キヤノンが描く、バスケットボール観戦の未来。「3Dサテライトビューイング」が実現した新たな観戦体験

アリーナから離れた場所にいながら、目の前のテーブルにバスケットボールコートが現れ、選手たちがリアルタイムで動き回る。そんな新しいスポーツ観戦の可能性を提示する「3Dサテライトビューイング」の実証イベントが、9月18日、東京・虎ノ門で行われた。
今回の実証実験で組み合わされたのは、キヤノンの「ボリュメトリックビデオ」、複合現実(MR)、そしてNTTグループの次世代通信基盤「IOWN」だ。
愛知国際アリーナで行われていたアジアカップのバスケットボールの試合をリアルタイムで3Dデータ化し、離れた東京へ伝送。MRデバイスを装着すると、遠く離れたアリーナの試合が立体的な空間として目の前に現れた。


「映像を見る」から「空間を見る」へ
ボリュメトリックビデオの特徴は、試合を通常の映像ではなく3Dの空間データとして記録できることにある。複数のカメラで選手やコートを多方向から撮影することで、実際にはカメラが存在しない位置からもプレーを見ることができる。

虎ノ門の会場でMRデバイスを装着すると、目の前のテーブル上にバスケットボールコートが出現。身体を動かしながらコートを横から見たり、立ち上がって俯瞰したりと、自分自身で視点を選びながら試合を観戦できた。

キヤノン 常務執行役員 イメージング事業本部 IMG第三事業部長の甲谷英人氏は、今回のポイントについてこう説明する。
「撮影したデータはものすごく大きい。それを高速に川崎へ送り込み、処理したデータをまた送れる。場所の自由度が全然上がったというのが、今回のシステム実現の一番大きなポイントです」
撮影する愛知、3Dデータを生成する川崎、観戦する東京。これまで近接した場所で行われていた一連の工程を、IOWNによって遠隔化したことが今回の実証の大きな特徴だ。

NBAでも活用されてきた3Dデータ
この技術が生み出す可能性は、ファンの観戦体験だけではない。イベントでは、キヤノンでボリュメトリックビデオの事業開発に携わる若園清氏から、NBAチームとの取り組みも紹介された。試合を3Dデータとして記録することで、選手に近い視点からプレーを振り返ることができる。実際にNBAでは、コーチと選手が同じ視点でプレーを確認するコーチングなどにも活用されてきたという。

観戦、配信、コーチング、分析。ひとつの試合から生成した3Dデータをさまざまな用途へ展開する「シングルソース・マルチユース」が、キヤノンの描く方向性だ。

同じ試合を、別のアリーナで見る未来
今回披露されたのは、テーブル上にミニチュアサイズのコートを再現する体験だったが、その先にはさらに大きな構想がある。囲み取材では、別のアリーナに実物大に近い競技空間を再現し、「同じ試合を2か所でやる」ことも技術的には可能だと伺った。
例えば、アウェーで行われている試合をホームアリーナで観戦する。海外で行われているゲームを、日本にいながら立体的に体験する。そんな観戦スタイルも考えられる。

今回の取り組みはあくまで実証実験だ。アリーナへのカメラ設置や画質、運用コスト、ビジネスモデルなど、実用化に向けて検証すべき課題も残されている。
それでも、愛知で行われているバスケットボールが、川崎を経由し、ほぼリアルタイムで東京の目の前に3D空間として現れたことは興味深い。
「現地で見る」「映像で見る」に続く、新しいバスケットボール観戦の形。テレビの前にいながら、自分で視点を選ぶ。離れた場所にいながら、コートを立体的に見渡す。アウェーゲームをホームアリーナで体験する。試合後には、選手とコーチが同じ目線からプレーを振り返る。
今回の実証実験は、バスケットボール観戦の未来に向けた、その最初の一歩なのかもしれない。

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