日本郵政 presents 『Real story behind 3×3』 vol.1 MC MAMUSHI & DJ MIKO
これは3人制バスケットボール、3x3(スリーエックススリー)に携わってきた人たちのストーリーである。このバスケは、2021年夏の東京オリンピックで世界的に注目を集めたが、その歴史は浅く、五輪の正式種目決定はわずか4年前の2017年だった。本連載では、日本で3x3を黎明期から支えた9人のこれまでと、これからの歩みや競技シーンに向けた思いを綴っていく。vol.1は、3x3の試合でMCを務めるMAMUSHIとDJのMIKOにフォーカスした。
3x3の第一印象は……
3x3の起源は、3on3(スリーオンスリー)として親しまれてきたバスケットボールだった。主なルールは3対3でやることぐらい。場所もリングが1つあればできるため、公園だったり、街中にあるスペースにリングを設置すればできる。言わば「ストリート」で、その場の選手たち、それをストリートで“ボーラー”と呼ぶが、彼らが自由にバスケで遊べることが3on3の魅力だった。
そして、これを2010年代はじめに国際バスケットボール連盟(FIBA)が全世界統一のルールを設けて競技化したことで、3x3が生まれたのだ。
MAMUSHIとMIKOは、その起源であるストリートで長くバスケに携わってきた。例えば「LEGEND」(レジェンド)と呼ばれる個人参戦型の3on3リーグ(2005年~2010年/2015年に1度だけ復活)や、いま全国に広がる「SOMECITY」(サムシティ)というチーム参戦型の3on3リーグ(2007年~)で、MCやDJとしてゲームを盛り上げた。
だから、ストリートから生まれた同じ3対3のバスケとは言え、ルールのある競技化された3x3に対して彼らの第一印象は、ポジティブではなかった。2014年に3x3と出会ったMIKOは当時について「ルールを覚えることに精一杯。こんな不思議なことをこれからやるのかと思いました」と回顧すれば、2012年に3x3の初現場を踏んだMAMUSHIも「正直、勘ぐっていましたね」と苦笑いを浮かべながら振り返る。ただ、ストリートの現場を一緒に作ってきた鈴木慶太(現TOKYO DIME)や落合知也(同/越谷アルファーズ)ら選手たちが活躍する姿が、競技への興味をかき立てたという。
「3人制のオリンピックを目指す新種目だし、たぶん仲間のボーラーも活躍したり、自分たちもそこに絡んでいくのだろうと思っていました。世界同時スタートみたいな感じでどんどん盛り上がり、仲間たちが世界大会で勝った負けたという話題になることで、面白くなっていきましたね」
ストリートの経験がいきた現場
そしてMAMUSHIの予想通り、2人が活躍する場が3x3にはあった。いまでこそコロナ禍のため無観客開催となっているが、もともと試合は屋外のオープンスペースで開催されたため、バスケを知らない方も振り向かせてきた彼らの経験は発揮しやすく、MC席とDJブースがコートサイドに必ず設置される環境も後押しになったからだ。3x3では2人の役割が、選手や審判らと同じように試合に必要不可欠になっていたのだ。MIKOは当初、携われることに「最初は本当にいいんですか?」と驚いたそうだが、それぞれの経験がいきたことをこう振り返った。
「MAMUSHIはLEGENDなどストリートの現場で、通りかかった人にルールや試合の状況を簡潔にわかりやすく伝える力を鍛えられていました。だからオープンスペースでのMCが得意なんです。僕で言えば、大会の特徴を考えて、DJをしていました。例えばコロナ禍前は海外からの観光客がいる場所で大会があったので、JAPAN TOURの場合、大会名の響きを踏まえて日本がイメージできるような選曲をして、お客さんの足を止めたい意識もありましたね」
競技化されたからこその苦労も
ただ、一方で苦労もあった。ストリートは選手も観客も心地よく盛り上がれるように、試合の進行をMCやDJのさじ加減で変えられる臨機応変さがあったが、3x3は「真逆」だったからだ。1日に数多くの試合を行うため、ルールや進行表に沿って効率的に進めていく様にMIKOは驚いた。1試合わずか10分で、ショットクロック(1回の攻撃時間)は5人制の半分となる12秒。攻防が激しく入れ替わる展開だけに、ストリートでボーラーが得意なプレーで得点を決めたあとに見せる自信満々の表情や、会場のボルテージが上がった後に漂う余韻がない光景を見て「ボーラーがドヤ(顔)する暇も無かった」とMIKOは笑って振り返る。加えて男子ボーラーが主流だったストリート時代と異なり、3x3では女子選手の試合を担当する機会が増えてことで、どんな選曲をするべきか考えて、自分の形を編み出すまで「長い道」だったとも話す。
またMAMUSHIも「まざまざと」感じたMCの違いを、こう明かした。
「試合のテンポ感や、3x3の中でどういうプレーやアクションを取り上げるか。そのセレクトは全然違うんだなと感じましたね。今までのストリートバイブスなエネルギッシュなMCを最初、やろうとしたのですけど、ショットクロックは12秒しかないから、そんなことを言っている暇が無かった(笑)。だから今は、目の前で活躍した選手や、プレーの特徴、戦況を的確に取り上げて、伝えていく王道なMCをやっています」
競技の進化に自分たちを重ねて
さらに苦労を深めた出来事が2020年初頭に起こったコロナ禍の影響だった。もちろん彼らに限った話ではないが、前例なき取り組みが軌道に乗ってきた矢先に、新たな課題に直面。本来3x3は、バスケと音楽、MCが融合することで生まれるエンタテインメントな空間が醍醐味のひとつであったが、MAMUSHIはYouTube配信で3x3を盛り上げることにシフト。ストリートから3x3へ、リアルからオンラインへ、MCをする上で伝え方を再びチューニングし直す試行錯誤があった。
またMIKOは、会場は無観客、そして楽曲の権利上、YouTube配信に音楽を流せない状況下で、DJに取り取り組んだ。当初はモヤモヤした気持ちもあったようだが、考えた末に「常に目の前のゲームへアプローチしてDJしているだけなので、やることは変わらない」と意識を改めた。また「この環境でもやりきるんだ。ガンバレ俺!」と自分を鼓舞していたとも話した。そして、環境に適応してチャレンジしてきた道のりをMIKOは、次のように話す。その言葉からは、2人の自負も感じられたものだった。
「誰もやったことがない競技で、オレらもそれと一緒にMCとDJをやってきました。3x3の進化は、自分たちの進化の歴史であったと思います」
今後の発展に向けて思うこと
このようにMAMUSHIとMIKOは、3x3のMCとDJのパイオニアとして歩んできた。そんな彼らが思う競技の魅力は、その敷居の低さにある。MIKOは昨今、YouTubeの5分程度の動画さえも長いと思わる時代を踏まえて「集中力を途切れさせず、パっと見て楽しめる、もっとも見やすいバスケットボールの試合」だと言う。またMAMUSHIも「入り口として良いバスケ」だと話した。Bリーグやストリートなど様々なバスケを見て楽しんだり、プレーしていく上で、3x3には可能性が詰まっているのだ。
そして東京オリンピックという競技の節目を越えたいま、これからの発展を見据えて2人が思うことは、3x3をプレーできる「場所」が増えることだった。地方に赴くこともある彼らは東京以外の土地でも3x3がプレーする選手が多い状況を見て、「種はまかれている」(MIKO)と感じているだけに、あとは種が育つ“土壌”が必要なのだ。気軽に開催される大会、もっと言えば「コート」があって、そこに行けば誰かいて3x3やバスケットボールに触れられるようになっている状態である。
ストリートから生まれた3x3が、またストリートに立ち返ることで、競技が発展していく未来……MC MAMUSHIとDJ MIKOはそう思うとともに「気軽にMIKOさんと僕に聞いてもらえれば、知っていることは全て教えていきたいですね」(MAMUSHI)と、自分たちの経験も惜しみなく注いで、これからも3x3シーンとともに歩んでいく。
- 日本郵政 presents 『Real story behind 3x3』 vol.1 MC MAMUSHI & DJ MIKO
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TEXT by Hiroyuki Ohashi