましたし、これによって相手が警戒してきてドライブも効いたので、どんどん自分の中でもスキルアップできたと感じています」

Bリーグはシーズンが打ち切りとなり、現在は例年より早いオフシーズンになっています。このような状況ですが、新シーズンに向けたトレーニングなど準備はできているのでしょうか。

「いまはアルファーズで練習場で、他の選手とトレーニングの時間帯が重ならないように予定を組んで、感染予防に務めながら、個人ワークアウトをしています。また普段からサポートしていただいているパーソナルトレーナーの指導を受けて、筋力アップにフォーカスした体作りをしているところです。例年より活動に制約があるのは確かですが、この状況でもトレーニングができることは恵まれていると思いますので、サポートいただく皆さまには本当に感謝の気持ちで一杯です」

無類のバスケ好きが見据える先は

ただ、思い切った活動ができず、いつものオフシーズンより、バスケットボール以外に割ける時間が多くなるのではないでしょうか。こんなときだからこそ、取り組んでみたいことはありますか。

「いやーこれがですね、僕はバスケのことを考えちゃいます。強いて言えばこれを機に、経済の勉強を考えていますが、やっぱりバスケのことばかりです。本当に好きですね。僕は法政大学を卒業後に、一旦は第一線から離れてストリートに行き、そこでまたバスケが好きになって戻ってきて、(4年前の)ブレックスで前十字靭帯を切る大怪我をしてバスケからまた離れて、そして今年はコロナウイルスで遠ざかりました。くっついては離れての波がとてもあるので、いまはバスケットボールの大切さを改めて認識しています。基本的にはバスケットボールが自分のベースですね」

では最後に、この先、新型コロナウイルスによる事態が改善されれば、バスケットボール、そして3x3が再び戻ってきます。新シーズンへ向けた抱負、さらには東京オリンピックへ向けた意気込みをお聞かせください。

「今後、どうなるか分からないですけど、どんな状況でもベストパフォーマンスを出して、アジャストできる選手が勝ち残っていけると思います。常にトップを走って、やっていきたいです。そしてなによりも直近の最大の目標が、東京オリンピックに出場して金メダルを獲ることです。それに向けた試合がいつ再開になるか分かりませんが、毎日120%の準備をしていきます」

3x3の選手たちがいま思うこと vol.1

落合知也
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TEXT by Hiroyuki Ohashi

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