女子3×3シーンで躍動する新たな顔ぶれ
3x3に取り組む女子選手や、大会数はまだまだ少ない。そんな中、2年目を迎えた「3x3 SuperCircuit 2023」では、初めて女子カテゴリーを新設し、3都市で予選ラウンドを開催した。出場チームの辞退により、不戦勝で優勝が決まった宮崎ラウンドは普及の難しさを感じたが、東京ラウンドと茨城ラウンドを見ると、そんな気持ちも吹き飛んだ。これまで競技シーンを引っ張ってきた選手のみならず、新たな顔ぶれが躍動していたからだ。
競技経験は1年未満も、3x3で世界一
1月8日の東京ラウンドを制したG FLOW。昨春始動したばかりのチームであるが、主要タイトルである3x3.EXE PREMIER PLAYOFFSと3x3 JAPAN TOUR FINALで初優勝を飾るなど、一躍強豪へ名乗りを挙げた。チームの中心は矢上若菜(#5)と李人竹(#6)の2人であるが、3人目としてチームを支える一人が、八木希沙(#7)である。これまで5人制でキャリアを積んできた。京都精華学園中学・高校(当時は京都精華女子中学・高校)から愛知学泉大学に進み、卒業後は滋賀銀行で皇后杯などの全国大会に出場した経歴を持つ。
そんな八木の3x3キャリアは、まだ1年未満だ。東京ラウンドには出場していなかったが、高校、大学時代のチームメイトである角畑莉子に誘われて、G FLOWへ。矢上とは、中学から社会人までの全カテゴリーで対戦した間柄だという。「一緒にやれたら楽しいなと思って入りました」と八木は明かす。自分の思うままに、かつての戦友やライバルと気軽にチームを組めるのも、3x3の良さかもしれない。
八木は、身長164cmと選手としては小柄であるが、チームの余白を埋めるプレーが印象的だ。本人も「目立たないところで頑張ろう」という意識を持つ。ディフェンスやリバウンドなど球際の嗅覚に優れ、相手に「“やられた!”と思われるシュートを決められるように心がけています」と、オフェンスでもここぞの1本を決めてくる。初めての3x3挑戦を「激しい、速い、疲れる」と感じながらも、チームメイトのおかげで「やっと慣れてきた」という。
また、レッドブルが主催する3x3の国際大会「Red Bull Half Court World Final」で昨秋、世界一も経験。数少ない女子の3x3世界戦は、彼女にとって競技の醍醐味を感じる機会にもなった。
「あの経験はマジでありがたかったです。私は国内予選に出ていないのですが、他の選手の都合などもあって(国際大会へ)行くことになりました。しかも、優勝までできて、チーム結成の初年度でこんな経験させてもらって、ありがとうございますという気持ちが一番大きいです。5人制で世界に行こうと思ったら、たぶん難しいので、そういう意味でも3x3は面白いと思いました」
海外挑戦から帰国し休養…3x3で復帰
1月21日の茨城ラウンドを制したTOKYO DIMEにも、競技経験1年未満ながら、チームをけん引した選手がいる。加藤臨(#7)だ。優勝後には「TOKYO DIMEが誘致した試合(東京ラウンド)で勝てなかったので、今日は力を入れて臨みました。チームで練習してきたことが試合でできて、めちゃくちゃ良かったです」と、喜びを噛みしめた。
ただ、加藤のここ最近を聞けば、優勝以上に楽しくバスケができる今の環境に喜びが大きいようにも感じられた。彼女は、2017-18シーズンから4シーズンにわたり、Wリーグのトヨタ紡織サンシャインラビッツで活躍したが、2021年4月に退団。海外挑戦のため渡米した。現地ではチームにも所属し試合にも出場したが、シーズン終了後に帰国。バスケットボールそのもので苦戦した感覚は無かったが「バスケ以外のところ。お金や文化の違い、言語も含めて結構苦しくなって」と、加藤は明かした。そのため、日本に戻ってからは今後のキャリアを一度考えようと、休養を取っていたという。「半年ぐらいですかね。本当にボールも触らずという感じでした」と、彼女はバスケと距離を置いてみた。
そんな中、早稲田大学時代の先輩である小原みなみ(#81)から3x3の誘いがあったという。加藤は「やっぱりバスケがやりたくなって、いざやってみると楽しかったです。もう、DIMEで(バスケに復帰できて)良かったと本当に思います」と、当時を振り返る。そして、3x3をプレーしていく内に「5人制と違う戦い方がだんだんと見えてきて、同じバスケだけど違う競技であると、多くを知れば知るほど思うようになりました」と、その奥深さにも気が付いた。
彼女にとって3x3は、キャリアの転機になったようだ。休養を経て、プレーしようと気持ちが高まり、現在ではTOKYO DIMEで結果を残すことはもちろん、将来的な海外“再”挑戦も考えているという。バスケを続けるきっかけに3x3がなったことは、競技シーンにとって意義深い。
「海外まで5人制をやってきましたが、日本に戻ってまた5人制をやろうと言ったときに、どこか気持ちが乗らないところが正直言ってありました。本当W(リーグ)の世界も良い場所だし、後悔は全然ありませんが、本当に3x3という(5人制と)違う選択肢があってよかったと思っています」
3x3強豪校の選手たちが再集結した思い
一方で、東京ラウンドに出場したKUKI GYMRATSは、新しい風を吹かせてくれた。4人の顔ぶれは、これまでありそうで無かった現役高校生とOGによるもの。補足しておくと、KUKI GYMRATSとは、埼玉県立久喜高校バスケットボール部のことで、18歳以下の3x3日本一を決める「3x3 U18日本選手権」では過去3年で2度の全国制覇を成し遂げた強豪校である。さらに5人制でも実力をつけて、昨年は創部初の関東大会出場と、ウインターカップ予選で2位の好成績も収めている。
東京ラウンドには、2020年の3x3 U18日本選手権で初優勝したフェレイラ ミユキ(#82)と、2021年に同大会3位になったチームの主将だった加藤凜(#30)のOGと、昨冬の同大会で2度目の全国制覇を飾った池田朱李(#8)、安部成海(#22)の現役3年生が出場した。結果は予選プール敗退だったものの、選手たちは充実した表情で1日を振り返る。
フェレイラが「後輩と3x3をやるのは初めてだったんですけど、後輩の方が3x3を専門的に学んでいるので、頼りがいがあってやりやすかった」と話せば、加藤も「後輩たちが自分たちが達成できなかった日本一を達成してくれてレベルも上がっていました。後輩たちのおかげで自分もすごい楽しく3x3をできたと思います」と語った。
そして後輩2人も、憧れの先輩たちとの初共演で笑顔を見せた。池田は「何より楽しかったという気持ちが大きいです。先輩たちと一緒にプレーできたことが、すごい良かった」と話す。安部は、大学でバスケを続けてるフェレイラ、加藤の姿を見て、「よく(大学の)試合を見ているので、自分も(大学で)インカレに出られるように頑張りたい」と、自身の成長も誓った。
さらに、今ラウンドには、KUKI GYMRATSのOGがもう一人、選手として出場していた。TOKYO BBの姉妹チームであるTOKYODoubleBの佐野萌笑(#5)である。加藤凜とは同級生だ。戦前、4人が出場する一報に少しビビったそうだが、いざコートに立てば「嬉しい気持ち」が強かった。
「それぞれの場所で活躍している先輩、同級生、後輩が一緒になって(3x3を)やってる姿を見て、自分もそっちで出たいなという気持ちがあったんですけど、やっぱり(TOKYO)BBとして負けられないと思いました。結果(●13-15)は負けましたが、すごい良い試合ができましたし、みんなが(バスケを)続けている姿を見て、良い刺激をもらえて、自分も頑張ろうと思いました」
現在、佐野は理学療法士を目指して専門学校で勉強しながら、3x3に挑戦している。高校時代に3人制を経験した選手が、卒業後もオープンカテゴリーで競技を続けるケースはまだひと握りだが、学業と並行して3x3を続ける彼女の思いは実に熱かった。
「どうなるかは分かりませんが、(3x3を)やれるだけやりたくて。先輩も優勝して、後輩も優勝しましたけど、私は高校で日本一を獲れなかったので、日本一を取れるまでは絶対に辞められないと思っています。KUKI GYMRATSとしてでは無いのですが、日本一という姿を見てみたいです」
女子3x3シーンが広がる可能性
3x3は、東京オリンピックで正式種目として日の目を浴びたが、競技シーンは発展途上だ。ただ、3x3は交代含めて4人でチームを組める手軽さがある。一歩踏み出すハードルはあるかもしれないが、やってみれば競技にはまり、選手たちの熱量も大きい。
また「3x3 SuperCircuit」では、エントリーにあたりFIBAポイントによる出場規定や、プロ登録の必要もない。開催時期も例年、冬から翌春までのため、大学生や高校生も所属先の了解さえ取れれば、試合に出られる可能性も大きい。KUKI GYMRATSのように高校年代から3人制に取り組んできた選手たちが、世代を越えて再集結する取り組みが増えると、女子の競技シーンが盛り上がるきっかけになりそうだ。
そして、いま3x3をプレーする選手たちも、競技のすそ野を広げる力になる。八木を誘った角畑然り、加藤に声をかけた小原然り、経験者の声は3人制にトライする決め手になる。佐野もTOKYODoubleBへ入ろうと思ったきっかけにUTSUNOMIYA BREXの「齊藤洋介」を挙げた。「齊藤選手には高校時代、KUKI GYMRATSで3x3を教わってお世話になりました。それがきっかけで、BBに縁があって入らせていただきました」と明かしてくれた。
また、宮崎ラウンドは残念ながら出場チームの辞退によって大会が開催されなかったが、オーガナイザーの猪崎大介氏には来年も女子カテゴリーの開催を期待したい。関東以上に地方はまだまだ競技人口が少ないと聞くが、活躍する場が無い限り、選手も現れないだろう。九州から魅力的なチームが現れれば、競技シーンが活性化するに違いない。
女子3x3シーンが広がる可能性は、まだまだあるはずだ。
【大会公式SNS】
・Instagram @3x3_super_circuit
【今後の大会スケジュール】
●ワイルドカード(※1)
・2月4日(土) 男子ワイルドカード@つくばカピオ
・2月4日(土) 女子ワイルドカード@検見川総合運動場体育館
●FINAL(※2)
・2月5日(日) @TIPSTAR DOME CHIBA(千葉市)
※1.大会はいずれも有観客開催を予定。FINALのみ一部座席がチケット制(販売方法の詳細は大会公式SNSで案内中)。
※2.ワイルドカードのエントリー条件は、予選ラウンドのいずれかに出場していること。
【FINAL女子カテゴリー出場チーム】
・G FLOW
・XD(クロスディー)
・TOKYO DIME
・2/4 ワイルドカード勝者