「好き」が交わり、カルチャーが育つ場所へ。TOKYO 23が描く新しいコミュニティの形

2016年、東京・原宿に日本初のJordan Brandコンセプトショップとして誕生したTOKYO 23。バスケットボールを競技としてだけでなく、ファッション、音楽、アートへと広がるカルチャーとして捉え、東京からその魅力を発信してきた同店が、新たな姿へと生まれ変わった。
今回のリニューアル、あるいは“Refit”を象徴する言葉は、「LOVE OF THE GAME」。
それは、バスケットボールへの愛だけを意味するものではない。スポーツ、ファッション、コーヒー、音楽、アート。自分が心から好きだと思えるものに情熱を注ぐ人たちが出会い、互いの世界を広げていく。新しいTOKYO 23が目指すのは、そんなそれぞれの“LOVE OF THE GAME”が集まる場所だ。
そのコミュニティの可能性について、バスケットボールを「伝える人」である解説者・アナリストの佐々木クリス、長い競技生活を通してチームや仲間と向き合ってきた元日本代表バスケットボール選手の宮崎早織、そしてTOKYO 23 COFFEE STANDをプロデュースする原宿BAGGAGE COFFEE主宰の竹内隆平に話を聞いた。

買い物だけではなく、ここで過ごす時間に価値を
リニューアルした店内は、Jordan Brandにふさわしい洗練された空気をまといながらも、人が立ち止まり、会話を交わせる余白を備えている。
佐々木クリスは、店内に足を踏み入れた印象をこう表現する。
「ここに来るだけでワクワクできると思います。人が集まる場所って、語り合う場所でもある。同じパッションやゲームへのラブを持つ人たちが交流できる場所になっているんじゃないかなと思います」


店内には、プロダクトだけでなく、カスタムエリアやコーヒースタンドも設けられた。
そのコーヒースタンドを手がける竹内隆平は、新しいTOKYO 23について「靴を買うという体験だけではなく、ここで過ごす時間そのものに価値を生み出せるスペース」と語る。
TOKYO 23は、商品を販売するだけのショップから、人が滞在し、関係が育っていく場所へと進化しようとしている。

「好き」が、人生を変えた瞬間
3人には、それぞれ人生を動かした“好き”との出会いがある。
クリスにとって、その原点はテレビで目にしたペニー・ハーダウェイだった。新聞のテレビ欄を見た父親にNBAの放送を教えられ、VHSを準備して試合を録画した。そこで目にしたのは、ポイントガードのペニーがパトリック・ユーイングの上からダンクする姿だった。
「人間ってこんなことができるんだ、僕もこうなりたいと思ったのが、今の自分のファーストステップです。彼と出会わなかったら、バスケットボールをしていなかったし、続けていなかったし、解説者にもなっていなかったと思います」
ペニーへの憧れは、バスケットボールだけでなく、音楽や映画、ファッション、ストリートカルチャーへとクリスの世界を広げていった。

一方、宮崎がバスケットボールを始めた理由は、意外にも「水泳を辞めたかったから」だった。姉がプレーしていたこともあり、水泳と同じ日にできるスポーツとして、小学2年生でバスケットボールを始めた。すると、人からボールを奪うことや、ディフェンスで相手の裏をかく面白さに夢中になった。
「自分が好きなことをやっているのに、ファンのみなさんや、本当にいろいろな方が応援し、協力してくれた。それが私の人生を変えてくれたと思います」

そして竹内にとって人生を変えたのは、「人と直接向き合う仕事がしたい」という想いだった。大学までサッカーに打ち込み、その後はファッションの世界で接客やバイヤーとして経験を積んだ。しかし、役職が上がるにつれ管理業務が中心となり、現場でお客さまと向き合う時間は少なくなっていった。
「自分がやりたかったのは管理ではなく、人とコミュニケーションを取ることでした。カフェをやりたかったというより、コミュニティスペースをつくりたかったんです」
その想いから2020年、キッチンカーでコーヒー事業をスタート。目指したのはコーヒーを提供することではなく、人と人が自然につながる場所をつくることだった。始まり方は違っても、ひとつの「好き」が、新しい人、場所、カルチャーとの出会いを連れてくる。それこそが、LOVE OF THE GAMEの持つ力なのかもしれない。

なぜ、好きなことを続けられるのか
クリスは、好きなことを続けるうえで最も大切なものを「パッション」と表現する。
「成功の最大の秘訣は、パッションだと思います。そのパッションが燃え尽きないことが大事。バスケットボールは自分にとって心の拠り所でもあって、苦しい時に一人でシューティングをしたり、ピックアップゲームに行って人とつながったりすることが、自分を支えてくれました」
さらに、知れば知るほど分からないことが増えていく、終わりのない探究も、バスケットボールに向き合い続ける原動力になっているという。
宮崎が12年間の現役生活を走り続けられた理由は、自分の可能性を信じ続けたことだった。
「まだいける、もっと上を目指したいという気持ちが、ずっと原動力になっていました」
2024年のパリオリンピックを含む大舞台を経験し、長い競技生活を終えた今、改めて感じているのは「好きの強さ」だ。
「努力も大切ですけど、一番は、自分は何が好きなのか、どんなことに興味があるのかということ。好きなことを追求していくのは、本当に楽しくて、素晴らしいことなんだと感じています」
好きだから始め、もっと知りたいから続ける。そして、続ける過程で人と出会い、支えられ、次の誰かへと情熱が受け継がれていく。個人の中に生まれた「好き」は、人との関係の中でカルチャーへと変わっていく。

夢やパッションを笑わないコミュニティ
クリスが考える理想のコミュニティは、夢やパッションを真剣に語ることができ、その思いを笑う人がいない場所だ。
「同じ熱量で向き合ってくれる。いいことだったら後押ししてくれて、それは違うという時には、ちゃんと向き合ってくれる。そういうつながりが生まれていることが、一番大切なんじゃないかなと思います」
これまで解説者として一人で走り続けてきたクリスは、現在、一人でできることの限界も感じているという。知識を届けるだけではなく、体験を共有すること。自分と異なる考え方や情熱に触れること。そのためには、人と人がリアルに交わる場所が必要になる。
「パークだったり、ファンのみなさんとリアルに会えるイベントだったり、密度の濃いパッションを交換できる場所は大事です。コミュニティの交差点やタッチポイントが、もっと増えてほしい」
TOKYO 23は、まさにその交差点のひとつになろうとしている。

人を育てるのは、同じ目線に立てる場所
宮崎は、現役時代に初めてキャプテンを任された経験から、コミュニティにおけるリーダーのあり方を学んだ。それまで宮崎が考えていた理想のリーダーは、結果を残し、背中でチームを引っ張る存在だった。しかし、自分が若い選手たちをまとめる立場になり、その考えは変わった。
「自分のところまで上がってこいと言うのは簡単。でも、自分が下がって、その子たちと目線を合わせることは、簡単そうに見えてすごく難しいんです」
自分の立場から指示するのではなく、相手の立場に寄り添い、目を合わせて話す。そして、すぐに答えや結果を求めるのではなく、成長を待つ。
「成長させるというより、待ってあげることがすごく大事なんだと感じました」
夢や情熱を否定しないこと。そして、一人ひとりの目線に立ち、その人の歩みを待つこと。それは強いチームをつくる条件であると同時に、誰もが安心して参加できるコミュニティの条件でもある。

異なる「好き」が混ざり合う
竹内がBAGGAGE COFFEEでつくろうとしてきたのは、著名人やインフルエンサーだけが集まる場所ではない。サッカー選手の隣にカフェ巡りを楽しむ人がいて、その隣に海外から訪れた旅行者がいる。肩書きやジャンルで人を分けることなく、さまざまな背景を持つ人が自然に混ざり合う空間だ。
「服を知らない人に、新しいものを知ってもらうきっかけをつくる。今までレセプションに参加したことのない人に、特別な経験をしてもらう。そういうことをやりたかったんです」
竹内は大学までプロを目指してサッカーを続け、卒業後はファッションの世界で接客やバイイングを経験した。その後、管理業務が増えて人と直接向き合う時間が減ったことをきっかけに、改めてコミュニケーションを中心にした場所をつくろうと、コーヒーの世界へと進んだ。カフェを開くこと自体が目的だったのではない。竹内がつくりたかったのは、人が出会い、新しい世界に触れられるコミュニティスペースだった。

「バスケやスニーカーが好きな人だけではなく、コーヒーが好きで立ち寄った人がいてもいい。サッカーが好きな人がバスケに興味を持つきっかけになったり、逆にバスケをきっかけに別のカルチャーと出会ったり。新しい人たちとの出会いが生まれる場所にしたいです」
同じものを好きな人だけを集めるのではない。
異なる“LOVE OF THE GAME”を持つ人が出会い、それまで知らなかった世界へ一歩踏み出せること。そこに、新しいTOKYO23が掲げるコミュニティの可能性がある。コミュニティは、日々の会話から生まれる。竹内は、コーヒースタンドをTOKYO23の一角を借りて営業する独立した店舗とは考えていない。
TOKYO 23やatmosのスタッフを含め、店全体をひとつのチームとして育てていく。スタッフ同士が互いを知り、コーヒーを飲み、会話を交わす。その関係が、お客さまへの自然な紹介や新しい交流につながっていく。
「まずスタッフのみなさんが、僕たちやうちのスタッフのことを知ってくれる。そうすれば、『せっかくだからコーヒーを飲んでいきなよ』という会話が生まれる。コミュニケーションを取っていないと、コミュニティは発生していかないと思うんです」
空間を新しくし、コーヒースタンドやカスタムエリアを設置しただけでは、コミュニティは生まれない。そこで働く人が思いを共有し、訪れる人と向き合い、小さな会話を積み重ねる。その日常の先に、場所への愛着や新しいカルチャーが育っていく。

LOVE OF THE GAMEが集まる場所へ
クリスが語ったのは、夢やパッションを笑わず、互いの情熱を交換できる場所。
宮崎が語ったのは、相手と目線を合わせ、その人の成長を待つことができる場所。
竹内が語ったのは、肩書きやジャンルを越え、異なる「好き」が自然に混ざり合う場所。

3人の言葉から浮かび上がるのは、単に同じ趣味を持つ人が集まるだけではない、新しいコミュニティの姿だ。
好きなことは、一人でも始められる。しかし、それを続け、自分の世界を広げ、新しいカルチャーへと育てていくためには、仲間と場所が必要になる。新しくなったTOKYO 23は、スニーカーを買うためだけの場所ではない。バスケットボールを起点に、ファッションやコーヒー、音楽、アート、そしてまだ名前のついていない新しいカルチャーが交差する場所だ。
それぞれの“LOVE OF THE GAME”を持つ人が出会い、語り、刺激し合い、新しい一歩を踏み出す。TOKYO 23のリニューアルは、空間を新しくするためだけのものではない。LOVE OF THE GAMEが集まり、これからのコミュニティを育てていくための、新しいスタートなのだ。


- 「好き」が交わり、カルチャーが育つ場所へ。TOKYO 23が描く新しいコミュニティの形
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TEXT by Rintaro Akimoto
PHOTO by TOKYO 23




