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  • 2024.10.15

パリで3×3の観覧者は20万人!FIBAの3×3責任者が語る競技の最前線…東京からパリ、そしてロスへ

パリで2度目のオリンピックを迎えた3×3は、大きな盛り上がりを見せた。配信を見ただけでも、コートを大観衆が取り囲んだ様子がうかがえる。そんな熱狂が終わって1ヶ月と少し過ぎたころ、FIBA(国際バスケットボール連盟)で3×3 Managing Directorを務めるAlex Sanchez(アレックス・サンチェス)氏へインタビューする機会に恵まれた。彼は世界の3×3シーンを取り仕切る責任者である。3×3との出会いから、パリの成功を起点に3人制バスケの最前線をうかがった(取材日:9月11日)。

3×3との出会い…事務総長バウマンからの提案
――3×3と最初に出会ったのは、いつごろですか。

 ずっと昔ですけどね(笑)。2010年の4月です。FIBAの事務総長だったパトリック・バウマン(当時)から「3×3について一から考えてほしい」という提案がありました。その年にユースオリンピックゲームスで3×3が試験的に導入され、アーバンスポーツのオリンピック競技として潜在的な力を秘めているか、調査するために動き出したんです。

 その結果、やはり3×3は発展していくスポーツだと判断をして、バウマンへこれから力を入れていこうと伝えました。そしたら「その発展をさせるパートをぜひ引き続きお願いします」と言われて、僕が取り掛かることになったんです。

――発展する要素はどこに感じたのですか。

 2010年12月にFIBAの会議で調査結果をプレゼンしたのですが、その過程でパトリックの勘がまさに当たっていたと実感したわけです。
 例えばトレンドです。そもそもバスケットボールは、サッカーに次いで人気のあるスポーツであり、3×3というシンプルなバスケで5人制とは違うファンを惹きつける魅力があると感じました。5人制のファンが必ずしも3人制の状況を追いかけているわけではなく、逆もしかりです。例えばビーチバレーとバレーボールの傾向とも似ていました。3人制にストリートバスケが存在していて、そこに十分なプレーヤーがいて、それを魅力的だと考えるファンがいました。

 ただ、ストリートバスケだったので仕組み作りが(世界的に)まだの状況でした。すでにあるものをベースに発展していける点で、非常に3人制へポテンシャルを感じました。

パリオリンピックの成功…観覧者はのべ20万人
――そんな3×3は今夏、パリオリンピックで成功を収めたと思います。私も配信やSNSを通じて、コンコルド広場のベニューでたくさんのお客さんが盛り上がっている様子を見ました。アレックスさんは会場の様子をどう感じましたか。

 幸い、パリではお客さんを入れることができたので、東京とは全く違う会場の雰囲気でした。3年前はお台場が素晴らしいベニュー(青海アーバンスポーツパーク)になるはずだったのに、コロナのパンデミックのため、有観客でできなかったのがとても残念でした。

 それに対してパリは、3×3の素晴らしさをオリンピックコミュニティに伝えることができました。会場の構成は東京と、とても似ています。スケボーやBMX、クライミングなど同じエリアで3×3も行われたんです。3×3を見に来た方々がいろんなアーバンスポーツをちょっとずつ体験することができるファンエリアができたことによって、とても大きな盛り上がりになりました。

――どのぐらいのお客さんが集まったのでしょうか。

 3×3の試合は7日間で18セッションありまして、チケットを購入してくれたお客さんだけでも7万人が観戦をしました。さらに、3×3の試合はチケットが無くても見られるようなエリアが一部ありましたので、全体で20万人の方に観覧いただくことができたんです。

 3×3.EXE PREMIERを運営するゼビオ(クロススポーツマーケティング)が2013年にお台場で「東京マスターズ」(3×3クラブ世界No.1を決めるツアー大会のひとつ)を開催しましたが、そのときに来場者数をカウントする良い方法を見出してくれましたのも役立ちました。試合会場だけでなく周りにファンエリアを形成したことによって、試合を見ることができる人数よりかなり多くの人が集まって、その場の雰囲気を楽しんでくれる経験もありました。今年それがパリオリンピックで実現しているのを目の当たりにしたんです。

――ベニュー作りでこだわったところはありますか。

 例えば選手のウォーミングアップコートの一般開放です。普通に考えればその場所は非公開ですが、お客さんがチケット無しで選手を間近に見られる取り組みも有観客だからこそ、初めてできました。
 また、客席も雨などの天候の影響は受けない程度に、選手の安全性を確保する距離を保った上でコートとの位置をぐっと近づけて、選手のプレーをより肌で感じてもらえるようなセッティングにしました。3年前の東京で実行したかった案を、ようやくパリで実現できたと思います。

――競技面では男子オランダ、女子ドイツが優勝しました。両チームともワールドツアーやウーマンズシリーズで戦う選手と、ネーションズリーグ(19歳から23歳の選手が出場できる国別対抗戦)で戦う選手が融合していましたね。FIBAが設計した大会で実力をつけた選手たちが金メダルを獲得したように見えましたが、その成功をどう感じましたか。

 東京で見たことが、パリで増幅されたという印象です。そもそも2010年に3×3の競技化を考えたとき、もっとたくさんの国にバスケットボールで活躍してほしいという思いがありました。それは、東京で男子のラトビアが金メダルを獲得し、女子のモンゴルが初めてチームスポーツでオリンピックへ出場したことなどが挙げられます。
 パリで言えば、男子でオランダが優勝して、女子ではアゼルバイジャンが初出場しました。選手や各国のバスケットボール協会が5人制で活躍している選手のうち、どの選手なら3人制で活躍できるだろうか。どの選手がキャリアシフトしたいだろうか。それを手助けするような役割を、我々が担えたらと思っていました。

 そのため、選手のキャリア形成の道筋を作ったり、3人制でプロとして活躍するというオプションを与えたりするため、2013年から「ネーションズリーグ」を開催しています。これはまさに選手の機会創出の場となっており、19歳から23歳の年齢層を対象にしたのも理由があります。この年代になったら自分のキャリアをどうしたいかと十分に自分で判断ができるような歳だと考えているからです。5人制でプロになるか。3人制に転向してプロを目指すのか。その判断ができるような年齢層にターゲットを当てて取り組みました。

――ネーションズリーグでの取り組みは、パリオリンピックでどのように現れましたか。

 パリでは男女合わせて16チームのうち、10チームがネーションズリーグのプログラムから育っていった選手が所属していました。東京では16チーム中6チームだったことを考えると、この3年で人数が増えているため、選手のステップアップを得られたわけです。
 また、プログラム出身選手のうち7選手が東京でメダルを獲得したのに対して、パリでは9選手がメダルを獲得しています。この数字を見ても、ネーションズリーグのコンセプトであるキャリア形成を促進してあげられたと思っています。

 さらに、ワールドツアーやウーマンズシリーズを立ち上げた背景には、賞金を稼いで3×3のプロとして生きていく道筋を選手へ作ってあげたいという考えがありました。特に、パリへ出場した女子選手は、ほとんどの選手がウーマンズシリーズ出身なんです。男子選手だけでなく、女子選手もプロとしてやっていける道を作ってあげることは着実に実現できていると考えています。

東京からパリへ…FIBAの取り組みを振り返る
――東京からパリまでの3年間を振り返ると、ウーマンズシリーズではナショナルチームだけでなく、クラブチームへ“コマーシャルチーム”という枠で参戦の門戸が開かれました。女子選手の活躍の場が広がった取り組みは素敵だと思います。女子3×3シーンの変化をどう感じていますか。

 ウーマンズシリーズの出場枠拡大によって、女子選手がプレーする機会を増やしてあげられたと強く感じています。そもそも3×3のコンセプトが、プレイヤーエンパワーメントです。例えばコーチがついてもコートの中に入れないルールは、プレーヤー主導の競技の現れです。

 ただ、一つ重要なことは男子と女子のバスケットボールは別物だということです。2019年の分析では女子バスケに対する関心が、男子よりも薄いという認めざるを得ない結果が出ました。
 それでも、女子の3×3であれば、例えば5人制のWNBAを見るよりももっと面白いものが作り上げられるという自信がありました。そのため、男子と女子の違いを理解して、それぞれの良さを生かしていけるような大会の仕組み作りをしています。

――具体的には女子では、どんな仕組みを考えたのですか。

 まずビジョンとしては、ウーマンズシリーズの賞金を上げていこうと考えています。なぜかと言うと、多くの選手が夏は3人制、冬は5人制という二足のわらじでやっていることが多いからです。それができるように、シーズンもずらして開催しています。

 その中で例を挙げると、フランスの何人かの選手は5人制より3人制の賞金の方が稼げているんですよね。この方がトータルで得られる賞金額(収入)が上がる選手が出ているため、3人制メインのキャリアを築いていける選手をより増やしていきたいと思います。
 ただ、最も大事にしていることは何かに対抗しているのではなく、選手へもっと機会を与えたいというのが根本的な考えです。ZOOSやカナダが良い例ですが、選手たちが自ら選択して3×3をプレーする機会を増やしてあげたいですね。

――今後の女子3×3シーンの展望はどうお考えですか。

 FIBAのおかげで、3×3はワールドワイドにファンを惹きつけています。5人制にたくさんのスポンサーが付きがちですが、3人制であれば即効性のあるメディア露出ができると思います。世界には、アウディがスポンサーについているチームもありますよ。会社名を出すようなマーケティング面や、女性のエンパワーメントという面からもメッセージを発信できるプラットフォームを作っているので、日本からもっと挑戦してほしいと思います。

 例えば良い例として、2年前に女子の3×3フランス代表のレティシア・グアポ選手が、フランスの男女の5人制と3人制の選手の中から年間最優秀選手に選ばれました。3人制の選手がそこまで上り詰めた好例だと思います。日本で言えば東京オリンピックに出場した山本麻衣選手が3×3に専念すれば、世界一の女子選手という称号を得られる実力と可能性を秘めていると思っています。
 パリのメダリストの中には、3人制専任の選手もいたぐらいです。もっと3人制をメインのキャリアとして選ぶ選手が増えたらいいなと思いますし、相対的に選手が選べる機会を創出していくのが私たちのゴールです。

――男子はワールドツアーの最高峰・マスターズがいま17大会まで増えて、予選会であるチャレンジャーも規模が大きくなりました。男子の大会は、今後どうなりそうでしょうか。

 ワールドツアーのビジョンはシーズンによって多少の増減はありますが、50イベントが指標です。おおよそマスターズとチャレンジャーの開催比率は1:2という割合をキープしていこうと考えています。

それに対してウーマンズシリーズは年間25イベント(2024シーズンは20イベント)程度を考えています。開催時期はこれまで通り、男子が4月から12月、女子は4月から9月で考えています

――世界的にはアジアの存在感が高まっていますね。大会を開催する国やワールドツアーやウーマンズシリーズへ出場するチームが増えています。特に中国やシンガポール、タイ、フィリピンなどが積極的です。アジアの3×3熱をどう感じていますか。

 中国を例にあげると、ストリートバスケの文化が根付いていると思います。一般の方でもハーフコートでバスケを楽しむ様子がまちに馴染んでいる印象であり、、ここ数年で一層中国での開催が増えていて、人気が高まっている状況です。
 3×3のコンセプトペーパーにも当初より、アジアに注力していこうと書かれていました。人口で言えば、中国やインドは10億人を超え、東南アジアも各国合わせて約7億人います。その規模を考えると、そこでの可能性はとても重要視していかなければいけないと思っていました。
 また、3×3はボールのサイズが6号サイズで7号の重さです。ボールを5人制に比べて小型化することによって、2メートルを超える選手しか活躍できないような状況から、平均身長が低い国や小さい選手でも活躍できる競技にシフトすることを考えました。
 今回のパリオリンピックで男子オランダのワーシー・デ・ヨング選手(194㎝)がMVPでしたが、選手としては小柄です。サイズが物を言う世界ではなく、技術で対抗する。いろんな国や選手がチャレンジできる可能性を広げることは、3×3の当初からあった構想でもあったわけです。

出場国枠の議論も…パリからロスへのビジョン
――3×3は、2028年のロサンゼルスオリンピックに向かいます。4年後に向けたビジョンをお聞かせください。パリの成功によって、出場国は男女各8カ国ではなく、12カ国にして欲しいという声もあるのではないかと想像しています。

 FIBAの中で出場国が8チームがいいのか、12チームがいいのか、議論にもなっているところですが、まず我々がロスへ向けてやろうと思っていることは成長を続けることです。9月のヨーロッパカップ(オーストリア開催)でも、約4,000人の観衆が集まりました。イベントを大きくして、より多くの方に現地で試合を見ていただき、それと同時にフォロワーを増やしていく。我々はファンベースをいまの2倍へ増やすことを目指しています。
 現在、私たちのSNSの総フォロワー数は800万を超えており、他のどの競技を見ても伸びています。より多くの人を巻き込むことを、4年後に向けて取り掛かっているところです。

――では最後に、いまの日本の3x3シーンに期待していること。そして、足りないことは何だと思いますか。

 いつでも、もっと上を目指すことはできますよね。日本の強みは、非常に有力なプロモーターであるゼビオ(クロススポーツマーケティング)がいて、PREMIERリーグを運営していて、国内で存在感を出しているところです。宇都宮も2016年からワールドツアーを開催して、今年も開幕戦を開いてくださいました。
 ですが日本に大会を増やしていくことをより期待したいです。実は、2週間ほど前も日本へ来て、他の都市にワールドツアーの開催を提案にも行ったんですよ。

 あと、僕はこのインタビューが終わったら、JBAに行きます。日本のナショナルチームがもっと強くなるように、またロスへ出場するためにはどうしたら良いのか。それをFIBAの立場からサポートしていきたいと思います。

 日本にはとても良い3×3のトレンドがあります。もっと力を入れて大会をすること、日本代表チームの力をつけていくことが、重要だと思います。

【FYL】パリで3x3の観覧者は20万人!FIBAの3x3責任者が語る競技の最前線…東京からパリ、そしてロスへ

Interpretation by Mio Kobayashi

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