ウェストブルックが教えてくれたストリートボールの可能性と「Why Not?」メンタリティー
ラッセル・ウェストブルックが電撃来日し、日本代表クラスのトップBリーガーも出場し大いに話題になったのが代々木公園でのエキシビションゲーム。ウェストブルック率いる「Team Why Not?」と対戦した「ALLDAY ALL STAR」のヘッドコーチをつとめ、日本最高峰の5on5トーナメント「ALLDAY」のコミッショナーでもある池田二郎が本イベントをレポート。
text by Jiro Ikeda
ウェストブルックが代々木に降臨した日
「もちろん!むしろ、ストリートでしかプレーしてなかったよ。そこでタフネスや勝負強さを学んだんだ。」
合同インタビューでの「あなたは若い頃ストリートバスケをしていましたか?」という質問に、ラッセル・ウェストブルックはこう答えた。 インタビューを通して慎重に言葉を選んでいたウェストブルックだったが、この質問には嬉しそうに見えた。
インタビューの数時間後、「TEAM WHY NOT?」と対戦する「ALLDAY ALLSTAR」のヘッドコーチとしてコートにはいった。MC MAMUSHIから最後に紹介されてコート中央にいくと、明らかにプロコーチに見えない僕をみてウェストブルックが「What’s up Coach! (よろしく、コーチ!)」とジョーク交じりに笑顔で声をかけてくれた。アメリカのストリート大会では、バスケが三度の飯より好きな地元のおっちゃんがコーチをやってたりする。 日本にも同じようなやつがいるんだなって感じで笑っていた。
試合はストリート慣れしているALLDAY選抜がリードし終盤へ。僕らイベント運営チームは、ウェストブルックは基本的にはプレーしないと聞いていた。でも、もしかしたらと僅かな期待をしていた。そしてヘッドコーチ、ウェストブルック自ら交代をコールし、登場。代々木は大歓喜し、イベントは大成功のうちに幕を閉じた。
Bリーガーの参戦
もう一つ大いに話題になったのが、「TEAM WHY NOT?」のメンバーだ。田臥勇太、富樫勇樹、アイラ・ブラウン、竹内公輔など日本代表クラスの選手の参加が発表された。(田臥選手は不出場)
まず、ALLDAY運営チームの一員としてこの場を借りてこの日来てくれた彼ら全員に感謝したい。選手がケガをしたことを想像すると恐ろしい。本人のキャリア、所属チームや日本代表への影響など代償は計り知れない。シーズンオフにストリートのイベントに出るという決断に対して選手も批判も受けていただろう。
対戦相手であるALLDAY選抜チームをコーチするにあたっての一番の大命題は誰もケガすることなくゲームを終えることだった。そのために試合前にメンバー全員を集めてミーティングをした。伝えたことは二つ。
一つは、エキシビションゲームとはいえ、いつも通り勝ちにいく、ということ。もう一つは、相手にケガの可能性が出るようなプレーはしないでくれということ。具体的には空中にいる選手へのコンタクトはしない。そしてジャンプショットも含めて着地点に入らないように、ということ。クリーンなブロックはもちろんOKだし、それ以外はふだん通り思う存分にプレーハードしてほしい、と。
いつもならファウルで止めたいプレーでイージーに決められても、決め返せばいい。大味にはなるのはオールスターゲームだからしょうがない、というマインドだ。絶対やりたくなかったのは、大観衆の前でダラダラと適当なプレーをすること。結果、クリーン&プレーハードをモットーにALLDAYの選手たちは絶妙な試合をしてくれた。心から誇りに思う。
ストリートで身につく技術
ウェストブルックは、ストリートでタフネスや勝負強さを学んだ、と語った。
ストリート経験豊富な選手は、常日頃さまざまな場所やシチュエーションで、それぞれ違うチームメイトと数え切れない量のゲームをしている。しかも毎回ミスが許されない真剣勝負だ。それはどんな状況でも自分のベストを出すための最高の訓練になる。
ウェストブルックに限らず、アメリカ人NBA選手でストリートを通ってきていない選手はほとんどいないだろう。 彼らは子供の頃から大人に混じりいろいろな公園でプレーしている。また、年齢やレベルを問わず全米で行われている21というゲームも得点感覚を磨くのに役に立つ。このような部分は、高校や大学のコーチは教えてくれない。すでに備えているのを前提として、その先の基礎を教えるのみだ。
日本でも代々木公園をはじめとするストリートコートで大人たちとプレーしながら育った子供たちは、ウェストブルックが言うような勝負強さを身につけることができるのだ。日本でも代々木公園のような環境がもっと増えることが、日本バスケの底上げ、さらには将来の日本代表の強化につながると僕は信じている。
WHY NOT? メンタリティのルーツとは
試合後にウェストブルックがALLDAY選抜チームを褒めていた、と聞いて嬉しかった。なぜ今回ウェストブルックがプレーすることを選んだのか。まさにWHY NOT?メンタリティーのルーツに起因しているのでは、と感じた。
合同インタビューで、WHY NOT?に込められたメッセージは何かと聞かれたウェストブルックは「誰がなんと言おうと自分を信じて目標に向かって突き進むことの大切さを若い世代に伝えたい。」と言っていた。WHY NOT?=君はできないなんて誰が決めつけたんだい?という意味だと思う。
「Why not?」という英語には大きく分けて3つ使い方がある。
一つは反論。「なぜ~してはいけないのか。~してもいいはずだ。」まさに今回のインタビューで言っていたことだ。君たちが成功したっていいはずだ。なぜ決めつけられないといけないんだ。強いメッセージだ。
今回のインタビューではここまでしか語らなかった。ところが、ウェストブルックの過去のインタビューを読んでみると面白いことに元々は別の意味だったことがわかる。彼は、高校時代バカなことばかりしていたと語っている。
「~をやろうぜ」「よし、やろう(Why not?)」
そんなノリで使っていたWhy not?を試合前にも言うようになったという。
「Let’s hoop!」「Why not?」(いくぜ!)
「やらない理由はないよね?」といったニュアンスだ。
子供のころから、とにかくトライしてみよう!というチャレンジ精神旺盛なウェストブルック。そして「ストリートボールしかやってなかったよ」とインタビューで語ったウェストブルック。
彼が今回代々木のコートでプレーしたのは必然だったのかもしれない。
ゲームではダンクを外し得点を取れなかった。しかし、失敗することを怖れずプレーするというのも、「WHY NOT? メンタリティー」だということをウェストブルックは教えてくれたのではないだろうか。
今回Team Why not?の日本人Bリーガーたちは、おそらくどこまでシリアスにプレイするべきかも分からない中でゲームが始まったのだと思う。だんだんとコートやリングにも慣れてきた。ストリートの選手たちもクリーンにプレイしてるしドライブしたり普通にプレイしても大丈夫だ。そう気づいたときには時すでに遅し。7分前後半という短いゲームだ。試合は終わってしまった、という感じだったと思う。
SNS上では本気のプレーが見たかった、残念という声も上がっていた。しかし、彼らが参加してくれたという事実だけでも、日本バスケ界にとって大きな一歩だったと思う。さまざまな事情やリスクを顧みず、ウェストブルック来日というこのチャンスに「Why not?」といって参加してくれた彼らをリスペクトしている。
ALLDAY ALL-STARで彼らともう一度対戦してみたい。
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