3×3.EXE PREMIER 2019を振り返る、その成果と2020年に向けて
text by Hiroyuki Ohashi
3×3で稼ぐ第一歩
6シーズン目にしてPREMIERは初めてチケット販売をスタートさせた。これまで3×3は FIBA(国際バスケットボール連盟)の下、観戦無料を基本路線としてきたが、今年6月のWorld Cupオランダ大会より彼らも方針転換。予選から決勝まで、チケットを売り出している。
リーグも5月18日の開幕ラウンドからゴールエンドやコートサイドなどの券種をメインにオンライン販売を開始。一部のラウンドでは、一定金額以上のグッズ購入で席に座れる仕組みや、全席自由席(一部招待席あり)というケースもあったが、3×3の興行によって、“チケット収入”という新たな売り上げを生み出した。中村氏によると、「売れ行きは会場によって差はある」としながらも、「もう少し苦戦するかと思ったのですが、堅調にというか、むしろ好調に今まで売っていなかった訳ですから、良い滑りだしかなと思います」と、計画に対して上々の結果を収めているという。
振り返れば3×3は無料であったが故に、運営する側の持ち出しが多いように感じてきた。これでは継続的かつ事業を大きくするために、“稼げる”姿が見えづらかったが、今回の試みによってそれが実現しやすい一歩になったのではないだろうか。現状では、チケットの売上はリーグへ一括して入る仕組みになっており、チームや大会誘致者へ行き届いていないというが、「チームや興行を呼んでいただく方が、儲かっていくようになればいいなと考えています」と、ステークホルダーの発展をリーグとしても最大化していくことに変わりはないという。そのために、「(稼いだお金は)選手に使いたいし、場に使いたいし、ファンに使いたい」という方針で、「我々はスポーツの会社。スポーツで稼いで、スポーツにまた投資することを純粋にしたい」と、3×3のリーディングオーガーナイザーとして、シーンの活性化に今後も力を尽くす構えだ。
日本の夏とどうやって向き合うのか
3×3の魅力のひとつに屋外のランドマークを背景に、非日常的なロケーションで大会が行われることだ。しかし、日本の夏は年々、その過酷さを増している。例えば気象庁の統計によると、東京の日最高気温(8月平均)は32.8度を記録しており、リーグ開幕以来最高となった。選手たちは、外で開かれるゲームに備えて、体育館のエアコンを切って練習をしたり、屋外コートでトレーニングをして体を暑さに慣らす準備をするという。そして「やっぱり必然的に(ゲーム前の)アップの回数が減ってくる。できるだけ休んで戦わないといけない。正直良いパフォーマンスができなくなるし、相手どうこうではなく、自分たちのバスケができるかがこういう大会ではカギになってくる」という選手の声は、環境の厳しさを物語る。東京オリンピックを控えて各競技団体でも対策が叫ばれているが、3×3も向き合わないといけない。
中村氏も「運営の仕方や環境について、もうすこし大きな工夫や変更を考えないといけない。同じカタチを続けながら、エクスパンションだけしていくことは非現実的だと思っています」と、状況に応じた見直しが必要な認識を持つ。そして幸いにも、チケットセールスについては、これを緩和する一助になった。「(これまでは席をとるために)ファンの皆さまが、早くから並んで席も動けなくて、トイレにもいけない炎天下の大変な状況だったが、観戦環境を良くする意味合いにおいて、チケットを購入いただくことは、もちろん金銭的な負担は発生してしまいますが、結果的に見やすい環境ができたのではないかと思う」と、振り返る。
海外に目を向ければ、FIBAの国際大会では円形の屋根がセットされ、コートのみならず客席もカバーしている。だが、国内にそれを導入しようすると、消防法や建築基準法といった法律に抵触してしまう状況。設置や撤去も含めれば莫大なコストもかかるだろう。とは言え、「我々はこれだけの規模(=今シーズンは947試合)でやっているので、その環境をアジアでも適合するカタチにアジャストさせていくようなことも含めて、当事者意識を持って、(関係者と)話していくことも必要だと思う」と、何か手立てを考えていくことを示唆。来シーズンに向けて、ハード面での打開策や、開催地選定やスケジューリングなど、3×3の魅力と大会環境の両立に向けて動いていく。
リーグの拡大路線を考える
PREMIERの今シーズンは男子が36チーム増の72チーム、女子は3チーム増の9チームへ拡大。毎年のようにエクスパッションを進める理由を中村氏は次のように明かす。「(選手の皆さんは)ポテンシャルが高く、すごく一生懸命やっていらっしゃるが、場が少ないと思っています。結果、可能性のある選手たちがその場で活躍をどう勝ち取っていくかは、それぞれの努力や工夫によるところですが、やっぱり我々、裏方はそういう場を作ることがとても大切だと思っている」。
さらに男子については、6カンファレンス増の12カンファレンス体制となり、日韓合同のアジアカンファレンスや、タイ、ニュージーランドへ進出してグローバル化を推し進めた。3×3ニュージーランド代表を擁するSWISH.EXEや、アジアカンファレンスからフィジカルの強い韓国勢らとしのぎを削ったオール日本人編成のSHINAGAWA CC WILDCATS.EXEがPLAYOFFSのベスト4には名乗りを上げたことは、それを印象づける。国内に本拠地を置くチームにとって、海を渡ることは費用負担や移動の負荷が生じるが、サイズや体格で勝る海外チームとマッチアップできることは、日本で得られない経験であり、タフなシーズンを過ごすことは競技力の底上げにもなる。そしてPREMIERのボーダレスな取り組みは、アジアの3×3シーンを活性化する一手にもなるだろう。
しかし、リーグの拡大による試合数の増加は、大会グレードが低下することを内包する。3×3はご存知の通り、大会を10段階に格付けしており、それによって得られるFIBAポイントも変動する。PREMIERはそのうち4番目に高い“パープル”の格付けとなっているが、1つのオーガーナイザーが主催するツアー形式の大会において、一定の試合数を超えてしまうと、大会の格付けがダウンするという規定がある。今シーズンで言うと、例えばアジアカンファレンスはグレードダウンしている状況であり、「FIBAのグレーディングシステムでいうと、一部はルール通りに適合するとランクの下がるところが、我々のリーグフォーマットにはあります」と中村氏も認めるところだ。ただ、彼らはFIBAとの折衝および、日本で3×3を普及、発展を担ってきた実績を高く評価されており、「基本的にフォーマットの様々な上がり方によって差があるので、(グレードが)一律ですべて上がるかは別の話」としながらも、ランキングは後日、FIBAによってグレードアップの修正が行われている。これによっては、昨年は日本の国別ランクキングが一時期、4位に浮上したケースもあり、PREMIERが果たす役割は、非常に大きい。
ただ視点を変えて、選手の立ち場になれば、同一リーグの中で、同一フォーマットにも関わらず、FIBAが設計また指定する大会グレードがカンファレンスによって異なり、ポイントに大小が生まれることは、身を削ってプレーした選手の努力も浮かばれない。PREMIERが1部、2部のような階層リーグであれば、その差が生まれることもあるだろうが、同じ土俵で戦うのであれば、そこはフラットであったほうが、良いのではないだろうか。FIBAと協議されることを望みたい。
オリンピックイヤーに望むこと
PREMIERはオリンピックイヤーの2020シーズン、当初の計画通り108チーム体制を目指す予定だ。過去6シーズン、リーグを盛り上げてきたチームの存在や、意欲的な国内外からの新規参入の問い合わせもあり、「ニーズはとてもあるわけです。やりたい方がいて、やれる可能性があって、ポジティブに思っている方がいますので、それをわざわざ止める必要があるのだろうかと思います」と、その成長を強力にドライブする考えだ。そして国内カンファレンスを増やすのか、海外カンファレンスを増やすのかは未定であるが、「やはりそのバランスは重要だと思っています。やみくもただ増やせばいいわけではない」と、その中身については今後、熟考を重ねていく。東京オリンピックをきっかけにより多くの人が興味を持ち、競技にトライする選手がさらに現れることはを想定すれば、その入り口となるチームは多いほうがいい。ただ同時に、日本初の海外を巻き込んだプロリーグである以上、世界から注目され、誇れる、さらには代表強化に寄与する競技レベル、プレー環境はあって然るべきだ。
来シーズンのスケジュールは、オリンピック開催に伴い「中断期間」を設けるという。今シーズンは5月18日開幕、9月8日閉幕であったが、2020年はそれによって、オープニングは前倒し、クローズは後ろ倒しになる見込みだ。もちろん、Bリーグや3×3のプロサーキット、五輪最終予選など、国内外の選手が参戦するリーグであるがゆえに、詳細なリーグ設計はそれを勘案してのことになる。オリンピックの盛り上がりに弾みをつける、そして本大会の熱量をさらに最大化できるような3×3.EXE PREMIERを期待したい。
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text by Hiroyuki Ohashi