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  • 2020.12.30

落合知也が次世代の3×3シーンにかける思い、『WORMAiD』プロジェクトができた理由

「この競技が心底好き」という日本が世界に誇る3x3プレイヤー・落合知也が、次世代の育成と普及のために立ち上がった。3人制で人生が変わった男による、競技の未来を作るプロジェクトはどのような姿なのか。その背景や3x3にかける思いに迫った。

先駆者による新プロジェクトが始動
12月27日に落合知也(TOKYO DIME/越谷アルファーズ)が、東京・新木場にある3x3専用コートF1 STUDIOにて『WORMAiD』(ワームエイド)の記者発表イベントを開催した。会見ではフリーアナウンサーの青木源太氏がMCを努め、プロジェクト応援大使のバスケ女子・すみぽんや、コーチを務めるUNDERDOGのNaoも出席して、落合が『WORMAiD』を発足させた背景や意義を説明。さらにエキシビションゲームで招かれた高校生たちを代表してJUONと、自分の目標を書いた手紙を読み合って、お互いが夢に向かって挑戦することを誓った。

ここで改めて落合について振り返っておくと「WORM」の愛称で知られ、いまや競技シーンを象徴する選手である。2012年のFIBA 3x3 World Tour Vladivostok Mastersで3人制デビューを遂げて以来、日本代表として日の丸を背負い、またプロサーキットでクラブ世界一を目指す戦いに挑戦。3人制で得た経験によって5人制でも、自らのキャリアを切り開いてきた。

そんな彼が今回、新たな挑戦をはじめる。その大きな目的はずばり、3x3とのきっかけ作りだ。具体的には2つあり、ひとつは将来のオリンピアンとなる3x3日本代表選手の輩出を目指した次世代の育成だ。彼にとって3人制との出会いは人生を変えた、いわばターニングポイント。「学生時代に世界で戦うなんて想像もしていなかった」と明かすが、3人制で数々の海外転戦を経験したことで選手として飛躍した。「世界に通用するスキルや経験値を、子どもたちに自分が現役をやりながら伝えたい」と意気込む。

もう一つは競技の普及活動である。彼がはじめた頃に比べれば、バスケットボール、3x3に対する注目度は上がっているが、それも道半ば。「まだまだバスケットボールは国内ではマイナーですし、3人制はさらにこれからの競技です。(僕が試合で)結果を残すことはもちろん、WORMAiDの活動を通して、子どもたちや親御さんに3x3の魅力を伝えていきたい」と話す。

背景にあるもの「ストリート」と「世界No.1」
では、なぜ落合はプロジェクトを立ち上げたのか。それには今の彼に影響を与えた「ストリート」と「3x3世界No.1プレイヤー」の存在がある。

前者はもう説明するまでもないだろうが、彼は法政大学でバスケをやり切ったあと、バスケ熱が冷めている。一時は別の道に進むことを模索したものの、M21が立ち上げたUNDERDOGと出会い、ストリートで彼の気持ちは再燃した。ストリートがなかったら、3x3と出会うこともなかっただろう。自分の生い立ちを踏まえて、今回の名称とロゴに、次のような思いを込めた。

「WORMAiDのWORMは僕のニックネームです。元NBA選手のデニス・ロッドマンの愛称でもあり、仲間を献身的に支えるディフェンスやリバウンドなど泥臭いプレーが好きでした。ストリートボールをはじめるときに、今日の記者会見のあとに行うエキシビションゲームでMCを務めるMAMUSHIさんに『WORM』のニックネームを提案いただいたことで、今に至ります。

またAiDは日本語で援助という意味です。WORMが子どもたちを援助していく。僕自身はストリートからたたき上げられた選手だと思っています。トップエリートではなくても、世界に挑戦できるんだぞ、ということを示したかったんです。ロゴデザインもUNDERDOGのデザイナーさんに制作していただき、このロゴと名称にしました」

一方で後者については、2018年夏にさかのぼる。彼は当時、日本代表の活動で3x3国別ランクキング1位のセルビアで行うキャンプに参加した。場所は世界No.1プレイヤーであるDusan Bulutが所有する専用コートである。そのキャンプには落合以外にも世界各国から若い選手も集まり、日本からは当時大学生で、いまはBリーグで活躍する松脇圭志(HACHINOHE DIME/富山グラウジーズ)や荒川颯(BEEFMAN.EXE/ファイティングイーグルス名古屋)らも参加した。世界トップレベルに混じって若者たちが、午前中はスキルトレーニング、午後はひたすらピックアップゲームをするなどバスケに明け暮れたのだ。日本にはない光景を目の当たりしたことは、プロジェクト誕生の原体験になった。

「(バスケットボールを取り巻く)環境は海外と比べて、日本は遅れていると思います。セルビアはアンダーカテゴリーの選手たちが大人に混じって試合をするんですよ。その環境がすごい良いなと感じました。2018年に代表合宿で現地に行ったことで、そこから徐々にWORMAiDをやりたいと思うようになりましたね。Dusanが世界各国から選手たちを呼んでキャンプをしていたことは、とても魅力的でした」

誰しも人生を振り返ると何事も「きっかけ」が存在するものだ。今度は落合が次世代のために、それを担う番になった。

WORMAiDの柱となる3つのポイント
それでは、気になるプロジェクトの中身へ話を進めていきたい。その柱は「クリニック」「アカデミー」「大会」の3つである。コロナ禍の動向を注視しながらにはなるが、落合は次のように構想を明かした。

「まず全国から参加を募ってクリニックを定期的にやっていきたいです。そしてゆくゆくは、アカデミーとして海外遠征をするチームを作りたいと思っています。3x3をプレーしていく中で海外で多くの試合があり、セルビアなどに友人となった選手たちがいます。彼らとキャンプをすることで強化や育成につながるのではないかと考えています」

「クリニック」を通して3x3に触れたことがない子どもたちや親御さん、指導者と出会い、魅力を伝える。そして「アカデミー」を通して可能性ある選手たちを鍛えていくようだ。加えて、本プロジェクトには森永製菓のような彼のトレーニングをサポートしている企業も携わっており、この取り組みを支えるという。

「僕がトレーニングや栄養の指導をいただいている企業様に協力をいただいて、子どもたちにトッププロが取り組むプログラムを体験してもらいたいと思っています。WORMAiDだからこそ提供できることですね。いま自分が受けている素晴らしい環境があるので、その経験を伝えていきたいです」

さらに競技を体験する場、練習の成果を発揮する場として「大会」を開くことも考えている。この日も記者会見後には、MC MAMUSHIとDJ MIKOの3x3に欠かせないセットの下で、高校生4チームが招待されたエキシビションゲームを開催。先日のALLDAYで大会を沸かせたUNDERDOG のJUONが高校の仲間たちと出場するなど、若き世代がハッスルプレーで躍動した。

今年はコロナ禍で彼らがバスケを表現する場が相次いで中止を余儀なくされただけに、次世代がコートで日頃の成果を披露できることは、意義の大きいことである。落合も彼らのプレーから感じることが多く、次のように語った。

「少しでも僕たちが大会をオーガナイズすることができれば、子どもたちの未来につながると思います。もちろん(コロナ禍ですから)なかなか(大会の開催が)難しい時代ではありますけれども、感染予防に最大限努めて、大会を仕掛けることもWORMAiDとして目標のひとつです」

絶え間なく情熱を注げることができるワケ
このような落合知也はWOMAiDを通して、次世代へのきっかけ作りをするべく、その一歩を踏み出した。コロナ禍で選手としては難しい1年になり「仕方のないことですが、3x3の国際大会へ出られなかったことは悔いが残ります」と本音も語ったが、シーズン前に体を鍛えるフィジカルトレーニング以外にもジャンプやステップなどアジリティー強化に努めたことが、いま功を奏している。外国籍選手の登録数とオンザコートルールの変更があった今季も、越谷アルファーズではローテーションの一角を担い、東地区3位と健闘するチームに大きく貢献をしているからだ。

そしてまた「僕はただのBリーガーではなく、3x3の日本ランキング1位のプライドもあるし、3x3日本代表選手として結果を残すことを周りから期待されています」と、3人制を背負って競技生活を送ることが、いまの原動力でもある。

最後にそこまで3x3へ情熱を注げる理由を聞いた。8年前なんて3x3を知る者はほとんどおらず、オリンピック競技にもなっていなかった時代。SNSも現在ほど普及しておらず、世界のトレンドも分からなかった。そこから気持ちが切れることなく、選手として後進を育てる取り組みをするまでになった。その胸の内はとてもシンプルでピュアなものがある。

「一度バスケットボールから離れて、3x3に出会ったことで、改めてバスケットボールは面白い、新しい角度で向き合えたことが自分の中でとても衝撃的でした。だから、やっぱり『好き』という気持ちがあって、ずっとやり続けることができました。この好きという気持ちがあったからこそ、選手として活躍したいというモチベーションになって、今があります。そうでなければ辞めていますし、東京オリンピックの正式種目になったからやっているわけでも、好きになったわけでもありません。正直に言えば(はじめた)当時からつらい経験もたくさんしてきました。ですが、この競技が心底好きで、もっと多くの方に届けたいという思いでやっています。大好きという気持ちに尽きると思いますね」

年が明ければ、延期になった東京オリンピックまであと少し。WORMが檜舞台でメダル獲得を目指して挑戦する姿を楽しみにするとともに、WORMAiDをきっかけに彼の背中を追うNEXT WORM、そして3x3に興味を持つ方が1人でも多く生まれることを2021年に期待していこう。

落合知也が次世代の3x3シーンにかける思い、『WORMAiD』プロジェクトができた理由

TEXT by Hiroyuki Ohashi

WORMAiD PROJECT website
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落合知也 Twitter
落合知也 Instagram

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