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  • 2020.05.04

3×3の選手たちがいま思うこと vol.4 矢野良子

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、東京オリンピックは来夏へ延期された。そして我々が愛するバスケットボールも現在、NBAはシーズン中断を余儀なくされ、Bリーグは2019-2020シーズンが打ち切り。今夏、オリンピックの正式種目としてデビューを迎えるはずだった3x3も、クラブ世界No.1決定戦であるFIBA 3x3 World Tour Masters やChallengerといったプロサーキットを筆頭に、春から予定されていた2020シーズンの大会は、あらゆるカテゴリーで延期や中止となった。

今回、日本の3x3シーンを代表する男女6名にオンラインや電話でインタビューを行った。思わぬ事態に直面したが、彼ら彼女たちがいま何を思い、昨シーズンの経験を糧に、新シーズンへ向けてどのように進もうとしているのか。第4回目は女子3x3シーンを選手として、大会を主催するオーガナイザーとしてけん引する矢野良子(REXAKT/トヨタ自動車)に話を訊いた(取材日4/19)。

コロナによって揺れる決断

新型コロナウイルスの影響で選手として出場予定だった大会が延期や中止、オーガナイザーを務めている3W(Triple Double)も大会が中止となりました。いま、どういうお気持ちで過ごされていますか。

「なんとも言えないですよね・・・ どうにもできないので、早くこの状況が収まってくれることを待っています。この影響が国内で少しずつ出始めて、3Wは2月下旬に4月の大会中止を決めたので、その当時からしばらく試合が無理だろうなという予感がありました。私が出る予定だった3x3.EXE WORLD GAMESの延期、3x3.EXE TOURNAMENT FINALの中止も残念なことですが、思った通りになっています」

初優勝した2月の日本選手権後に、今年で現役引退をされるというお話をされていました。2020年のどこかのタイミングで考えていると言っておりましたが、いまはそれも凍結するお気持ちでしょうか。

「東京オリンピックに出る可能性があるならば、現役引退を延ばしたいという気持ちはまだまだあります。だけど、コロナウイルスの影響によるランキングの扱いや、もし今シーズンの試合が無かったとき、選手のポイントはどうなるのか、すべてがはっきりしていません(※)。オリンピックが延期になった中で、自分がどうするべきなのか、まだ先が見えていないので判断は難しいです。ただ、3Wの運営メンバーに“私は5月で(現役生活は)終わりでいいよ”と言ったときは 、“なにもしないでこのままコートから消えるのは無しですよ”と、返されましたね」

もちろん、それは言われますって!僕もそう思います。

「どこかで試合をして引退すると考えていたのですけど、状況が状況です。正直ずっと迷っています。本当、これに関しては会社(=トヨタ自動車)と話し合う必要もあるのですが、それもこれからですね。もしかしたら2021年まで引退が延びるかもしれないですけど、会社と相談して結論を出すことになると思います」

いまは焦っても仕方ない

このような状況ですが、今後に備えてトレーニングはできる範囲でされていますか。

「週4回のペースが週2回ぐらいになりましたが、できる範囲でやっています」

一方で、バスケットボール以外に取り組める時間が多くなりそうですが、この時期だから他にやってみようということはありますか。

「バスケ以外だと、アスリートの皆さんがSNSで“おうちにいましょう”という発信をされていますので、それはやりました。この状況ですが、自宅近くのスーパーがいつもと同じように人が多いことを目にしていますので、私でもあのような呼びかけをすることが大事なのかなと思っています。

あとは有難いことに、3Wをもっと広めたい、大会の内容をもっとこうしませんかと、お話をいただくので、それを少しですけど進めることはしています。ただ、この状況なのでスポンサー企業の皆さまに対しては、言いづらいので何も動いていません。緊急事態宣言が出る前にお会いした企業さまからは、ご協力をいただけるお話もいただきましたが、いつから動けるのか分からないのですし、いまは焦っても仕方ないですから」

ここまでバスケができなかったり、考えづらいことはキャリアで初めてですか。

「うーん・・・とらえ方によりますね。別に2、3カ月ぐらいバスケをしなかったことは全然ありました(笑)Wリーグのときはオフシーズンになれば、バスケに対してすべてをオフにして離れたいタイプでした。自分の時代ということもあるでしょうけど、シーズン中はずっと朝から晩まで体育館に缶詰めになっていたから、オフになると全くボールを触らないことがありましたね。もちろん選手によるので、私の場合はですけど!ただ引きこもるタイプではないので、いまのように外出できないことは無かったですね」

収束した先にある3Wへの思い

そうだったんですね。お話を伺いましたが、先が見通しづらいだけに、どのように進んでいくのか悩ましいですね・・・

「どうなるか分かりませんが、この先に試合の場を求めて行くことを考えると、3Wは大会を作っていくしかないと考えています。世の中が少しずつ動けるようになったら、バシバシ進めたいです。それはオリンピックがあるからという理由ではなく、バスケは競技人口は多いけど、まだまだ人気が無いことも課題だと思うので、手軽に始められる3人制は良いんじゃないかと。もっと多く人へ認知や周知を上げていきたいです」

3Wを2018年から開催してきたことで、現場でたくさんの経験をされて、もっとやってみたことが増えてきたということですね。

「そうですね。正直、お金がいくらでもあれば、いろいろなメディアを巻き込めるし、大会も豪華にして、集客に費用もかけられる。でも、もともとは自分が3x3のポイントを獲るために作った大会です。女子は男子に比べて試合数が少ないので、最初のシーズンは試合数を確保することを優先してやりました。2シーズン目はいま中止になりましたけど、大会を重ねることで、アドバイスをくれる方もいますので、その協力もいただきながら、どんどん3Wが大きくなっていくと良いなと思っていますし、魅力を感じてもらえるようになりたいです。

ただ、そう言っても、まだ2シーズンしかやっていないので、2桁の年数はやらないと大きなものはできないんじゃないかと考えています。SOMECITYだってそうでしょう。私はLegend時代から見ていますけど、なんでも続けていくことで、認知されるし、ファンも作れる。もちろんお金があれば最初から盛大にできるけど、それが無い環境でどうやって作っていくのかを取り組んでいます。やることに意味があるとし、やらなければいけないという思いもあります」

大会は中止になっていますが、3Wの2シーズン目は、インドネシア代表(世界ランク24位)が参戦したラウンドがありました。海外からチームが来ることはリーグとしても大きな出来事だと思います。

「インドネシア代表はU-23の選手がメインでした。国としては3月にやる予定だった3x3の東京オリンピック予選に出るチームで、2月末の3x3.EXE PREMIER WORLD GAMESに招待も受けていました。その時期(昨年11/9-10)に日本へ行くから出場できる大会がないかと、オリンピック組織委員会を経由して連絡がありまして、ちょうど3Wがありました。お台場で私たちの大会(11/9)に出て、翌日は渋谷で別のイベントのエキシビションゲームに出てましね」

女子は男子に比べて大会が少ないと思います。海外からもタイミングや何か魅力があれば、日本に目が向くものだなと感じました。

「3Wは参加料を無くしています。海外も日本もですが、大会へ行くにはお金がかかります。JAPAN TOURを例にすると、1大会につき1人あたり3,000円です。仮に月3回だったら10,000円近くなるわけで、年間10大会あった場合、選手たちが果たして出るのかという、クエスチョンが私にありました。まず気軽に出場してもらいたかったので、参加費用は無しにしています。そんな中、インドネシア代表が日本へ来ることになって、うちの大会がたまたまあったとは言え、出場してくれたことは有難いし、彼女たちにとっても良い経験になったのではないかと思います」

海外チームが帰国して、その国で選手たちが3Wのことを話題にしてくれると広がりますね。

「すごく良いと思います。3Wもインドネシア代表が来てくれたことで、海外のチームが気軽に出られる大会という宣伝ができるし、外からそういう見られ方をしてもらえます。それとプラスして、どうしても出るチームの顔ぶれが決まりつつあったので、違うチームが出場すると新しい風が吹きますし、強いチームだったら強化にもつながります。今後も近隣の国から選手が来てくれたら、嬉しいですね」

現場は“わちゃわちゃ”賑やかにやっていきたい

東京オリンピックが来年にあると思いますが、それと関係なく女子3x3もどんどん広がって、盛り上がっていきたいですね。

「選手としてオリンピックへ出る可能性がゼロに等しいかもしれないけど、それ以外のところで3x3を含めてバスケットボール全体が盛り上がれば良いですよね。ラグビーがW杯の活躍で人気に火がついたようにならないかなと思ってますし、3x3女子日本代表がオリンピックに出ることができれば、メダルを期待したいです。どこのタイミングでコロナが終わるのか分からないけど、オリンピックは1年延期になったので、現場にいる私たちは大会を作っていき、盛り上がった状態で、オリンピックを迎えられたらいいなと思ってます。だいぶ前ですけど、3Wの運営メンバーや(MC)MAMUSHI、(DJ)MIKOと飲んだときに、“うちらはあと1年盛り上げられる期間ができたと思えばいいね”という話をしました。みんなで“わちゃわちゃ”賑やかにやっていきたいです」

※編注:4/27にFIBA(国際バスケットボール連盟)はランキングの凍結を発表。凍結期間はFIBA主催大会の中止が解除されるまで。
 原文(英語)http://www.fiba.basketball/en/news/fiba-freezes-fiba-3x3-rankings

3x3の選手たちがいま思うこと vol.4

矢野良子
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TEXT by Hiroyuki Ohashi

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