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  • 2022.10.21

15歳で単身スペインへ。プロデビューも遂げた岡田大河の3年間とこれから

先日の「ユーロバスケ2022」で4度目の優勝を飾ったスペイン。最新のFIBA世界ランキング(9/18時点)では2位を誇る。そんな強豪国に3年前、15歳で単身挑戦した選手がいる。その名は岡田大河。昨秋には同国4部リーグでプロデビューし、今夏はFIBAとNBAが共催する若手育成キャンプで、オールスターの一人に選ばれた。成長著しい18歳は異国の地でどんな3年間を過ごし、Rakuten Sportsのサポートを受けて歩み将来をどう考えているのか。

15歳でスペインへ
 さかのぼること2019年10月――15歳の岡田大河は単身スペインに渡った。中学時代から静岡県の選抜チームに選ばれ、静岡大学教育学部附属静岡中学校を県大会優勝に導くなど活躍を見せていたが、彼の視線は世界に向いていた。

 大河の父は岡田卓也氏。静岡ジムラッツを主宰し、スクール運営のみならず、アメリカ独立リーグABAに参戦する現役選手である。そんな父に連れられて、同世代が集まるアメリカやヨーロッパのキャンプをたびたび経験し、卒業後の進路をスペインに決めた。

 彼の挑戦先は、トップチームがスペインプロリーグの3部に所属するZentro Basket Mardrid(セントロ バスケット マドリード)のカンテラと呼ばれる下部組織。U14のインファンテル、U16のカデーテ、U18のジュニアの3カテゴリーで構成され、彼はカデーテのAチームで第一歩を踏み出した。

 合流初日から練習参加できる機会に恵まれ、ガード陣の選手層が薄い状況も見抜いて、ポジション奪取のチャンスがあると、胸が高鳴った。日本で語学の勉強はしてきたが「全く意味なくて(笑)」と言葉の壁を感じたが、日本以上に選手とコーチがコミュニケーションする光景を目の当たりにして、語学習得にスイッチも入った。

 大河は「今までにないぐらい」勉強に励んだ。カンテラと提携する地元の公立学校で勉強することはもちろん、登校前や練習後も、スペイン語を詰め込んでいく。メキシコから来たルームメイトをはじめ、寮生活を送る仲間たちも大きな助けになった。2ヶ月も過ぎた頃には相手の言葉を聞き取れるようになり、「ちょっと下手ですけど、自分から積極的に話しかけていきました」と、喋り続けるうちに気がつけば話せるようになった。

 そして、バスケでも成長を感じるようになった。とりわけ「パス」に対してのこだわりだ。中学時代、パスはアシストを狙う手段だったが、スペインでは違った。ボールを常に持ちたいと主張するチームメイトが多い中で、自分がポイントガードとしていかにパスを使ってチームをコントロールできるか。「(得点につながる)決定的なパスだけではなく、周りをいかしたり、ゲームを作るパス」に対して意識を強く持った。

 挑戦1年目こそコロナ禍の影響でシーズンがキャンセルになったものの、大河は語学をマスターし、バスケの腕を磨く。2年目にはカデーテからジュニアに昇格。チームをマドリード州代表へ導き、全国大会にも出場を遂げた。

17歳でプロ4部デビュー
 2021年秋から始まった3年目は、大河にとって飛躍の1年になった。Zentroはトップチームが3部リーグの「LEB PLATA」に所属する一方で、セカンドチームが4部リーグの「EBA」に所属している。彼は17歳で、そのEBAでプロデビューし、開幕戦で12得点5アシストを記録。日本人最年少デビューでもあった。さらにジュニアの選手としてもシーズンを戦って、マドリード州のU18カテゴリーで4位に食い込んだ。Zentroのカンテラ所属選手として、両方の掛け持ちは彼のみだった。

 もともとコーチ陣からは、セカンドチームの練習参加までという話をされていた。リーグ戦での選手登録は難しいだろうと見られていたのだ。しかし、昨秋の練習参加後、プレシーズンゲームでメンバー入りが叶い、短期間でコーチの指示やフォーメーションを覚えて、試合で結果を出すことができた。試合後にはチームより「今年はEBA中心で行く」と方針転換が示され、練習スケジュールも一変した。

 EBAとジュニアの掛け持ちとなれば、多忙だ。EBAで週2日の試合がある場合、チーム練習は週4日が基本スケジュール。そこにジュニアのチーム練習が週3日入り、合間にスキルトレーニングや筋力トレーニングが組み込まれる。練習時間は長時間に及ばないものの、強度は高く、EBAは対人練習が多かった。加入直後は「その日の調子が悪いと、本当にボコボコにされました」と、彼は明かした。それでも高いレベルでバスケができる経験は何ものにも代えがたく「コートへ行かないと、感覚がおかしくなると思ったので、毎日行きました」と、バスケに没頭できた。

 加えて、バスケだけでなく勉強も欠かさなかった。大河はEBAのチーム練習が昼間にある場合、朝一で学校に行き、一旦練習のため学校を後にすると、夕方から夜にかけて再び学校に戻って授業を受けた。週3回のジュニアの練習は、夜の授業後にあったほど。宿題も課されて「文武両道」の日々を過ごした。

 さらに、プロの舞台に立つため、筋力トレーニングにも注力した。身長は173cm。「自分だけが小さいし、みんな4部でやれると思ってないんですよ。だから、気にかけてくれたと思います」と、大河は話す。フィジカルトレーナーが器具やマシンを使わずに、バスケットボールの動きに基づいた自重によるトレーニングメニューを彼へ提供。「試合でぶつかるシーンも耐えられるようになったり、フィジカルに慣れて(相手の力を)うまく流したり、少しずつ無意識のうちに対処できるようになりました」と、肉体的にも進化できた。

 最終的に大河はリーグ戦で22試合に出場。ジュニアの試合に出る都合等もあって8試合を欠場したが、控えガードとして平均14.6分の出場時間をつかみ、一定の成果を出した。4部とは言えZentroがいるカンファレンスは3部並みにレベルが高く、強豪レアル・マドリードのセカンドチームもいる競争環境の激しい舞台だという。「相手にすごい上手い選手が多いし、ベテランの選手もいて、見習わなきゃいけないプレーや振る舞いばかり。すごく良い経験ができました。ジュニアだけだったら少し物足りないシーズンになったと、絶対に思います」と、充実の1年を送った。

NBAとFIBA共催のキャンプでベスト5
 そして大河のスペイン挑戦は、確かな形で評価を得ていた。今年8月7日から10日までオーストラリアのNBAグローバルアカデミーで開催された、「Basketball Without Borders Asia 2022」(以下BWB Asia 2022)に彼は招待されたのだ。これは、NBAとFIBAが共催するバスケットボールの世界的な発展とコミュニティーへの支援を目的として展開する若手育成キャンプ。アジア・太平洋地域の15の国と地域から高校生世代の男女アスリート60人が集まり、日本からは大河を含め、ジェイコブス晶や福王伶奈(桜花学園)ら男女8人が、参加した。

 もっとも大河はこの招待を受けて、驚いたという。自身が海外挑戦をしている一方で、同世代の選手たちは日本の高校などで活躍し、日の目を浴びる状況を彼は知っていた。そのためスペインで結果を出しても「同じような評価はされないだろう」と思っていた。
 しかし、BWB Asia 2022の招待は、そんな思いを覆すもの。「見てくれる人は見てくれているんだと、実感しました」と、彼は言う。現地入りまでは、スペイン語よりも得意ではない英語でのやり取りを予想して緊張もしていたが、いざコートに立てば、そんな気持ちはなかった。

 BWB Asia 2022は4日間の日程で、初日からスキルトレーニングなどの他、さっそく試合が組まれていた。この位置付けは、コーチ陣による選手の力量を測るテストゲーム。そのパフォーマンスによって残り3日間のチーム分けが決まる大事なゲームだった。そのため、大河は気合いを入れて臨みつつ、仲間に2m10cmを越えるビッグマンがいると見るや、「ガードとしてインサイドをうまく使える選手は絶対に目立てる」と考え、状況を見ながら味方をリードし、冷静にプレーできた。

 さらに、初日のチーム全勝にも貢献。その出来栄えが評価されてだろう。その後に割り振られたチームで、ポイントガードは大河のみ。2日目と3日目は、1日3試合のリーグ戦(1試合は16分流し)が行われた中、彼はフル出場してゲームコントロールを任され、4チーム中1位になった。

 ただ、最終日のプレーオフでは準決勝で敗退。「もうちょっとやりたかった」と大河は、不完全燃焼な気持ちを隠さなかったが、4日間トータルではBWB Asia 2022を楽しめた。男子の日本人選手としては唯一、キャンプのオールスターにも選出。この結果に対して、スペインで実力を磨いてきた自負をにじませる。

「いつも通りにやれば間違いなく、ここで目立てると思っていました。スペインでは同年代に、代表やプロになるような選手がいて、僕も去年から4部リーグでプレーしています。そこの正ガード選手とマッチアップすることに比べたら、(BWBでは)落ち着いてプレーできたと思います。3日目を終えて、コーチが自分にしっかりアドバイスをくれて、チャンスもたくさんくれたので、(オールスタースターの)可能性はあると思っていました」

18歳が見える先
 大河は現在18歳。今秋からはプロ2年目を迎える。引き続き、Zentro Basket Mardridに所属し、4部リーグのEBAで司令塔としてプレータイムの確保と、昨シーズン以上の結果を目指す。

 また、環境面では河村勇輝らをマネジメントする楽天のRakuten Sportsより、海外でのキャリア形成支援を中心とした、国内外でのマネジメントサポートを新たに受ける。これも、15歳から海外挑戦してきた価値と、その将来性を見込まれて、大河が手にした評価そのもの。Rakuten Sportsが契約するバスケ選手としては最年少である。

 担当する同社の原毅人氏は大河について「単身日本人でスペインに渡り、日本人初の同国4部デビュー。アジアというグルーピングでもかなり希少な選手であると認識しています。想像もできないぐらいワクワクを感じていますし、大変な環境で年々レベルアップしてると思います」とコメント。間近に接する彼の様子から「バスケットの話をしているときの集中力が凄い。普段からバスケットを深掘して、生活しているんだと感じています」と語った。今後は大河が中長期的に海外でプレーできるようサポートするとともに、同社として「彼の挑戦価値を日本のバスケファンの皆さんに伝えていきたい」と言う。

 そして、大河はRakuten Sportsとの契約にあたり「サポートをしていただく代わりに、自分がどんどん結果を出して、人の目に留まるような存在になっていかないといけない」と、気持ちを新たにしている。

 スペインでキャリアをさらに切り開こうとする18歳。その挑戦は、どんな展開を見せていくのか。下部組織を卒業後、スペインで国内屈指のカタルーニャ州と双璧をなすマドリード州でバスケットボールができる状況は、自らの将来にとって意味を持つと自覚も強い。頼もしい彼の意気込みを結び、スペインからの吉報を楽しみにしたい。

「ジュニアのカテゴリーが終わって1年目でEBAでやれる、しかもマドリードでやれることは、いろんな注目を浴びるんです。どんどん上に上がって行こうとする選手が多いので、その中で自分がしっかりチームの中心となって存在感を発揮できたら、自分の価値を高められます。良い移籍につながるかもしれないし、実力も伴って成長できると思う。監督やチームメイトの信頼を勝ち取って、結果を絶対に出していきます」

15歳で単身スペインへ。プロデビューも遂げた岡田大河の3年間とこれから

TEXT by Hiroyuki Ohashi

https://flymag.jp/news/33419/

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