ニューヨークでの3×3奮闘記……「Red Bull Half Court 2024 World Final」に挑戦した日本代表チームたち
レッドブルが主催する3x3の世界No.1決定戦「Red Bull Half Court 2024 World Final」が、現地時間10月19日(土)、20日(日)にアメリカ・ニューヨークで開催された。今大会には各国の予選を勝ち抜いた男子20チーム、女子13チームが集結。その中で日本代表として出場した女子・TOKYO VERDYは2年前のG-FLOW以来となるチャンピオンに輝き、男子・HIU ZEROCKETSも3位に。マンハッタン島を望むブルックリン ブリッジパークにセットされた特設コートで奮闘した選手たちに迫る。
出発前にケガ、現地で出鼻をくじかれる
ニューヨークへのフライトを翌日に控えた日本時間10月16日(木)――TOKYO VERDYの吉武忍は焦っていた。楽しみにしていた「Red Bull Half Court 2024 World Final」が近づく中、ふくらはぎのケガを負ってしまったのだ。しかも「ギリギリ歩けないぐらい。コートに立てるかどうかも分からない」と言う程度の重い状態だった。チームのSNSを通じて出国前には笑顔の選手たちが垣間見えたが、その裏で不安を抱えていたのだ。
ただ今回は、2年前にG-FLOWとして「Red Bull Half Court 2022 World Final」を制覇した吉武、矢上若菜、八木希沙の3人と、当時は仕事の都合で出場を見合わせた井齋沙耶の4人で大舞台へ挑戦できるまたとない機会。吉武は「みんなと力を合わせて大会を乗り越えたいという気持ちがあった」と言う。チャレンジャー精神でもう一度「優勝」するために、彼女たちはアメリカへ乗り込んでいった。
現地時間18日(金)、13チームが出場した女子カテゴリーでは組み合わせ抽選が行われ、TOKYO VERDYは予選グループAへ。チームは難しい状況だったが、ロケーションには恵まれた。八木は「コートの背景にニューヨークのビル群があって、太陽がさんさんと降り注いでいました。しかもラッキーなことに予選から全試合メインコートで試合ができたので、めちゃくちゃ良かった」と思い出す。
そして現地時間19日、2度目のワールドチャンピオンを目指す戦いが幕を開けた。一筋縄ではいかない道のりと痛感させられる出来事は、初戦のベルギー戦で早くもやってくる。日本の3x3シーンで活躍し、ドイツで5人制の選手兼コーチとして活動する前田有香が立ちはだかったのだ。
勝って勢いをつけたいところだったが、リードする展開から一転、延長戦の末に14-15で敗戦。矢上は「出鼻くじかれた」と苦笑いした。吉武も「マジでそのシュートも入る!?みたいなシュートも入ったんです。有香様だと思うようなやられ方をして、大逆転負けをして悔しかったです」と話した。
体格差を跳ね返し、チームで2度目の頂点へ
それでもクウェートに21-17でKO勝ちし、屈強な選手がそろったウクライナには延長戦の末に11-9で勝ち切った。イタリアには11-13であと一歩及ばなかったが、彼女たちは2勝2敗の予選グループA 2位通過で準々決勝から始まる決勝トーナメントへ進出。体格差を跳ね返した背景には、G-FLOW時代から積み上げたチームワークと機動力、バスケIQを駆使して戦う3x3があった。
吉武が「3年間同じメンバーでやっているのでスクリーンやスペーシングを使って、その次の動きに派生していけるようなチームとしてやってきた成果が出た」と言う。八木も、強豪チームがそろった予選を経験できたことで、2日目に向けて「攻め方、守り方をしっかり4人ですり合わせできたのが良かった」と当時の様子を明かした。
現地時間20日の準々決勝では再びクウェートを12-10で破り、準決勝でイタリアも2度目の対戦で15-6で撃破。この試合、吉武が試合序盤に頭を打って一時コートを後にし、矢上は「もう3人で戦わなきゃいけない」と覚悟した瞬間もあったという。再びのアクシデントで万事休すか。
ところが、メディカルチェックを経て彼女はひょうひょうとゲームへ復帰。しかも、ケガをしてたのが嘘のように、本人の動きに躍動感が蘇ったのだ。コートで奮闘していた3人も「やっぱり足が痛いのかなと思っていたら、忍の動きが変わったんです。いつもの忍に戻って行けるぞ!って」勇気づけられた。
そして、決勝ではフィリピンに11-8で競り勝ち、TOKYO VERDYに歓喜の輪が生まれた。2年ごしの優勝を叶えた井齋は、矢上ら3人がエジプトで世界一を獲っていただけに「プレッシャーを感じて、いつも以上に緊張していた」そうだが「みんなから世界一おめでとう!と言ってもらえて、世界一になったという実感が湧きました」と喜びを明かす。矢上も勢いで優勝した2022年大会と違って、今回は“ちょっとだけ”プレッシャーもあったと言うが、4人で勝ち獲った結果をかみしめた。彼女たちはニューヨークを糧に、まだまだ強くなりそうだ。
「国内大会以上に楽しんで、戦い方もよりオフェンシブに戦いました。自分たちで試合の映像を撮って、みんなで見ながら“このチームはこうしようね”と戦い方のアジャストがしっかりできた大会でしたね。チームとして次につながるような試合だったと思います」
戦前にビザの問題…メンバーを変えて大会へ
一方で、男子のHIU ZEROCKETSも戦前、問題を抱えていた。4人のうち、草野佑太、井後健矢、松澤大晃という日本人選手こそ7月のJapan Finalと同じだったが、その優勝に大きく貢献したセルビア生まれのDušan Simjanovskiが合流できなかった。ビザの問題だったという。
その代打に、草野と付き合いが長く、クロアチア生まれのDean Popovićを迎えたが、ほかの2人はニューヨークで初対面。チームの練度が求められる3x3で初のラインナップだったため、草野も「4人でプレーを合わせる時間がなく、大会を迎えたので難しい状況だった」と、その苦労を隠さなかった。
それでも20チームが出場した男子カテゴリーでHIU ZEROCKETSは奮闘を見せる。予選グループCの初戦でエジプトに19-9で快勝すると、カザフスタンにも20-17で競り勝った。セルビアには13-16で破れたものの、4チームの中で最多得点を叩き出し、独自ルールのオウンザコートボーナスを獲得して勝ち点を積み上げ、グループCの1位で準々決勝へ。試合を重ねるごとに「お互いのコミュニケーションからプレーの練度は上がっていった」と、草野は振り返る。
加えて、井後は「予選グループでセルビアがカザフスタンとロースコアな結果になった影響で、自分たちは1位通過するためにセルビアの得点を抑えて、得点を取らないといけなかった」と、勝ち上がる上での難しさを明かした。
世界3位も悔しさ…戦いは2025年ドバイへ
そして準々決勝では、オーストラリアを14-13で振り切った。松澤は「3点差で勝っていたけど(大会独自の)3ポイントシュートで一気に同点へ戻された場面は、この大会ならではのことで苦労した」と明かしたが、日本勢として2年ぶりの4強へ。準決勝で開催国のアメリカへ挑んだ。
しかし、完全アウェーの中で試合早々に連続して2ポイントシュートを浴びて大苦戦。井後は「すごく気持ちがシュートに乗っていて、それは戦術をも超えてくる」と、その戦況を表現し、草野も脱帽するしかなかった。
「アメリカのシューターは印象に残っています。だいたい1分で5本の2ポイントシュートを決められて、10-0のランでゲームが始まる衝撃を受けました。ホームで負けられない中であのパフォーマンスをしてくるのはすごいとしか言いようがない。オープンで打たせたわけではなかったけど、あれだけのパフォーマンスができるのは日ごろの準備と、試合のメンタルの作り方も上手なんだと思いました」
彼らは序盤の劣勢を覆して延長戦に持ち込むほど食い下がったが、17-18で敗退。しかし、ブルックリン ブリッジパークのオーディエンスはこのしびれるゲームに、今大会一番の盛り上がりを見せた。世界3位という最終順位も、2022年大会で準優勝したBEEFMANに次ぐ好成績である。
だが、草野はともに戦ったTOKYO VERDYがワールドチャンピオンに輝き、自分たちが善戦したセルビアとアメリカが決勝で優勝を争った姿を見て、リスペクトを持ちつつも、自分たちの結果に唇を噛んだ。「自分たちも世界一を獲れる可能性があったと思うとすごく悔しい」と。これから強豪との差をどれだけ埋められるか。松澤は印象に残った対戦相手として、セルビアを挙げて「3x3の戦い方を非常に高いレベルで理解している」とコメント。通算3度目の大会制覇と成し遂げた3x3大国から得た経験も成長の糧にする。
来年の舞台はアラブ首長国連邦のドバイ。「Red Bull Half Court 2025 World Final」に向けた挑戦は、もう始まっている。
Coverage by Rintaro Akimoto
Text by Hiroyuki Ohashi