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  • 2024.01.11

【HEROINE OF WINTER CUP 2023】堀内桜花(京都精華学園高校)

多彩なパス、軽やかなペイントアタック、そしてチャーミングなルックス。

細身な高校生の一挙手一投足に心を奪われた。

2020年のウインターカップ。京都精華学園として初の決勝進出を果たした直後、1年生ながら司令塔を務める堀内桜花は、喜びを一気にまくしたてた。とびきりの笑顔と鈴を転がすような声、そしてバリバリの関西弁。「おしゃべりだね」と声をかけると「すいません」と笑って肩をすくめた。

翌日の決勝戦は4点差で敗れた。残り16秒、望みをかけたオフェンスでターンオーバーを犯した堀内は、試合終了のブザーが鳴ってから長らく、小さな子どものように泣き続けた。悔しさのあまり、表彰式を待つ間に手渡されたメダルをなかなか首にかけようとしなかった。

2023年12月28日。京都精華学園は大会連覇とインターハイ、U18トップリーグ、ウインターカップの『シーズン三冠』を達成した。堀内の高校3年間における実績は、ウインターカップ準優勝が1回に、インターハイとウインターカップの優勝が2回ずつ。結果だけを見れば順風満帆としか言えないが、その陰ですさまじい乱高下に翻弄された3年間だった。

付属中時代から6年間にわたって堀内を指導した山本綱義コーチは、優勝記者会見でこう明かした。

「堀内は私が家内と中学1年から6年間、寮で預かってきました。6年前から変わらず優しい子です。そして、ともすれば……壊れてしまうと言いますか。特に、高校2年生のときは怪我をしましたので。世界の大会に、夢のように描いていたところに行けなかった。毎日泣いて暮らしていました」

2年時の初夏、堀内はヨルダンで行われる『FIBA U16アジア選手権大会』のメンバーを疲労骨折を理由に辞退した。「いつか海外でプレーしたい」という夢の第一歩になるはずの大会だった。

山本コーチは当時の堀内についてこうも話した。「毎日、体育館の前で泣いてるんです。『入りなさい』と言ってもじーっとうつむいたままで」

筆者はアジア選手権が開催されているタイミングで、京都精華学園に取材に行っている。「別メニューで調整中」と説明された堀内の姿を認めたのは練習後に行った写真撮影のみだったが、数ヶ月前に見た花のような笑顔はなかった。「インスタのフォロワー、めちゃくちゃ増えたね」と声をかけても、困ったような表情で小さく笑うのみだった。

あのとき堀内は本当にギリギリな状態にいたのだと知り、胸が詰まった。

足が治ったあとも、気持ちはしばらく癒えなかった。この年、京都精華学園はインターハイとウインターカップで初優勝を果たしているが、堀内は「気持ちの部分がついてこなくて、自分のプレーはできなかったと思います」と振り返っている。

そのような状況から立ち直れたのはなぜだったのか。本人から明確な答えを聞くチャンスは残念ながらなかったが、山本コーチや本人の言葉、コート上での振る舞いを見るに、最上級生、そしてキャプテンとしての責任感にあったのではないかと思う。

決勝の岐阜女子戦では、下級生ガードの桃井優やセンターのディマロ・ジェシカに声をかける姿が多く見られた。特にホットラインを形成するディマロとのコミュニケーションは密で、コートに入る時は必ず身振り手振りをまじえてやり取りをしていた。

堀内にやり取りの内容を尋ねると、こう説明した。

「言ってたことはずっとディフェンスのことです。相手に3ポイントを打たせないようにってずっと伝えてました。やっぱり、思ったことは言わないといけない。言わずに後悔したくないと思って。何度もちゃんと伝えたら最後はわかってくれました」

4月1日生まれ。3人の兄がいる末っ子。過去の特集映像では「甘えん坊の妹キャラ」というようなニュアンスで紹介されることも多かったが、自身の弱さと向き合い、それを乗り越えた今は違う。「去年と今年を経験して、気持ちの部分で強くなったと思います」と話した。

山本コーチは「つらいときでも明るく振る舞えるようになった」と話す。

「ケガをして落ち込んでいる間、まわりはずっと堀内に気を遣っていました。私も最初は慰めていましたが、いつまでたっても変わらないので、周囲のことを慮りなさいと厳しいことを言いました。そこから吹っ切れたと思います。笑顔が増えましたし、周りを励ます余裕もできました。苦しいことから立ち上がろうとする姿は、部員たちに大きな感銘を与えたと思います」

山本コーチいわく、「0.5秒後に何が起こっているかを計算してプレーできる選手」。突出したバスケットボールIQと抜群の華を備えたスター候補は、高校卒業後にWリーグのシャンソン化粧品に進み、ゆくゆくは海外でのプレーを模索しているという。

繊細な花びらは激しい雨に散ることなく、それを受け止めて豊かな輝きをまとった。 そして、満開のときはまだまだ先だ。

【HEROINE OF WINTER CUP 2023】堀内桜花(京都精華学園高校)

TEXT by miho awokie

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