『ADIDAS EUROCAMP 2023』レポート
以前の記事で取り上げた『ADIDAS EUROCAMP 2023』。
日本から4名の若き才能がチャレンジした、今回のキャンプの内容が公開された。
【男子キャンプ編】
*開催期間:2023年6月9日(金)~11日(日)
2017年以来の16回目の開催となる男子のアディダスユーロキャンプは、アメリカ国内以外で公式に認可された唯一のドラフト前のキャンプ。全世界のエリートプレーヤーを招待し、スカウトの前で現役のNBAコーチやプレーヤーから指導を受けることができるだけではなく、NBAやユーロリーグを含む世界中のチームのゼネラルマネージャーの訪問はもちろん、主要な世界的なメディアからの露出があります。今回もイタリアの地に、NBAの球団スカウト20名以上を含む、非常に多くの関係者が来場し、世界中から参加した70名の16歳から22歳の選手たちの魅せるプレーに熱視線を送りました。
総勢70名の選手が参加したキャンプのチーム構成は、ヨーロッパのリーグなどでプレーをし、6月のドラフトでNBA入りを目指す選手たちから構成される「EUROCAMP」チーム。EuroleagueのU18を対象としたAdidas Next Generation Tournamentから選抜された「Next Generation」チーム。米国の高校生でアディダスが展開するグラスルーツプロジェクトの3SSB CIRCUIT(3SSB=3Stripes Select Basketball)から発掘されたU18の選手たちで構成される「USA SELECT」と「3SSB」。そして、中国のU19選抜と日本人3選手から構成される「TEAM ASIA」の6チーム。
日本からは、世界と勝負できる日本人プレーヤーを育成するプロジェクト「adidas NATIONS TOKYO」のもとで厳選された、テーブス流河選手(ニューマン高校)、菅野ブルース選手(エルスワース・コミュニティカレッジ。9月からステットソン大に進学)堀内星河選手(白鴎大)の3名が参加しました。
それぞれのチームを指導したのは、キャンプのコーチングディレクターを務めたBill Bayno氏(デトロイト・ピストンズ)のもと召集された8名のコーチ。彼らはNBAの各チームでアシスタントコーチを務めており、そのうちJesse Mermuys氏(オーランド・マジック)と、Rodney Billups(ポートランド・トレイルブレイザーズ)氏がTEAM ASIAの指導にあたりました。
キャンプには、Rajon Rondo氏(NBPA)、Josh Smith氏(NBPA)、Tony Parker氏(元サンアントニオ・スパーズ)、Ivica Zubac選手(現ロサンゼルス・クリッパーズ)、Bennedict Mathurin選手(現インディアナ・ペイサーズ)、Jabari Smith Jr.選手(現ヒューストン・ロケッツ)といった、現役、OBのNBAアスリートもゲストとして参加。キャンプ中には、彼らから参加者への講演セッションも設けられ、選手たちはトップアスリートメンタリティなどを学びました。特に、Tony Parker氏の話では、小さなポイントガードとして長期間にわたり高きNBAの舞台で活躍できた理由などの話があり、テーブス流河選手が熱心に耳を傾けていました。
キャンプのメインイベントは、各チーム同士による試合。6チームが2グループに分かれて総当たりを行い、最後に順位決定戦を行いました。「TEAM ASIA」は、初戦で「EURO CAMP」チームの1つと対戦。本気でNBA入りを目指す集団が見せる圧倒的な高さとスピード、高いバスケットIQを生かした組織的でスキのないバスケに圧倒され、49-109と大敗。同じチーム内でもコミュニケーションにも課題が残り、初戦にして、まさに世界の壁を体感しました。その中でも意気消沈することなく、「自分がすべてをコントロールできる選手にならなければならない」と、前を向いていたのがテーブス流河選手でした。コーチ陣からは、「平均的な選手と最高の選手の大きな違いは、いかに切り替えができるか。次の試合でのバウンスバックすることを期待しています」との強い言葉もありました。
続く2試合目は、下の世代となる米国の「3SSB」。最終的には75-95と敗戦するも、第3Qまでは接戦を展開するなど、前日からの改善を多く見せることができました。前日7つのターンオーバーをしてしまったテーブス流河選手が、前日の課題を見事に修正し、ターンオーバーを最小限に抑え、ゲームを随所でコントロール。「チームとしてもディフェンスやリバウンドで気持ちを出すことができた」と話せば、コーチも「昨日から大きく改善した」と切り替えをほめました。その一方で、他の日本人2選手は多くの壁に苦しみます。菅野ブルース選手は、「自分の強みが出せないままでいる」と2分に満たない出場で、堀内星河選手は出場機会に恵まれませんでした。それでも、堀内選手は「なんでここに来たのかと言われないように、とにかくすべてを吸収しようと、自分たちの試合だけではなく、他の試合やプレーを見続けました」と決してネガティブにならないよう心掛けていました。
最終日に行われた3試合目は、Euroの「Next Generation」が相手でした。前日の改善点をもとに、さらなる上昇が求められる中、テーブス流河選手が今キャンプで初のスターターとしてコートに立ち、Euroの強いプレッシャーの中、冒頭からボールキープとゲームコントロールを見せてくれたものの、接触プレーにより、4分弱で退場となるハプニング。その抜けた穴は大きく、試合を優位に運ばれてしまいますが、その中でも、残りの日本人2選手が奮闘を見せてくれました。堀内選手は、慣れないポイントガードでの出場にも関わらず、効果的なアシストやボールキープ力を披露。ブルース選手は、初日から苦戦してきたドライブでのペイントアタックで打開するシーンを作り出し、3Pも決めてくれました。しかしながら、試合は59-105。あらためて、世界と戦う厳しさを肌で感じる最終日となりました。
最終日の最終試合は、ともに2勝同士の「USA SELECT」と「EURO CAMP」が対戦。やはりここでも、ドラフト入りを目指す選手たちで構成される「EURO CAMP」チームが、ここにかける気持ちの強さと実力を存分に見せつけて、1位を死守しました。最後にはBEST 5 やMVP、ライジングスターの選手たちの表彰も行われ、男子キャンプの幕が閉じました。その風景を見つめる日本人選手たちの目からは、次なる成長に向けた決意を感じました。国と世代を超え、力を競い合う唯一無二の世界最高峰の舞台を経験し、テーブス選手は「上には上がいる。だからこそ、自分たちの世代のトップレベルの選手を想像して練習をすることが大事だと改めて思いました。それから、色々なスタイルのバスケットボールを目にして、やはりどんなスタイルやチームでも通用する技術・スキルを持つことの重要性に気づきました。普段自分がやっているアメリカのスタイルだけではなく、適応していくことが必要なんだと学びました。」と語っています。
【女子キャンプ編】
*開催期間:2023年6月13日(火)~15日(木)
アディダスユーロキャンプにおける女子の開催は、今回が初めて。男子と同様に米国で行われているアディダスバスケットボールのグラスルーツプロジェクトより、「USA SELECT」と「3SSB」の2チーム、計20名が参加。ヨーロッパからは各国から推薦された14歳から19歳の幅広い年齢層が参加し、「EURO CAMP」チームとして2チーム21名が参加しました。
日本からは、男子と同じく、「adidas NATIONS TOKYO」プロジェクトから推薦を受け、現在はトヨタ自動車アンテロープスに所属する横山智那美選手が、アジアから唯一の選手として参加。「トップレベルの選手とできる機会を与えてもらえたので、そのチャンスをものにしたいです」と強い気持ちで臨みました。
キャンプのコーチングディレクターを務めたのは、WBBL初の女性GMであるVanja Cernivec(ロンドン・ライオンズ)。「私は、参加する世界の女の子たちにこれまで私が得たすべてのものを与え、すべての彼女たちのスキル、才能と彼らのキャリアスタートの証人になる準備ができています」と意気込み、キャンプ期間中も終始、参加者に寄りそう形で、初のキャンプの成功に尽力していました。キャンプの特別ゲストとして、米国大学界のスター選手でもあるHailey Van Lith(ルイジアナ州立大学)が全日程に帯同。練習での積極的なアドバイスや、連日テーマを変えた参加者からの質問セッションにも真摯に応え、次世代を担う選手に対して惜しみなく時間を注いでくれました。
横山選手は、イタリア、ギリシャ、リトアニアなど9か国の選手たちから構成される「EURO CAMP1」チームに、背番号1を付けて参加。3日間にわたり、ワークアウトや各チームとの試合に臨みました。チームのヘッドコーチを務めたのは、ユーロリーグなどで活躍したセルビア出身のMiljana Bojović。多国籍かつ幅広い世代からなる即席チームで、初戦からスターティングメンバーとして出場した横山選手でしたが、若い年齢ながら高い身長と長いウイングスパンを持つ選手たちからの体験したことのないプレッシャーや、何より、コミュニケーションの壁に苦しみました。アメリカの「3SSB」チーム相手には、54-91と大敗。28分以上の出場を果たしたものの、7つのターンオーバー、3ポイントも0本という結果で初日の試合を終えました。迎えた2日目は、少しずつコーチや周りの選手とのコミュニケーションを深めようとしている姿がありました。それでも試合の相手となった「USA SELECT」の積極的なバスケに圧倒されてしまい、個人での奮闘は光ったものの、チームとしての差も大きく、61-101という結果でした。
2日目の試合後には、Hailey Van Lithに1対1で質問をすることができ、プレーヤーとして一番大事にしていることやポイントガードとしての心構えなどを聞くことができました。そして、迎えた最終日は、同じEURO CAMPチームとの対戦。徐々に他の選手の個性を把握できてきたこともあり、チームとしてのまとまりも向上が見られ、何より、彼女自身が積極的にチャレンジしていく姿勢を見せてくれました。試合には66-76で敗れたものの、20得点4アシストを記録し、ターンオーバーも2つに抑えることができました。
キャンプを通してのBEST 5、MVP、ライジングスターが発表されましたが、世代が下の選手も多い中、彼女はそこに名を連ねることはできず、悔しい思いも味わいました。言語の壁はもちろんながら、それ以上に感じた重要なコミュニケーションの力。そしてPGとしての心構えや姿勢。異国の地で異国の選手たちに囲まれ、初めて体感したものばかり。それでも、彼女自身の通用する強みも再認識できた貴重なキャンプとなりました。「このような機会をもらえて、本当に感謝しています。これからの私にとって、自分が通用しそうなところと、まだまだ足りない部分を肌で感じることができたと思います。特に、コミュニケーションの大切さと、PGとして必要なことを学べたことは本当に大きかったと思っています」。彼女の今後のさらなる成長に期待大です。
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