【HERO OF WINTER CUP 2023】崎濱秀斗(福岡第一高校)
決勝のコートに入る直前、崎濱秀斗は右足のももをトントンと小さく叩いた。
(負担かけたな。最後だぞ。粘ってくれ)
そんな思いを込めた。
仲間たちを奮い立たせる。対戦相手を折る。心にまで訴えかける数々のシュートを沈め、昨年あと一歩届かなかった頂点に上り詰めた崎濱は、大会直前まで出場すら危ぶまれる立場にいた。
9月中旬、試合で左足を骨折し、全治3カ月の診断を受けた。
故郷の沖縄に戻って懸命のリハビリを行い、チームに合流したのは12月初旬。実際にプレーを合わせるようになったのは中旬から。大会序盤はプレーに多少の躊躇が感じられたが、試合を重ねるごとに本来の思い切りの良さを取り戻していった。
「正直自分でも驚いていて、あんまり優勝したという実感はないんです」
表彰式後の取材で崎濱はこのように語ったが、これは謙遜ではなく偽らざる本音なのだろう。
とはいえ、やれることは全力でやってきたという自負はある。
今大会、福岡第一がもっとも苦戦した準々決勝の東山戦。崎濱は序盤からシュートタッチが上がらず、1対1からのプルアップスリーをことごとく落としていた。
エースのブレーキが手伝ってか、試合はひたすらに東山優勢で進んでいく。しかし、じわじわと点差を縮めた第4クォーター残り1分28秒、崎濱はこの日10本目となる3ポイントシュートを打ち、それを初めて成功させた。
1点差。さらに残り27秒、11本目の3ポイントシュートもリングに吸い込まれた。
逆転。東京体育館はつんざくような悲鳴と歓声に包まれ、福岡第一はそのまま勝利になだれ込んだ。
高校卒業後は『スラムダンク奨学生』としてアメリカに渡る。より高い場所を目指す崎濱にとって、このシュートの確率とプレーの判断は決して褒められたものではない(本人も翌日、逆転シュートよりも外したシュートに落ち込んだと話していた)。
しかし、何度失敗しようとも、打って打って打ち続けたその気持ちの強さ。そして、最後の最後にそれを決め切ってチームを勝利に導いた力は称賛に値するものだ。
「『クラッチタイムは自分が決める』という思いは強いですか?」
そう尋ねると、崎濱は言った。
「シューティングは誰よりもしてる自信がありますし、今年から学生コーチをやっている元行秋が朝の5時半からずっとシューティングに付き合ってくれたから、そういう自信が生まれました。僕だけの力でなく、彼の力でもあると思います」
取材では何度も「部員115人を背負っている」と繰り返した。シューズには大会直前のケガでエントリーを外れた同級生、上山悠太と森一秀の番号を「Be Strong」という言葉でつないだ。
自分自身のために打つ。当然、思惑はある。昨年3月に福岡第一の先輩にあたる河村勇輝から「シュートを打ち続けるメンタルがないと高いレベルでは生きていけない」とアドバイスを受け、その意識を持つよう心がけた。
しかし、決して独りよがりではない。仲間たちを思っているからこそ、どんな結末になろうと最後は自分がやるのだと決めている。そこに崎濱の強さの根幹があるのだと思う。
シャイな性格。言葉数も多くない。昨年のU18トップリーグ優勝会見では、あまりのたどたどしい受け答えに、報道陣が若干ざわついた記憶がある。
ただ、そのプレーや体格が示すように、崎濱は太い芯を備えた青年だ。
コロナ禍で自粛期間を余儀なくされた中学3年生のある日。安藤誓哉の海外挑戦に関する動画を見てアメリカ留学を志し、英語の勉強を始めた。
本人の口ぶりから察するに、日頃から勉強熱心というわけではない。しかし、単語を覚えたり、オンライン英会話を受講したりして、自らの意志でコツコツと力をたくわえた。練習時間が長いことで知られる福岡第一に入学した後も、2時間程度の勉強時間を確保。今は留学生の通訳を担えるほどのレベルになっている。
YouTubeで、崎濱が英語で自己紹介をする動画を見た。流暢さもさることながら、日本語を話すときには見られない英語話者特有の表情の歪み(崎濱の場合は左眉が歪む)すらも取得しているのに驚いた。
リハビリ期間中も、自ら行動を起こした。
同じく大切な大会ーーワールドカップが間近に迫った時期に怪我をした河村に電話し、日々の過ごし方を聞いた。テレビ局の取材に対し、崎濱は「あのアドバイスがなかったら今の自分はない」と話しているが、これを引き寄せたのは崎濱の力だ。
4月からはアメリカに渡り、9月からの本格的なシーズンインに備えた準備を行う。勝負は最初の1年。渡邊雄太が在籍していたプレップスクール(大学進学準備校)セント・トーマスモア・スクールでアピールし、NCAAディビジョン1のトップ100に名を連ねる大学に編入することが最大のミッションとなる。
「アメリカでシャイだとなかなか大変だと思うけれど、そのあたりはどうですか?」
記者に問われ、崎濱は「シャイだったらたぶん生きていけないんで」と笑った。
自ら行動を起こし、真っ当な努力を重ねる術をきちんと知っている崎濱なら、きっと乗り越えていけるはずだ。
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TEXT by miho awokie