「PICK UP PLAYGROUND SUMMER CAMP OKINAWA 2023」を終えて
「FIBAバスケットボールワールドカップ2023」の沖縄ラウンド開催と言っても、地元の子どもたちが観戦し、体験できる機会は限られるのではないか――そんな思いをきっかけに、「PICK UP PLAYGROUND SUMMER CAMP OKINAWA 2023」(以下SUMMER CAMP/主催:一般社団法人ピックアッププレイグラウンド)のプロジェクトがはじまりました。
プロジェクトの方針としては、現役のプロバスケットボール選手からストリートボーラー、TikTokやYouTubeなどSNSで活躍するプレーヤーまで、さまざまな「バスケットボールヒーロー」を招き、沖縄ラウンドの期間中に子どもたちへ多様なバスケットボールを体験できる機会を届けていく。子どもたちが振り返った時に、世界的なバスケの祭典が自分たちの町で行われたことを誇りに思い、この体験を通じてバスケットボールをプレーし続ける気持ちになって欲しい。そんな未来につなげる想いを込めて、8月23日から9月2日までSUMMER CAMPが開催され、総集編動画が公開されました。
9日間で20を数えたイベントを振り返る
そのオープニングイベントは8月23日、一般社団法人Arch to Hoop沖縄によるバスケイベントの制作体験でした。Arch to Hoopは、沖縄の社会課題のひとつである子どもたちの体験格差の解消に取組むため、モルテンB+がワールドカップ沖縄ラウンド開催をきっかけに、NPO法人ちゅらゆいとともに立ち上げた団体です。プロフリースタイルバスケットボーラーのBUG!?さんや、バスケットボールコーチの鈴木良和さんをゲストに招き、子どもたちは参加者でありながら、設営や撤収などを行う制作者も務め、1人2役を楽しみました。
そして、8月26日よりSUMMER CAMPは連日、さまざまなゲストを迎えて賑わいを見せました。バスケットボール女子日本代表のオコエ桃仁花選手を招いて、スポーツデポ豊崎店で「BASKETBALL SPECIAL EVENT TALK SHOW」を、豊崎海浜公園 オリオンECO美らSUNビーチで「BASKETBALL SPECIAL EVENT CLINIC」をそれぞれ開催。金武町体育館では、3人制バスケットボール選手の岡田麻央さんが小学生女子6チームを対象とした「SAKURA CUP」を行いました。
8月27日には、豊崎海浜公園オリオンECO美らSUNビーチにストリートボーラーのYUKKEさん、BUG!?さんが登場し、「PICK UP PLAYGROUND」を開催。年齢、性別、キャリア問わず、地元の子どもたちやボーラーが集まって自然と楽しくピックアップゲームができたひと時は、バスケが根付く沖縄ならではだったように思います。
8月28日、29日には、沖縄ではまだまだ馴染みが薄い3×3にもフォーカスしました。3×3男子日本代表選手の落合知也選手と3×3女子日本代表サポートコーチの伊集南さんを招き、28日にはプレーで楽しさを感じてもらうため、「3×3 Special Camp」を南城市知念体育館で開催。29日には、トークで魅力を伝えるため、「3×3 Special Talk Session」をスポーツデポ豊崎店とステップバイステップで開きました。両会場の皆さんから「生で3×3の試合が見たい」という声は、落合選手と伊集コーチにも響いたはずです。
また29日には、那覇市民体育館で「PICK UP PLAYGROUND」(PUP)も行われました。YUKKEさんやBUG!?さんをはじめ、東京からSOGENさんやDAISUKEさん、Kyoshiさんが来沖し、福岡からもM21さんとSAMURAI BALLERSのU-LAWさんが登場。琉球ゴールデンキングスU18の選手たちが訪れてストリートボーラーたちと対戦したほか、日頃からPUPの活動にご協力、ご理解を頂いている井上雄彦さんもいらっしゃいました。ボーラーやスタッフを労い、SUMMER CAMPのラッピングバスにサインも。この時ばかりは一堂が、童心に帰ったようにも見えました。
YouTuber、プロ選手・コーチなど続々登場
そんなSUMMER CAMPも、8月30日から後半戦に入りました。とりわけ、運営スタッフたちを驚かせたのが、YouTuberのともやんさんを招いた「PEACEBALL PICK UP GAME」です。石川体育館と、南城市玉城体育館で開かれたピックアップゲームには、合計で約600名の方が参加。2階の客席にも、たくさんのギャラリーが詰めかけた様子は壮観でした。
8月31日は、具志頭体育館でプロ選手、プロコーチによるクリニックが印象深く残っています。ひとつは、現役Bリーガー並里成選手が立ち上げた新プロジェクト「GOODPASS」によるクリニックです。今プロジェクトは、並里選手ならではの経験やスキルを次世代に継承し、バスケを愛する子どもたちに夢や目標を与えるとともに、アスリートのセカンドキャリアをリードする目的を持っています。沖縄生まれのスーパースターが姿を現すと、みんなの目がひときわ輝きました。
もうひとつは、WATCH&Cアカデミー代表の青木康平コーチによる「WATCH&C CAMP」です。青木コーチはバスケットボールのスキルを伝授するだけでなく、子どもたちへ「人と違って良い。違う事は個性」という考え方も説きました。違いを自分らしさとして大切にすることで、成長の支えにして欲しいという願いを込めています。
SUMMER CAMPの佳境を迎えた9月1日には、スーパースポーツゼビオ イーアス沖縄豊崎店で「New Balance Basketball in iias court」が開かれました。ショッピングモールにスポーツコートを敷き、バスケイベントを開く光景は、かつての3on3プロリーグ「LEGEND」をほう彿とさせました。そんな中、3×3日本ランク1位の齊藤洋介選手によるクリニックや、BUG!?さんによるフリースタイルバスケットボールのパフォーマンス、YUKKEさんとの1on1大会など、多彩なバスケで子どもたちを楽しませました。
最終日を迎えた9月2日、SUMMER CAMPはまず名護へ。NBA解説者の佐々木クリスさんがプロデュースするバスケットボールスクール「えいごdeバスケ」の特別クリニックが、名護21世紀の森体育館で開催されました。さまざまなゲストがクリニックを行いましたが、英語に不慣れな子を含めて子どもたちが段々と活気づいていく姿を見ると、バスケを学ぶ機会の“広がり”を改めて感じるものとなりました。
そしてトリを飾ったのは、ストリートボールでした。ミュージックタウン音市場で開かれた「SOMECITY OKINAWA SPECIAL GAME」では、開演に先立ち「ASICS親子ドリブルクリニック」を実施。“沖縄のハンドル小僧”でお馴染みのYUTAさんとボーラーの福本さんがコーチ役を務めました。
続いて、SPECIAL GAMEは2本立てで、会場を沸かせました。ひとつは、TWO FACEが初優勝を決めた「SOMECITY 2023-2024 OKINAWA」の第2戦。もうひとつは、TEAM ballaholic、Blitz、TEAM OKINAWA、TEAM YUKKEの4チームが出場した「SPECIAL EXHIBITION GAME TOURNAMENT」でした。ボーラーがファンを釘付けにしただけでなく、オーディエンスもノリが良く、指笛を鳴らして盛り上げるなどOKINAWAらしい空間が出来上がりました。
長年の想いが実現…SUMMER CAMPの今後は?
9日間で20を数えたイベント運営は、運営スタッフたちにとっては本音を言えば非常に大変でした。しかし、さまざまなゲストに協力いただき、現地コーディネーターの満島光太郎さん(SPICE Basketball代表)や、連日の動画制作に精を出してくれたクリエーターの宇良 豊さんらにも支えられ、子どもたちの笑顔に包まれた現場は日々の活力になりました。SUMMER CAMPの総合プロデューサーで、一般社団法人ピックアッププレイグラウンドの代表理事を務める秋葉直之さんからすれば、長年の想いを実現できた9日間にもなっています。
秋葉さんは、今年で19年目を迎えた「ALLDAY」の立ち上げや、かつての「LEGEND」を取り仕切った人物。そのむかし、バスケシーンは混迷を極めていましたが、NBAや日本代表を頂点にバスケシーンが活気づく未来を描くために、当時からストリートボールや公園バスケが土台となり、シーンを支える存在になりたいと思い続けてきました。
そんな中、今回ワールドカップと並走してSUMMER CAMPを行い、男子日本代表が48年ぶりに自力でオリンピックの出場権をつかむ大躍進を沖縄で目の当たりにして、秋葉さんは今までの想いがひとつ実現できた気持ちになりました。ストリートボールや公園バスケの可能性を信じ続け、多様なバスケを伝えるため沖縄にいたからこそ、代表で盛り上がるバスケシーンまで陸続きになっている。そんな感慨深さが込み上げたそうです。
ただ、この実感を得たからこそ、次を見すえる気持ちにもなりました。日本代表が躍進すれば頂点も上がり、自ずと各バスケシーンのステージも上がります。それゆえに今後、ストリートボールや公園バスケといった土台もより一層、分厚くて広いものになっていくことが求められます。
そのためには、例えばSUMMER CAMPが来年以降、拡張していったり、今夏の取り組みを沖縄でさらに拡張していったりすることが必要になるかもしれません。一般社団法人ピックアッププレイグラウンドというストリートにルーツを持ち、ピックアップゲームとゴミ拾いを推進してきた団体が、日頃は肩を並べることのない協賛社をつなぐ役割を果たし、多彩なゲストや関係者が集うプラットフォームになれた経験も、大きな収穫でした。
「PICK UP PLAYGROUND SUMMER CAMP OKINAWA 2023」に参加いただいた子どもたちの成長をこれから願うとともに、今回の縁を大事にして、これからもバスケットボールシーンを支えていきます。バスケットボールが盛り上がるのは、ここからです。また、会いましょう。
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TEXT by Hiroyuki Ohashi