【FIBA WORLDCUP 2023】最年少コンビが受けたワールドカップの洗礼(富永啓生、河村勇輝)
及第点のプレーも悔しさが募った河村
河村勇輝の切れ長の瞳が、いつも以上につり上がっているように見えた。自身にとってのワールドカップ初陣を終え、22歳の青年は「画面で見て想像していたとおりのレベルの高さだった」と厳しい表情で言った。
8月25日のワールドカップ初戦。日本代表はドイツ代表に63-81で敗れた。最終スコアを見て落胆する人もいるかもしれないが、個の力で圧倒的に勝られているドイツに組織プレーで食らいつき、3ポイントシュート以外のプレーでは多くの選手が持ち味を発揮できていた。
渡邊雄太は試合後「3ポイントが決まっていたらゲーム展開は変わっていたと思うし、決まらなかったからこういう展開になったというだけ。すごくシンプル」と話していたが、FIBAランキングで25ランク上のドイツに現役NBAプレーヤーの渡邊がそう言えるだけの戦いができたという点は、日本代表の確かな成長として記しておきたい。
シックスマンとしてコートに立った河村は、約18分のプレータイムで7得点3アシストを挙げた。ドイツのキーマンであるデニス・シュルーダーにしつこく体を寄せて守り、ワイドオープンになった味方に何本ものパスを送り、自身も要所で3ポイントを沈めた。
初めてのワールドカップで及第点の活躍を見せたといっていいが、フリースローのミス、ターンオーバーなど国内では見られないようなプレーもいくつか見られた。河村は試合後「僕の力不足」「オンボールの1対1やスイッチされたときの1対1、ゲームの組み立てというところでは本当に何もできなかった」と悔しさのこもった言葉を多く口にした。
「コートに立っているときはすごく楽しかったけれど、それ以上に自分のターンオーバーやシュートの精度の低さでチームに流れを持ってこられなかったことが本当に悔しいです。今日はしっかり反省して、また明日もう一回切り替えたいです」
本来の積極性が影を潜めた富永
富永啓生は、日本にとって比類なき武器であるシュートをドイツに完封された。3ポイントのアテンプトはたった2本の5得点。ドイツの熾烈なディフェンスでシュートを打つどころかボールすら持てない時間が続き、ボールを持ったときにもこれまではほとんど感じられなかった逡巡が見られた。
大会前の強化試合でスタート起用されていた富永は、ディフェンスを理由にベンチスタートでこの試合を戦った。そしてこの采配は彼の歯車を微妙に狂わせた。
「相手にはすごくしっかりスカウティングされていたと思うけれど、それでもアグレッシブにやっていかなきゃいけないし、そもそもいつもはディフェンスの強度は関係なく打てるんです。でも、今日はいつもどおりに試合に入り込めず、なかなかリズムに乗れませんでした。ビハインドの状態でコートに出て、一発目からすごいタフショットを打ちたくなかったですし」
富永は「第4クォーターの残り3分くらいからやっと自分のプレーができた」と振り返るが、これに貢献したのは馬場雄大だ。馬場は残り4分55秒のタイムアウト明けに、富永の尻を軽く叩き富永を励ましていた。
馬場はこのときのことを話す。
「僕から見て、相手のプレッシャーが激しくてリズムが取れてないように見えたし、リングを見ないなと思っていたので、もっとこう…少し無理なショットでも自信を持って打ってほしいと。これからもどんどん試合は続いていくし、そこで彼のシュートは必ず必要になるので、自信を持ってプレーしてほしいと伝えました」
幼い頃からボールを持ったらシュートのことしか頭になかった。3人制で東京五輪を経験し、1万5000人が詰めかけるネブラスカ大のホームアリーナでプレーし、怖いもの知らずのシュートで多くの人を驚かせてきた。そんな富永がタフショットを怖がり、リングを見ていない。規格外のワンダーボーイも、初めてのワールドカップに得体の知れないプレッシャーを感じていたということなのだろう。
「フィンランド戦はもっともっと早い段階で自分のリズムに持っていかなければいけないと思います。今日はプレーのコミュニケーション不足のところもあったので、そういう細かい部分も1つ1つ直していきたいです。この大会はこれからまだ長いので、切り替えて、引きずらずに次の試合に向かいたいです」
最年少コンビのカムバックはパリ五輪へ向けて欠かせない要素
試合後の記者会見では、河村と富永に対する質問がトム・ホーバスヘッドコーチに寄せられ、ホーバスヘッドコーチはこれに返答した。
「啓生にはベンチからスパークするような活躍をしてもらいたい。彼は守備面でのミスを修正する必要があるが、我々には間違いなく彼のシュートと得点が必要だ(以上、英語のコメントを和訳したもの)」
「河村はもっとできる。悪くないですけど、スペシャルなプレーは見られなかった。僕は彼のことに自信がある。間違いない。彼はステップバイステップ。この試合の経験は大きいと思うし、これからもっと河村の特別なプレーが見られると思う(以上、日本語のコメント)」
富永と河村は、最年少ながらチームに欠かすことのできない存在としてワールドカップに参加し、初戦でこの大会の洗礼を浴びた。馬場や富永が言うように、大会は始まったばかり。ましてや日本代表にはこの大会でアジア勢トップの順位を確保し、来年に控えたパリ五輪の出場権をつかむという至上命題がある。若い2人の大会への早いアジャストと成長は、これをクリアするために欠かせないファクターだ。
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TEXT by miho awokie