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  • 2024.09.05

同級生のTikToker クリスとBリーガー小酒部泰暉が恩師と母校へ恩返し

TikTokやYouTubeで『クリスのバスケ日記』を手掛けるバスケ系インフルエンサー・クリスと、アルバルク東京の小酒部泰暉は、ともに神奈川県立山北高校で青春時代を過ごした。クリスが高2のときバスケ部に入部したのも、きっかけは小酒部だ。そんな同級生たちが今夏、お世話になった恩師たちにボールを寄贈する「母校にボールを」プロジェクトをはじめた。16歳で出会い、26歳で始動したプロジェクトへの思いを、2人へ訊いてきた(取材日:8月8日)。

クリスがバスケ部へ「練習がキツい夏に来ないんかい!」(小酒部)
――お二人とも第一印象は覚えていますか?

小酒部 コンビニが最初だったね。高校が一緒だったんで。

クリス そう、コンビニで会ったんですよ。高校近くのファミマで。休みの日だったかな。
小酒部 お、お、おう、、、!みたいな感じだった(笑)。
クリス 高1で初めて会ったとき、まだバスケ部に入ることは決めていなくて。そのときに、あ、泰暉いるわ!っていう微妙な距離感だったのを覚えています(笑)。バスケ部入る前は――
小酒部 全然喋ってなかった(笑)。
クリス 高校に入学してからバスケ部の友だちから誘われていたんですけど、やる気にならなかったんです。バスケ部は坊主で、めちゃめちゃ走ってたんすよ。体験(入部)に行かずとも分かるぐらいにラントレばかりで、嫌だなと思っていました(笑)。

――そんな中、なぜバスケ部に入ったんですか。高校2年生の?

クリス 高2の秋に入りました。顧問の先生に入部の意志を伝えたのは夏前でしたが、夏休みに家族旅行でフランスに行く予定があったので。
 でも、それこそ入部するきっかけは泰暉です。校内の球技大会で、俺は身長も高くて外でバスケをするのが好きだったので、まあまあ活躍できて、決勝で泰暉のチームと当たったんですよ。彼のチームは泰暉を筆頭に、スポーツリーダーコースというスポーツに特化したクラスの子たちが集まっていて、バスケ部が固まっているわけです。だから、分かりますよね。

 俺らは決勝でボコボコにされました(笑)。キャーキャー言われながら勝ち上がったのに、最後の最後で全て泰暉に持っていかれて。憧れていたダンス部のかわいい先輩とも写真を撮っていたんですよ!そんな様子を見て、くそーーー!みたいな気持ちになって。これは俺もバスケ部に入らないと状況が変わらないと思って、しょうもない動機ですが、球技大会で負けた次の日に顧問の先生へ「バスケ部に入ります」と言いに行きました。

――実際、クリスさんが入ってきたときはどんな印象でしたか。

小酒部 バスケ部としてもしつこく誘っていたので、やっと来たなという印象でした。でもウェルカムでしたし、体育館シューズで来てダンクしちゃうぐらいのやつだったんです。ただ、一番練習がキツい夏に来ないんかい!という気持ちは大きかったです(笑)。

――Podcastで話していたピラミッドは、名物練習ですか?(本インタビュー前に2人でPodcastを収録していた)

小酒部 そうです。エンドラインに並んで、コートを10秒で1往復走ります。選手を3組に分けてやりますが、最初1往復走ったら、それ以降は2、3、4、5往復と回数が増えて、5往復まで行ったら4、3、2、1と往復する回数が減っていくんです。
クリス あれはキツかった。入部して最初の頃は走り切って、トイレへ駆け込みました(笑)。
小酒部 マジで!それは知らなかった。
クリス でも、それがクリアできないとAチームに入れない雰囲気があって、頑張ったわ。

――それは顧問の先生が考案したんですか?当時はどんな印象でしたか。

小酒部 そうですね。めちゃめちゃ怖かったです。練習も走らせるし、厳しかった。でもバスケ以外は本当に優しい方で、頼もしい存在でした。
クリス まず前提として顧問の先生は、俺らがいる間に代わっているんですよね。泰暉が言った先生は藤平先生という方でピラミッドを考えた方ですが、高2のタイミングで副顧問になって、高3のときは別の学校に異動されたんです。僕は入部して副顧問だった藤平先生にマンツーマンで、バスケのイロハを教えてもらいました。それまでバスケは遊びで、7歩も歩いちゃうような子でしたが、ポストプレーやディフェンスをしっかりと教わったのを覚えています。
そして藤平先生から顧問になったのが渡辺先生です。練習メニューこそ継承しているので厳しいものの、俺らが「走りたくないよ」とか生意気な口をきいても、一緒になってバスケを教えてくれる距離感の近い、優しい方でした。その先生たちがいま大磯高校にいるので、2人の恩返しを含めて、山北高校と大磯高校へボールを寄贈しようというプロジェクトにしたんです。

プロジェクト始動…「感謝を形として残したかった」(クリス)
――なぜプロジェクトを立ち上げようと思ったんですか。どちらの発信でしか?

小酒部 彼(クリス)発信です。

クリス 1年ぐらい前から言い出していたんです。最初は、藤平先生と渡辺先生に何かしたいと思っていました。きっかけとして、僕らは大学生になってからも頻繁に先生たちの顔を見に、部活へ顔を出していたんですけど、社会人になって数年経って会う機会も減ってきたときに、今までの感謝を形として残したかったんです。特に僕は山北高校バスケ部をきっかけにバスケ一色の人生になりました。その恩返しを考える中で、学生たちにも何かできると思って、部費を削減するのが一番良いのかなと考え、その方法としてボールの寄贈にしました。ボールを購入する費用を、遠征代などに充てられるなと。それで泰暉にやろうよって相談しました。
小酒部 お世話になった先生だし、相談の受けたときは生徒たちが喜ぶかまでは分からなかったですけど、自分らができることはそういうことだと思って、すぐにやろうと伝えました。

――部費に考えが行きつくということは、先生たちと話す中で課題を感じたんですか。

クリス 僕らの先生がそういうわけではありませんが、部費に限りがある中でボールなどの備品代から遠征費まで確保するのは大変だと思ったんです。僕は高校時代に生徒会だったので、学校にある予算と、それが各部活へどのぐらい分配されて、部費として確保できるお金のイメージが何となくできていました。そうしたときに、予算以上にお金がかかっているんじゃないかというモヤモヤがありましたね。最近は部活動が抱える課題もよく聞きます。このプロジェクトをきっかけに、部活に携わる先生や生徒の負担が減ったらいいなと思っています。

――まず先生にプロジェクトを相談されたと思いますが、そのときの反応はどうでしたか。

クリス 「本当に良いの?めちゃめちゃ嬉しい」という感じでした。僕らが年に1回ぐらい顔を出すだけでも喜んでくれて、プロになった泰暉が高校生の練習に行ったこともあります。先生からすれば今までのことで十分だったみたいで、驚いている様子でした。

不安だった自身初のクリニックが好評…「新しい発見」(小酒部)
――実際に山北高校と大磯高校へ行って、いかがでしたか。

クリス 当日はクリニックとシュートチャレンジ、最後にゲームをやりました。ゲームをやって良かった選手にはシューズもプレゼントしています。この企画を聞いたアディダスさんから提案をいただいて、シューズを数足提供いただきました。本当にやって良かったですし、高校生たちも喜んでくれて、楽しそうにバスケをしてましたね。
小酒部 自分が主体となってやる取り組みは、今回が初めてでした。クリニックも初です。実は、当初クリニックをやるのは自信が無くて、クリスにはできないよと言ってたんです。
クリス いや、本当にそれな!
小酒部 プロジェクトには賛同しましたが、クリニックは自信が無くて。ただ、そうは言ったものの当日が近づくにつれて、ただ参加するだけの自分がいて、物足りない気持ちになって。本当にこれで良いのかと思って、何か言われたときに対応できるよう準備をして行きました。
クリス めっちゃ良かったよ。
小酒部 良い評判を得られてよかったです。

クリス 僕の立場で言えば、プロジェクトを始めるまで大変でした(笑)。泰暉はプロ生活で忙しいので、僕が寄贈するボールを調達して、20球ずつ訪問先の学校名を名入れ手配して、先生との日程調整や、FLY magazineさんや月刊バスケットボールさんなどメディアの皆さんに取材提案もして。それでも大学時代にバイトでお世話になったm-sportsさんにも協力いただいて、ありがたかったです。
 だから愚痴っぽく言えば、泰暉は何もやってくれないと思っていたんですけど(笑)、当日ですよ。彼のクリニックが、先生にも高校生たちにも好評でした。そのメニューは最終的にゲームをやる内容だったんですけど、冒頭のハンドリングメニューから1対1、2対2、3対3、5対5と綺麗に内容がつながるもので。もうそれを知ったときは、泰暉がこのクオリティーを当日出してくれるんだったら、俺の負担もどうってことないと思いました(笑)。プロが考えた強度が高く、頭も使う内容だったので学生たちも新鮮に感じてもらえました。

――メニューはアルバルクの誰に相談したんですか。

小酒部 スカウティングなどをやっているアシスタントコーチの方です。普段もクリニックをやっているので、その内容を聞いて自分らがやっている練習メニューも組み合わせて、高校生たちに教えました。最初は不安だったんです。マジで伝わるか分からないし、伝えるって難しいと思っていました。でも、自分もクリニックをやっていくうちにギアが上がって、伝え方も良くなっていったから、良い反応がもらえたのだと思います。
クリス コート2面でクリニックはやったのですが、泰暉は全部を回って見ながら、どんどん高校生たちとコミュニケーションを取るようになったんです。「それは、こうやってやるんだよ」みたいな感じで。泰暉はシャイなタイプだと思っていましたが、一人ひとりに教えている様子を見て、彼の新しい一面を知りました。
小酒部 だから、これが今後の活動につながっていけば良いなと思います。自分としても新しい発見になって、やって良かったと本当に思います。

――高校生へシューズをプレゼントしましたが、どんな視点で選んだんですか。

小酒部 僕はモチベーションが高い選手です。1人とても印象に残った子がいて。自分が5対5のゲームに入っていないときに、僕を見て「(泰暉さん)出てきて!」みたいに煽ったんですよ!その子は試合で点を取る姿を僕に見せて、そう言ってきたんですけど、グイグイ来る気持ちを持った子は伸びる可能性があると感じて、シューズをプレゼントしました。あとはチームの士気を上げる子ですね。声を出してチームメイトを盛り上げる選手は良いですよね。

クリス 僕もゲームでのパフォーマンスよりも、練習過程でチームの士気を上げる子を選びました。自分はプロでもないし、大学バスケもやっていないので戦略云々ではなく、楽しくバスケができればいいなと思っています。どういうモチベーションでバスケをしているのか。声を出すことによってチームの空気を良くして、みんながレベルアップしやすい環境を作っているか。僕も高校時代はそういうキャラクターだったので、共感できる子にシューズをプレゼントしました。

現場は終了も「この取り組みを世に広げられるかが肝心」(クリス)
――いまアスリートが様々なところで社会貢献活動をされていますが、一方で学校現場では部活離れという話も聞きます。学校外で活動できる選択肢が増え、先生の働き方改革も進みます。スポーツのあり方が変わる中で、2人はこのプロジェクトを今後どうしていきたいですか。

クリス 僕はこれが数珠つなぎになって、他の選手や関係者にも広がって欲しいです。最終的には自分がやらなくても、誰かやっているような世界です。部活は親御さんが頑張って部費を出してくれている中で、プロ選手やOB、関係者らがお金を出し合って若い世代を支えていく。バスケ界ってそういう取り組みをするよねという空気が当たり前になったら嬉しいです。今回、僕の反省ではありますが、スポンサー営業までしっかりとできませんでした。

――このプロジェクトは二人のお金だけで成立している。

クリス そうです。継続的にやっていくためには、このような活動に意義を感じていただける方にも協力をいただいて、発信は僕が担う。今回は2人でやりましたが、そういう形にできればプロジェクトのスケールが大きくなると思います。

小酒部 最初から大きなことはできないと思うので、今回は2校に訪問できて良かったと思います。僕もこのプロジェクトを引き続きやっていきたいですし、クリニックを通して誰に何かを教える力を身に付ければ、今後のキャリアにつながってくると思います。
 あと、いま日本代表の頑張りによってバスケが盛り上がっていますので、Bリーグもさらに盛り上がるように僕も選手として頑張っていきたいです。
クリス 今回僕が意識したのは、メディアの皆さんを巻き込こんで、自分のプラットフォームでちゃんと発信することです。現場は終わりましたが、この取り組みを世に広げられるかが肝心です。他でこの取り組みをまねしよう、もっとこうしようと、考える方が増えてくれれば良いなと思います。広がりが生まれて始めて、成功に近づくと思っています

――では最後に、これからの意気込みを聞かせてください。小酒部選手は、アルバルクでキャリアを重ねている中で、秋からの新シーズンへどういう思いで挑もうとしていますか。

小酒部 自分がアルバルク東京に入ってから優勝ができていないんですよね。チャンピオンになることが、一番の目標です。
 その中で僕もアルバルク歴として中堅(在籍6季目)になってきました。プレーはもちろん、コミュニケーションでもみんなを引っ張っていきたいです。いまはライアン(・ロシター)が声を掛けてくれますが、自分も積極的にいきたいと思います。
 そして、プレーではディフェンスに加えてオフェンスでもチャレンジできれば勝利へつながると思います。その意識を高く持ち、シーズンを戦っていきたいです。

――クリスさんは、バスケへの注目が高まる中で、大事な役割を担っていると思います。SNSなどを見てバスケに触れる方が増えているでしょうから、これからに向けてどんな思いですか。

クリス ことしの夏はパリオリンピックがあったので、僕もバスケ初心者の方がバスケをもっと見たくなるような動画作りを意識したんです。バスケ熱が高まっている中で、僕はその人たちが会場まで足を運びたくなるコンテンツを考えなきゃいけない。もともとNBAのコンテンツを作っているのも、バスケやスポーツが好きな人とコミュニケーションをとって、その人たちがBリーグを見に行く流れになって欲しいという思いからでした。
 おかげさまで自分のSNSもバスケ界隈で割と大きいチャンネルに成長してきたので、これからが頑張りどきです。僕のSNSをきっかけに会場へ多くの方が足を運んだら、そこからは泰暉の仕事ですよ。彼にはプレーで来た方を惚れさせて欲しいですし、僕も泰暉にアルバルクで優勝する姿を見せてくれよって思っています。そのきっかけ作りを、僕は役割として全うしていきたいですね。

▼同級生の2人が対談したPodcast番組『Post UP』はこちら

【プロフィール】
●クリス
1998年7月29日生まれの神奈川県出身。県立山北高校の2年生のとき、球技大会で小酒部泰暉(現アルバルク東京)に負けたのを機に、バスケ部へ入部。大学時代にTikTokでNBA情報などを発信する『クリスのバスケ日記』を始め、現在Podcast番組『Post UP』も手掛ける。原宿のカフェ「coast 2 coast」にも勤務中。身長191cm。TikTok @muwe.c | X @muwe__c | IG @muwe.c

●小酒部泰暉
1998年7月15日生まれの神奈川県出身。県立山北高校を経て、神奈川大学へ。2019年にU-22日本代表、日本代表第2次強化合宿メンバーに選出される。3年生でバスケ部を退部して2019-20シーズンに特別指定選手としてアルバルク東京入り。2021-22より正選手となり、2024-25シーズンで在籍6季目を迎える。身長187cm。ポジションはシューティングガード。背番号75。
X @osa_____75 | IG @osa____75

同級生のTikToker クリスとBリーガー小酒部泰暉が恩師と母校へ恩返し

TEXT by Hiroyuki Ohashi



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