写真展、主催大会、聖地巡礼の旅…ベンドラメ礼生がオフの活動を語る「そこに愛はあるのか」
サンロッカーズ渋谷でキャリア8シーズン目を迎えるベンドラメ礼生にとって、今夏は忙しかった。毎年恒例のクリニック参加をはじめ、初の写真展や主催大会、高校時代を過ごした宮崎で聖地巡礼の旅も企画。ここまでやるプロバスケットボール選手が過去にいただろうか。ひと夏の多彩なエピソードと、礼生の思いをうかがった
プロ2度目のオフシーズンが忙しかった理由
ベンドラメ礼生にとって、オフシーズンと呼べる機会は意外にも今年が2回目だ。これまで、その期間は日本代表の合宿参加でスケジュールが埋まることがほとんどだったという。しかし、代表メンバーから外れた昨夏より、自分の時間を持てるようになり、今夏は取り組むイベントにありったけの愛情を注いだ。クリニック参加にはじまり、写真展や大会の主催、自らのファンクラブ会員との旅行も企画。とにかく忙しかった。
ただ、よく笑う人が好きだというベンドラメにとって、その取り組みは楽しい思い出ばかり。関わる人を笑顔にしたい気持ちと、自分が誰かの新しい一歩を踏み出すきっかけになりたいという思いを表現できたと感じている。プロ選手として「自分ができることはこんなにもある」と再認識もできた。
まず、携わったのは6月の「MIYAZAKI CLINIC」である。このイベントは、かつてサンロッカーズ渋谷で選手、アシスタントコーチとして活躍した清水太志郎さんが発起人となり、宮崎県にゆかりのあるプロ選手へ呼びかけて始まったクリニックである。延岡学園高校出身のベンドラメもルーキー時代の第1回開催から参加して、今年で6度目。県協会のサポートなどを受けながら、宮崎市や延岡市、都城市など県内各地を3日連続で回るクリニックを2週連続で行った。南北に長い県内を移動して午前と午後のクリニックに臨み、宿に帰るのは夜遅く。ハードな日程だったが、携わってきたからこその価値を感じたという。
「小4だった子が中2になって『これ昔の写真です』と見せてくれたんです。成長を感じて、やってきて良かったと思いました。クリニックは単発開催が多いけど、継続することで感じることもたくさんあるし、僕たちも教えがいがあります。数年後、子どもたちが笑顔になって、その中からプロ選手が出たら嬉しいですし、これからも続けていく価値があると思います」
また、「MIYAZAKI CLINIC」はベンドラメのオフの活動にも影響を与えている。清水氏の背中を見て感じてきた経験は大きい。
「自分が子どもの頃にできなかった経験を与えられる側になって、子どもたちに何が生まれるかは分かりません。でも、クリニックの経験が子どもたちの人生のプラスになるのであれば、それはプロとしての価値だし、できることをやったほうがいいと思います。太志郎さんもずっとそう言っていて、その考えに共感するので僕も続けています。これまでの経験が、僕の活動にも影響を与えていると思います」
礼生と元基が「圧倒」された初の写真展
ベンドラメが企画したイベントは今夏3つある。ひとつが7月1日、2日にOPEN STUDIO(FREAK’S STORE渋谷併設ギャラリー)で開催した写真展「Oops! ー撮っちゃったー」である。写真が趣味のベンドラメと、チームメイトの小島元基で「写真展をやったら面白そう」「いいね」という何気ない会話から企画がスタート。同級生の岡本飛竜も名を連ねたが「僕が何となく名前を一緒に入れたわけなんですが、本番になったらアメリカに(ワークアウトへ)行ったんです(笑)」と明かしてくれた。
一方で、何気ない会話から始まったものの、2人は写真展の準備からこだわり、愛情を持って取り組んだ。ただ写真を飾るような空間にはしたくなかったのだ。本気でやったからこそ、周囲の協力も得られたと感じている。グラフィックデザイナーのMQさん、開催場所であるFREAK’S STORE渋谷の落合輝さん、元サンロッカーズ渋谷の広報で、現在は渋谷区観光協会に勤める西祐美子さんなど、様々な方から心強いサポートを受けた。ベンドラメは「僕と元基が圧倒されました。これだけの人が真剣にやってくれるなら、俺たちもクオリティをもっと上げないといけない」と、当時を思い出す。
そのクオリティをあげるためにこだわったひとつが、写真の選定と現像だ。展示した写真は2人で各10枚のみ。撮り続けてきた日常の風景や、チームメイトの様子など「僕らだからこそ見える世界」を厳選。フィルムカメラを使っているため、ネガフィルムまでさかのぼって写真を探したそうだ。
「フィルム写真は、データでも確認できるようにしていますが、それをプリントするだけでは粗くなるんです。現像のためネガ(フィルム)を探し出して写真屋さんに持っていき、暖かい色みがいいのか、冷たい色みの方がいいのかなどいくつものパターンを出してお店の方と相談しながら、一枚ずつ決めました。一度、ネガ(フィルム)を忘れて写真屋さんに行ってしまって大変でしたが、楽しかったです(笑)」
そんな2人の写真展には、2日間で計500名ほどの来場者が訪れたという。想定を遥かに超える盛況ぶりに、販売したポストカードは追加生産をかけ、少量の在庫しかなかったTシャツは受注生産に切り替えて、ファン・ブースターの要望に答えた。ベンドラメは「圧倒されて、びっくりした」と話すが、「とても良い空間になって写真展をやって良かった」と振り返る。
さらに、自分たちの視点で切り取った写真が、訪れた方たちの新たな視点になったこともベンドラメは喜んだ。「『礼生の空の写真を見て、空をよく見上げるようになりました』や『ものを見る視点が変わりました』というコメントも言ってもらえて、やった甲斐がありました」と、彼は話す。初めてチャレンジした写真展の開催は、誰かの日常に変化を与えるきっかけになったのだ。
故郷で初の主催大会…「体育館を予約する難しさも」
2つ目のイベントが7月8日、9日に、福岡県筑紫野市で開催した「L_Game & L_Camp」である。ベンドラメは故郷で大会とクリニックをやりたいと思う中で、ミニバス時代の先輩に相談をして、特別な大会になるよう細部まで企画を考え抜いた。
大会は、2日間の日程で初日がU12、2日目がU15を対象としてそれぞれ8チームが参加。1DAYトーナメントのL_Gameと、クリニックのL_Campを開いた。L_Gameでは、予選と勝ち上がったチームによる決勝トーナメント、敗れたチームによる順位決定戦を設けて、全チームが同じ試合数になるようにしたほか、出場選手の得点ランキングを随時アナウンスして、みんなのヤル気に火をつける試みも。お昼休憩中には、ベンドラメへの挑戦権をかけた小学生による1on1トーナメントや、中学生によるハーフコートシュート対決を行い、子どもたちと交流した。
また、アート活動をしている経験を、彼はここでも発揮する。大会ロゴをデザインしてバナーも作り、そのロゴが入ったTシャツを参加チームのチームカラーに合わせて制作。優勝チームの記念品には、オリジナルトロフィーと、L_Game & L_Campの名前が入ったボール、ボールカゴまで用意した。
さらにL_Gameでは「コーチたちが怒ってはいけない」という独自ルールも設けた。万が一、怒った場面があれば、テクニカルファウルはベンドラメがコール。その狙いを次のように語った。
「怒られることによって自信を無くして自分を出せない子どもたちがいると思います。そこで、ルールを設けることで、子どもたちが新しい何かを発見できる大会にしたいと思いました。自分たちで考えるきっかけにもなるでしょう。また、コーチも大声を出す場面をこらえることで、一歩引いた目でチームを見て欲しかった。子どもたちの新たな一面に気づけば、コーチにとっても収穫になると思ったんです」
ベンドラメは2日間とも、朝9時から夕方4時ごろまで笛を持ちながら、会場中を歩き回った。体育館のいたるところから試合を見届けることで、子どもたちやコーチの変化も肌で感じたという。
「子どもたちは僕に見られているのを知っているから、とても張り切ってました。目線を僕に合わせてきて、良いプレーをやろうと意気込んでいる様子もありましたね。熱くなるコーチには、隣に僕が黙ってスっと座るようなこともやったんです。そうすることで、コーチたちもハッとして、言葉の掛け方が変わりました。『何でできないんだよ!!!』と言いそうな場面で『何でできないんだろうね??。大丈夫だよ!できるぞ!』みたいなポジティブな声掛けに。結局、テクニカルファウルも取りませんでした」
一方で、今回は初めての主催イベントだったため、ベンドラメ自身もまた新たな気づきがあった。
「今回、体育館を予約する難しさも知ったし、大会を運営する大変さも知りました。着替える場所の確保ひとつとっても、考えないといけないですし、開催日に雨が相当激しくて体育館が雨漏りするハプニングもあったんです(苦笑)。急きょ試合の予定を組み直す作業もやりましたね。でも、受付や準備など運営にミニバスの保護者の皆さんの協力もいただけて、本当に助かりました」
宮崎で聖地巡礼の旅…マンゴー農園に訪問も
3つ目のイベントが、ベンドラメ自身のファンコミュニティ「L_planet」のプレミアム会員を対象とした、聖地巡礼の旅である。彼が高校3年間を過ごしてプロを目指す上で転機になった宮崎を目的地として、今年は約18人のファンが参加した。旅の企画・運営自体、ベンドラメは不慣れであるものの、「L_planetの裏テーマが“トライ&エラー”です。何が起きても、トライ&エラーでお願いしますと皆さんに伝えていて、今年も温かく見守ってくれる方たちが集まりました。本当に感謝しかありません」と、笑顔で振り返る。
旅の特徴は「現地集合、現地解散」。2回目の今年は宮崎駅に集合すると、初日に地元の名物・チキン南蛮のお店へ訪れたり、写真展の撮影スポットに向かったりするなど市内を散策。「宮崎にお金を落とす」というのも旅のサブテーマだ。
その後は母校の延岡学園高校へ。宮崎駅からJR日豊本線に乗って約1時間、電車に揺られていく。東京ではSuicaなどカード1枚あれば乗車できるが、ここでは切符の購入がマスト。宮崎で生活する体験もして欲しかった。延岡駅で下車した先には、「一番ご利益がある場所」と題して、町にゆかりのあるオリンピアンの手形・足形モニュメントに設置されたベンドラメ自身の手形をみんなに案内したそうだ。過去、オフシーズンに代表活動へコミットし、東京オリンピックに出場した成果が第2の故郷に刻まれているのだ。
そして学校へ到着すれば、ベンドラメが高校時代の話しをしながら、校内の見学ツアーへ。教室を借りて教員免許を持つ彼ならではの特別授業も開かれ、今年は新生サンロッカーズをテーマに見どころを解説したそうだ。「みんなも笑って聞いてくれて良かったです!」と、ベンドラメは話す。体育館に向かうと、インターハイ前のバスケ部が練習しており、ファンは2階に用意されたパイプイスでその様子を見学した。ベンドラメが高校生たちと練習している姿は、この旅ならではだろう。
さらに、2日目の農業体験も、旅のハイライトになったようだ。今年の行先は、ベンドラメ自らリサーチ、電話をしたマンゴー農園。あいにくマンゴー自体の収穫時期は終わっていたそうだが、代わりにバタフライピーというハーブティーなどに使われる花の収穫体験を楽しんだ。聖地巡礼に農家を訪れる一風変わった取組みにも、彼なりのこだわりがにじみ出ている。
「農家の方たちのお話は熱いです。僕たちは無農薬農家へ訪問していますが、無農薬だとマメにお世話しないと育たないため、自分の子どものように愛情を注いで作っているんです。そういうお話を聞いて『農業をやりたくなった』という声があったり、『礼生といると新しいきっかけが見つかるかもしれない』と思って頂ければ嬉しいです。それに、こんなに良いものがあるのに世間に知られていないのは、すごいもったいない。宮崎のことを少しでも皆さんに伝えたいですね」
このように、ベンドラメはひとつひとつのイベントにこだわり、愛情を注いでオフを過ごしてきた。もちろん、やっていく中でもっとこうしておけば良かったと思うこともあったそうで、「今回の経験をいかしてもっと良いものにしていきたい」と、来年のビジョンも描いている。日本代表が大活躍したワールドカップを機にバスケットボールへ一段と注目が集まる中で、プロバスケットボール選手が誰かに何かを与えられる価値は大きくなるだけに、ベンドラメも今後へ明るい見通しを持つ。
ただ、何かをやるからには「そこに愛はあるのか」とも、ベンドラメは言葉に力を込めていう。今夏、本気で向き合ったからこそ、得られた経験、得られた協力は数えきれない。様々なサポートがあってこそ取組みが実現し、その川上から携わることで作り上げる苦労や、何が求められているのか感じてきた。ベンドラメの人生のテーマは「愛」。オフにありったけつぎ込んだ愛を、今度はバスケットボールに注ぎ、見る者を笑顔にするに違いない。
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TEXT by Hiroyuki Ohashi