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  • 2024.08.30

ジョーダン ブランドによるユース世代の1on1バスケットボールの世界一決定戦、THE ONE:FINALS in Paris Report by MC MAMUSHI

その存在を自分が耳にしたのは開催1ヶ月前のこと、内々の話だった。「ジョーダン ブランドによる18歳以下の1on1世界戦が、7月にフランス・パリで開催されるらしい」、それくらいの情報だったと思う。のちに知ったが、ジョーダン ブランドが今夏から発動した”Our Turn” という新たなスローガンの元、各国からユース世代の都市代表選手をパリに集結させて1on1のトーナメントを開催し、男女ともにチャンピオンには1年間のジョーダン ブランドのサポートが約束される ”THE ONE” という新たな1on1ゲームを立ち上げるということだった。ヨーロッパからは自国フランス・パリ、イギリス・ロンドン。アメリカからはニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス。そこにオーストラリア・メルボルン、フィリピン・マニラ、中国から北京と上海。そして日本・東京の10都市から男女ともに1名ずつが参戦し、世界一の称号とジョーダン ブランドからのサポートを争う。水面下ではジョーダン ブランドのパートナーであるストリートボールトーナメントのALLDAYからの推薦もあり、日本・東京代表として男子は海外挑戦に積極的なBoogies Basketball U18所属のThomas Yoshimura/吉村灯真(よしむら とーます)が、女子は小学生時から天才ドリブル少女としてSNSで注目を集め、現在は名門京都精華学園の1年生としてロスターに名を連ねるKちゃんこと満生小珀(まんしょう こはく)がそれぞれ出場することで決まった。

さて、では誰がこのゲームを見届けるのか?10代の選手を送り込むだけでは無粋だし、それぞれがどういう戦いをするのか見届けたい。また、単純にジョーダン ブランド主催の1on1というものが未知で生で観てみたかった。そうしてALLDAYプロデューサーのAKB、自分MC MAMUSHI、そしてKちゃんを推挙する上で尽力してくれた元Wリーガーの岡田麻央の3人で、このトーナメントを目撃しにパリに行くことを決めたのだった。

2024年7月26日(木)、我々はフランス北部のモンマルトル地区の中心部にあるエリゼ・モンマルトル劇場にいた。元は1807年にオープンした舞踏会場だという。入場を待ちわびるパリっ子たちで会場エントランスからは長蛇の列が伸びていた。ここで夕方から夜にかけてTHE ONE:FINALS が開催される。ちょうど ”夏のスポーツの祭典” の開会式が行われる時間帯とドン被りだが関係ない。前後するが、この会場に向かう道中で日本・東京代表の男子選手のThomas Yoshimura/吉村灯真が、日中に実施された無観客の予選ラウンドで落選したと知る。男女ともに10人中2人がここで脱落し、それぞれベスト8から有観客でノックアウトトーナメントがスタートすることになった。

厳重なセキュリティのエントランスを突破して、照明で赤く照らされる会場内にはドリンクカウンターにフードカウンター、ネイルブースにバーバーショップ、大会グッズが陳列されたマーチャンダイズが立ち並び、その全てが無料だというから驚きだ。そして隣の部屋、というか廊下を抜けた別フロアがメイン会場で、ハーフコートにゴール裏と正面にそれぞれ観客シート、でかいLEDスクリーンが5面張り付いていて、天井にはレールで自在に動くカメラがぶら下がっていた。今夏から発動した”Our Turn” キャンペーンのキービジュアルと同様に、会場は赤く照らされていて、ロケーション含め装飾などのクリエイティブはさすがのジョーダン ブランドといった仕上がり。ホストMCはパリで “Super MC” の異名を持つDANDYGUELというアフロマンで、彼のSNSを見てみればバスケやエクストリームスポーツ、ダンスや音楽に強いようで、オレみたいな業種のMCなのだろう。トークも軽快で踊れるMCだ。そして、ゲストMCにはニューヨークのストリートボールの名物MCでありトップMCの座に君臨しているCHA-CHINGが登場!ゲームをぐいぐいと引っ張る力強いMCはさすがの名人芸。名前を聞いてなかったけど、もう1人サイドキック的存在の女性MCがいて、進行やインタビューはDANDYGUEL、ゲームはCHA-CHING、観客と一緒に盛り上がるのが女性MCといったような役割分けだった。

DANDYGUELの仕切りでオープニングセレモニーが始まり、男女ともに10人ずつのファイナリストが呼び込まれる。すでに予選落ちしてしまったThomas Yoshimura/吉村灯真も登場し、高まった観客たちにしっかりと応えていた。地元パリ勢やアメリカ勢が堂々たる登場を見せる中、一際緊張した面持ちで登場したのがもう1人の日本・東京代表のKちゃんこと満生小珀。まだこのときは、オレも観客も誰も想像していなかった。もしかしたら本人でさえ、あんなことになるなんて想像していなかったんじゃないかな。ジョーダン ブランドによる注目の1on1世界戦で、日本の満生小珀がここからとんでもない熱狂を生み出す。

オープニングセレモニーを経て、いよいよトーナメントの1回戦がスタート。男女交互にゲームが繰り広げられる。ゲームルールは8分間でシュートクロックは9秒、スコアは2点3点制でフリースローもあり、シュート成功はOFを継続できてOFリバウンドもあり。また、23点先取でKOルールも採用。

気がつけばコートサイドにゲストが増えてきた。まず気づいたのはPhilip Handy、NBAリーグ屈指の育成コーチとして知られ、レイカーズでは八村塁を献身的に指導してる姿を日本のみんなもよく見てきたことだろう。そして早々に会場に現れたこの日一番のビッグなゲストは、あのSpike Lee!Spike Leeはときにコートに現れてスピーチしてくれたり、コイントスに参加してくれたり、トーナメントが終わるまでリラックスした様子で楽しんでいたみたいだった。さすがにMJ本人に会えることはないだろうと思っていたけど、まさかSpike Leeを招聘していたジョーダン ブランドはやっぱりさすがだな。

各国のファイナリストたちによる攻防に加えて、コートサイドの鮮やかなゲストたちの登場とゲームに熱狂するパリっ子たちのエナジーでフロアのテンションが高まっていく中、いよいよKちゃん/満生小珀(16歳/166cm)の出番を迎えた。初戦の相手はニューヨーク代表のJosephine Pinnock、170cmの14歳。フィジカルの利は当然ニューヨーク。入場時のスワッグもさすがのニューヨーク仕込みで堂々としたものだった一方、Kちゃんの表情にはまだ緊張を感じ取れる。ただ、この緊張感はKちゃんがボールを手にしてOFを仕掛けることで一気に消し飛んだ。小学生のときから注目されていたドリブルとハンドリングに、岡田麻央や齊藤洋介らを含むさまざまなコーチたちとのワークアウトなどで磨き上げてきた技術が乗っかったKちゃんは、ゲーム序盤から躍動感満載でホップしたドリブルとステップでDFを完全に翻弄!小柄な日本人少女によるエグげつないヘジテーションムーヴにパリっ子は一気に心を掴まれて、ここまでのゲームで一番の熱狂を生む。ヘジテーションからのカウンターでペネトレイト、ステップバックやステップサイドからのプルアップとKちゃんの自在なフットワークが止まらない。シュートもピシャってる。何度もDFで揺さぶられるJosephine Pinnockはどんどんナーバスな表情になり、ボールチェック時に悪態が目立つようになった。ファンシーなドリブルムーヴやDFを揺さぶるという行為に対して独自の価値観やこだわりが強いニューヨーカーにとって、このやられっぷりはよっぽど屈辱的に感じたのだろう。ニューヨークが挽回することなく、終始Kちゃんが主導権と注目を握り続けてタイムアップ。17-8の大差でニューヨークを撃破し、大会ベスト4に進出!スコアの差はもちろんのこと、魅力的なプレイという意味でも東京代表がニューヨーク代表を圧倒するという異常な光景を見た。

注目のKちゃん/満生小珀の次戦はセミファイナル!この頃にはさらなるスペシャルゲストとして、ジョーダン ブランドファミリーである現役NBA選手のChris Paulが会場に登場。このセミファイナルの対戦相手はマニラ代表のGabby Ramos、174cmの17歳。力強いドライブと高さのあるシュートを持つフォワードだ。先制こそマニラに許すも、初戦より固さの取れたKちゃんはこのゲームこそ本領発揮といったパフォーマンス!DFをまるでダンスさせるかのように、ドリブルとステップワークで揺さぶるKちゃんに観客たちは再加熱!さらにMCのCHA-CHINGがいよいよKちゃんを気に入ったようで、本場DYCKMANさながらの熱っぽいシャウトもKちゃん旋風を後押し。参戦選手の中で一番小柄なKちゃんが次々と対戦相手を翻弄する姿はまさにNBAでのCP3のようで、Chris PaulもSpike Leeも目を見張る様子だった。初戦より決定力を上げてきたKちゃんは、なんとこのゲームを22-10という圧倒的点差で完全勝利!決勝戦に駒を進める。

そして、THE ONE:FINALSのウィメンズの決勝戦。対戦カードは日本・東京代表のKちゃん/満生小珀(16歳/166cm)と、アメリカ・ロサンゼルス代表のTati Griffin(14歳/174cm)。先に登場しているCP3に加えて、こちらもジョーダン ブランドファミリーのZion Williamsonも登場!CP3がKちゃんに、ZionがTati Griffinのセコンドに付くことになった。確かにプレイスタイル的にも、まるでCP3とZionが1on1で戦うような構図のKちゃんとTati Griffinだ。ボールポゼッションを決めるコイントスはSpike Leeが担当。絵面を見て「なんだこの世界線は!?」と個人的には困惑しながらも、注目の決勝戦が始まる。

自分含めた観客はこれまでのKちゃんの活躍の虜であったし、高さとパワーが溢れてるロサンゼルスのTati Griffinとのベストな攻防に期待してたと思う、当然。ただ現実に起きたのは、Tati Griffinがボールチェックからゴールに背を向けた消極的なポストアップに終始するプレイで、OFリバウンドをものにしてゴール下で加点し続けるだけのバスケットボールだった。これにはこの日初めて “Boring!!” と退屈を示すブーイングが鳴り響く。それでもロサンゼルスのポストアップは止まらない。このOFはバスケットボールにおける最も退屈なOFで、今や3×3だったらバイオレーションになるプレイだ。決勝戦だから、MCのCHA-CHINGも頑張って盛り上げるものの、つまらないビデオゲームみたいに同じプレイが繰り返されるだけだった。たまらずセコンドのCP3が本来ルールにないタイムアウトを要求。Kちゃんに通訳を介しながらミスマッチの守り方を即席で指南。と同時に、客席からは “Let’s Go Tokyo!!” コールが巻き起こった。ここまで観客の大半を占める若いパリっ子たちは、テンション高くこのトーナメントを楽しんでいたし、エネルギッシュで素直なリアクションでイベントの雰囲気を作り上げていた。そんな彼ら彼女らがこのとき心底望んだこと、それが “Let’s Go Tokyo!!”、とにかくKちゃんのあのOFが観たいという願いだった。

CP3の熱っぽい指導に観客の大応援、みんながKちゃんの逆襲に心寄せるも、現実はそうドラマが起こらないこともままあるもので、Tati Griffinは退屈と判断されたワンプレイだけで23-0という衝撃的なスコアで決着をつけた。Kちゃん、いいところを発揮できずにストレートでノックアウト負け。ここで会場はとても難しい雰囲気になった。仕事柄、あのときのMCたちの大変さも想像できる。最も退屈な形で23-0で決着がついてしまったのだ。ここで何が起きたか。ロサンゼルス優勝が決まった刹那、唯一Tati Griffinのお母さんの歓喜の声が響き渡る中、会場は難しい空気になり、そしてその発散の矛先に向いたのがこの日一番盛大なボリュームの “Let’s Go Tokyo!!” コールだった。ロサンゼルス優勝に対するブーイングとも取れる “Let’s Go Tokyo!!” コールでもあったし、純粋のその日一番沸かせてくれたボーラーへの賛辞の“Let’s Go Tokyo!!” コールでもあったと思う。よくよく考えてみれば、ロサンゼルス代表が東京代表にバスケで勝つために、なりふり構わずブーイング受けながらでもつまんないプレイで勝ち切ると判断したっていうのもすごい話だ。それを無心で遂行したTati Griffinもすごい。ただ、みんなが観たいプレイは日本のKちゃんにあった、それは満場一致だと思う。1ゴールも取れなくて惨敗した決勝戦だというのに、過激なパリっ子たちからその日一番の歓声を集める日本人のボーラー。そんな異常な光景を目の当たりにして、感動できたし頼もしいなとうれしくなった。

その後、メンズの決勝戦で地元フランス・パリ代表のSteve Bahとアメリカ・ニューヨーク代表のScotty Lee Jr.の一戦が競って、Spike Leeの過激なニューヨーク応援などもあって会場の雰囲気は正常化して、地元の声援を一番集めていたSteve Bahが競り勝つことで決着!メンズはパリ、ウィメンズはロサンゼルスがそれぞれトーナメントを制覇して1年間のジョーダン ブランドサポートを勝ち取った。

表彰式のあとには、そのままコート上でアーティストのショットライヴが行われ、アフロポップ・プリンスで知られるRemaや、世代的には一番アガったFat Joeなどが登場!ジョーダン ブランドらしい、グローバルで盛大なフィナーレで初のTHE ONE:FINALSを締め括った。

その数日後、フランス北部のリールのスタッド・ピエール・モーロワスタジアムで、パリ2024オリンピックの男子バスケットボール予選、日本対フランスを観戦した。あのとき会場に集まっていた2万人ほどの観客の内99%を占めるフランスファンは第4Qの終わり際、男子バスケットボール日本代表チームに心底怯えていた。負けるなんて微塵も思っていなかったフランス応援団が、激しくナーバスになるほどの活躍を魅せた男子バスケットボール日本代表チームと、THE ONE:FINALSにおけるKちゃんは同じようなインパクトがあったように思う。今回の渡仏でそれぞれの活躍が強烈に印象に残る。ともにサイズがない日本人のバスケットボールが、世界のバスケを驚かせたり沸かせたり、そんなことが現実に起きた。普段グラスルーツなバスケットボールに触れる機会の多い自分が、世界と戦う日本人のバスケットボールを生で目撃できたことは単純に感激。さまざまな刺激と進化を感じたよ。最後に、この機会を創出してくれたジョーダン ブランド、このゲームに果敢に挑んだトーマスとKちゃんとご家族や送り出してくれたというチーム、取材の機会を与えてくれたFLYや視察に送り出してくれたALLDAY、忘れられない渡仏をともにしたAKBと岡田麻央、さまざま支えてくれて許容してくれたみなさまにお礼申し上げるともに締めくくりたいと思う。ちなみにKちゃんこと満生小珀は帰国後早々に京都精華学園の一員としてインターハイを制覇、わお、がーさす。実はパリでこんなことが起きていたんです。

ジョーダン ブランドによるユース世代の1on1バスケットボールの世界一決定戦、THE ONE:FINALS in Paris Report by MC MAMUSHI

TEXT by

MC MAMUSHI

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